「海神といえば、ギリシャ神話のポセイドン」というように、日本でも圧倒的な知名度を誇るポセイドン。
ゼウスに並ぶパワーを持ち、その力強さは「ゼウス・エナリオス (海のゼウス)」と呼ばれたほど。今回は、そんな海の支配者・ポセイドンについてのご紹介です。
意外な起源やアトランティスとの関わり、女性関係にも驚愕です。
目次
大海の支配者・ポセイドン
ポセイドン(Poseidōn)は、ギリシャ神話に登場する海と地震、嵐を司どる神。
ポセイドンの名は「地球の夫」「地球の主」を意味します。
巨神族であるティターン族の長・クロノスと大地の神・レアの子。冥府神・ハデスの弟にしてギリシャ神話の最高神・ゼウスの兄。オリンポス12神の1柱に数えられます。
馬との関わりが深く、その象徴となる聖獣は馬、牡牛、イルカ、聖樹は松。
ローマ神話ではネプトゥーヌス(ネプチューン)と同一視され、古代ローマでは馬の神として崇拝されました。
ちなみにネプチューンは海王星の名前の由来ともなっています。
住まいは海底にある珊瑚と宝石で飾られた宮殿。
手に3叉の矛トライデントを持ち、海の怪物を従え、黄金のたてがみ,青銅のひづめの白馬、あるいは半馬半魚の海馬・ヒッポカムポスの牽く戦車で海原を駆け巡ります。
ポセイドンは雲と嵐を生み出す荒神ですが、船乗りたちの守護者でもあり、安全な航海のため海を静め、人々を救い、船員と漁師には「救世主」として崇拝されました。
多くのギリシャの都市や植民地の守護者でもあり、青銅器時代のギリシャでは、ポセイドンはピュロスとテーベの主神として崇拝され、「大地を揺るがす者」という称号が与えられています。
また、馬の創造者と考えられており、ヒッピオスという馬の姓を持ち、デメテルを誘惑するために馬に変身しています。
水の神であるポセイドンは「泉の支配者」であり、トライデントの打撃で泉を生み出し、すべての川と泉の源である原始の水 (オケアヌス)に関係します。
ポセイドンの起源と伝説
ミケーネ 古代ギリシャの青銅器時代時代、ポセイドンはギリシャのテッサリア、ボイオティア、ペロポネソス半島の地域で古代民族アカイア人の内陸の神 、「馬」と「地震」の神として崇拝されました。
アカイア人がエーゲ海に面した地域イオニアに移住したとき 、彼らは海に依存した生活をおくり、ポセイドンを海の神とみなすようになります。
ギリシャの民間伝承では、馬は泉を作り出すことができると信じられていました。
またヨーロッパの伝承では、水の生き物や水の精霊は馬や雄牛の形で現れます。
ポセイドンは他の兄妹と共にクロノスに飲み込まれたとされますが、アルカディアの神話のひとつに、レアがポセイドンを出産したとき、彼女はクロノスに馬を産んだと告げ、子供の代わりに子馬を飲み込ませたと伝えられています。
太古のポセイドンとデメテル
太古、ポセイドンとデメテルの関わりは深く、大地の神であったポセイドンはいくつかの神話ではデメテルの夫として伝えられています。
ポセイドーンの名も「ポシス=ダー(大地の夫)」からきているともされます。
デメテル(エリニス)とポセイドンは神話以前の冥界の神とされ、ギリシャの都市・ボイオーティアとアルカディアの原始的な神話では、冥界の神ポセイドンが馬の姿で現れ、大地の女神と交わっています。
大地の女神はエリニスまたはデメテル、人間の言葉を話すアリオンという馬と無名の娘デスポイナを産みます。
ボイオティアの神話では、 ポセイドンは水の神であり、エリニスは冥界の女神です。
エリニス(デメテル)は復讐する大地の精霊の化身であり、正義と道徳の女神ダイクと黒いたてがみの名馬アリオンを出産します。
海神になったきっかけ
ちなみに、ポセイドンが海の支配者となったのは、ティーターノマキアー後、ゼウス・ポセイドン・ハデスの3兄弟でくじ引きをしたと伝えられています。
