
アントン・ラファエル・メングス 作
ギリシャ語で「太陽」を意味するヘリオスはアポロンと同じくギリシャ神話の太陽神。
月の女神セレネ、暁の女神エオスの妹達と共に、日ごと東の空から西のオケアノス(外洋)まで天空を駆け抜けてゆきます。
下界を見渡す太陽神としての役割から、多くの神話の中で重要な役割を果たすヘリオス。
その軌跡を辿ります。
目次
ヘリオス、天翔る太陽神

大英博物館
ヘリオスとは

カール・ブリューロフ作「戦車を駆るフォイボス」
ヘリオス(Helios)は、陽の動きを司る、ギリシア神話の太陽神。
ヒュペリオン「上にあるもの」、パエトーン「輝くもの」の称号を持つ、太陽の光輪を冠した美しい男神。
ヘリオスはティーターン族の光明の神・ヒュペリオンと妹で光の女神・テイアの間に生まれます。
オリンポス山の東の地の果てに宮殿を持ちます。
ヘリオスは日ごと4頭の馬に引かれた黄金(太陽)の戦車を馳せ、東の空から西の果ての外洋(オケアノス)へと天空を翔けぬけます。
曙の女神エオスがヘリオスを先導し、後を月の女神セレネが追随します。
季節の女神・ホーライが従者となり、彼の戦車のくびきを繋ぎます。
日没後、黄金の戦車は鍛冶神ヘパイストスによって作られた黄金の巨大な盃に乗って、世界を取巻く外洋の流れを渡り、東へと戻ります。
ティターン神族であるヘリオスは、唯一オリュンポスの神々への攻撃を控えた神とされ、戦いに勝利した神々はヘリオスに天空にその居場所と天空を翔る戦車を授けています。
アポロンとの習合

ヘンドリック・ゴルツィウス作
ヘリオスは古代ギリシャでは太陽を擬人化した神として崇められていました。
古代ギリシャ人は「太陽は天空を翔けるヘリオスの4頭立て馬車」であると信じていました。
紀元前4世紀頃、アポロンやローマ神話の太陽神ソルと同一視されるようになり、以降、ギリシャ神話の絶対的な太陽神として崇められるようになります。
神格

シリア、ハマ博物館
ヘリオスは天空を翔る太陽であるところから地上の全てを見渡す神としての役割を担います。
彼は万物を見通す証人としての誓いの守護者であり、またその能力から、視力の神としても崇められます。
容姿
ヘリオスは光り輝く冠をかぶり、4頭の馬に引かれた戦車で、東に登り西に沈む天空を駆け抜けます。
その冠は1年の12か月を象徴する輝く太陽の光輪を放ちます。
その姿は「金のように輝く」金色の髪、金色の瞳の美しい若者。
- ピュロイス
- アイオス、
- アイトン
- フレゴン
の4頭の馬に引かれた黄金の戦車で天空を翔けます。
家系

グイド・レーニ作
両親
(古代ギリシアの叙事詩人)ヘシオドス『神統記』によれば、両親はティターン族の光明の神・ ヒュペリオンと輝きの女神・テイア
ゼウスやヘラなど、クロノスとレアの子供達とは従兄弟にあたります。
兄弟
月の女神・セレネと暁の女神・エオス
妻子
⚫︎海神オケアノスの子ペルセイスと結婚、4人の子供が生まれます。
- アイエテス コルキスの王でメーディアの父。
ある時、ヘリオスはアイエテスが、自分の子の一人から裏切られると予言。
アイエテスに俊馬が引く戦車、黄金の兜、巨人の鎧、父の証としてのローブと首飾りなどを与えています。
メディアの祖父でもあるヘリオスは、メディアの生涯でも深い関わりを持ちます。
メディアがイアソンに見捨てられ、コリントスの王クレオンとイアソンの妻となるグラウケー、自身の子供たちを死なせた際、ヘリオスはメディアがコリントスから脱出するのを助けています。
⚫︎(一説にはポセイドンの娘)ロドス島の女神ロドスとの間に
- ヘリアダエ ロドス島を支配する7人の息子たち
と娘
- エレクトリオーネ
⚫︎ニンフのクリュメネーとの間に
- パエトーン 父の戦車に乗り、地上に災害を起こしたためゼウスの怒りに触れ、雷に打たれて死亡。
- ヘリアデス 「太陽の娘たち」を意味する7人の娘たち
弟パエトーンの死を悲しみ、ポプラの木に姿を変え、その涙(あるいは樹液)は琥珀になりました
その他、異なる伝承の中で幾人もの女性と結ばれ、多くの子孫を残しています。
神話の中のヘリオス

