日本でも馴染みの中国製アンデッド、キョンシー。
死体が蘇り、夜な夜な人間の生き血をむさぼる怪物。そのルーツや特徴、撃退法を探ります。
ピョンピョン飛び跳ねる、ザコ妖怪のイメージがありますが、等級があったり、上級になれば妖術も使える強敵になるなんて、意外にも思えます。
意図して作ることも、操ることもできると伝えられる、中国古来の妖怪キョンシーに注目です。
キョンシー、生き血をすすり、日光に溶ける、動く死体
出典:deviantart
キョンシーは中国の妖怪の一種。
中国語で死体を意味する「尸」という漢字に、硬直するという意味を合わせた僵尸(jiangshi, ジアンシー)、日本では殭屍(キョンシー )と書きます。
中国では死んだ人を埋葬せず置いておくと、夜中に死後硬直のまま動き出すことがあるといわれています。それが「僵尸」。
古来中国の3大宗教にひとつ道教では、人間の身体には魂(こん、精神を支える陽の精気)と、魄(はく、肉体を支える陰の精気)があると考えられています。
生きている間は魂と魄は表裏一体で、死後、魂は天に、魄は地に帰ると信じられています。
キョンシーは魄だけが地に帰らずに体に残った状態をいいます。
ピョンピョン飛び跳ねるイメージのあるキョンシーですが、死後硬直は時間が経てば解けていき、やがては歩いたり走れるようになるといいます。
長く存在するキョンシーは強い妖怪や霊獣となって、空を飛び、神通力を持つともいわれます。
キョンシーは清の時代の
- 蒲松齢((ほ しょうれい)著、怪奇小説集『聊斎志異』(りょうさいしい)
- 袁枚(えんばい)著『子不語』(しふご)
- 紀 昀(き いん)著『閲微草堂筆記』(えつびそうどうひっき)
などの古書にも登場しています。
また『西遊記』に登場する白虎嶺という山に住む妖怪、白骨夫人も霊力の強いキョンシーとして有名です。
キョンシーの起源

清朝末期の官僚の服装
キョンシーの起源については主に2つの説があります。
◾️ 「趕屍(かんし)」
かつて、中国湖南省では、出稼ぎ先で死んだ労働者の遺体や、明・清の戦乱の時代、多数出た死者を故郷に運ぶため、道士が呪術を用いて移動させたという伝承があり、この方法を趕屍(かんし)といいます。
ただし、死後間もない死者は死後硬直のため身体が硬いので、歩くことは出来ずに飛び跳ねます。
それらの遺体を縄で縛り、夜になると鈴を鳴らし、一列に整列させて、暴走しないように額に黄色いお札を貼り付け、移動させます。
ちなみに、中国の建物は門の下に15cm程度の段差があります。これはぴょんぴょん飛び跳ねるキョンシーの侵入を防ぐためのもの。
◾️ 女神「魃(ばつ)」
「魃(ばつ)」は神話の中で中国を統治した最初の皇帝、黄帝の娘。
日照りの神を擬人化した女神様です。
中国最古の地理書『山海経』(せんがいきょう)にその存在が記されています。
魃(ばつ)は、黄帝と獣神蚩尤(しゆう)の戦いにおいて、蚩尤に味方する雨の神と風の神の起こした風雨を熱の力で追い払い、黄帝に勝利をもたらします。
けれど、力を使いすぎて天界に帰れなくなってしまいます。
そして、周囲を干魃にしてしまうため、北方の係昆山へ幽閉されてしまいます。
やがて魃の姿は、美しい女性から醜く変化して、キョンシーの始祖とされるようになります。
また、干魃のために死んだ人間は干からびて、死後も腐らず残ります。
そして、墓の中で100日たつと、地上に出てきて人間を襲うようになると伝えられています。
キョンシーの特徴

1908年清朝の慈禧太后(西太后)の葬列
キョンシーの特徴も様々に伝えられています。
- 夜行性、満月の夜は特に凶暴になる
- 生き血を吸うために人を襲う。噛まれたものもキョンシーになる。
- 日光に当たると溶ける。
- 爪や髪が伸びる。爪には毒素が含まれてキョンシーの武器でもある。
- 臭覚が鋭い。臭いで相手を察知し急所を狙って生血をすする。
- 視覚がない、目が見えない。
- 低級のゾンビは額に護符を貼れば、修行を積んだ道士であれば操れる。ただし月の光を浴びると制御不能となる。
- 自分の額に札を貼れば同士(キョンシー)と思われる。
- 死後硬直しているので、体が硬い。
などが挙げられます
キョンシーの伝承
◾️『閲微草堂筆記』(えつびそうどうひっき)は、清の時代の学者・紀昀(きいん)によって著された文語筆記小説集(1789年〜1800年)
その中でキョンシーの容姿について
「白毛遍体(全身に白い毛が生え)、目赤如丹砂(目は朱砂のように赤く)、指如曲勾(指は鍵のように曲がり)、齒露唇外如利刃(歯は唇の外に剥き出しで鋭い刃のよう)」と記されています。
◾️『神異経』(しんいきょう)古代中国の地理書・怪異譚(志怪小説)
この中に登場する「魃(ばつ)」という妖怪がキョンシー(僵尸)のルーツの一つとされています。
