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エジプト神話・伝説 神・英雄・怪人

イシス、オシリスの妻でホルスの母。聖母像になった魔女の元祖。

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出典:deviantart

魔術や妖術を用いる神話や伝承は世界中で語られています。 

ギリシャ神話のヘカテー、北欧神話のフレイヤ、ケルト神話ではモーガン・ル・フェイ 

そんな魔術を操る女神の元祖といえるのがエジプト神話のイシス。 

 

イシスは冥界の神・オシリスの妹で妻。 

処女でホルスを出産、聖母マリア像の原型とされる女神様です。 

 

聖母で魔女、なんか対照的なようにも思う神性を持つエジプト神話の女神・イシス。 

その由縁や神性を探ります。 


 

イシス、古代エジプト最高位の女神生と死を操る豊穣の女神 

イシスとは

イシス(Isis)はエジプト神話の豊穣の女神 

原初の創造神・ヘリオポリス九柱神の一柱でエジプト神話の最高位の女神様 

古代エジプトではアセトと呼ばれています 

 

オシリス神話で語られる重要な役割を果たす女神 

破壊神で弟のセトに殺害された、兄で夫の主神・オシリスを蘇らせ、セトを倒し主神となる天空神・ホルスを出産 

この物語が死者が来世に蘇るという信仰に繋がり、ファラオの母なる守護神としても崇められます。 

その名は「王座」を意味するイシスは古代エジプトで最も信仰された女神です。 

 

** ヘリオポリス九柱神  **

ヘリオポリス九柱神とはエジプト神話の創造神たち 

  • アトゥム - 創造神、 (アトゥム・ラーともされます) 
  • シュー 大気の神 (アトゥムの子) 
  • テフヌト  湿気の女神 (同上) 
  • ゲブ  地の神 (シューとテフヌトの子) 
  • ヌト  空の女神 (同上) 
  • オシリス  冥界の神 (ゲブとヌトの子) 
  • イシス  豊穣の女神 (同上) 
  • セト  軍神 (同上) 
  • ネフティス 葬祭の女神 (同上) 

の9柱をいいます。 

 

家系 

祖父は 創造神アトゥム(ラー)

父は 天の神・ヌト

母は 地の神・ゲブ

兄弟は ⚫︎農耕神で冥界の王・オシリス  イシスはオシリスの妹で妻でもあります。 

    ⚫︎破壊神・セト、 

    ⚫︎葬祭の女神・ネフティス

   ⚫︎オシリス

    ⚫︎ホルス

   ⚫︎天空神・ホルス

    ⚫︎死者の臓器を守る ホルスの4人の息子(ホルスとの子)  

  • イムセティ
  • ドゥアムトエフ
  • ハピ
  • ケベフセヌエフ 

養子 ⚫︎冥界、ミイラ作りの神・アヌビス (オシリスとネフティスの子)  

 

イシス信仰 

チャールズ・ウィルキンソン 作 『イシスに導かれるネフェルタリ女王 』

イシスの起源については定かではありませんが、古王国時代(紀元前 2686年頃 ~紀元前 2181年頃)には、オシリス神話の重要な神として語られています。 

その中で、イシスは死と再生を司る女神・ハトホルとも同一視され、 

  • 魔術を操る
  • 生死を司り、
  • 夫と子に尽くす母性、
  • 王の守護神 

などの神性を持つ、古代エジプトで最も崇拝される女神となります。 

 

その崇拝は全エジプトにとどまらず、シリア、ギリシャやローマにも伝えられてゆきます。 

ギリシャでは豊穣の女神や最高位の女神としてデメテルヘラとも同一視されます。 

 

** イシスと聖母 **

イシスは処女でホルスを身篭ったと伝えられています。 

そのため、西暦4世紀から6世紀にかけてエジプトにキリスト教が布教されることで「ホルスを抱くイシス」像は「キリストと聖母マリア」像へ変貌 

イシスは聖母像の原型とされる女神となります。 

 

神格 

セティ1世の墓にあるイシスの壁画

イシスは本来はナイルの土壌を表す豊穣の女神 

オシリス神話の中のイシスは、魔法で夫オシリスを蘇生させ、息子ホルスのために太陽神・ラーや破壊神・ホルスを失脚させる、夫と子供に尽くす献身的な女神です。 

一説にはホルスの妻として子をもうけ、同じくホルスの妻・ハトホルとも同一視され、死と再生、母性を司る女神として信仰されます。 

 

** 天空と豊穣の女神 **

イシスは自然界に雨をもたらし、自然界を支配し、活力を与えます 

また、死者の守護神であるところから「神々、人間、祝福された死者を養う」と謳われています。 

また、昼の天上を渡るラーの船の守護として、「天空のナイル川」「天空の女神」とも称されています。 

 

** 運命を支配する、魔法と知恵の女神  **

イシスは他のどの神よりも強大な魔力を持つ神 

魔力によってオシリスを蘇らせています。 

その魔力は運命そのものをも支配するといわれていました。 

 

