
紀元前350-325年頃
ケンタウロスはギリシャ神話の半人半馬。
アニメやゲームで日本人にも馴染みのキャラですよね。
元ネタになった神話の中のケンタウロスはイクシオンの子ともされる半獣とその種族。
大半は粗暴で野蛮、酒と色を好む、まさに獣のような輩です。
けれど、このケンタウロス族の中には、さまざまな英雄を輩出した賢者や、ヘラクレスを死に追いやった者、童話の『王様の耳はロバの耳』に関係するユニークな知恵者も存在しています。
父とされるイクシオンはFF世代には召喚獣として知られていますが、元は人間。
人間の体を持つイクシオンから生まれた子がなぜ半人半馬になったのか。
その辺りにも注目です
ケンタウロス、賢者、ユニークな知恵者もいる、個性豊かな獣人族

ボッティチェリ作『パラスと ケンタウロス』
ケンタウロスとは
ケンタウロス(Centaurus)はギリシャ神話に登場する、上半身が人間で下半身が馬、4本の足と2本の腕を持つ半人半馬の怪物。女性系はケンタウリス。
イクシオンとヘラの姿をした雲・ネペレーとの子、あるいはアポロンとスティルベとの子。
そのケンタウロスを祖とした一族、また、半人半馬の種族の総称としても用いられます。
ケンタウロス族は多くのギリシャ神話で、飼いならされていない馬のように荒々しい種族と表現されています。
性格は粗暴で野蛮、好戦的で好色な種族として伝えられています。
けれど、そんな中でもヘラクレスやアキレウスを育てたケイローンのような賢者も輩出され、射手座、ケンタウロス座として夜空に輝いています。
また、ヘラクレスの死に関わった者、ユニークな知恵者もいる、個性豊かな獣人族です。
ケンタウロスの誕生
ケンタウロスの誕生については2つの説が語られています。
⚫︎イクシオンの子
イクシオンはテッサリア最古の部族ラピテースの王・プレギュアースの子。
義父を殺した罪で狂気に陥り、追放されます。
これを憐れんだゼウスはイクシオンをオリュンポスに招待。
けれどそこでヘラに欲情してしまいます。
それを怪しんだゼウスは雲でヘラの形をしたネフェレを作ります。
イクシオンはこの雲・ネフェレと交り、ケンタウロスが生まれます。
これに激怒したゼウスは、イクシオンを燃える空飛ぶ輪に永遠に縛り付け、タルタロスに落とします。
ケンタウロスは奇形児として生まれ、ペリオン山でそこに住むマグネシアの牝馬と暮らし、半人半馬のケンタウロス族が生まれます。
⚫︎アポロンの子
他説、ケンタウロスはアポロンと河神 ペネイオスと川のニュンペー・ナイアスのクレウサの娘スティルベの子とされます。
スティルベはアポロンとの間に双子の息子、奇形で生まれたケンタウロスとアルゴナウタイのひとりとなる勇敢な戦士・ラピトスを出産。
ケンタウロスはケンタウロス族の祖、ラピトスはラピテース族の祖となります。
ケンタウロス族は野蛮で好色な種族。
ラピテース族はペイリトオス、カイネウス、コロノス、プレギュアース(他説イクシオンの父)といった多くの英雄を輩出する勇敢な戦士族。
ちなみに、他説ケンタウロスの父とされるイクシオンはこの説ではラピトスの子でラピテース族の一柱。
生息地、種族

「ケンタウロスと野獣の戦い」120年〜130年
ケンタウロス族はギリシャ本土では、中部テッサリアのマグネシア地方とペリオン山、南部エリスのフォロイ樫の森、ラコニア南部のマレー半島に生息。
その他
⚫︎キプロス島にも別の部族が住んでいたとされます。
この地のケンタウロスはゼウスがアフロディーテの誘惑に抗えず、子種を流したとされる牛の角を持た種。
また
⚫︎地中海北東部のラモス川にいたダイモーン(下級神、あるいは精霊)「ラミアのペレス」は幼いディオニュソスをヘラの陰謀から守るためにゼウスによって遣わされた精霊。
怒ったヘラは彼らを牛の角を持つケンタウロスに変えてしまいます。
後にケンタウロスとなったペレスはディオニュソスのインド遠征に同行しています。
ケンタウロスとラピテース族の戦い

