クロノスはゼウスの父でありギリシャの主神でもありました。
自らの父ウラノスを失脚させ、権力を維持したいがため我が子を飲み込んだ非道な王として認識されています。
けれど果たして、表面に現れた権力闘争だけが全てであったのか。
今回はクロノスという神をあらためて俯瞰したいと思います。
クロノスの知られざる側面が見えてくるかもしれません。
目次
クロノス、ギリシャ悲劇の原点。主神の権力闘争
クロノス(Kronos)は、ギリシャ神話に登場するアダマスの鎌を武器とする大地と農耕を司る神。巨人族・ティターン族の長であり、ゼウスの前に宇宙を支配した神々の王でもあります。
古代ギリシャの叙事詩人ヘシオドスの『神統記』では天空神ウーラノスと地母神ガイアの息子でティターンの末弟。同じティターンの兄妹レアーの夫で、レアーとの間ハデス、ゼウス、ヘラ、ポセイドン、ヘスティア、デメテルが誕生。
ニンフのピリュラーとの間に半神半馬で賢者として知られるケイローンももうけています。
ウラノスからクロノス、ゼウスへ、主神の座をめぐる神々の戦い
クロノスとウラノス
クロノスは、ティターン族の末子として、天空神・ウラノスと地母神・ガイアの間に生まれました。
ガイアはティターン族以外に、50頭100手の巨人・ヘカントケイルや単眼の巨人・キュクロプスを生みましたが、ウラノスは異形の彼らを嫌い、奈落・タルタロスに閉じ込めてしまいます。悲しんだガイアは、クロノスに万物を切り裂く鎌・アダマスを与え、ウラノスの失脚を命じます。
クロノスは、ウラノスが寝ている隙を狙ってその性器を切り落とし、海に投げこみました。この時、ウラノスの性器にまとわりついた泡から愛と美の女神・アフロディテが、ウラノスからこぼれた血から上半身が人間、両足が蛇の巨人・ギガンテスが誕生しています。
ウラノスを追放したクロノスは、宇宙の支配権を奪い、神々の王として君臨。
しかし、ウラノスは追放される前、「お前は、自分の子どもに支配権を奪われるだろう」と予言するのです。
クロノスとゼウス
クロノスは妹のレアと結婚し、かまどの神・ヘスティア、豊穣の神・デメテル、結婚と出産の神・ヘラ、冥界神・ハデス、海神・ポセイドンをもうけました。しかし、予言を恐れたクロノスは、支配権を奪われないよう、生まれた子どもを次々に飲み込んでしまいます。
悩んだレアは、6番目の子どもであるゼウスを生んだ時、偽って石をクロノスに飲み込ませることで、ゼウスを救いました。ゼウスは、クレタ島の洞窟でニンフたちに育てられ、やがて自分の兄弟を救うことを決意します。
知恵の神・メティスの助力により、クロノスに吐き薬を飲ませることに成功したゼウスは、クロノスに戦いを挑みます。これはティーターノマキア-と呼ばれ、全宇宙を巻き込んだ壮大な戦いになりました。
クロノスはティターン族を率いて応戦しましたが、キュクロプスがゼウスに与えた雷霆によって目を焼かれ、打ち倒されてしまいます。クロノスは、ティターン族と共にタルタロスに追放され、ゼウス率いるオリンポスの神々の時代が始まりました。
時の神クロノスとの習合
クロノスの名は「完全なもの」「純粋なもの」、また妻のレアと同じく「流れゆくもの」という意味も含まれています。
クロノスは元はギリシアの先住民族の農耕神であったと考えられ,古代ローマ神話の農耕神サトゥルヌス(Saturnus種を蒔く者)と同一視されます。
農耕神としてのウラノスはやがて時を刈る、命を刈る、また「流れゆく」という意味合いからも自分と似た名を持つ時間を神格化した原初神クロノス(Chronos)と習合され、語られてゆきます。
そのため習合されたクロノスは「時の翁」の姿、翼を持ち、手には鎌と時計を携えるいかめしい老人の姿で多くの絵画で描かれるようになります
クロノスの偉業「黄金時代」
クロノスはタイタン族の末の息子であり、農耕を司る神。本来なら戦いや権力には無縁の神。
事実、古代ギリシャの詩人ヘシオドス著「仕事と日々仕事と日々」では、クロノスが支配した時代が「黄金時代」であったと伝えられています。
「仕事と日々」では、人類の時代を「黄金時代」「銀の時代」「青銅時代」「英雄時代」「鉄の時代」の5つに分類し、クロノスの「黄金時代」が終わるとゼウスの銀の時代、そして青銅の時代と変わり、人間は堕落し、世の中は腐敗していくことになります。
クロノスが支配した黄金時代では、人間は神々と共に暮らし、食物や植物も自然に生まれ育ち、人々は労働の必要もなく、災や争いもなく、人間も不死ではなくとも老いることなく長命で、生老病死の苦しみも味わうことが無かったと語られています。
クロノス、子供を飲み込んだ非道
クロノスは子を飲み込んだ非道が注目されがちですが、実は兄弟を飲み込まれ、復讐を誓ったとされるゼウスもクロノスと同じ行動に至っています。
アテナを身籠った最初の妻メティスをクロノスと同じ理由、「最初の妻から生まれる子はゼウスを超える」というガイアの予言を恐れて丸飲みにしています。
違いがあるとしたら、ゼウスは妻を飲み込むことで、アテナを自らが産んだ子としたという点。
タルタロスに幽閉さてた後のクロノス
そして、最後に、ティーターノマキアでゼウスに敗れタルタロスに追放になったクロノスは、一説ではギガントマキアの後解放され、冥界の長ラダマンチュスとともに天界の楽園エリュシオンの支配を任されたと伝えられています。
奈落追放ではなく、別の罰を与えられた可能性も
ゲーム「ゴッド・オブ・ウォー」では、ティーターノマキアーで敗北した後、この戦争で生まれた災厄が詰まったパンドラの神殿を背負わされ、吹き荒れる砂嵐が自らの肉を全てそぎ落とすまで死の砂漠をさまよい続けるという罰を受けています。彼が背負っているパンドラの神殿が、物語の大きな鍵となるのです。
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ゲーム「パズル&ドラゴンズ」では、三白眼の青年の姿で登場。武器であるアダマスを持ち、戦います。
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クロノス まとめ
ギリシャの神々の長、ウラノス、クロノス、ゼウスと、子が親の座を奪うことで主導権が変わってゆきます。その負の連鎖を断ち切ったのは、ゼウスでないことは確か。
クロノスとゼウスを比較しても、けしてクロノスだけが悪者ではないはず。
クロノスだけが失脚した非道な神としてしまうのは可哀想すぎるのでは。