エジプト神話でも神々の隠された名を知り、その名を唱えることでその神を支配することができる」とされます。 

イシスは魔法で猛毒を持つ蛇を作ります。 

そして毒蛇に偉大なラーを噛ませ、本当の秘密の名前を教えてくれれば治すと脅します。 

ラーはイシスに自分の名前を伝え、彼女はそれをホルスに伝え、ラーの失脚を図っています 

 

また、ホルスを守り癒す知恵を有する神 

ホルスとセトの争い(新王国時代 エジプト第 20 王朝の神話物語)の中でも、イシスはホルスと競うセトを知恵と魔力によって出し抜いています 

 

** 死と再生を司る神 **

『ミイラの棺にいるイシス(左)とネフティス』紀元前13世紀

オシリス神話のいくつかのバージョンの中で、イシスはオシリスの死の復讐を果たし、葬儀を行うことで、夫が来世でも生き続けるられるよう計らっています 

そのことから、イシスは「生命の女主人、運命と宿命の支配者」とも称され、人間の寿命と質を決定づける神とされます。 

 

イシスは同一視されるハトホルと同様に死者の母となり、妹ネフティスと共に死者の魂の保護と復活を果たす神 

死者の女神・イメンテトの姿となって、死者の魂を自分の子として来世に迎えます 

 

ピラミッドには、イシスとネフティスが亡くなった王が来世へ渡るのを助けるための呪文が記されています。 

また、『死者の書』にはイシスはドゥアト(冥界)の危険から死者の魂を守る神と記されています。 

その中でのイシスは、死者の魂を裁く神々の評議会の一員でもあります 

 

** 玉座(王権)の守護神 **

ホルスはファラオ、オシリスは亡くなったファラオと同一視される神 

そのため、イシスは王の母であり妻となります。 

ファラオにとってのイシスは、現世と来世でも王を守る神として最も重要視される女神 

 

王たちは難局に際してはイシスの予言や守護の魔力に頼ったとされます。 

ウェストカー・パピルス』中王国時代、クフ王とその息子たちの物語)には、将来の三人の王の出産を助けるイシスが登場。 

イシスは三人の子の名前を呼び、未来を予言、その運命に助言を与えています。 

  

容姿 

『セティ1世の墓の翼を広げたイシス』紀元前1360年

イシスの外見は、背中にトビの翼を持った女神 

玉座(王権、夫オシリスや息子ホルスを守るを神格化した女神として、頭頂に玉座(象形文字)を載せた姿 

新王国時代紀元前 1550年頃 ~紀元前 1070年頃)には女神・ハトホルと同一視され、頭部に牛の角とその間に太陽の円盤を被った女神としても描かれています。 

 

手には「権力と支配」を意味するパピルスの杖、もう片手には「生命」を意味するアンク(象形文字)を持ちます 

時代を下ると、ギリシアの女神、デメテルとも同一視され、デメテルのシンボル松明や麦の穂を持った女神としても描かれています。 

 

また、オシリスの牛とされる創造神・アピスとも結び付けられ、牛やサソリの姿でも描かれています 

 

 

神話の中のイシス

紀元前13世紀、死者の防腐処置を施すアヌビス、イシス(左)とネフティス(右)、上部に翼を持つイシス

オシリスとイシス、セト、ホルスを巡る一連のエピソードは『オシリス神話』紀元前24世紀には原型が成立したとされる)で語られ、エジプト宗教に多大な影響を与えています 

その内容は多くの文献に登場し、さまざまなバージョンがあります 

その最も一般的なものとして 

 

** オシリスの死と復活 **

創造神・アトゥム(ラー)は大地の神・ゲブと天空の女神・ヌトをもうけ、その2柱は長男・オシリス、次男・セト、長女・イシス、次女・ネフティスをもうけます。 

オシリスはイシス、セトはネフティスと結婚 

アトゥム(ラー)は主神の座をオシリスに譲ります 

 

オシリスを妬むセトはオシリスを殺害 

その動機についてはいくつもの説が語られています。 

一般的には主神の座についたオシリスの失脚 

オシリスがセトの妻・ネフティスと関係を持ったためともされています。 

 

セトは72名の廷臣達とオシリスの暗殺を企て、シリスの体に合わせて棺を作り、そこにオシリスを閉じ込め、鉛で封印。 

ナイル川に流します 

 

シリスの棺は、地中海を渡り、レバノンの都市・ビブロスに流れ着き、その地に生えたギョリュウゼツランの木の幹に埋め込まれていました。 

イシスはネフティスと共にオシリスを探し求め、ついに棺を発見。 

夫の遺体を取り戻します 

 

あるバージョンでは イシスはその地の宮殿の柱となっていた棺を取り戻すため、魔法で王子の乳母となって宮殿に侵入。 

王子を不死の体にし、自身はツバメになって棺の周りを飛び回り、その様子を知った王妃の許しを得て棺を回収しています 

 

けれど、オシリスが戻ったことを知ったセトは遺体を14に切断 

断片をエジプト中にばら撒きます 

 