ピエロ・ディ・コジモ作『ケンタウロスとラピテース族の戦い』
ケンタウロス族とラピテース族との戦いはオデッセウスの『変身物語』の中で語られています。
テッサリアのラピテース族の王ペイリトオスはブーテース (アテナイ王パンディオンの息子) の娘・ヒッポダメイアとの結婚式にケンタウロス族を招待。
けれど、祝宴で好色なケンタウロスたちが酒に酔った勢いで花嫁を強奪しようし、それを防ごうとするラピテース勢の間で激しい戦いが起こります。
宴席で酔って騒ぎ出したケンタウロスのエウリュティオン(またはエウリュトス)は挨拶に来た花嫁のヒッポダメイアを強奪。
他のケンタウロスたちも次々に近くの女たちに襲いかかります。
ペイリトオスはアルゴナウタイの仲間で親友のテセウスとともにケンタウロスを討伐。
ヒッポダメイアを救出し、逃げるケンタウロス倒します。
争いは日没までつづき、この間、ラピテース族のカイネウスが絶命。
カイネウスはポセイドンと交わり、どんな武器でも傷つかない肌をもつ屈強な男の体を得た、元はカイニスという名の女性。
テセウスや同じくアルゴノーツのひとりアキレウスの父ペレウスの加勢もあって、ケンタウロスは大敗。
その地を追放(あるいは滅ぼされています)
結婚を果たしたペイリトオスとヒッポダメイアは、トロイア戦争の英雄・ポリュポイテースをもうけています。
主なケンタウロス
多くのケンタウロスは粗暴な族とされますが、その中にも多くの英雄を輩出した賢者や人格者、ヘラクレスの死に関わった者、ユニークな存在のケンタウロスも伝えられています。
⚫︎ケイローン

ウジェーヌ・ドラクロワ作
ケイローンはティーターン族のクロノスとニュンペーのピリュラーの子。
クロノスが馬に姿を変えてピリュラーと交わったことから、半人半馬で生まれたという、ゼウスの異母兄弟である不死の神。
アポロンから音楽、医学、予言の技、アルテミスから狩猟を学び、英雄ヘラクレスや最強の戦士アキレウスに武術を、医術の神アスクレピオスには医術を授けたという偉大なる賢者。
ヘラクレスの毒矢を受け、不死を手放し、射手座になったとされます。
⚫︎ネッソス

ポンペイの古代フレスコ画
ネッソスはヘラクレスに殺され、その毒血によってヘラクレスも命を落としたとされる、間接的ではありますが、ヘラクレスを死に招いたケンタウロス。
彼はケンタウロスの息子で、ラピタイ族との戦いに参戦。他のケンタウロス同様、その地を追放され、エウエノス川の渡し守となりました。
ある時、ヘラクレスの妻・デイアネイラを川の向こう岸まで運び、美しいデイアネイラを見初めたネッソスは強引に彼女との関係を迫ります。
それを目撃したヘラクレスはヒュドラの毒矢をネッソスに放ちます。
死に瀕したネッソスは毒に染まった自分の血を「この血は媚薬の効果がある。ヘラクレスの心変わりに使ってください」といってデイアネイラに捧げます。
後に、ヘラクレスは絶世の美女イオレーを戦利品として手に入れます。
心変わりを恐れたデーイアネイラはネッソスの血をヘラクレスの下着に塗布。
これを着たヘラクレスは瀕死の重傷を負い、自らその命を断ちます。
⚫︎ポロス(フォロス)
ボロスもまた、シレノス(半人半馬族)のシレーニとトネリコの精であるニュンペーの息子という、ケンタウロス族とは出自の異なるケンタウロス。
ペリオン山の近くの洞窟に住んでいた賢者として名高いケンタウロスでヘラクレスの友人でした。
ボロスはヘラクレスの12の功業の第4の功業に加わり、エリュマントス山に住む人食い大猪の生け捕を助け、ケイローンと同様ヘラクレスの毒矢で死亡。
ケンタウロス座になりました。
⚫︎シレーニ(シレノス)

『ヘルマフロディトスとシレノス』 ローマ時代のフレスコ画
シレノスは予言の力を持つとされる半人半馬の水の精。
シレーニはシレノスのひとりでポロスの父。
ディオニューソスの教師であり、忠実な従者で、一説には恋人であったとされます。
ディオニュソスの従者のの中で最年長、最も賢く、最も酒飲みで、いつも泥酔状態であったとされます。
酔うと特別な知識と予言の力を発揮するとされ、もしシレーニに質問することができれば、人間に大いなる秘密を教えてくれると考えられていました。
彼はプリュギアの王ミダスに「人間にとって最善なのは、初めから生まれないこと、次に善いのは早く死ぬこと」という知恵を授けています。
ちなみに、この「シレノスの知恵」はニーチェ『悲劇の誕生』にも記されています
ミダス王との物語のひとつに、シレーニがミダスのもてなしを受け、そのお礼にディオニュソスはミダスに報酬を与えることを約束。
ミダスは触れたものすべてを黄金に変える力を望んでいます。
ちなみに、このミダス王は童話『王様の耳はロバの耳』になったことでも知られています。
⚫︎ヒュロノメー

