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キルケ―、ギリシャ神話の魔女。オトコを獣に変えて飼いならす美女

更新日:

ジョージ・ロムニー作 1782年

ギリシャ神話に登場するキルケーはヘカテーの娘でメディアの姉妹ともされる、由緒正しい美魔女。

好みのオトコをさらい、獣に変えてペットとして飼いならす、奔放すぎる愛の女神。

さらわれたい、なんて思う方もいるのでは😅

 

そんなキルケーの所業とは。。

 


 

キルケー、奔放な魔女

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 作

キルケーとは

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作

キルケー(Circe)は、太陽神ヘリオスと水のニンフ・オーケアニス(オケアノスとテテュスの娘たち)のひとり・ペルセの子。

薬学の豊富な知識を持ち、その知識と魔法の杖を使って、人間を動物や魔物に変える魔女として有名です。

 

キルケーは、ホメロス(古代ギリシャの詩人)は「美しい髪の恐ろしい女神」、アポロニオス(同じく古代ギリシャの詩人)は「光線を放つ輝く金色の目を持つ」と語る美しい容姿の持ち主

本来は月の女神、愛の奔放な女神とされ、メソポタミア神話の美と愛の女神イシュタルのような存在と認識されています。

 

キルケーはその歌声と美貌で異性を虜にします。

伝説の島・アイアイエーに住み、見初めた男性を邸宅に連れ帰り、飽きると狼・ライオン・豚などの獣に変え、ペットとして身近において飼い馴らしたといいます。

 

ホメロスの『オデュッセイア』では、オデュッセウスの部下を豚に

オウィディウスの『変身物語』では、嫉妬のために美女スキュラの下半身を多頭の怪物に変えてしまいます。

 

キルケーの系譜

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 『嫉妬に燃えるキルケ』

キルケーの系譜についても他の多くの神々同様、様々な説があります。

両親

ホメロスやヘーシオドスの伝承では

  • 太陽神ヘリオスとオーケアニスのニンフの一人であるペルセ

ですが

ディオドーロス(古代ギリシャの歴史家)

  • ヘカテー(ヘリオスの子・ペルセースの娘)と伯父アイエテス

オルペウスの『アルゴナウティカ』では

  • 母は アステロペー ― オーケアニデスの一人

としています

兄弟

ホメロス・ヘーシオドスの伝承では、

  • アイエーテース ― 金羊毛の番人でコルキス王

アポロドーロス(古代ギリシャの著作家)

  • ペルセース ― アルゴナイタイのひとり、メーデイアに殺されたコルキスの王
  • パーシパエー ー ミノス王の妻でミノタウロスの母

ディオドロス(古代ギリシャの歴史家)

などの兄妹がいるとしています

子供 

オデュッセウスとの間に

  • アグリオス
  • ラティーノス ― ヘシオドスの叙事詩『神統記』
  • テーレゴノス ― 誤って父オデュッセウスを殺した後、オデュッセウスの妻であったペーネロペーの夫になったとされる
  • ナウシトオス

トロイア戦争を描いた叙事詩『テーレゴネイア』ではキルケーはオデュッセウスと別れた後、オデュッセウスの子テーレマコスと結婚。

  • ラティーノス
  • ローメー

をもうけています。

 

キルケーの魔術

ジョアッキーノ・アッセレート 作  1630年

ディオドロス(古代ギリシャの歴史家)は、キルケーの母ヘカテーは薬学に博識で、トリカブトを発見

父を毒殺して王位につき、アイエーテースと結婚、キルケーとメデイアをもうけたとしています。

 

その娘、キルケーもまた薬草や薬学に優れた魔女。

毒薬・軟膏・魔法の杖・呪文などで魔法操り、キュケオンと呼ばれる飲料水に蜂蜜と魔法のポーションを加えたもので人を動物に変え、飼い慣らしたとされます

 

キルケーはまた、オデュッセウスにテーバイの予言者テイレシアースの霊を召喚し、予言を得る術を伝授しています。

それによって、オデュッセウスは預言者テイレシアースから予言を授かり、他の死者との再会も果たしています。

 

