
18世紀~19世紀
カーマはヒンドゥー教の愛欲の神。
愛の神でまずイメージするのは、キューピッドことギリシャ神話のエロース。
けれどこのカーマ神も愛の矢を射る絶世の美男神として語られれいます。
まさにインド神話のエロースといったところ。
その、文化圏、美的感覚の西洋とアジアを比較するのも興味深いところ。
して、その愛欲の神の所業とは
目次
カーマ(カーマデーヴァ)、恋の矢を射る絶世の美男子

サット・カエシン 1959年
カーマ(カーマデーヴァ)とは
カーマ(Kama)はヒンドゥー教の愛欲、快楽の概念。
それを擬人化した存在が肉体的な快楽、官能、愛欲を司る神・カーマデーヴァ(Kamadeva)。
略してカーマとも称されます。
肉体美や伴侶、子宝を求める人々の信仰を集めています。
妻はカーマに対(つい)する愛と快楽の女神・ラティ。
親友は春の神・ヴァサンタ。
オウムあるいはインコを騎獣(ヴァーハナ)とし、サトウキビで作った弓に蜂蜜の弦を張り、花で飾った矢を持ちます。
その矢で射られた者は激しい恋心をつのらせることになり、その神格はギリシア神話のエロース(クピードー)に相当します。
両親については幾つかの説があり、プラーナ文献では、創造神・ブラフマーのマナサプトラ(心から生まれた息子)。
ブラーナ(ヒンドゥー教の神話や伝承を記した文献群)のカーマ神は美と誘惑を象徴する神々の支配者で、音楽の神・ガンダルヴァと踊り子・アプサラスのプラブ(主)。
最も有名な神話として、カーマは苦行に入ったシヴァ神を邪魔しようとして第三の目に焼かれて死亡。
クリシュナと妃ルクミニの長男・プラデュムナとして生まれ変わっています。
仏教では魔王・マーラの異名の一つ。
仏陀の修行の邪魔をした魔王の名、またはカーママーラ、一体の概念として呼称されます。
マーラ
マーラ(Mara)は、釈迦(仏陀)が悟りを開く際、瞑想を妨げるために現れた悪魔。
煩悩の化身とされます。
マーラはまず、釈迦のもとに美しく魅惑的な娘たち3人をおくります。
けれど、釈迦はその誘惑に屈しません。
次にマーラは恐ろしい怪物たちに釈迦を襲わせようとします。
けれど、怪物は釈迦に近づくことができません。
最後にマーラは巨大な円盤を武器として釈迦に襲いかかります。
けれど、円盤は花輪となり、マーラは敗北。
釈迦は煩悩に屈せず、悟りを開いています。
家系
両親
については幾つかの説があります
⚫︎正義の神・ダルマと信仰の女神・シュラッダー (『タイッティリーヤ・ブラーフマナ』や『マハーバーラタ』 (叙事詩『マハーバーラタのアディ・パルヴァ(「始まりの書」))
⚫︎創造神・ブラフマーのマナサプトラ(心から生まれた息子) (『ヴィシュヌ・プラーナ』と『バーガヴァタ・プラーナ』)
⚫︎維持神・ヴィシュヌと富の女神・ラクシュミー。 (『バーガヴァタ・プラーナ』)
ラクシュミーとヴィシュヌの化身であるクリシュナの息子・プラデュムナの化身として生まれたことから
配偶者、妻は
⚫︎ラティ 官能的な快楽を象徴する女神
ラティ の出生は
- ブラフマーの息子・ダクシャの汗の滴から出現(『カーリカ・プラーナ』と『シヴァ・プラーナ』)
- ブラフマーの精神から生まれたサンディヤの生まれ変わり。(『ブラフマ・ヴァイヴァルタ・プラーナ』)
ブラフマーはサンディヤの美しさに魅了されて求婚。
サンディヤは死亡し、ラティとして蘇り、ヴィシュヌによってカーマに紹介されています 。
⚫︎愛情の女神・プリティ
2番目の配偶者 (『スカンダ・プラーナ」)
子供
ラティとの間に
⚫︎喜びの神・ハルシャ
⚫︎恩寵の神。ヤシャス
友、従者
カーマは妻でカーマの対となる女神・ラティと親友の春の神・ヴァサンタと行動を共にします。
また、
- マーラと呼ばれるガナ(従者)の集団
- アプサラス(天女)
を率い、インドラの命を受け、聖仙の苦行を妨害し、彼らが神の力を得るのを阻止しようとします。
容姿
カーマデーヴァはその神格と同様に容姿も光り輝く魅惑的な神。
しばしば最も美しい男性神と表現されています。
肌は赤みを帯びた黄金色、あるいは緑色。
幅広く筋肉質な胸、ふっくらとした太ももやふくらはぎの丸みを帯びた四肢。
腰は細く、へそは深く、全身は発情期の象を思わせる香りを放ちます。
顔立ちは官能的で、目は蓮の花びらのよう。
眉は太く表情豊かで、月のような顔立ちは青黒い波状の髪で縁取られています。
青い衣をまとい、オウムに乗り、伝説の海獣マカラ(象やワニのような尖った鼻を持ち、とぐろ巻く尾を持つ怪魚や、ワニとライオンの合成獣)が旗標。
ブンブンと音を立てる蜂の糸を張ったサトウキビの弓と、花々を先端に付けた5本の矢を携えています。
その矢は、アショーカ、マンゴー、ジャスミン、青い蓮、白い蓮から作られており、それぞれの矢は欲望に関連する特定の感情を引き起こすことができます。
神話の中のカーマ(カーマデーヴァ)
誕生
カマデーヴァの誕生についてもそれぞれの聖典によって幾つかの異説が存在します。
⚫︎初期の聖典では、
カーマデーヴァはラジャーパティ(始祖神)で正義の擬人化であるダルマの息子。(『タイッティリーヤ・ブラーフマナ』や『マハーバーラタ』)
ダルマはブラフマーの右の乳房から生まれ、
- 静穏の神・シャマ
- 愛欲の神・カーマ
- 喜びの神・ハルシャ
の3人の息子をもうけたとされています。
カーマの母は
- ダルマの妻シュラッダー (『タイッティリーヤ・ブラーフマナ』)
あるいは
- ダルマのもう一人の妻ラクシュミー(『ハリヴァンシャ』)
⚫︎後のプラーナ聖典では、
カーマは創造神ブラフマーのマナサプトラ(心から生まれた息子)の一人。
ブラフマーがすべてのプラジャパティ(創造の代理人)とサンディヤという名の乙女を創造した後、彼の心から美しく若々しい男が現れます。
ブラフマーは彼をカーマと名付け、花の矢を射ることで世界に愛を広めるように命じます。
カーマはまずブラフマーを花の矢で射ます。
ブラフマーはサンディヤに焦がれ、サンディヤを求めます。
プラジャパティ・ダルマはこれに困り、シヴァ神に助けを求め、シヴァはブラフマーとカーマを嘲笑。
ブラフマーは意識を取り戻し、将来シヴァによってカーマが焼かれ、灰になるよう呪います。
シヴァとカーマ