ピエロ・ディ・コジモ作『ラピテス族とケンタウロスの戦い』
ヒュロノメーはオウィディウスの『変身物語』の中に登場するケンタウリス。
テッサリアー地方の美しいケンタリウスで、同じケンタウロスのキュラロスの妻
ラピテース族との戦いで夫・キュラロスが死亡。
夫に刺さった槍で自らを貫き、命を絶っています。
星になったケンタウロス

ポーランド国立図書館
ケンタウロスは、星を星座に分類し、その読み方を人々に教えた最初の人物。
アルゴノーツを導くために、空に自分の姿を描いたとされ、現代でも夜空にはケンタウロスにまつわる星座が輝いています。
ケンタウルス座
88星座の1で、プトレマイオスの48星座の1つ。
全天21個の1等星に数えられる、南天の大きな星座。
残念ながら、日本を含む北半球からはこの星座を見ることはできません。
この星はケンタウロスのボロスに由来しています。
ヘラクレスは試練の途中でポロスの所有していたケンタウロス族の大事なお酒を飲んでしまいます。
それがケンタウロス族の怒りにふれ、ヘラクレス対ケンタウロス族の争いが始まります。
この争いの結果、ケンタウロスの賢者ケイローンは生命を落とすことになるのですが、実はポロスも生命を失うのです。
ヘラクレスの使うヒュドラの毒矢の威力に魅せられたポロスは、同族の死体に刺さっている矢を引き抜き、まじまじとその矢を観察します。
そして、不幸なことに、その矢を自分の足に落して、毒矢が刺さってしまうのです。
ポロスの亡骸をみたヘラクレスは大層心を痛め、彼を弔ったそうです。
これを見ていた神々(一説ではゼウス)が哀れに思い、ポロスをケンタウロス座にしたのでした。
射手座
88星座の1つで黄道十二星座の1つ。
西端には天の川、北側には黄道が通り、現在の冬至点はこの星座の領域内にあります。
ケンタウロス族の酒をヘラクレスが飲んだ事でケンタウロス族と争いになった戦いで、ヘラクレスの射ったヒュドラーの毒矢が誤ってケイローンにあたってしまいます。
不死の力を持つケイローンは、永劫の毒の痛みに耐えきれず、その力をプロメテウスに譲り、死を選びます。
その際、ヘラクレスはカウカソス山に縛られているプロメテウスを解放。
ケイローンの死を惜しんだゼウスは、彼を天に上らせ射手座にしています。
ケンタウロス、現代でもSFファンタジーには馴染みのキャラ
映画
『ナルニア国物語/第1章 ライオンと魔女』のケンタウロスはミノタウロスのオトミンを倒し、敵陣に突撃する勇敢な戦士オレイアス。
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『ハリー・ポッター』シリーズのケンタウロスは禁じられた森に住む魔法動物。
「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」の中では、フィレンツェが占い学の教師。
「謎のプリンス」では、ダンブルドアの葬儀にケンタウルスたちは矢を放って弔意を表しました。 「死の秘宝」の中では、ホグワーツの戦いでケンタウルスたちは騎士団側で参加しています。
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アニメ・ゲーム
『聖闘士星矢』ではケンタウルス星座のバベル、射手座のアイオロスが活躍。
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「Fate/Apocrypha」のケンタウロスは尻尾はあるものの2本足のアーチャー。
FGOではAランク評価のキャラです。
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ケンタウロス まとめ

ジョン・ラ・ファージ作『ケンタウレス』
祖先であるイクシオンの影響を大きく受けた、野蛮で粗暴なケンタウロス族。
その中で一際光る存在の賢者と人格者。
様々な作品で悪役、手下役として出てくるケンタウロスが前者のケンタウロス族で、英雄として描かれるのが、後者のケイローンやポロスがモデルと考えられますね。
まあ、賢者ケイローンは、不義の子とはいえクロノスの子、ゼウスの兄弟という神々の王の血筋なんで、そこらのケンタウロスとは格が違う感はありますが