カミュの『シシューポスの神話』って知っていますか?
この作品は、生前に神々を愚弄したため、死後、永遠の責苦を負うことになったギリシャ神話のシューシュポスを題名に、『不条理』を論するという内容のもの。
現代でもその物語の「シューシュポスの岩」は、『徒労に終わる』ことの表現として用いられます。
そんな例えとなったシューシュポスの生涯と、悲惨な結末のご紹介です。
目次
シューシュポス、永遠の責苦を背負うことになったその生涯
シューシュポスとは
シューシュポス(Sisyphus シシュフォス)は、古代ギリシャの都市・コリントスの王、建国者としても知られる人物。
ギリシャ神話の中で、最も狡猾な人間として語られています。
死を欺き、冥界から生還。
一生を全うするものの、死後、タルタロスで必ず転げ落ちてしまう石を持ち上げるとうい永遠の責苦を負うことになります。
その神話から、「シーシュポスの岩」という徒労を意味する表現として用いられています。
フランスの作家カミュも1942年の作品、人間存在の不条理を指摘した内容のものに「シューシュポスの神話」の表題を付しています。
そのシューシュポスにまつわる多くの神話は、彼の策略に関するエピソード。
シューシュポスの家族
シーシュポスはギリシャ・テッサリアの王でアイオロス人の祖・アイオロスとエナレテーの息子。
兄弟は
- アタマス ボイオティアの王。
3人の妻を娶り、最初の妻ネペレは牡羊座の物語となったプリクソスとヘレを出産。
2番目の妻はカドモスの娘イノ。妹セメレの息子で甥のディオニュソスを育てています
- クレテウス イオルコスの王で創設者。姪のティロと結婚。息子はイアソンの父アイソン
- カナケー ポセイドンとの間に、アロエウス、エポペウス、ホプレウス、ニレウス、トリオパスを出産。
- アルキュオネー トラキス王ケイクスと結婚。二人は神々を愚弄したため、ケイクスはゼウスの雷に打たれて死亡。それを知ったアルキュオネーは海に身を投げて死亡しています。
- ペリメーデース 河神アケローオスとの間にヒッポダマースとオレステスを出産。
妻は
プレイアデス(アトラスと、海のニュンペー・プレーイオネーとの間の7姉妹)のひとりメロペー
子供は
- グラウコス その子はエウリュメーデーとの間にキマイラを倒したベレロポーン
- オルニュティオーン
- テルサンドロス
- ハルモス アレスとの間にプレギュアースを生んだクリューセー、ポセイドンとの間にクリューセースを生んだクリューソゴネイアという二人の娘をもうけます。
また、ホメロスの詩では、オデュッセウスの父はラエルテスですが、前4世紀以後の詩人の間では、シューシュポスが父として語り継がれています。
シューシュポスの統治
シューシュポスはコリントスの創設者で最初の王として知られています。
シューシュポスの統治下、国は航海と商業が発展。
けれど、王としてのシューシュポスは狡猾な暴君であったとされます。
彼は権力を誇示するために宮殿に訪れた訪問者を殺害。それを楽しんだと伝えられています。
神聖なもてなしの伝統を侵害したこの行為は神々の怒りをかいます。
神話の中のシューシュポス
サルモネウスとの対立
シューシュポスと弟のサルモネウスは憎み合っていたとされます。
シューシュポスはデルポイの神託に、サルモネウスを殺す方法を尋ねています。
そして、サルモネウスの娘テュロと結婚すれば、彼女がサルモネウスを殺す子供を産むだろうという神託を受けます。
シューシュポスはサルモネウスの娘テュロを誘惑。二人の間に男子が生まれます。
けれど、テュロはシューシュポスが子供を利用して父親の王位を奪おうとしていることを知ると、我が子を殺害しています。
その後、テュロはポセイドンとの間に、ペリアスと英雄ネレウスを出産。
そのサルモネウスもゼウス の名で自分を崇拝するよう国民に命じます。
彼はゼウスを真似、戦車と雷を模倣。
この傲慢の罪により、ゼウスは彼を雷で打ち倒し、町を破壊しています
シューシュポスと家畜泥棒
シューシュポスがコリントスに居をかまえていた頃、近くにはヘルメスの息子で盗みの名人といわれていた、アウトリュコスが住んでいました。
アウトリュコスは、度々家畜泥棒を行い、人々を困らせていました。
