ヘカテーはギリシャ神話の魔女として知られる女神。
魔女集会「サバト」では魔女たちの女王として崇められました。
けれど豊穣や月、冥界、出産など、さまざまな神格を持つ女神様でもあります
ヘカテーに祈れば、勝利と成功が与えられる女神。
なんとも色々な側面を持つ、恐ろしくもあり、魅力的な女神様です。
ヘカテー、多様な側面を持つ女神
ヘカテーとは
ヘカテー(Hecate ヘカティア)は豊穣と魔術と出産、月を司り、冥界神の一柱としてはハデス、ペルセポネに次ぐ地位にあるとされる、情け深く、暗い夜の女神さま。
ティターン神族のペルセスとアステリアの子。
ヘカテーの名は太陽神アポロンの別名ヘカトス「遠くにまで力の及ぶ者」に由来しています。
ペルセスの子であるヘカテーは天空神ウラノスの孫、アルテミスやアポロンなど多くの主要な神々といとこの関係にあります。
月の女神・アルテミスやセレネ、ペルセポネ、メソポタミア神話の冥界の女神エレシュキガルなど、多くの女神と同一視され、後期には三神一体の女神として崇められます。
また、「死の女神」「魔女の指導者」「闇の女王」などの別名や「救世主(ソーテイラー)」の称号を持つ、交差点の守護神。
ヘシオドスの『神統記』においてのヘカテーは、望む者にはあらゆる分野での成功を与える女神様。
神々に祈る際にはまずヘカテーに祈りを捧げておけば御利益が増すとまで賞賛されています。
姿
魔女の女神としてのヘカテーは手には松明、鍵、蛇を持ち、犬を従えた姿で描かれることが多く、従者に復讐の女神・エリーニュス、冥界のニンフ・ランパス、夢魔・エンプーサ、吸血鬼・モルモーを従えます。
古代神話後期、ヘカテーは三つの体を持つ(三神一体)の女神としても描かれています。
“3”の数は「誕生・生・死」「過去・現在・未来」「天上・地上・冥府」と結び付けられもの。
(紀元前3世紀、アポローニオスの叙事詩)『アルゴナウティカ』では犬・馬・獅子の首を持つ姿、他、魑魅魍魎を操る、恐ろしい形相の女神としても表現されています。
その後、3つの体に松明を持ち、地獄の番犬を連れ、精霊が訪れる特殊な場所であるとされる夜の十字路や三叉路に現れると考えられるようになります。
家系・家族
親
一般的にはティーターンの一人クレイオスの子ペルセースとアステリアーの娘。
けれど、
(紀元前520年- 紀元前450年、古代ギリシアの抒情詩)『バッキュリデースの詩』ではニュクスの娘
兄妹
(紀元前3世紀にアポローニオスの叙事詩)『アルゴナウティカ』では一人っ子。
配偶者
特定の配偶神はいないとされています。
子
(古代ギリシャの歴史家)シケリアのディオドロスはヘカテーは上記の三柱の母としています。
その他
また、月の女神としてのヘカテー・セレネは、
- ディオニューソスの母
起源
ヘカテーは古代都市・カリア(紀元前12世紀)や、トラキア(紀元前6世紀)で信仰された女神とされます。
特にカリアの聖地ラギナでのヘカテーは最も偉大な女神であったとされ、その起源はヒッタイトの 太陽神で地下と大地の女神・アリンナ(紀元前20世紀)に由来するとされています。
また、エジプト神話の多産の女神・ヘケトに起源を持つともされます。
ヘケトは胎児のシンボルである蛙の頭を持つ豊穣と出産の女神。
夫クヌム神と共に、あらゆる生命の創造主、呪術や出産を司る地母神でした。
クヌムが泥で人間を創り、その人間にヘケトが命を吹き込み、母親の胎内に送られます。
神格・信仰
ギリシャ神話においてのヘカテーは、ゼウス、ヘスティア、ヘルメス、アポロンとともに、古代アテネで崇拝された神々の一柱。
- 月
- 魔法、魔術からの保護
- 豊穣
- 出産
- 夜と闇
- 十字路
- 冥界
など、多様な神格を司る女神。
(紀元前8世紀)ヘシオドスの『神統記』で初めてその存在が語られ、その中でゼウスによって海洋、地上、天界で自由に活動できる権限を与えられた重要な女神とされています。
カルデアの神託(2世紀〜3世紀)でのヘカテは、地・海・空の三界の支配者、救世主、天使の母、宇宙の魂(アニマ・ムンディ)という普遍的な役割を担う女神。
ヘカテーに祈る者は力と勝利をもたらされ、あらゆる成功を招く神。
ヘルメスと共に旅路の安全を守る、旅人の守護神としても崇められていました。
一方で、月を擬人化した神、夜と闇、魔術や秘儀の支配者、狂気や死を司る女神として恐れられる存在でもあります。
魔術を行う者は、真夜中に三又路でその儀式を行い、ヘカテーの加護を求めたとされます。
月の女神
月の女神としてのヘカテーは「最も美しい者」という形容詞が与えられ、
- セレネと同一視されるヘカテーは「遠くまで矢を放つ月」と呼ばれます。
- 産婦を守護する月の女神・ディアーナ・イリテュイアとも同一視され、
ヘーシオドスの『名婦列伝』では、
- アガメムノーンによってトロイア戦争の勝利のための生贄とされようとした娘のイーピゲネイアは、アルテミスに救われ、ヘカテーと同一視される神になったとされています。
(新プラトン主義の哲学者(紀元2〜3年))テュロスのポルピュリオスは
「ヘカテーは変化する月の形相の象徴。新月を象徴するとき、ヘカテーは松明を持ち、白い衣装に黄金のサンダルをまとう。天の高みに達したとき、ヘカテーの持つ籠に入ったさまざまな作物は、その育成を象徴するように光が輝きをます」