キルケーの動物たち

ジョン・コリアー作 19世紀

キルケーは島を訪れた人間に、故郷を忘れさせる秘薬の入った飲み物を与え、飲み終わった彼らを魔法の杖で打ち動物に変えています

動物となった彼らは性格も従順になり、キルケーに命じられたとおりに行動するようになります。

また、軟膏を塗ることで人間の姿に戻すことも、元よりも美しい姿にすることもできたとされています。


 

神話の中のキルケー

ジョヴァンニ・バッティスタ・トロッティ作(1610 年頃)

イアソン・メディアとキルケー

ハーバート・ジェームズ・ドレイパー作 1904年

アポローニオスの叙事詩『アルゴナウティカ』の中で

キルケーはイアソンとメデイアにアプシュルトス殺害の穢れを清める儀式を行っています

アプシュルトスはメディアの弟。

メディアはイアソンと共にコルキス島を去るときにアプシュルトスを同行させ、追手から逃れるために殺害し、海に投げ捨てたという所業を犯しています。

 

その所業は神々の怒りをかい、彼らは殺人の罪をキルケーに祓い清めてもらわなければなりませんでした

島を訪れたふたりを見たキルケーは、すぐに彼らが嘆願者であることに気付きます。

清めの儀式を行い、ゼウスエリニュースたちの怒りを鎮めます

けれどその事情を聞いたキルケーは、ふたりを早々に立ち去らせています。

 

スキュラ・グラウコスとキルケー

 

ジョン・メルフイシュ・ストラドウィック作 『キルケとスキュラ』1886年

スキュラは上半身は美しい女性ですが、腹部から6つの犬の首が生え、下半身は魚という奇妙な姿をした怪物

もとはシケリア島に暮らす美しいニュムペーでした。

かつては多くの男性が彼女に求婚しましたが、スキュラは恋愛や結婚に興味がありませんでした。

 

そんなスキュラを慕う男性の中に、グラウコスという海神がいました

彼は長い髪、海の様に真っ青な身体、脚の代わりに魚の尾の生えた奇妙な姿の持ち主。

スキュラはグラウコスの姿に恐れ、彼を拒みました。

スキュラを諦めきれないグラウコスは、魔女キルケーに惚れ薬を作ってくれるよう依頼します。

けれどキルケー自身がグラウコスを見初め、嫉妬心からスキュラを怪物に変えてしまいます

 

スキュラの住むシケリア島に、スキュラが水浴びをするお気に入りの小さな入江がありました。キルケーはその入江の水に毒薬を流します。

それを知らずスキュラはいつものように入水、腰まで浸かったところで異変が起こり、水に浸かった腰までが怪物の姿に変わってしまっていました

 

スキュラは自分の変わり果てた姿に嘆き悲しみ、周囲を恨み、性格まで凶暴に変わってゆきます。

グラウコスも変わり果てたスキュラを悲しみ、彼女にそのような仕打ちをしたキルケーのもとを去りました。

 

ピークス・カネーンスとキルケー

アントニオ・テンペスタ作  
 ピークスを探すカネーンス

オウィディウス(帝政ローマ時代最初期の詩人)『変身物語』の中で

 

キルケーは狩りをするラティウムの王ピークスに恋をします

キルケーは魔術や薬草で彼を誘惑しますが、妻を愛するピークスはそれを拒絶

キルケーは、自分の愛を拒んだピークスをキツツキに変えてしまいます

 

ピークスの従者たちもキルケーに抵抗しますが、キルケーは魔法で獣や霊を操り従者を怯えさせ、最後には彼らも同様に様々な獣に変えてしまいます。

ピクスの妻は扉の守護神ヤーヌスの娘でニンフのカネーンス。

戻らぬピークスを、6日の間、昼夜森の中をさまよい、テヴェレ川の岸で死亡(あるいは大気に溶けて消えてしまいまいます)

 

そして、キツツキになったにピークスは、キルケーの館で人間だった頃の自分の彫像の上に今も留まっているといいます

 

オデュッセウスとキルケー

フーベルト・マウラー作  1785年

ホメロス『オデッセウス

トロイア戦争の後、オデッセウス一行は帰路につき、途中キルケーの住むアイアイエー島にたどり着きます。

 

キルケーの宮殿にはライオンや狼、イノシシなど凶暴な動物が飼いならされていました。

その獣たちはキルケーの魔術のよって動物に変えられたキルケーの餌食となったオトコたちです。

 

