モーリッツ・フォン・シュヴィン 作
ギリシャ神話といえば、ゼウスをはじめとしたオリンポス12神にまつわる神話が中心に語られています。
しかし、彼らの物語はいわば、世界が成立した後の話、創世記とは程遠いのです。
今回は、ギリシャ神話の原初の女神、ニュクスをご紹介します。
ニュクスは世界が創られたとほぼ同時に生まれ、ゼウスさえ恐れた夜の女神。
ギリシャ神話の原初、ニュクスが創る人間の理解を超える神々の創生、ご覧ください
目次
ニュクス、多くの災厄の母になった原初の女神
ルカ・ジョルダーノ作『カロンの小舟、夜とモルフェウス』
ニュクス(Nyx)は、ギリシャ神話に登場する夜の擬人化。夜をつかさどる女神です。
原初の時代、世界はぽっかりと口を開けたような何もない空間でした。
最初に、その隙間にカオス (混沌) が存在し、やがてこれから生まれようとする神々や世界を構成する種のようなものが固まりになって漂っていました。
その中から生まれたのが、
そして、夜の女神・ニュクスです。
(ヘシオドスの『神統記』でのニュクスはカオス(混沌)とエレボス(闇)の子)
ニュクスは戦車で空を駆ける、黒いローブを纏った有翼の女神として描かれることが多い、陰うつで激しい性質の女神。
ニュクスの子
ギュスターヴ・モロー 作
ヘシオドスの『神統記』では
エロスの導きにより、ニュクスは兄である闇の神エレボスと交わり、
- アイテル(エーテル)、光の神 明るい上空の擬人化
- ヘメラ、昼の女神
- カロン 冥府の渡し守
をもうけます。
夜と闇から光と昼が生まれ、こうしてようやく暗黒であった世界に明るさが生まれます。
その後、ニュクスは1人で多くの神を産みます。
彼らは主に負の力が擬人化された神々。
- タナトス 死の神
- モロス 定業の神 人間を死の運命へと追いやる破滅の擬人化
- ケール(ケレス) 宿命の神 戦場で血まみれの死に引き寄せられた暴力的な死が擬人化された女神
- オネイロス 夢の神
- モモス(モムス) 不平、非難の神 風刺と嘲笑の擬人化
- オイジュス 苦悩、苦痛の神
- ネメシス 復讐の女神
- アパテー 欺瞞の女神
- ピロテース(フィロテス) 愛欲の女神
- ゲラース 老年、老いの神
- ヒュプノス 眠りの神
- エリス 争いの女神
- モイライ 運命の女神三姉妹
- ヘスペリデス 「ヘスペリデスの園」で黄金の林檎を守るニンフ。一般的にアトラスの娘とされていますが、ヘシオドスの『神統記』では、ニュクスの娘と表記されています。
他説
- エリーニュス(復讐の女神)(アイスキュロス(古代アテナイの三大悲劇詩人のひとり)の説)
- ヘカテ クロノスとの子(バッキュリデス(古代ギリシアの抒情詩人)の説)
- リュサ(狂気)ウラノスとの子(エウリピデス(古代アテナイの三大悲劇詩人のひとり)の説)。
また
オルペウス文学ではウラノスとガイアはしばしばニュクスの子とされます
ニュクス(夜)の存在
セヴェリン・ガブリエル・フォークマン 作
ニュクスの子どもたちは、「人間の存在のありよう」を表しています。
これらの神の大部分がパンドラの箱の中の災いとされていることが特徴的です。
オーギュスト・レイノー 作
ニュクスは娘である昼の神ヘメラとは表裏一体の存在。
2柱は世界の果てに宮殿を共有しています。
ニュクスは世界の西の果て、タルタロスの巨大な穴の近くに屋敷を構えます。
そこは暗い雲に包まれた巨人アトラスが天を支える場所。
近くにはニュクスの二人の子供、ヒュプノスとタナトスも住まいます。
夜の間はニュクスが世界を巡ってヘメラは宮殿に待機し、反対に、昼の間はヘメラが世界を回り、ニュクスが宮殿に待機します。
世界を旅するニュクスは息子ヒュプノスを腕に抱いて、蒸気の雲に包まれて移動すると伝えられています。
ゼウスも恐れた夜の神ニュクス
イーヴリン・ド・モーガン 作
ニュクスの影響力は絶大で、最高神・ゼウスにさえ恐れられていました。
ある日、ヘラクレスの冒険を邪魔するためにへラの命を受け、眠りの神ヒュプノスがゼウスを眠らせたことがありました。
怒ったゼウスがヒュプノスを捕らえようとします。
けれどヒュプノスはニュクスの元へ逃げたため、ニュクスの報復を恐れたゼウスは手出しできなかったといいます。
ニュクス、名前の使われ方はさまざま
「女神転生」シリーズでは、種族「夜魔」の最上位の存在として登場。紫のドレスをまとった美女の姿をしています。
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「バイオハザード」シリーズでは、アウトブレイクFILE2のラスボスとして登場。なんでも取り込んでしまう肉塊の生物兵器です。
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『ゴッドイーター』ではアラガミの一種の謎の巨大生物。サリエル神属の亜空の聖母ニュクス・アルヴァ。
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隠れた秀作との評判も高い「ニュクスの角灯」は明治の日本を舞台に「神通力」を持つ1人の少女の成長を描いた歴史ロマン漫画。
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ニュクス まとめ
アンリ・ファンタン=ラトゥール 作
ゼウスさえ恐れる原初の女神・ニュクス。
古い起源を持つ女神だからこそ、神話は少ないですが、混沌(カオス)の中で夜(ニュクス)が生まれ、闇(エレボス)と夜(ニュクス)が光(アイテル)と昼(ヘメラ)を生んだ。
想像を超えた次元のお話です。
原初、まさにカオス(混沌)の世界のお話となると、単なる人間ごときには理解の域を超えたスケールなのだとだけはわかります。