
アーサー・ウルフフォート 作
ギリシャ神話のクロノスといえば、まずゼウスの父のタイタン族のクロノスをイメージしますが、実は同じクロノスという名の神がもう一柱います。
彼は時間の神。
通常の神話の中には登場しませんが、オルフェウス教や古代の思想家などが語る神。
そうして同じ時間の神として永劫・アイオーンや瞬間・カイロスなどの神々も語られています。
ナルホドと思わせるギリシャ思想の時間という概念とその具現、
独特の世界観のご紹介です。
目次
クロノス、必然性と交わり、世界を生んだ永遠の時の神

ジョヴァンニ・ドメニコ・ティエポロ作 金星にキューピッドを託すクロノス
クロノスとは
クロノス( Khronos,Chronus ギリシャ語では χρόνος )はギリシャ神話やギリシャ思想で語られる「時」の擬人化。
シュロスのペレキュデース(紀元前6世紀の思想家)によって生み出された神とされます。
ペレキュデースによればクロノスはカオスが生んだ原初神で、妻は必然性の女神・アナンケ。
しばしばゼウスの父でタイタン族の農耕神・クロノスと混同され、後に一説には同一視されています。
けれど、ヘーシオドスの『神統記』や、アポロドロスらが語る通常のギリシア神話には登場していません。
クロノスは、過去から未来へ移り変わる「時間」を神格化した存在です。
- chronometer(クロノメーター(精密な時計))
- chronology(クロノジィー 年表)
- chronicle(クロニクル 年代記)
- Anachronism(アナクロニズム 時代錯誤)
などの語源となっています
ちなみにクロノスは過去・現在・未来を流れ続ける時間ですが、瞬間や時刻は「カイロス」、永遠や永劫を象徴する神として「アイオーン」が語られています
アイオーンとクロノス

紀元200~300年頃 黄道十二宮の円の中に立つアイオーン、近くにはテラ(大地)と4人のプットー(四季)
アイオーン( Aion Αἰών)はグノーシス主義(紀元前後、古代のキリスト教やユダヤ教、ゾロアスター教などが融合された思想)やギリシャ哲学で語られる時間の神。
クロノスは
過去・現在・未来へと一定の速さで流れていく「物理的な時間」。
時計が刻む時間や、人間が老化していくような不可逆的な流れを指します。
これに対しアイオーンは
始まりも終わりもない「永遠」「永劫」の時間。
また、「時代」や「宇宙の周期」を意味するとも考えられています。
両者は「時の二面性」として、クロノスが刻む「有限な時間の連続」が、アイオーンの「永遠(円環)」であると考えられていました。
そのアイオーンは占星術やヘレニズム期には、黄道帯(干支や星座)を背景に持つ若者の姿で描かれることが多く、クロノス(物理的時間)を内包する存在として捉えられました。
カイロスとクロノス

フランチェスコ・デ・ロッシ・サルヴィアーティ 作
カイロス( Kairos, Caerus Καιρός)は、ギリシア語で「機会(チャンス)」を意味する ギリシア神話の男神。
キオスの悲劇作家イオーン(紀元前5世紀)によれば、ゼウスの末子とされます。
クロノスが「時間」の神であるのに対しカイロスは「時刻」「瞬間」の神。
クロノスが
「時計の針が刻む物理的で客観的な時間(量)、過去から未来へと一方向に流れる、物理的な時間」であるのに対し、
カイロスは
「決定的な瞬間や、好機(タイミング)。それぞれの感覚や感情によって決まる、質的な時間」を指します。
また、過去から未来へ一定速度・一定方向で機械的に流れる時間を「クロノス時間」、一瞬や人間の主観的な時間を表す「カイロス時間」として扱われます。
両者は「クロノス(時間)の連続の中に、カイロス(好機)という瞬間を見出す」という関係にあるとされます。
カイロスの風貌の特徴は「両足に翼がついた、長い前髪に後頭部が禿げた美少年」。
「チャンスの神は前髪しかない」「好機はすぐに捉えなければ後から捉えることはできない」ところを表しているのだとされます。
クロノスの系譜、出自

ジョバンニ・バティスタ・ティエポロ 作
◾️ペレキューデース『ヘプタミュキアー(『神統記』)』
クロノスは(紀元前6世紀)古代ギリシャの哲学者・ シュロスのペレキューデースによって生み出された神。
ペレキューデースは著書『神統記』の中で「カオス(原初の空間)」から最初に生じた「クロノス(時間)」が世界を形造ったとし、クロノス(時間)を頂点の神としています。
妻は必然性の女神・アナンケ。
この系譜では、クロノス(時間)・ザース(ゼウス)・クトニオス(地球)の3神を基本原理とし、クロノスから「火・風・水」の三元素が生み出され、神々の創世が展開されます。
クロノスは、火、空気、水の基本元素を含む種を射精し、それをさまざまな割合で五つの窪み(μυχοῖ)に置き、そこから最初の神々が現れます。
◾️オルフェウス教
オルフェウス教の伝統では、クロノス(時間)は大地と水によって生み出されます。
配偶者は必然性の女神・アナンケ。
カオス(混沌)はクロノス(時間)とアナンケ(必然性)の子としています。
クロノスは
- 天空の輝きの神・アイテール
- 混沌の神・カオス、
- 世界卵(宇宙卵)
を生みます。
その卵からは宇宙の究極の創造主である両性具有の神・ファネスが生まれ、最初の世代の神々を生みます。
アナンケ