父が支配していたエリアを地上・地下・冥府に分割し、ポセイドンは2等である海を担当することになりました。ちなみに、1等は地上でゼウス、3等は冥府でハデスです。
ポセイドンとトリアイナ(トライデント)
トリアイナ(トライデント)は、大津波や嵐・地震を自由に起こし、大海と大陸を自在に支配し、万物を微塵に砕くことのできる武器。
時には、山脈を割って川を引いたり、大地を海の中までくりぬき、島を作ったこともありました。
トリアイナを武器としたポセイドンは世界を揺さぶる強大な地震を引き起こすことのできる力を誇示します。
その凄まじさは地球が裂け、冥界が露わになってしまうのではないかと冥王ハデスが危惧したほど。
ポセイドンの性格は
ポセイドンは粗野で怒りっぽい性格で、それは荒ぶる海に例えられるほどです。しばしば人間の争いなどに介入し、傲慢な人々を罰しました。
代表的なものとして、「自分は女神よりも美しい」と豪語したエチオピアの王妃・カッシオペイアに対して、怪物・ケートスを送り込みます。
またオデュッセウスにキュクロプスである息子・ポリュペーモスの目を潰されたために、彼の航海に嵐を起こします。
しかし、人間や他の神々には威厳を誇ることはできても、ゼウスにだけは逆らえませんでした。
ホメロスの叙事詩『イリアス』では、ゼウスと口論するも、最終的にはゼウスの主張を受け入れる様子が描かれています。
ポセイドンの家族
複数の婚姻も伝えられるポセイドンは多くの子孫を残します。
彼の息子の多くは古代ギリシャの統治者となり、巨人の狩人・オリオン、ヘラクレスに倒された巨人・アンタイオス、キュプロスのひとり・ポリフェモス、ケルベロス、キマイラなどの多くの怪物の子孫を残しています
両親: 農耕神クロノス&大地の女神レア
兄弟姉妹: ヘラ、豊穣神デメテル、炉の神ヘスティア、冥王ハデス、主神ゼウス
妻: 海の女神アムピトリーテー
息子:
- 海神トリトン
- 巨人の狩人オリオン(母:クレタの王女エウリュアレ)
- ペガサス、クリュサオル(母:メドゥーサ)
- 巨人アンタイオス、キマイラを倒した英雄ベレロフォン
- キュクロプスのポリュペモス(母:トオーサ)
- アレイオン(デメテルとの子)、アルビオン、テセウス
- イオールコスの王ベリアースとネレウス(母:サルモーネウスの娘テュロ)
娘:ロデー、ベンテシキューメー
孫:エキドナ、ゲーリュオーン
子孫には:ケルベロス、猛犬オルトロス、水蛇の怪物ヒュドラー、キマイラなどの怪物がいます。
ポセイドンと妻アムピトリーテー
ポセイドンの妻は、海の女神・アムピトリーテーです。
彼女は美しさと強力な力を持っており、それに惚れたポセイドンは求婚しますが、拒否され、アムピトリーテーはオケアノスの宮殿に隠れてしまいました。
諦めないポセイドンは、イルカにアムピトリーテーを探すよう命じます。すると、その中の1匹が探し出すことに成功、ポセイドンと結婚するように説得しました。
イルカは、この功績をたたえられて宇宙に上げられ、イルカ座になったといいます。
ポセイドンとアムピトリーテーとの間には、半人半魚のトリトンなどが生まれました。
ポセイドンの愛
デメテル
アルカディアの神話では、デメテルはハデスに連れ去られたペルセポネーを捜して地上を放浪していた際、ポセイドンに迫られます。
デメテルは牝馬の姿となり逃れようとしますが、ポセイドーンも牡馬の姿となって女神と交わります。
デメテルは「名を告げることを許されない」娘と駿馬アリオンを出産。
デメテルの怒りはすさまじく、テルプス人によってエリニス(怒り)という姓が与えられています。
その怒りはラードーン川の流れで沐浴するまで続いたとされます。
メデューサ
ポセイドンにはたくさんの愛人がいましたが、その中で有名なものが、怪物・メデューサ。
