
サミュエル・ウッドフォード作、1804年『パルナッソス山にあるアポローンとムーサたち』
ムーサ(ミューズ)はギリシャ神話の文芸全般を司る女神たち。
それぞれが学問や芸術の守護神。
音楽の語源になったことで知られています。
そこで、ムーサ(ミューズ)のメンバーややエピソードのご紹介。
人々を楽しませるために生まれたというムーサ(ミューズ)。
文学や芸術にインスピレーションを与える女神ムーサ(ミューズ)の魅力、ご堪能ください。
目次
ムーサ、麗しのミューズたち

シモン・ヴーエ 作
ムーサ(ミューズ)とは
ムーサ(Μοῦσα, Musa)(複数形はムーサイ)は技芸・文芸・学術・音楽・舞踏など、芸術や学問を司るギリシャ神話の女神たち。
英語またはフランス語でミューズ(Muse)。
ミュージック(Music)やミュージアム(Museum)の語源になったことでも知られています。
オリュンポスでは,アポロンに仕える学芸の神として、神々の宴ではアポロンの竪琴やカリスの演舞と共に観るものを魅了します。
パルナッソス山で美と優雅を司る女神カリスや、エロスの分身ヒメロスと暮らしたと伝えられています。
地上の執筆家芸術家たちは,知識の源泉であるミューズにインスピレーションを与えられ,ミューズの加護のもとに作品を完成させるのだと考えられていました。
現代用法でもミューズをインスピレーションを与える女神のような存在を指して用いられます。
それぞれのムーサ(ミューズ)

アントニオ・ズッキ作『アポロとムーサイたち 』
ムーサ(ミューズ)の種類と数
ムーサ(ミューズ)の出生やメンバーについては幾つもの説があります。
◾️ヘーシオドスの『神統記』、大神ゼウスとムネモシュネの9柱
一般的に知られているのが、ヘーシオドスの『神統記』で語られる、主神ゼウスとタイタン族の記憶の女神・ムネモシュネの間に生まれた9柱の姉妹。
カリオペ

シモン・ヴーエとワークショップ 作「カリオペ」
その名は「美声」を意味する叙事詩を司る女神。
ミューズの長とされます。
アポロンとの間に琴座のオルペウスを出産。
人魚になったセイレーン達、ヘラクレスに竪琴を教えたリノス・レーソスの母であるとも伝えられています。
また、アフロディーテーとペルセポネとがアドニスを巡って争った時、その仲裁に入った女神であるともされています。
クレイオー

ベルンハルト・ローデ 作「クレイオー」
その名は「讃美する女」を意味する、歴史を司る女神。
いくつかの神話では竪琴の女神ともされます。
「宣教者」とも呼ばれ、多くの絵画で巻物や書物を持つ姿で描かれています。
アプロディーテーを「女神であるのに人間アドニスを恋した」と咎め、そのためマケドニアの王ピーエロスの間にヒュアキントス(アポロンに愛され、ヒヤシンスの花になった)という息子をもうけます。
エウテルペー

シモン・ヴーエ作 「エウテルペー 」。
その名は「喜ばしい女」を意味する 抒情詩、音楽を司る女神。
「快を与える」性格の持ち主で、古代の詩人たちは「歓喜の与え主」と称えています。
河神・ストリューモーンとの間にトラキアの王レーソスをもうけます。
テルプシコーレ

ジャン=マルク・ナティエ作(1739年)「テルプシコーレ 」
その名は「踊りの楽しみ」を意味する、合唱・舞踊の女神です。
(古代ローマの作家)ロドスのアポロニオスは、河神・アケロオスとの子、セイレーンの母。
『大語源論』(紀元1150年頃に編纂されたギリシア語語彙百科事典)では、軍神・アレスとの子、トラキア王ビストンの母とされます。
エラート

ヨハン・ハインリヒ・ティシュバイン作(1779年)『恋愛詩のミューズ、エラトーの肖像』
その名は「愛らしい女」を意味する、「独唱歌」(独吟叙事詩)司る女神。
抒情詩、歌唱、舞踏により愛情を表現、見る者を魅了する女神。
一説ではトラーキアの音楽家、吟遊詩人・タミュリスの母とされます。
メルポメネー
その名は「女性歌手」を意味する悲劇・挽歌の女神
河神アケローオスとの間にセイレーンを生んだという説があります。
また、リラの名手タミュリスもメルポメネーの子供であるとも伝えられています。
「右手に血まみれの短剣を持つ、喪服に身を包んだ貴婦人」と描写される、著名人が亡くなった後に哀悼の歌を歌うとされる女神様です。
タレイア

ジャン=マルク・ナティエの絵画『タレイア』(1739年)
その名は「豊かさ」を意味する、喜劇・牧歌を司る女神。
豊かさは繁栄を意味し、「彼女の歌の賛美が時を超えて栄える」と称されています。
一説にはアポロンとの間に大地の女神キュベルの従者コリュバース達を出産、グプニスと愛し合ったとも伝えられています。
ポリュームニア

ジュゼッペ・ファニャーニ作 1869年『ポリヒムニア』
その名は「多くの讃歌」を意味する、讃歌と物語を司る女神。
聖なる詩、聖なる賛美歌、舞踏と雄弁、パントマイム。修辞学、幾何学と瞑想の女神とも称されます。
不朽の名作を生んだ作家に名声を運ぶ女神。
一説では、愛の神・エロス、詩人・オルペウス・、英雄・トリプトレモス、エレウシースの王・ケレオスの 母であるとされます 。
ウーラニアー

