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テミス、ティーターン族の正義と法の女神。ゼウスを支える叔母で2番目の元妻

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マルチェロ・バッチャレッリ作

権力・家督争いには複雑な人間関係が絡み合うのが世の常。

それは神々の世界でも同様なようで。

その最たるものがゼウスとテミスの関係。

甥であり、兄弟を貶めた元夫、主神ゼウスの参謀としてその手腕を発揮する正義の女神。

その凄みのある存在感を放つテミスに注目です。

 

実は神話史に深く関わる神託の女神テミスとは。

 

 

テミス 神話史に影響を与える神託の女神

紀元前300年頃テミスとは

テミスとは

テミス(Themis)、その名は古代ギリシア語で「不変なる掟」を意味する、ギリシア神話の法と秩序の神

正義を擬人化した女神様です。

ウラノス(天空)とガイア(大地)の娘で、ティーターンの一柱

ゼウスの2番目の妻

正義の剣と天秤を持つ姿で描かれる、法と裁きの象徴です。

ガイアから神託者の地位を受け継ぎ、ゼウスの隣席に位置し、しばしば主神に助言を与える存在

シンボルは正義の天秤。

ローマ神話のユースティティアと同一視されます。

 

誕生と家族

ジャン=マルク・ナティエ作

古代ギリシアの叙事詩人・ヘーシオドス『神統記』によればテミスはガイアとウラノスの子でティーターンの一柱。

姉妹レアの子・ゼウスの2 番目の配偶者

二人の間に

一説には

  • ヘスペリデス (古代アテナイの劇作家エウリピデスの『ヒッポリュトス』の中で)黄金のリンゴを守るニュンペー
  • ロメテウス (古代アテナイの悲劇詩人アイスキュロス『縛られたプロメテウス』の中で)

を生んでいます。

 

ゼウスとテミス

へルメス、テミス、ゼウス、アテナ、紀元前 4 世紀

ゼウスはクロノス率いるティーターンと戦い、これに勝利

主神の座を手に入れます

ティーターン族のムネーモシュネーと睦み、ムネーモシュネーは9人のニュンペーを出産。

最初の妻メティスを飲み込んだ後、同じくティーターン族のテミスを2番目の妻としまし

テミスは3人のホウライと3人のモイライを出産。

これにより、ゼウスは血縁によって、神をも含む、運命と季節・秩序を支配する基盤を固めます

 

後にヘラを妻とするため、テミスとゼウスの婚姻は解消。

けれど、別れた後もテミスはゼウスの隣に座し、さまざまな助言を与えています

ちなみに、テミスは嫉妬深いヘラも一目を置く存在。テミス夫人と呼ばれ、二柱の関係も良好であったとか。

 

法と秩序の神

紀元前 440 ~ 430 年。テミスとアイゲウス

テミスは神の意志と正義を守るための、神と人間を統治するすべての法を司ります。

 

古代ギリシャ人にとってのテミスは「人間の共同行事、集会」の主催者でした。

テミスは神の法と秩序、人間に従うべき規則を与える女神

正義の擬人化であり、人間に神の意志を伝える存在

裁判官はしばしば「テミスポロイ」(テミスの召使い)と呼ばれました。

 

テミスは罰の擬人化である女神ネメシスの協力を得て、人間に守るべき法律を与えます

ネメシスはそれが確実に遵守されるよう管理。 テミスに従わぬ者に報復をもたらします。

 

天界においてもテミスは秩序を維持し、聡明な良き助言を与える女神

テミスの公平な性格は、ゼウスを含むオリュンポスの神々の信頼を得ます。

古代ギリシアの讃歌集『ホメロスの賛美歌』ではオリュンポスの神々の饗宴を主宰し、もてなしと儀式の女神とされるテミスが語られています。

 

また、一説にはテミスは母親のガイアから継承された大地の女神ともされています。

 

容姿

ハンス・ギエン作 1543年

ギリシャ美術では、テミスは右手に剣と鎖、左手には大義を象徴する天秤を持つ姿が描かれています。

剣は「力」を象徴し、天秤によって正邪を測るとされ、正義と力が法の両輪であることを表しているとされます

また、その目はしばしば覆われた状態で描かれています。

これは、法は外見に現れる貧富や権力の差に関わらず、万人に等しく適用されるという「法の下の平等」の理念を表したもの。

 

神託の女神

紀元前 440 ~ 430 年。テミスとアイゲウス

テミスはまた、正義と道徳の理念を人類に示した神の声(テミステス)古代の神託を主宰した、預言の女神でもありました。

もとは、神意を告げる役割はガイアが担っていましたが、ガイアはテミスとその妹のフィーベに継承しています。

 

 

テミスとアポロン

テミスはアポロンの誕生に立ち会った女神の一柱

ネクター(天界の飲み物)とアンブロシア(天界の食物)を与え、アポロンを育てています

テミスはまたアポロンに予言の術を伝授。聖地デルフォイの主宰の座を譲っています

 

古代アテナイの詩人アイスキュロスは、デルフォイはガイアが娘のテミスに引き継ぎ、テミスが妹のフィーベに、フィーベがアポロンに引き継いだとしています。

 