メデューサはとても美しい女性で、ポセイドンは彼女に惚れ込んでしまいます。
何度もポセイドンと密会を続けますが、ある日、処女神であるアテナの神殿で交わります。
これに怒ったアテナはメデューサを罰し、見る者を石にする怪物に変えたのです。
後に、メデューサはペルセウスに退治された際、飛び散った血から翼を持つ馬・ペガサスと怪物・クリューサーオールが生まれています。
ちなみにこれに抗議したメドゥーサの姉たち、ステンノーとエウリュアレーも同様の姿に変えられています。
カイニス
帝国ローマの詩人・オウィディウスの『変身物語』にはカイニスとポセイドンの関わりが語られています。
カイニスはテッサリアで最も美しい乙女。
あるときカイニスが海岸を歩いていると、海神ポセイドンが現れ、強引に関係を持ちます。
ポセイドンが償いに願いを叶えると提案、カイニスはこんな想いを二度としないため男に変えてほしいと願い、ポセイドンはカイニスを不死身の身体をもつ男性に変えています。
アテナ・ヘラとの対立
アテナに愛人を怪物にされたポセイドンですが、アテナイ市の守護神をかけてアテナと対立したこともありました。
「より良い贈り物をした方が勝者となる」という勝負にポセイドンはトリアイナで岩を砕いて泉を作り出しましたが、それは塩水の泉でした。
一方、アテナはオリーブの木を生やします。
アテナイ市の人々は有用なものを出したアテナを選びました。
ポセイドンはこれに怒り、アテナイ市周辺に洪水を起こしてしまいます。
また、アルゴス市の守護神をかけてゼウスの妻・ヘラと争ったこともありましたが、これにも負けてしまいました。
今度は腹いせとして、アルゴス市の川を枯らしたといいます。
ポセイドンとアトランティス
古代ギリシアの哲学者プラトンは『クリティアス』「アトランティスの物語」の中で、ポセイドーンは伝説の大陸アトランティスの主神となり、人間の女たちに生ませた子を住まわせたと記述しています。
アトランティスは巨大な大陸で、オリハルコンなどの地下鉱物資源、野生動物、植物、果実など、自然の恵み豊かな地。
人々はポセイドーンを崇拝し、神殿や像を金や銀、オリハルコンで建造。
ポセイドンの末裔たちが王に即位し統治しますが、人間が混じるにつれ神性は失われていき、民は堕落し、帝国は荒廃してゆきます。
ゼウスは神々を集め大陸の崩壊を決断。
ゼウスが大雨を降らせて大陸を海中に沈ませた、あるいは、ポセイドーンが三叉の矛で海に沈めたともされています。
バリエーション豊かなポセイドン
漫画『聖闘士星矢』では、ポセイドンが乗り移ったジュリアン・ソロという人物が登場しています。ソロ家は代々ポセイドンが君臨する際に身体を貸すことになっており、ジュリアンも同様にポセイドンに肉体を差し出しました
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ゲーム「グランブルーファンタジー」では、召喚石として登場。水属性攻撃力が120%という、強力な属性加護を持っています。
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『トランスフォーマー 超神マスターフォース』のキングポセイドンはタートラー、オーバーバイト、ロブクロウ、クラーケン、テンタキル、ガルフの6体のシーコンズが合体して誕生するデストロンの合体兵士
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まとめ
守護神をめぐってアテナやヘラに負けるなど、意外と負けぐせがあるポセイドン。
けれど、ゼウスといい、ポセイドンといい、女癖の悪さには閉口です。
偉大な神であることには間違いないのですが、その天衣無縫な振る舞いには、ただの人間としての視点からは‘困った神‘としか映らないというのが正直なところ。