「魃(ばつ)」は、遺体が腐敗せずに長い年月を経て妖怪となったもの
髪が白く、体中に白い毛が生え、生きているかのような姿。
身長は2、3尺(約67〜100cm)ほどで、風のように素早く歩き、この妖怪が現れた土地は必ず大旱魃(干ばつ)が起こるとされ、人々から恐れられたと記されています。
キョンシーの階級
キョンシーには階級があるといわれています。
低い位のキョンシーには意識や自我はなく、赶屍術者の鈴の音に従って飛び跳ねるように動きます。
けれど、位の高いキョンシーは、自我や神通力を持ち、霊獣にまでなると伝えられています。
清の時代の怪奇小説『子不語』(しふご)ではキョンシーを能力ごとに8つのクラスに分けています。
第1級 紫僵(しきょう)
死後まもない、まだ赤紫色の死体。身体は硬く、最も低い階級
第2級 白僵(はっきょう)
全身に白い毛が生え始め、腐敗を脱し、妖気を蓄え始める。
第3級 緑僵(りょっきょう)
全身に緑色の毛が生え、知能もだんだん高くなり、生前の記憶も回復しつつある状態。
第4級 毛僵(もうきょう)
全身に長い毛が生え、人肉を喰らい、特殊能力を持ち、初歩の法力を使うようになる
第5級 飛僵(ひきょう)
光の中にも出ることが出来、自由に空を飛び、強力な神通力を操る。
第6級 遊屍(ゆうし)
「天雷」を会得し、地仙の法力を持つ、神仙の遁術を自由に使用し、昼は隠れて夜に行動する。
第7級 伏屍(ふくし)
「陰火」を会得し、身を消すことが出来、天仙級の法力を持つ
第8級 不化骨(ふかこつ)
最後の”贔風”を会得した最高位のキョンシー。
大羅金仙級の法力を持ち、天地と同じ寿命を持ち、自身の肉体を完全に消し去って霊体のみで自在に移動できる
キョンシーになる原因
キョンシーは、大きく、自然にできる場合と、術によって意図して作る場合に分かれます。
その原因としては
- 墓の向きや位置、埋葬日時など、風水的に悪い環境で埋葬されている
- 生前強い怨念があった
- 符呪師や道士が符呪や儀式で埋葬されていない死体に魄を入れ、意図的に作り出した
- キョンシーによって殺された
などが原因して、魂がなくなり魄のみのキョンシーとなると伝えられています。
キョンシーの弱点、退治法
熟練した道士なら桃の剣でキョンシー退治も可能、また、自身が他のキョンシーを操り、相手を撃退する術も持つといわれています。
キョンシーの毒には患部にもち米やゆで卵、子供(童貞)の尿をかけると効果的であることは有名です。
- 八卦鏡。自分の姿を映す鏡には近づけない。
- 桃枝、桃木剣。物理的なダメージを与えることができる
- 雌鶏の血、鶏鳴。ただし、血は黒犬や黒い鶏以外の物を使うとかえって狂暴化する
- 鈴。音で操る
- 易経に基づく道士の術
- 墨頭線(墨汁を染み込ませた糸)。
- 石工錐。斧尺。
- もち米、米、米篩、赤豆。
- 黒驢蹄子
- 符呪。お札
- 指印。指で印を結び、術の威力を増加させる。
- 子供(童貞)の尿。
- 黒犬の血。
- 雷
- 道士の操るキョンシーと戦わせる
- 火焼。火で灰になるまで焼くのが完全にキョンシーを消滅させる方法
キョンシー、その人気は未だ健在
映画・ドラマ
1986年初公開から続く「霊幻道士」シリーズ。
2022年には『霊幻道士XIII 鳳凰キョンシーの襲来』が公開されています。
キョンシー映画の金字塔的作品。
道士のガク・ハウ(ラム・チェンイン)が、弟子たちとともにキョンシーに立ち向かいます。
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2013年公開『キョンシー』は日本のホラー映画『呪怨』の清水崇監督がプロデュースした『霊幻道士』をダーク・ホラーとしてリブートした作品。
しっかり怖いキョンシーが楽しめます。
アニメ・ゲーム
CAPCOMの格闘ゲーム「ヴァンパイアハンター」では故郷の村に伝わる禁術「異形転身の術」でキョンシーとなった仙術師の少女レイレイ(泪泪/Lei-Lei)として登場。
戦闘時には額の御札となる双子の姉リンリン(鈴鈴)と共に戦います。
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「鬼灯の冷徹」の僵尸チュンは裁判官である五道転輪王の第一補佐官。
読み書き計算が全く出来ない怪力の持ち主。
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キョンシー まとめ
中国の思想、魂魄(こんぱく)、「精神と肉体には別々の精気が宿っている。それが死後天と地に分かれて帰ってゆく」。
この概念でアンデッドや幽霊の存在をすごく良く理解できて納得できます。
納得しても出会いたくはないですが。。。


