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ワルキューレ、北欧の美しく勇ましい女戦士 その起源や役割、恋愛事情まで

更新日:

ハンス・マカート作

輝くような美しい容姿を持ち、華麗に戦場を駆け抜ける。

ワルキューレ(ヴァルキュリア)と呼ばれる彼女たちは北欧神話に登場する半神半人の女戦士。

死した勇者をヴァルハラへと導きもてなす、男性諸氏には何とも魅力的な存在なのでは

今回はそんなワルキューレを探ります。

その起源や意外な側面、気になる恋愛事情まで

ご覧ください

 


 

ワルキューレ(ヴァルキリア) オーディンに仕える女戦士

ウィリアム・T・モード作

古ノルド語でヴァルキュリヤ死体を運ぶものvalr (戦場の死体)+kjόsa (選ぶ)」という意味を持つワルキューレは、戦死者をヴァルハラへ導く役割を担う半神半人

彼女たちはオーディンの血を引く娘や、人間の王侯貴族の娘、あるいはトールと妻シフの娘などで構成されたオーディン直属の女だけの部隊
運命の女神ノルニルの一人、スクルドもワルキューレだとされます

 

愛と豊穣の女神フレイヤの指示のもと、戦場で生きる者と死ぬ者を定め、命運尽きた戦士たちにとどめを刺し、死した勇敢な戦士の魂をエインヘリャル(神の戦士)として、天上界アズガルドにある死者の館ヴァルハラへ導きます

また神の国に迎え入れられた戦士たちをもてなすのも彼女らの役割

戦士たちは美しいワルキューレたちにもてなされ、いずれ来る最終戦争ラグナロクに備えます

 

ワルキューレの起源

フレデリック・サンディ作

太古のゲルマン人の信仰の対象としてのワルキューレは「戦場で死んだ戦士がなる死者たちの精霊」として捉えられていたようです。

ヴァルキュリャという概念がどのように誕生し変化したかについては、幾つもの説が伝えられています

 

古くはなんと戦死者の腐肉に群がるカラスや狼にたとえられる、冷酷な死神のような存在とも捉えられていたようです。

H・E・デイヴィッドソンは『エッダ 古代北欧歌謡集』の中でゲルマン人はヴァルキュリヤは「獰猛な女霊が戦神の命を受け、戦いを煽り、死体を貪り食う」存在と信じていたと述べています

オーストリアの文献学者ルドルフ・ジメックはヴァルキュリヤは「戦場で死んだ戦士がなる死者たちの精霊」であると解釈しています

 

そのヴァルキュリヤもスカンジナビアの伝承にある女戦士「盾乙女」のイメージも加わって、何世代に渡って語り継がれる間により人間的に変わっていったよう。

ワーグナーの『ニーベルングの指環』でジークフリートとブリュンヒルデの恋物語が描かれて以降
彼女らは“戦う乙女”として広く認知されてゆきます。

 

ワルキューレの容姿

エミール・ドプラー作

ワルキューレは時として自らが敵の矢面に立ち、戦うこともある勇敢な女戦士

戦場においてのワルキューレは甲冑に身を包み、兜と剣や槍、盾などを装備し、天馬を駆って空を翔けるとされます。

その蹄の音は戦場に吹く嵐になるともいわれます。

 

ワルキューレは白鳥の乙女とも呼ばれ、身にまとう武具にも白鳥の羽などがあしらわれ、これを用いることで白鳥に変化して空を飛ぶともされます。

彼女らはみな見眼麗しく若い女性たち、その美しさのあまり輝いて見える。
そんな光り輝く彼女らが天空を駆けると、その軌跡がオーロラになるといいます。

 

ワルキューレの役割

ゴードン・ブラウン作

ワルキューレ達はオーディンの命を受け、フレイヤに従い戦場を駆け巡り、その手で死すべき運命にある戦士にとどめを刺します。

戦士の体は狼やカラスに食い荒らされ果てはしますが、死した勇敢な戦士の魂をエインヘリャルとして天上界アズガルドと導き、ラグナロクで神の敵と勇敢に戦う戦士として彼らをもてなす役割を担っています。

また、ラグナロクではワルキューレたちもオーディンの指揮のもとエインヘリャルたちとともに戦い、そしてともに滅ぶとされています

 

そのワルキューレ達は戦場において様々な役割を果たす存在

  • 戦士に死を定める執行人
  • ルーンによって戦場で男たちを守る予言の巫女
  • 戦士に加護を与え幸運をもたらす守護霊
  • 捕虜を処刑する儀式を行う神の巫女

