出典:deviantart
ゲルマン神話の主神といえば、誰もが「オーディンである」と言うでしょう。
しかし、ギリシャ神話でウラノス→クロノス→ゼウスと何度も主神が交代しているように、ゲルマン神話もオーディン以前に主神とされた神がいたのです。
その神の名前は、テュール。
「神」を表す一般名詞にもなるほど、いにしえの存在です。
今回は、かつてのゲルマン神話の主神・テュールを紹介します。
何故、主神の座を追われたのか、他の神話とは異なる交代劇をお見せします。
忘れられし隻腕の英雄・テュール
テュールとは
テュール(Tyr)は、ゲルマン神話に登場する軍や法廷をつかさどる神。戦士や英雄の守護者です
オーディン、もしくは海の巨人・ヒュミルの息子とされ、非常に聡明で戦いの勝敗を決める神としての役割を持ちました。
オーディンより信仰された時代もあり、その人気ぶりは勇敢な者を「テュールのように強い」、賢い者を「テュールのように賢い」と表現するほどでした。
『古のエッダ』にある「シグルドリーヴァの言葉」では、「勝利を得るには、勝利を知らなければなりません。剣の柄の上に、あるいは血溝の上に、また剣の峰の上にテュールを表すルーン文字を彫り、2度テュールの名前を唱えなさい。そうすれば、勝利できるでしょう」と書かれています。
ルーン文字の「テュールT」はテュールの象徴。
勝利のルーンであり、実際、ヴァイキングたちは自身の剣にテュールの名前を刻み、出航する前、あるいは戦いの際にはテュールに勝利を祈ったとされます
テュール(Tyr)はローマ神話の軍神・マルスと同一視され、マルスの日である火曜日 (Tuesday) の語源にもなりました。
テュール、太古の主神
テュールはゲルマン神話の神々の中でも古い神。
ギリシャ神話のゼウスやインド神話のディヤウスなどインド・ヨーロッパ語族の主神と同じ起源を持っています。
太古の主神であるため、「テュール」という名前自体が神を表す一般名詞となったこともありました。
『古エッダ』の「ヒュミルの歌」には、父である巨人ヒュミルの元に、神々が酒宴を開くのに必要な大釜を入手するため、トールを案内するテュールが登場しています。
(これは「神」という一般名詞で使用されたテュールであり、実際にはロキであるという解釈があります)
テュールは、かつては主神として信仰を受けた時代もあったものの、2世紀以降、ゲルマン社会の混乱の中でオーディンやトールへの信仰が台頭し、主神の座を追われます。
そのため、本来は主神として法と豊穣と平和をつかさどる天空神であったのが、オーディンと変わり、一介の軍神となったと考えられています。
ちなみに。『ロキの口論』の中では、テュールはロキから、右腕を失ったこと(後述)を詰られた上、テュールの妻がロキの子供を産んでいたことを暴露されています。
フェンリルとテュール
テュールは、絵画などでは隻腕の男性として描かれます。それは、テュールと怪物・フェンリルの物語が関係しているのです。
フェンリルは巨大な狼の姿をした怪物で、神々に災いをもたらすと予言されたため、神々の監視下に置かれていました。
その獰猛さを恐れた神々がフェンリルに近付けない中、幼いころからエサをやって可愛がり、世話をしたのはテュールだけでした。
しかし、日に日に大きくなっていくフェンリルに、神々は捕縛し、拘束することを決定。
神々は遊びにみせかけてグレイプニルという足かせをつけようとしますが、フェンリルは警戒し、「グレイプニルが危険でない証として、誰か私の口の中に右腕を入れてみろ」と言います。
戸惑う神々の中で唯一、その要求に応えたのはテュールだけでした。
グレイプニルに繋がれたフェンリルは騙されたことに激怒し、テュールの右腕を食いちぎります。
この一件でテュールに「人々を調停できない者」という烙印を押します。
このころからテュールの勝利の神としての側面はオーディンに取って代わられ、影が薄くなっていきます。
そして、世界の終末・ラグナロクでは、死の女神・ヘルの番犬であるガルムと相討ちになり果てることとなります。
創作作品では一介の軍神としての扱いがほとんど
カードゲーム「カードファイト!! ヴァンガード」では、「滅獣軍神 テュール」というカードで登場。滅獣軍神という異名がフェンリルとのエピソードに結びついていますね。
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ゲーム「ヴァルキュリーコネクト」では、星3のレアリティを持つキャラクターとして登場。生粋のアタッカーであり、戦いを好む勇敢な軍神として描かれています。
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『ゴッドオブウォー』のテュールはオーディンの怒りをかい、監獄に幽閉され、オーディンは彼に化け、クレイトス達を欺いています。
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テュール まとめ
出典:deviantart
幼い頃から世話をしていたのに、「飼い犬」に手を噛まれたテュールがかわいそう。
そして、ただひとり、勇敢にフェンリルの口に手を入れたのに、「調停できない者」と扱う神々の評価は不当ですよね。