しかし、彼はヘルメスから盗んだものを別のものの姿に変える力を授かっており、誰が盗んだか分からないようにして罪を逃れていました。
何度か被害にあったシューシュポスは、自分の家畜の蹄に「SS」という印を刻みます。
それを知らずに家畜を盗んだアウトリュコスは、翌朝、シューシュポスに印を見せられ、ついにやり込められてしまいます。
その夜、シューシュポスはケパレーニア人の領主・ラエルテスの許嫁に定められていたアウトリュコスの娘・アンティクレイアと密通。
こうして生まれたのが、『オデュッセイア』の主人公・オデュッセウスです。
シューシュポスの密告
シューシュポスはある日、ゼウスが河神・アソポスの娘であるアイギナをさらう場面を見かけます。
娘を探すアソポスにシューシュポスは、コリントスの砦に泉を作ることを条件にアイギナを誘拐した犯人の名前を明らかにしました。
ちなみにこの泉はペイレーネーの泉と呼ばれ、後にベレロポーンがペガソスを馴らした場所としても知られるようになります。
死を欺くシューシュポス
密告に激怒したゼウスは、死の神・タナトスにシューシュポスを捕らえるように命じます。
しかし、シューシュポスは、自身をつなぐ鎖を持ってきたタナトスに「鎖の使い方を教えてくれ」と頼み、逆にタナトスを鎖でつないでしまいます。
「死」の概念そのものであるタナトスがシューシュポスの家から動けなくなると、死ぬべきはずの人間が死から免れることになります。
これに困ったのが、軍神・アレスです。
自分の権利を侵害されることを恐れたアレスは、タナトスを解放。
追跡を再開したタナトスは、シューシュポスを捕縛。
けれど、シューシュポスは妻に「私を埋葬しないでくれ」と頼み、冥界に連れて行かれても平気なようにしたため、ついにタナトスはゼウスの命令を完全に遂行できませんでした。
一方、冥界に連れて行かれたシューシュポスは、「埋葬してくれない妻の不義理を罰したいから、しばらくの間生き返りたい」という名目で冥界の女王・ペルセポネに懇願。
こうして、地上に戻ったシューシュポスは、ペルセポネとの約束を反故にし、長寿を全うしています。
シューシュポスの岩
2度も神々を欺いたシューシュポスは、死後、奈落・タルタロスに送られ、永遠の罰を受けることになります。
巨大な岩を山の上まで転がさなければならないのですが、あと少しで山頂に届くというところで岩は転がり落ちてしまいます。
この苦行は永久に続き、決して終わることはありません。
シューシュポス、創作作品では岩とセット
ゲーム「ROCK OF AGES」は、岩を転がすことに嫌気がさしたシューシュポスが「山頂から岩を転がし続ければ、扉を壊して脱出できるのでは?」と考え、岩を転がしながら世界をめぐるというコンセプト。
プレイヤーはシューシュポスとなり、岩を操作します。
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ゲーム「ワッフゥゥゥ! シーシュポス」は、斜面から球を転げ落ちないように注意しつつ運ぶというもの。
「シューシュポスの岩」がテーマになっています。
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Netflixの注目作品『シーシュポス: The Myth』は天才エンジニア・テスルと未来から来たソヘが、危険な謎に遭遇、奮闘するタイムパラドックス
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シューシュポス まとめ
カミュの作品の中では、
「不条理な社会に(シーシュポスのように、?)反抗することで個人は自由になれる」
というような結論に至っていたように思います。
私は、(もちろん、時と場合によっては、選択・決断する勇気も必要だと思います。けれど)
「多くの人間は徒労と思えるような社会構造の中で生きています。
けれど、毎日同じような繰り返しが続いたとしても、全てが全く同じではありません。
繰り返される日々に、何かしらの楽しみをみつけたり、創意工夫を凝らしてゆきます。
その積み重ねが成長なのだろう」
と思います。
もしかしたら、私たちは「ハッピィ・デス・ディ」みたくハッピィエンドするかも🙏。。。