ジャン=シャルル・バコイ 作
太陽の営みの乱れ

ヨハン・バプティスト・ツィンメルマン作
ヘリオスは、日毎東から西へと戦車を駆る神。
けれどギリシャ神話の中で、ヘリオスの歩みである太陽の周期の乱れが語られています。
⚫︎ゼウスはヘラクレスの母アルクメネーをのぞみ、ヘリオスに3日間起きないように命じます。
そして、夫アンピトリュオンに変身し3夜アルクメネーと愛し合い、ヘラクレスがやどります。
⚫︎︎そのヘラクレスは第十の功業でゲリュオーンの牛を取り戻すためエリュテイアへ向かう途中リビア砂漠の暑さに苛立ち、ヘリオスに矢を放っています。
その後すぐに深く謝罪していますが。
⚫︎アテナはゼウスの頭から生まれた神。
その誕生はあまりにも衝撃的な光景であったため、ヘリオスは天空に静止し、それを眺めていたとされます。
誕生の瞬間、天地が震えたと伝えられています。
⚫︎トロイア戦争では
ギリシア軍に味方するヘラは、ヘリオスを通常より早く出発させ(日の出を早め)ています。
また、姉エオスの息子メムノンがアキレウスとの戦いに敗れ、死亡した際、ヘリオスは光を消し、メムノンの死を悲しむ妹を慰めています。
⚫︎夏の日が長いのは、ヘリオスが戦車を止め、ニンフたちが踊る様子を空から眺めるためだとされます。
天空の監視者

スパルタ考古学博物館
◾️ オリオン
オリオンは、海神・ポセイドンとミノス王の娘エウリュアレーの子。
ヘリオスは母方の祖父にあたります。
キオス島の王オイノピオーンの娘メロペーに恋をしますが、メロペーに拒まれ父王に盲目にされてしまいます。
ヘリオスはオリオンのその目を治しています。
◾️ アプロディーテーとアレスの密通
ヘリオスは、美の女神アプロディテと軍神アレスの密会をアプロディテの夫ヘパイストスに告げます。
ヘパイストスは不義のふたりを捕え、神々の晒し者として懲らしめます。
密告の代償

アブラハム・ファン・ディーペンベーク
ヘリオスの密告によって辱めを受けることになったアプロディーテーは、この仕打ちを許せず、その復讐を画策します。
そしてヘリオスをペルシアの王オルカモスの娘レウコトエーに熱愛させます。
ヘリオスの寵愛を受けていたニュムペーのクリュティエーはそれを妬み、レウコトエーの父で厳格なオルカモス王にこの情事を密告、父王は愛娘に自ら裁きを下します。
ヘリオスは生き埋めにされたレウコトエーの死体にネクタール(神々が飲料する不老不死の効果がある生命の酒)を注ぎ、彼女の姿を乳香の木に変えて天界に伴います。
密告者クリュティエーはヘリオスから見捨てられ、悲しみのうちに死亡。
ヒマワリ、ヘリオトロープ、あるいはキンセンカの一輪の花になり、いつも愛しい人の方向を見つめているのだと伝えられています。
◾️ ペルセポネの行方
冥界の王ハデスが豊穣の女神デメテルの愛娘ペルセポネを冥府へ連れ去った時、ヘリオスはこの誘拐にゼウスが加担していることをデメテルに告げます。
デメテルは激怒し、オリュンポスを去ることになります。
息子パエトーンの悲劇