ルイ・トケ作「天文学のミューズ、ウラニアの寓意的肖像」
その名は「天上の女」を意味する天文学と占星術の女神。
普遍的な愛と結び付けられ、未来予知に通じるミューズ。
アフロディーテーの別名、または海神の娘・オケアニスのひとりでペルセフォネの従者であるともいわれます。
音楽家・アムピマロスの間に音楽家・リノス、アポロンとの間に結婚の祝祭神・ヒュメナイオスを生んだともいわれます。

ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ作『9人のムーサと古き3柱のムーサ』
◾️ウーラノスとガイアの娘。
- アオイデー 声、歌、旋律
- ムネーメー 記憶
- メレテー 実践
の3柱
◾️ゼウスとネダー(またはプルシア)、あるいはウラノスの娘
- テルクシノエ、魅力
- アオイデ、 歌唱
- アルケー、始源
- メレテー 思考と瞑想
4柱。
また
◾️古代ローマの都市・アンティオペでは
- ニールリ
- トリトネー
- アソープリ
- ヘプタポラ
- アケローイス、
- ティポプルリ
- ローディア
の7柱のムーサの存在も伝えられています。
ムーサ(ミューズ)のエピソード

ギュスターヴ・モロー作「ヘシオドスとミューズ」(1891年)
かつてムーサはテッサリアのピエリア地方、そしてボイオティアのヘリコン山の地域にも崇拝されていました。
ヘリコン山は「霊感の聖霊」ムーサたちと関係が深く、ヒッポクレーネの泉は詩的霊感の源。
ヘリコン山の斜面で羊を放牧していた古代ギリシャの叙事詩人ヘーシオドスは、ムーサから詩の霊感を与えられ、神の起源について歌った『神統記』が生まれたと伝えられています
ムーサイの誕生
ムーサイはローマ神話の水のニンフ・カメーナと同一視され、泉とも関係する女神。
ペガサスがヘリコン山に蹄を踏みつけたことで4つの泉・ヒッポクレネの泉が湧き出します。
ムーサイはその泉から生まれたとも伝えられます。
ヒッポクレーネの泉はペガシデスとも呼ばれ、その名はムーサイの別称としても用いられます。
ムーサイとペガサス
ムーサイが歌うと天や星、万物がその歌声に聞き入ったといいます。
ヘリコン山でさえムーサの歌にうっとりとしているために、ポセイドンが天馬ペガソスにヘリコン山を蹴飛ばさせ、 その蹴飛ばした跡にピッポクレネ(馬の泉)ができたという伝説があります。
後にアテナがこの馬を飼い慣らし、ムーサイたちに贈ったとも伝えられています

ピエール・ミニャール作『カリオペー、ウーラニアー、テルプシコラー』(1746年)
ムーサたちは詩人や楽人に霊感を与えた反面、おごれる歌人を罰することも多かったと伝えられています。
タミュリスとの歌合戦
タミュリスはヘラクレスに竪琴を教えたリノスに師事した伝説的な竪琴と歌の名手。
ある日タミュリスはムーサに「ムーサ9人全てとの性交」を条件に 音楽の競技を持ち掛けました。
けれど、破れたタミュリスはムーサに「視力」と「音楽の技」を 奪われてしまいます。
セイレーンたちとの戦い
ヘラはセイレーンとムーサイに歌の勝負を挑ませます。
ムーサイが勝利し、セイレーンの羽を奪ったとされます。
また、セイレーンたちは敗北に打ちひしがれ、自ら羽毛をむしり取り、海に身を投げたとも伝えられています。
ムーサの審判

ピエール・ミニャール作『エウテルペーとクレイオー』(1746年)
女神アテナはオーボエの笛を発明しました。
けれどオーボエを吹く顔が歪むので、せっかくのオーボエを捨ててしまいます。
半神半獣の精霊サテュロスのマルシュアースはアテナの捨てた笛を拾ってオーボエの名手となります。
そして、マルシュアースは「敗者は勝者の命令に従う」という条件で、アポロンに楽器の腕前を競う勝負を挑みます。
アポロンはムーサに審判を頼み、竪琴を奏でます。
そして、判定でムーサはアポロンの勝利を告げます。
マルシュアースはプリュギアの洞窟で生きたまま皮剥ぎの刑に処せられ、その血は河となり、それがマルシュアース河となったと伝えられています。
また、マケドニアの王ピエロスの娘の九姉妹がムーサに挑みますが、勝利したムーサは神に挑んだ愚かさの罰として、彼女らをおしゃべりなカササギに変身させています。
ムーサ(ミューズ)現代でもバリバリアイドル
μ's(ミューズ)はメディアミックスの『ラブライブ!』の主人公。音ノ木坂学院に通う生徒9人によって結成されたスクールアイドルグループ。
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『スイートプリキュア♪ 』のキュアミューズは第3クールからキュアメロディの仲間になった追加戦士、4人目のプリキュア 。
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ムーサ(ミューズ) まとめ

ウスタシュ・ル・シュウール作『クレイオー、エウテルペー、タレイア』
ギリシャ神話では芸術家は皆ミューズ(ムーサ)にインスピレーションを与えられ、ミューズの加護のもと名声を得たのであるとか。
文を書く仕事を志す者としてミューズのご加護、欲しいですっ!
