
ウリッセ・アルドロヴァンディ『歴史博物館』
ギリシャ神話にはさまざまな怪物が登場しますが、女性の怪物が多いことが特徴的。
エキドナ、メデューサ、ラミアなど、異形であっても美女として描かれることが多い女怪物たちですが、その中でおぞましく、下品で不潔と伝えられている怪物がいるのです。
その名はハーピー (ハルピュイア) 。
今回はギリシャ神話の女怪物の中でも異彩を放つ半人半鳥の怪物についてご紹介します。
ハーピー (ハルピュイア)、おぞましき怪鳥

1784年 作者不明
ハーピー (ハルピュイア)とは

フランソワ・ルイ・ジョセフ・ワトー 作 ハーピーと戦闘中のフィガロ、1786年頃
ハーピー( Harpy) 、ハルピュイア (Harpyia) は、ギリシャ神話に登場する女性の頭部を持つ半人半鳥の怪物です。
ローマの詩人・ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』によると、顔から胸までが人間で翼と下半身が鳥であり、容姿は醜い女性か老婆の顔をしているといいます。
名前は「かすめる」「むしりとる」を意味し、鷲のようなかぎ爪を持ち、いつも飢えて青白い顔をしているのです。
地母神・ガイアと原初の海神・ポントスの子・タマウスと海 (河) 神・オケアノスの娘でオケアニスの一員であるエレクトラの間に生まれた姉妹。
他の姉妹には虹の女神・イーリスがいます。
習性
ハーピー(ハルピュイア)はゼウス、復讐の女神・エリーニュス、あるいは冥府の王・ハデスに仕えているとされ、地下や墓地に住んでいます。
食欲旺盛で常に空腹であるため、宴という宴を荒らし回り、目にする全ての食べ物を貪り、残飯の上に汚物をまき散らしていきます。
独特の悪臭を放ち、終始耳障りな声で騒ぎ立てるという、非常に下品で不潔な怪物として描かれています。
容姿
醜い怪物として知られるハーピーですがその表現は作者によって変化してゆきます。
︎⚫︎ヘシオドス(紀元前700 年頃、古代ギリシアの叙事詩人)は『神統記』の中で、ハーピーは「金髪で翼を持つ乙女で、風のように速く飛ぶ」と記述。
⚫︎アイスキュロス(紀元前525年 〜 紀元前456年、古代ギリシア三大悲劇詩人のひとり)の時代から、ハーピーは「翼を持つ醜い生き物」と記されるようになります。
︎⚫︎オウィディウス(紀元前43年〜 紀元後17/18年、ローマの詩人)は叙事詩『変身物語』の中で、ハーピーを「処女の顔をした、ハゲワシのような鳥」と表現
⚫︎ウェルギリウス(前70年〜前19年中頃、古代ローマの詩人)は叙事詩『アエネーイス』の中で「乙女の顔を持った鳥。手は曲がった鉤爪になって、飢えのため青白い顔色。恐ろしい悪臭を放ち、糞便を撒き散らして辺りを汚す。」としています。
⚫︎ガリウス・ユリウス・ヒギヌス (紀元前1世紀~紀元後1世紀、古代ローマの学者)は著作『神話集』の中で
「彼らは羽毛に覆われ、雄鶏の頭、翼、人間の腕、大きな爪を持ち、胸、腹、乳房、女性器が人間の女性もの」と記しています。
家族

ウィリアム・ブレイク作「自殺者の森:ハーピーと自殺者たち」
父は タウマース 地母神・ガイアと原初の海神・ポントスの子
母は オケアノスの娘エレクトラ
姉妹に 虹の女神・イーリス
がいます
ハーピーは作品によって人数は異なりますが
⚫︎アエロー(Aello、疾風)
5世紀後半の詩人ノンノスは『ディオニュソス譚』の中で、アエロがアキレウスの不死の馬バリウスとクサンソスの母であるとしています。
オウィディウスの『変身物語』では、アエロはトロイア陥落後にトロイアの英雄・アイネイアスの一行が出会ったハーピーとされます
⚫︎オーキュペテー(Okypete、速く飛ぶ女)
北風ボレアースの息子たちボレアデスに追われたハーピー。
姉妹の中で最も足の速いとされていましたが、疲れ果て、大海原の真ん中の島に漂着し、神々に慈悲を乞うたとされます。
⚫︎ケライノー(Kelaino、黒い女)
ケライノもまたトロイア陥落後にトロイアの英雄・アイネイアスの一行が出会ったハーピー。
アイネイアスに今後の旅の予言を与えています。
⚫︎ポダルゲー(Podarge、足の速い女)
ホメロスは、アキレウスの2頭の馬(バリオスとクサントス)の母をハーピーのポダルゲ、西風のゼピュロスが父としています。
以上の4柱がいるとされています。
起源
本来は風の精、嵐の風の擬人化。
つむじ風や竜巻の様な、地上の物体や人間を空に持ち上げるような激しい現象を具象化した存在。
一説では本来はクレタ島で信仰されたつむじ風としての死の女神でしたが、時代が進むにつれて汚く、おぞましい怪物になっていきました。
そのため、ヘシオドスの『神統記』では、「髪が豊かで、風や鳥たちと肩を並べるほど速い」と描写されています。
神話の中のハーピー