イシスは遺体を探し出し、繋ぎ合わせ、魔力でオシリスの復活を果たします 

この時、 

  • ナイルのワニを神格化した神・セベクは、ナイルに落ちたオシリスの身体の回収
  • ミイラ作りの神・アヌビスはオシリスの身体をつなぎあわせるのを
  • 知恵の神・トートとネフティスがオシリスの傷の治療を 

助けています。 

 

けれど、男根はすでにに飲み込まれていたため回収できず、オシリスは不完全な身体で蘇ります 

そのため現世には留まれずドゥアト(冥界)の王となります。 

イシスはオシリスの復活の後、息子と後継者を産み、葬儀を行い、夫が来世でも生き続けるよう計らっています 

 

** ホルスの誕生 ** 

いくつかの文献で語られるイシスは魔法でオシリスの男根を作り、妊娠 

オシリスを埋葬した後、ホルスを狙うセトから逃れるためにナイル川デルタのパピルスの茂み、あるいは人間界に逃れています。 

そこでは7柱の小さなサソリの神々がイシスに連れ添い、イシスを守っています。 

イシスはパピルスの茂みの中でホルスを出産 

 

** セトとホルスの戦い **

セトは王位継承権のあるオシリスの息子ホルスの殺害も企みます 

イシスの助けも屈強なセトには敵わず、ホルスは殺されてしまいます 

この時、オシリスの治療を助けた知恵の神トートがホルスを生き返らせます 

 

そして、王位後継者を決める評定が開かれます 

ラーがセトに味方したためホルスは不利となります 

そこで、イシスは魔法で老婆の姿になり評定の場に乗り込みます。 

次に若い女性の姿になって、セト自身に「父の財産は息子が継ぐべき」と発言させます 

この発言でセトは神々の信頼を失い失墜 

怒ったセトは巨大な豚となってホルスを襲います。 

 

この所業にラーは怒り、「未来永劫、豚を忌まわしい動物にせよ」と叫び、裁判官の役割を放り出てしまいます。 

そこで、ハトホルが秘所をラーに晒し、その場を収めています 

 

次にはホルスとセトはカバとなってどちらが長く川に潜っていられるかを競います。 

イシスは釣り針を水中に投げてホルスを助けようとしますが、誤って釣り針をホルスに引っ掛け、ホルスを苦しませ、セトに掛けた針をセトに言いくるめられ外してしまいます。 

そして、これに怒ったホルスにイシスは首を刎ねられてしまいます 

この時、トート神がイシスの体に雌牛の頭を置いて蘇生させます 

 

ラーは母イシスを殺したホルスに罰としてホルスの両目を奪って山中に埋めます 

その目からロータスの花が咲きます。 

ハトホルが雌アカシカの乳で眼球を再生。 

ホルスは左目を失ってしまいますが、左目はエジプト全土を旅し、様々な知見を得、トートが月の力でホルスの左目を癒します 

 

その後、神々の助言によってホルスとセトは一旦は和解。 

けれど、セトは再びホルスを攻撃。 

この時、助けに入ったイシスにセトは両手を切り落とされます(これも後に再生しています) 

 

最後に、セトはホルスに石の船で勝負することを提案 

ホルスは杉の木を漆喰で覆った船で勝負を競い、セトの石の船だけが水に沈んでしまいます。 

怒ったセトはカバに変身してホルスを襲いますが、逆にホルスの槍で睾丸と片足を失ってしまいます 

 

こうしてセトとホルスの争いはホルスが勝利し、父の復讐を果たし、オシリスは地上の王位をホルスに譲ることが決まります。 

 

 

イシス、現代でも勇者を守る回復系魔女?

アクションRPG黒騎士と白の魔王でのイシスは他のプレイヤーの蘇生ができる貴重なヒーラーキャラのひとりとして登場です。

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『女神転生』『ペルソナ』シリーズのイシスは人間と異なる異形の存在、もしくは人間の心の底に潜むもう一人の自分。

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神姫プロジェクト」のイシスは大国ヘリオポリスで、王を護衛するために生まれた風魔法の使い手神姫。

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コードヴェインは、“吸血鬼(レヴナント)”が血と真実を求め、堕鬼が出没する閉鎖世界“ヴェイン”を探索していく探索アクションRPG。イシスは記憶を追体験できるアイテム“血英”として登場しています

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イシス まとめ

出典:deviantart

イシスのように、現代でも一人息子を溺愛する母親は多いように思います。

セトに殺されそうな夫と息子を助ける、まさに良妻賢母、妻や母の鏡、

無に降る火の粉は払わなければなりませんものね。

 

強大な力を持っていれば人間でも家族の将来を助けたいと思います。

ただ厄介なのはやりすぎる危険があるところ。

やはり何事も適度なのがベストかなっ、と。

適度な距離感を保つ、意外と難しいようにも思いますが。

愛情、感情というものは、思うようにコントロールできないのが厄介なところ、ですよね。

 

 

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