と記しています。
三相一体の女神としてのヘカテーも、その相は月と関連づけられたもの。
三神一体の女神
ギリシャ神話の中でのヘカテーは、天界・地上・冥界を支配する、原初の三神一体の女神の一柱。
天界:「月」のヘカテー・セレネ、地上:「女狩人」アルテミス、冥界:「破壊者」ペルセポネとされています。
その他、三神一体のヘカテーは、
- 新月、半月、満月という月の三相の新月
- 処女、婦人、老婆という女性の三相の老婆
- 過去、現在、未来という時の三相の過去
を表しているともされます。
(神話学者、宗教史学者)カール・ケレーニイは
- 少女:コレー(ペルセポネ)、母神:デメテル、老婆神:ヘカテーと定義しています
「天界の女王」の三神一体では
『アルゴナウティカ・オルフィカ』の中では
- 犬・馬・獅子の首を持つ異形の神ともされています。
一説には月の女神・ディアナは、冥界のヘカテーという側面を持つ女神とされています。
境界の女神
古代、死者は城壁の外の道端に葬られていました。
中世においても交差点のそばに犯罪者や自殺者を埋葬しており、そのため十字路や三叉路のような交差点は神々や精霊が訪れる特殊な場所であるとされました。
ヘカテーは、交差点、現世と冥界、人間界と神界などを守護する「境界の女神」。
三叉路を守護するヘカテーはヘカテー・トレヴィア「三叉路のヘカテー」といわれ、入口の守護者、魔術と予言の女神として崇められるようになります。
三叉路には三方向を向いた3面3体の像が備えられ、満月の夜には、卵、仔犬、仔羊、幼女、魚、玉葱、蜂蜜などの供物が供えられました。
信者たちはその場で集会を行い、ヘカテーを傍聴人にしたといいます。
また、旅に出る人々からは旅路の無事を祈願されました。
後期、ヘカテーの3つの体はデーモン化され、犬、ライオン、馬の3つの頭を持つように表現されるようになります。
冥界の女神
中世に入ると、ヘカテーは冥界や魔術の女神としての役割が注目され、カトリック教会によって、特別な悪魔とみなされるようになります。
(紀元前3世紀、古代ギリシャの詩人)『テオクリトスの詩』の中で、「死の門を開けることができる鍵の持ち主」と記されています。
魔術の女神
紀元1世紀ごろになると、ヘカテの月や闇、冥界と魔術の女神という神格は、魔法、呪術と結びつき、中世でのヘカテーは魔女として認識されるようになります。
魔女集会『サバト』では、ヘカテーは魔女の庇護者として秘儀の中で礼拝されたといいます。
また妖怪変化の女王や黒魔術の本尊ともされ、中世に至るまで密かに崇拝されました。
ヘカテーは薬学の知識にも長けた女神。
トリカブト、ベラドンナ、ディタニー、マンドレイクなどを用い、薬や毒の調合などの知識を民に伝えたと考えられています。
ちなみに人を殺せる毒を持つトリカブトはヘカテを司る花。
ギリシャテッサリアではヘカテーの崇拝者たちは「魔女の軟膏」なるものを作り、ハエや鳥に変身して空を飛んだといわれています。
神話の中のヘカテー
ヘカテーは神話の中のさまざまな場面に登場しています。
―ハデスによるペルセポネ誘拐の話ではー
ペルセポーネを溺愛する母デメテルにハデスがペルセポネーを連れ去ったことを伝えています。
―ヘラクレス誕生の際にはー
出産の女神エイレイテュイアの怒りをかい、トカゲ(あるいはイタチ)に変えられてしまったことを憐れみ、ガランティスを自分の召使の聖獣としています。
―ギガントマキアにも参加しておりー
ギガースのクリュティオスを松明の炎で倒しています。
ちなみにギガントマキアには多くの神々が参戦していますが、実際にギガンテスを倒しているのはヘカテーとモイライのみであるとか
―アルゴナウタイではー
イアソン率いるアルゴナウタイの冒険を成功に導いた王女メデイアはヘカテー神殿に仕える巫女。
ヘカテーの魔術によって彼らを支えました。
作品の中のヘカテー
ヘカテーはシェイクスピアの戯曲『マクベス』に登場しています。
マクベスに予言を行った3人の魔女たちの支配者。
ゲーテの『ファウスト』の中では、ディアナ、ルナ、ヘカテーの三神一体の女神として記されています。
ヘカテー、現代でも決して優しくはない存在。可愛いけど
『グランブルーファンタジー』のヘカテーは人の精気を吸って生き永らえる冥妃。
『決戦!星の古戦場』のボスキャラとして登場した、実装可能な召喚石。
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『グリムノーツ』の主人公ティムの妹「ルイーサ」は、かつてはヘカテーとして敵対していた空白の書の持ち主
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「灼眼のシャナ」では「三柱臣(トリニティ)」の巫女として、仮装舞踏会(バル・マスケ)に所属する紅世の王。
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ヘカテー まとめ
ヘカテーにある称号は「魔女の女王」や「闇の指導者」「死の女神」。
たとえ望む者を成功に導くとしても、
いえいえだからこそハンパなく怖い存在であると思います。
こ、これは、絶対に近づいてはならない闇、ですよね。