ウィリー・ポガニー作1921年『ピーネウスを苦しめるハルピュイアたち』挿絵
◾️ アルゴナウタイの冒険
ハーピーが登場するエピソードとして有名なものが、イアソン率いるアルゴナウタイの冒険を邪魔するもの。
ハーピーは、多くの人間に未来を予言したために神々の怒りを買った盲目の予言者・ピーネウスを罰する者として遣わされます。
ピーネウスはフェニキアの王・アゲーノールの息子、あるいはポセイドンの息子ともされます。
ピーネウスは、人間の未来を予言し過ぎたため、あるいはコルキスの地に「金羊毛」をもたらしたプリクソスの子供たちにコルキスからギリシアへの航海の方法を教えたために神々に罰せられ、盲目にされ、ハーピーが遣わされます。
ハーピーは食事をしようとしたピーネウスの前に現れ、彼の食べ物を貪り食い、残った食べ物には汚物をかけて去っていきます。
そのため、ピーネウスは食事をすることができず、常に飢えに苦しんでいました。
ピーネウスに航海の助言を求めにやって来たアルゴナウタイは、ハーピーを退治することを条件に助言を得ることを約束されます。
いつものように食事を荒らしにやって来たハーピーたちを北風の神・ボレアスの子供で有翼の英雄・カライスとゼーテスの兄弟が追い払い、それ以降、ハーピーはピーネウスの前に現れなくなりました。
また、一説にはアルカニアの地までハーピーを追いかけたカライスとゼーテスですが、ハーピーの悲鳴を聞きつけた姉妹のイーリスが現れ、「ハーピーは、ゼウス様の遣いなので退治してはならぬ。彼女らには、これ以上ピーネウスの前に現れないよう約束させるので、殺さないでやってくれ」と説得され、ハーピーは生きながらえたといいます。
◾️ アイネイアースの放浪譚『アエネーイス』

フランソワ・ペリエ 作
『アエネーイス』はトロイア戦争の英雄アイネイアースの放浪譚を記したウェルギリウスの叙事詩
トロイアを脱出したアエネーイス一行は、イオニア海にあるストロパデス諸島に漂着。
ハーピーは島にいた家畜を狩って宴を始めようとした一行の前に、突如空から襲いかかり、
肉を略奪し、食卓を汚していこうとします。
アエネーイスたちが応戦すると、ケライノが一行を見下ろし、神々から授かったという不吉な予言を放ちます。
「お前たちは目的地であるイタリアの地にたどり着くことはできるが、今回の不敬の罰として、激しい飢えのあまり『自分たちの食卓(皿)まで喰らう』ことになるだろう」と。
作品の中のハーピー

ギュスターヴ・ドレ作『神曲』第13歌 1861年。
ハーピーはギリシャ神話だけでなく、後世の創作物にも登場
◾️ダンテの叙事詩『神曲 地獄篇』では
ハーピーは第七圏の第二の環で「自殺者の森」の管理人であり、亡者を痛めつける拷問者として登場。
生前、自ら命を絶った「自殺者」たちは、地獄では人間の姿を奪われ、奇怪な樹木へと姿を変えられています。
ハーピーたちはこの不気味な森に巣食い、樹木となった亡者たちの葉や枝を鋭い鉤爪や嘴で引きちぎり、貪り喰らいます 。
◾️シェイクスピアの『テンペスト』 では
主人公プロスペローの忠実な使い魔である空気の妖精エアリエルが魔法で化けた姿。
仇敵たちを追い詰めるための「幻影」として登場します。
◾️キリスト教の「七つの大罪」では
強欲を表すシンボルとして使われることもありました。
ハーピー (ハルピュイア)、アニメやゲームでは美少女系?
映画・ドラマ
1963年公開『アルゴ探検隊の大冒険』は特撮の神様レイ・ハリーハウゼン制作、映画史に残る名作。
この中でハーピーとアルゴナウタイとの戦いがストップモーション(コマ撮り)アニメで描かれています。
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2005年公開『ナルニア国物語/第1章: ライオンと魔女』のハーピーは白い魔女の軍勢(闇の生物たち)の一員として参戦。
コウモリのような翼と青白い肌を持ち、空中戦でグリフィンとの激しい戦いが繰り広げられます。
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ゲーム・アニメ
『ぷよぷよ』『魔導物語』シリーズのハーピーは 緑色の髪に羽が生えた少女。
歌うことが大好きで、破壊的な音痴で周囲にダメージを与えます
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漫画『モンスター娘のいる日常』では、ハーピーの少女・パピが登場。
覚えたことはすぐ忘れるトリ頭ですが、天真爛漫で人懐っこい美少女です。
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ハーピー (ハルピュイア) まとめ

エドヴァルド・ムンク 作
汚く下品であることが強調されるハーピーですが、美しい虹の女神・イリスと同じ両親の子として生まれています。
なぜ、ここまで悍ましい存在に成り果ててしまったのか、疑問に思えてきます。