紀元1820年頃
『クマーラ・サンバヴァ』(軍神クマーラの誕生)』は、インドの古典詩人カーリダーサによる叙事詩。
その中でシヴァ神に焼かれ死亡するカーマデーヴァの物語が語られています。
神々は不死身のアスラでヤクシニーのターラカに悩まされ、ブラフマーはシヴァとパールヴァティーの子、軍神・スカンダだけがターラカを倒せると告げます。
けれどシヴァは苦行に没頭。
そこで神々はシヴァがパールヴァティを焦がれるようカーマを差し向けます。
瞑想するシヴァにカーマは矢を射ます。
シヴァは一瞬心を乱されますが、すぐにそれがカーマの仕業であることを悟り、怒って第三の眼から炎を発し、カーマを灰にして肉体を滅ぼしてしまいます。
アナンガ(身体無き者)となったカーマはクリシュナの息子・プラデュムナとして生まれかわることとなります。
再生 蘇り

マダン・バスマ(シヴァ神がカーマを灰に変える)(1890年)
『バーガヴァタ・プラーナ』はヴィシュヌ派(クリシュナ信仰)において最重要視される聖典。
神話やクリシュナの生涯を描いた18大プラーナの一つです。
その中で
カーマはクリシュナの妻ルクミニの胎内でプラデュムナとして転生。
悪魔・シャンバラはクリシュナとルクミニーの子・プラデュムナに殺されるという予言のために、赤子をさらって海に捨てていました。
赤子は魚に喰われ、漁師がその魚を捕らえてシャンバラに献上。
あるとき、料理人がその腹を割くと腹の中から生きた赤子か出現。
シャンバラはそれを知らずに給仕女・マーヤーヴァティーに魚を渡し、彼女は腹の中にいた子を育てます。
マーヤーヴァティーは実はカーマの妃ラティの生まれ変わり。
こうして二柱は再会を果たします。
やがてプラデュムナは成長し、悪魔・シャンバラを倒し、二柱はクリシュナのもとに凱旋を果たします。
カーマ(カーマデーヴァ)、現代では美少女
『Fate/Grand Order』のカーマデーヴァはアサシンクラスの擬似サーヴァント。
特徴はまんま神話通り。
サトウキビで作った弓で花の矢を放ち、射られた者を欲情させる、ただし美少女❤️です。
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カーマ(カーマデーヴァ) まとめ

マダン・バスマ(シヴァ神がカーマを灰に変える)(1890年)
カーマはヒンドゥー教の愛欲の神。
さぞドロドロした愛憎劇が語られるのかなっと思いきや、なんと創造の神や正義の神から生まれ、死んでも生まれ変わって妻と添い遂げる、優等生な愛欲の神です。
物語もエロースと似ていると言えるのかも、です。