など。

ヴァルハラでのエインヘリャルたちは、昼間は、互いに死ぬまで戦い、その腕を磨きます。

陽が暮れると生き返り、酒を酌み交わし英気を養います

彼らの盃に酒をつぐのもワルキューレの大事な役割。

北欧において高貴な女性が男たちの酒杯に酒を注ぐのは神から人間への敬意であり、戦士としてこの上ない名誉なのです。

 

戦場以外では

イェニー・ニュストレム作

戦場以外でのワルキューレは、歌を歌い、戦士のための糸をつむぎ、機を織ります。

けれどその糸は真っ赤な人間の臓物。

織り機もまた武器と死体で作られたもの。

ワルキューレは戦士の運命を織り込んで屍肉のような灰色の布に仕上げます。

織りこまれる運命はオーディンの采配によって決定され、それに逆らって勝つべきでない戦士に勝利を与えたワルキューレは地上へと落とされてしまうと言われます。

 

ワルキューレはルーン魔術の知識も兼ね備えています。

彼女らはこれらの知識を勇者に授け、人々を祝福したり、逆に呪いをかけることもあったと伝えられています。

 

また、時としてワルキューレは白鳥の羽衣」をまとい、衣の魔力によって白鳥に姿を変え、人間界の野山や泉に降り立ちその身と心を休めることもありました。

 



ワルキューレの恋

ロベルト・エンゲルス作

北欧神話の神々の中でも特に戦士たちからの信仰を集めたワルキューレ。

彼女たちは美しいうえに人間のような感情を持つ人間に近い神として描かれており、幾つかの人間の男性と結ばれる伝承も伝えられています。

先に述べたようにオーディンの命に背いたワルキューレは神性を奪われ地上に堕とされてしまいます。そして人間の男性と結ばれると完全に人間の女性となってしまうといいます。

それでも自らの意思で地上に降りて人間と結婚したワルキューレもいました。

 

シグルスとシグルドリーヴァ(ブリュンヒルデ)

アーサー・ラッカム作

「古エッダ」『シグルドリーヴァの言葉』には、英雄シグルズとシグルドリーヴァ(ブリュンヒルデ)との愛憎劇が語られています。

旅の途中シグルズは、ヒンダルフィヨルの山頂に建つ炎に守られた館で、ブリュンヒルドと出会います

鎧を身に纏ったまま眠る娘の鎧だけを切り裂いて娘を起こします。

ブリュンヒルドはオーディンの命令に背いたために眠らされていたワルキューレ、フン族の王ブズリの娘。

そして二人は恋に落ち結婚を誓い、シグルスはブリュンヒルドにファフニールの財宝にあった指輪を贈ります。

シグルスに続く

 

ヘルギとシグルーン

ヨハネス・ゲールツ作

古エッダ(北欧神話の写本)内の「ヘルギの歌」では、同じ男性と転生を繰り返しても添い遂げようとするシグルーンというワルキューレを見ることができます。

 

ヘルギはシグムンド王とボルグヒルドの子。フンドランドを支配する強大な王フンディングを殺した英雄です。

そして、その戦場に現れたワルキューレのひとりシグルーンと出会います。

シグルーンは望まぬ婚約をさせられたことの助けをヘルギに求めます。

二人は恋に落ち、ヘルギは敵対するもの全てを打ち倒し、シグルーンを助けます。

 

けれどただひとり生き残ったシグルーンの兄ダグルに殺されてしまいます。

ヘルギは埋葬された後一度だけヴァルハラから戻り一夜だけの逢瀬を許されます

ヘルギの死を知ったシグルーンは悲嘆から早逝し、再びワルキューレとして転生

来世で彼女はカラとなり、ヘルギはハッディンギャルの勇士ヘルギとなって、彼らの物語はフロームンド・グリプスソンのサガに繋がっていきます。

 

 

ワルキューレ、アイドルユニットにもなる聖戦士

テレビアニメ「マクロスΔ」には「ワルキューレ」と呼ばれる少女たちの音楽ユニットが登場します。

普通のアイドルのように歌い踊るのですが、彼女たちの目的は星々を駆け巡り、奇病によって暴徒化した人々をその歌声で鎮静化することにあります。

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『Fate/Grand Order』登場するワルキューレはランサークラスのサーヴァント縁が結ばれた(あるいは未来に結ばれる)スルーズ、ヒルド、オルトリンデの3騎。

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人気コミック「終末のワルキューレ」でのワルキューレは人類滅亡をかけ、「神殺しの13人」(エインヘリャル)の神器となって最強神と戦います

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ワルキューレ まとめ

アーサーラッカム作

北欧の厳しい環境のなか、戦いに明け暮れた戦士たちの心のよりどころとして信仰を集めたワルキューレ。

強く気高い女戦士は男性のみならず女性からも人気を獲得しているようです。

何を隠そう筆者個人も「強いおねーさん」が活躍するものはジャンルを問わず惹きつけられます

 

 

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