他の物語では、デルフォイにはガイアの託宣所があり、竜のピュートーンがその地を守っていました。

アポローンはピュートーンを倒し、神託所を自身のものとし、ピューティアーと呼ばれる巫女が神託を授ける地とています。

 

テミスの予言

ガブリエル・メツ作

ギリシャ悲劇 縛られたプロメテウス』の中でテミスはいくつかの予言を行い、それが彼女の息子プロメテウスによって伝えられました。

 

ティーターンの敗退

テミスは、賢明で策略を用いた者が勝利することになると告げています

 

テティスの息子の誕生

彼女の最も有名な予言は「テティスの息子は父親よりもはるかに偉大な者になる」というもの。

ゼウスはそれまでテティスと結婚するつもりでいましたが、テミスの予言でこれを断念

テティスを人間のペレウスと結婚させるよう手配しています。

そうして生まれたのがアキレウスです。

 

プロメテウスの解放

アイスキュロス『縛られたプロメテウス』の中でプロメテウスはイーオーに「母(テミス)が弓で名高い勇敢な男 (ヘラクレス)]が生まれ、私をこの苦難から救ってくれるだろうという神託を下した」と語っています。

 

黄金のリンゴの盗難

オウィディウス『変身物語』ではアトラスはテミスから「ゼウスの息子によって黄金のリンゴを盗まれるだろう」という神託を与えられています。

そのためトラスは果樹園の周りに高い壁を築き、恐ろしいドラゴンを守りに付かせました

英雄ペルセウスが自宅に現れたときも警戒し、その対応に怒ったペルセウスはメデューサの首を持ってアトラスを石の山脈に変えてしまいます

 

デウカリオンによる人類の再生

オウィディウス『変身物語』では大洪水を生き延びたデウカリオンに与えたテミスの神託について語られています

 

神話史の中のテミス

ルカ・ジョルダーノ 作

テミスとティタノマキア 

ティーターンとオリュンポスの神々の戦いの中、テミスは「策略を用いた者が勝利する」という助言を与えますが、力に勝る巨人族ティーターンはこの忠告に耳を貸しません

テミスはプロメテウスとエピメテウスにゼウスとは戦わないよう忠告

ガイアの助言を得て、策を弄したゼウスの勝利で戦いは終わりを迎えます。

その中で中立を保ったティーターンの女神たちは罰を受けることもなく、オリュンポスの神々が政権を握ることになります。

 

そして、テミスはゼウスの傍に位置する正義の女神としての地位を確立します。

 

大洪水 

帝政ローマの詩人オウィディウス(紀元前 43 年〜西暦 17 年)の『変身物語』で語られる物語。

ゼウスは腐敗する人間を滅ぼすため地球に大洪水を引き起こしました

プロメテウスの息子であるデウカリオンとその妻ピュラだけが箱船を造り、洪水の難を逃れた唯一の生存者でした。

彼らは9日9夜、水の上を彷徨った後、パルナッソス山に辿り着きます。

そこでゼウスと、テミスに祈りを捧げた二人は、テミスに人間の再生を祈願します。

テミスは答えて「爾らの大いなる母の骨を歩を進めつつ背後に投げよ」と告げます。

二人は母とは大地、骨は石」を意味している考え、後ろ手に石を投げます。

石はやがて男性と女性の形となり、人間が再び栄えることになります。

 

トロイア戦争

紀元前 5 世紀 パリスの判決のエリスとテミス

トロイア戦争を描いた古代ギリシアの叙事詩『キュプリア』にはテミスが人類の罪深い行為を罰し、地球の人口を減らすために、戦争を起こすことをゼウス進言したことが記されています。

 

そして、テミスは神話史上最大の戦争トロイア戦争に深く関わっています

テミスは、テティスがペレウス王と結婚することになる予言を行なっています。

そのテティスの婚姻の祝賀への不和の女神・エリスの登場と、「最も美しい者へ」と刻まれた不和の林檎は、最終的にトロイア戦争につながる出来事を引き起こしています。

 

 

テミス、現代でも美しく聡明なのは変わらない

ファイナルファンタジー14:新生エオルゼア』では「ゾディアーク」から人を「覚醒」させる命を課せられる、アシエンの中でも強大な力を持つアシエン・エリディブスの過去の姿として登場しています。

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スクールガールストライカーズ』のテミスは並行世界(チャンネル)に生まれ、チャンネルが壊滅した後も生き続けていた機械生命体

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ソーシャルゲーム『ドット勇者』のテミスは正義と平等のという要塞艦隊に導いてくれる陣営の守護神。

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テミス まとめ

ガエターノ・ガンドルフィ作

個人的には、何よりも、正義を司るテミスがトロイア戦争を画策していたというところに驚愕です。

それも人減らしのため。

 

確かにひとつの種が栄えすぎると自然の均衡は乱れ、崩壊を招きます。

神はその決断を下す役割を担うのかもしれませんが。

 

ただ、この問題は現実味を帯びていて、話題にするのも怖い気がします。

 

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