ルーベンス作『パエトンの墜落』
エチオピアの王メロプスの妻 でオケアニスのニンフ・クリュメネは、太陽神ヘリオスとの間にヘリアデスたちと、息子パエトーンをもうけます。
パエトーンは自分の父が神であると友人たちに自慢しますが、それを友人のひとりゼウスの息子エパポスに疑われます。
その証明のためパエトーンは東の果てにあるヘリオスの宮殿を訪れ、一日だけ太陽の戦車を駆ることを父に強く願います。
けれどパエトーンには天馬たちを御することができず、地上に大火災を起してしまいます。
この災害のため、リビュア(マグリブ)は干上がって砂漠となり、ナイル川は砂漠の中を流れるようになります。
アフリカの人々は肌を焼かれ色が黒くなったとされます。
ゼウスは雷を投げ戦車の暴走を止め、パエトーンは雷に撃たれてエリダノス河に墜落し、死亡。
パエトーンの姉ヘリアデスたちはパエトーンの死を悲嘆し、樹木になります。
母クリュメネも悲しみに打ちひしがれ、その樹木をかきむしり、垂れた樹液は琥珀となります。
ロドス島の巨像

ロードス島の巨像、ルシアン・オージェ・ド・ラッス著『Voyage Aux Sept Merveilles Du Monde』
(紀元前5世紀、ギリシアの抒情詩人)ピンダロスは、
ティータノマキアに勝利した神々は地上を分割。
その際、ヘリオスは不在であったため、信仰地を得られなかったとしています。
ゼウスは分割を申し出ますが、ヘリオスは海に新たな陸地が出現するのを見ていた(あるいはヘリオス自身が海から島を浮かび上がらせた)ため、この島を望みます。
そこは実り豊かな地。
ゼウスはこれに同意し、ラケシス(モイライ、運命の三女神の一人)がその誓いに立ち会いました。
ヘリオスは島の女神で愛人のロドスにちなんで、島をロドスと名付けました。
そして、島はヘリオスの聖地として崇められました。
ヘリオスはロドスとの間に7人の息子ヘリアダエ(太陽の息子たち)とエレクトリオネをもうけ、彼らは島の最初の支配者となりました。
紀元前三世紀頃、そのロドス島にはヘリオスの巨像が建てられ、古代ギリシャ・ローマ時代の「世界の七不思議」のひとつとなっています。
ちなみに「古代の七不思議」とは
- ギザの大ピラミッド(エジプト)
- バビロンの空中庭園
- エフェソスのアルテミス神殿(トルコ)
- オリンピアのゼウス像(コンスタンティノープル)
- ハリカルナッソスのマウソロス霊廟(古代ギリシャ都市ハリカルナッソス)
- ロドス島の巨像(エーゲ海南東部)
- アレクサンドリアの大灯台(アレクサンドリア湾岸・ファロス島)
ロドス島の巨像は紀元前284年ディアドコイ戦争に勝利したロドスの民によって建造されます。
けれどその58年後の紀元前226年、地震のため巨像は倒壊。
ロドスの民は神に似せた彫像を作ったことが神の怒りに触れたと考え再建を断念、
巨像はそのまま放置されます。
800年後の654年、巨像の残骸はイスラム帝国によってエデッサの商人に売却され、商人は彫像を青銅の屑にし、九百頭のラクダに積んで持ち去ったと伝えられています。
ヘリオス、ゲームの世界では戦士
「GOD OF WAR III」ではオリンポスの神々はクレイトスによってことごとく無残に打ち負かされてしまいます。太陽神ヘリオスもそのひとり。
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「チェインクロニクル3」のヘリオスは王都の勇者。王国の危機を打開するべく義勇軍を立ち上げた、この物語の主人公です。
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ヘリオス まとめ

ャン=バティスト・ウードリー作『ポイブスとボレアス』
神々の世界では今と同様に、男も見目麗しく、罪な存在であるようです。ヘリオスもまたアポロンの如く、女神やニュンペーを悲しみのために花や樹木に姿を変えさせています。
けれど、たとえ正義のためとはいえ、やはりチクリはいただけないのでは。
自分が他人を陥れるような存在になるのは敵を作るもと。ヘリオスは他人の不貞が許せない潔癖症な性格なのでしょうか。
といって、見て見ぬふりをするのも良い方法とはいえないかもしれませんが。。。難しいです。。。