エドモン・ルシュヴァリエ=シュヴィニャール 作
アナンケ(Ananke Ἀνάγκη )は古代ギリシャ宗教や神話で語られる運命、必然性、宿命の女神。
時間の神・クロノスの兄妹であり配偶者。
アナンケは運命の最も強力な支配者とみなされ、クロノスとアナンケの誕生は、混沌の時代と宇宙の始まりの境界を示すものと考えられていました。
「因果応報」や「定め」を体現する神・アドラステイアや運命の女神たち・モイライの母とも考えられており、モイライの決定を覆すことができる唯一の存在。
運命の糸を紡ぐために使う紡錘を持つ女神の姿で描かれます。
オルフェウス神話では、アナンケ(必然)とクロノス(時間)は、蛇の姿で宇宙を囲む絆として交わります(相互作用)。
この二神が交わることによって、混沌(カオス)、闇(エレボス)、光(アイテル)、さらにふたつの神の力が合わさることで「宇宙卵(オーオン)」が形成されました。
ファネス

フランチェスコ・サルヴィアーティ 作
ファネス( Phanes パネース)は古代ギリシャ思想やオルペウス教で語られる原初神。
アナンケ(必然)とクロノス(時間)が交わって形成された宇宙卵から生まれた両性具有の神。
クロノスは宇宙の銀の卵を創造し、そこから最初の神ファネス、またはファネス・ディオニュソスが黒い鳥と風の姿で孵化したとされます。
ファネスは光と善の神であり、その名は「顕現する者」「光をもたらす」または「輝く」を意味します。
この系譜においての夜の神・ニュクスはファネスの娘でファネスとの間に天空神・ウラノスと地母神・ガイアを生んだとされ、ファネスの対となる存在。
ファネスは兜をかぶり、 黄金の翼と種々の動物の頭を持ち、光り輝く最初に生まれた神であり、アビス(深淵)から現れ、宇宙を生み出した、万物の創造者とされます。
容姿、作品の中のクロノス

ピエール・ミニャール作「キューピッドの翼を切り取る時間」(1694年)
クロノスは多くの作品の中で、有翼の、全てを断ち切る「大鎌」や、時間を測る「砂時計」を手にした、濃い灰色のひげを生やした冷酷な老人として描かれます。
ルネサンスからバロック期にかけての多くの画家たちはクロノスと共に金星(ヴィーナス)やキューピッド(クピド)を描いています。
これらは時間である過酷なクロノスが愛(クピド)や美(ヴィーナス)に与える影響をテーマに描いたものと解釈されています。
クロノス、現代でも多分にタイタン族のクロノスと同一神(?)
映画・ドラマ
『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々:魔の海』は2010年公開のSFファンタジー。
2010年公開の「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」の続編。
この中でのクロノスは、ゼウスら兄弟の父で、すべての破壊と時間を支配する邪神。
パーシー・ジャクソンらは神々と世界の破滅を目論むクロノスの復活を阻止するため、壮大な冒険の旅を繰り広げるアクション・アドベンチャー作品です。
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2003年公開『デスティーノ』はウォルト・ディズニーとサルバドール・ダリ共同制作の幻の短編アニメーション映画。
時間の神クロノスが死ぬ運命にある人間の女性ダリアに恋をする、切ない愛の物語。
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ゲーム・アニメ
「仮面ライダークロニクル」のクロノスはラスボス「ゲムデウス」に対抗する伝説の戦士。
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『機動戦士ガンダム」シリーズのアナンケは 一年戦争、ルウム戦役において,レビル将軍が座乗した地球連邦軍の総旗艦。
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『ポケットモンスター』のカイロスはむしタイプのくわがたポケモン。一度挟んだら引き裂くまで放さない強力なパワーを持った物理アタッカー。
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音楽&バンドがテーマのキャラクタープロジェクト『SHOW BY ROCK!!』のアイオーンは天才的なギターテクニックをもつライオン族の美形男子。
闇の太陽神にして聖域の守護者を務めるブラックモンスター
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アクションRPG『原神』のファネスはこの世界(テイワット)を創り、人類を繁栄させた世界の創造主として登場しています。
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クロノス まとめ

ジョヴァンニ・フランチェスコ・ロマネッリ作「クロノスとその子」
個人的にも印象に残るような主観的な時間『カイロス時間」と、単調な日常の「クロノス時間」の違いを意識したことがあります。
一生の思い出になるような時間の流れと、単調な日常の時間の流れとでは主観的な長さは絶対的な違いがありますよね。
行動範囲が広ければ時間の流れはゆっくりになるというアインシュタインの『相対性理論』より「カイロス時間」と「クロノス時間」の違いで考える方がしっくりきます。
で、作品の中のクロノス、ナルホド、時間の経過は愛を苛んでゆきます。