キルケーはオデュッセウスの乗組員にも魔法の薬が入ったご馳走を振舞い、キルケーの杖で触れ、全員を豚に変えてしまいます。

オデュッセウスだけが、ヘルメスから貰った魔法を打ち消す効力のある薬草モーリュによって豚に変えられずにすみました

 

キルケーの島を訪れる前、知恵の女神アテナが遣わした使者の神、ヘルメスがオデュッセウスを訪れ、キルケーを倒して乗組員を魔法から解放する方法を伝えます。

キルケーの前では眠らない、剣を抜いて彼女を攻撃するふりをしなければならないと忠告。

そしてオデュッセウスに、キルケーの魔法から彼を守るための薬草モーリュを与えます。

 

この忠告に従い、オデッセウスはキルケーの魔法から逃れ、仲間をもとの姿に戻すよう命じます。

けれど、オデッセウスもまたついにはキリケーの魅力の虜となり、1年(あるいは3年)その島に留まることとなります。

 

ヤーコブ・ヨルダーンス作  1630年

ようやく部下たちの声にわれに返ったオデュッセウスは、キルケーと別れ帰路につくことになります。

 

キルケーはオデュッセウスに、まずは、無事に帰還し王国を取り戻す方法についての知識を得るために、冥界を訪れ、死者に会う必要があると助言。

さらに、家に帰るための2つの可能なルートがあるが、どちらも危険を伴うと警告

セイレーンの海域では歌を聴いてはならないこと、その後海の魔物カリュブディスの渦巻きと怪物スキュラーのどちらかとの遭遇を選ばなくてはならないことを忠告します。

 

テーレマコスとの結婚

オデュッセウスが去った後のキルケーについてはヘシオドスの『神統記』のほかに幾つかの物語が語られています

 

🔳    古代ギリシャの叙事詩『テーレゴネイア』では

キルケーはオデュッセウスの子テーレゴノスを出産

その子にヘパイストスが制作したアカエイの毒を穂先に付けた槍を与えます。

 

成長したテーレゴノスは父オデュッセウスに会いにゆきます

オデュッセウスの故郷イタケー島にたどり着いたテーレゴノスは空腹のため家畜を襲い、家畜を守りに現れた男を槍で殺してしまいます

(ヘシオドスの『神統記』では、オデュッセウスは古代都市テスプロティアでブリギス族と戦っいましたが、テーレゴノスが島を荒らし始めたため、島を守るために島に現れています。)

 

それこそが父オデュッセウスでした

 

それを知ったテーレゴノスは、オデュッセウスの遺体と、異母兄テーレマコス、その母ペーネロペーを伴ってアイアイエー島に戻ります。

3人を迎えたキルケーは、皆に不死を与え、キルケーはテーレマコスと、テーレゴノスはペーネロペーと結婚

キルケーとテーレマコスからはラティーノス、テーレゴノスとペーネロペーからイタロスが生まれました。

 

🔳    (紀元前3世紀の詩人・文法学者)リュコフロンの『アレクサンドラ』では

キルケーはオデュッセウスを魔法の薬草で生き返らせます

生き返ったオデュッセウスは、テーレマコスをキルケーの娘カシポネと結婚させます。

けれど、テーレマコスは義理の母と口論になり、義理の母を殺害。

母の死を悲しんだカシポネはテーレマコスを殺し、これを聞いたオデュッセウスは悲しみのあまり亡くなってしまいます


 

キルケー、現代でも悪女

神姫プロジェクト」でのキルケーは自らの欲望を満たすために男を誘惑する神姫。その振る舞いから、懸賞金までかけられている悪女。

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Fateシリーズ」のキルケーはヘカテーと共に、魔女メディアの師匠とされるサーヴァント。自分を頼りにしてくれる人間の男性をご馳走としています。

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キルケー まとめ

ライト・バーカー作 1889年

好みのオトコを魔法の力で虜にして飼いならす、これってハッキリ言って反則技ですよね。

人の心はままならないから、人は恋愛に命までかける。

ただし、好き放題に手に入れて、それで満足できるのかは疑問。

 

けれど、獣に変えられたオトコが全て不幸でいるかどうかも???、 かな

 

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