デーヴァとはサンスクリット語の「神」。
英語ならゴッド。
サンスクリット語に馴染みのない我々は神の名前のように思いますが、
神そのものを指します。
英語圏で様々なゴッド(神)がいるように、サンスクリット語圏にも多くのデーヴァがいます。
ヒンドゥー教、仏教、バラモン教などの宗教で語られるデーヴァ。
インド神話に登場するデーヴァ。
微妙に違う立ち位置にも注目です
デーヴァ、同じ神でも地位や役割が違う?
デーヴァとは
デーヴァ(deva)はサンスクリット語で「神」を意味します。
デーヴァは主に男神、女神はデーヴィー。
インド神話、ヒンドゥー教、仏教でも天人に用いられ、学問においても神智学(しんちがく)の中でその存在が語られています。
ただし神話の中では時代によって、宗教の中では宗派によって、それぞれに“神”としての立場の違い、同一の神でも地位が異なっています。
神話の中でのデーヴァは超自然的な存在。
宗教においては、
ヒンドゥー教の中のデーヴァは悪神と対峙する絶対的な神。
仏教でのデーヴァは天界に住まう天人に用いられ、
ゾロアスター教ではダエーワと呼ばれる悪神として扱われています。
神話
インド神話のデーヴァ
インド神話の中のデーヴァ(神)は、アスラ(悪神)、ヤクシャ(精霊)、ラークシャサ(悪魔)とともにインド神話で語られる超自然な存在。
インド神話は大別すると
🔳ヴェーダ神話
ヴェーダ文献に基づく神話。
バラモン教とヒンドゥー教の聖典
🔳ブラーフマナ・ウパニシャッド神話
創造神プラジャーパティによる創造神話。
最高原理ブラフマンである人格神ブラフマーの宇宙創造。
🔳叙事詩・プラーナ神話
創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァの二大叙事詩『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』で語られる神話群
に分かれます。
それらは
ヴェーダ神話はバラモン教
叙事詩・プラーナ神話はヒンドゥー教
ブラーフマナ・ウパニシャッド神話はバラモン教・ヒンドゥー教に属し、両者の神々が語られています。
ヴェーダの中のデーヴァ
最古のヴェーダとされる『サンヒタ』には3つの世界にそれそれ11柱、33のデーヴァ。
『ブラフマナ』では12の「アーディティヤ」、11の「ルドラ」、8の「ヴァス」、2の「アスヴィン」と呼ばれるデーヴァが記されています。
ヴェーダとは
ヴェーダとは「知識」を意味するヒンドゥー教最古の聖典。
紀元前2,000年からインドに伝わる記憶術によって口頭で伝えられてきたもの。
古代の賢者が瞑想で得た神聖な音とテキストの啓示です。
ヴェーダの最も古い部分であるマントラは、現代でも朗読される「創造の原始的なリズム」。
それらを朗読することで、宇宙は創造・再生されると考えられています。
- サンヒター マントラ(聖なる力を持つ発語)賛美歌、祈り、連祷、祝福
- ブラフマナ 儀式、式典、犠牲(ヤグニャ(捧げ物))の説明
- アーラニヤカ 儀式、式典、ヤグニャ(捧げ物))の知識
- ウパニシャッド 瞑想、哲学、精神的な知識
の4つで構成される
- リグ・ヴェーダ 「賛美」の知識。 賛歌(スークタ)集
- ヤジュル・ヴェーダ 「礼拝」の知識。 礼拝儀式のための散文マントラ
- サマ・ヴェーダ 「歌」の知識。 旋律と聖歌
- アタルヴァ・ヴェーダ 「司祭」の知識。 日常生活についての知識
の4つのヴェーダがあります。
バラモン教
バラモンとは司祭階級のこと。正しくはブラーフマナ
バラモン教( Brahmanism)は古代インドの宗教。
ヒンドゥー教の前身となったヴェーダの宗教と考えられます。
バラモン教にインド各地の民族信仰が加えられて再構成されたものがヒンドゥー教。
ヒンドゥー教との違い
バラモン教がヴェーダの宗教であるのに対し、ヒンドゥー教では『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』『プラーナ文献』などの神話が重要視されています。
バラモン教ではインドラを最高神とし、ヴァルナ、アグニなどの神が中心となっていますが、ヒンドゥー教では、ヴィシュヌ、シヴァ、ブラフマーが最高神として崇められられています。
インド神話の神々
フィリップス・バルデウス 作
ヴェーダ時代(バラモン教)からの主なデーヴァ
⚫︎ インドラ(帝釈天) 雷霆神、天候神、軍神、英雄神
⚫︎ ヴァルナ 太古のアスラ族 天空神、司法神、水神
⚫︎ アグニ 火神
⚫︎ ウシャス 曙の女神
⚫︎ ミトラ 契約の神
ヒンドゥー教時代からのデーヴァ
⚫︎ヴィシュヌ 維持の神
⚫︎クリシュナ(黑天) 保護、慈悲、愛の神
⚫︎シヴァ 破壊と再生の神
⚫︎ブラフマー 創造神
⚫︎カーマ 喜び、欲望の神
⚫︎カーリー 戦いの女神
⚫︎ガンガー ガンジス川が神格化された女神
⚫︎サラスヴァティー(弁天) 芸術・学問の神
⚫︎ドゥルガー 戦いの女神
⚫︎パールヴァティー 力、滋養、調和、愛、美、母性の女神
⚫︎ラクシュミー 美、富、豊穣、幸運の女神
アスラ
アンコールワット・サムドラマンタナのアスラ
アスラはインドの宗教・神話の中で、デーヴァに敵対する超自然的な存在をいいます。
文献の中でのアスラは善と悪の両面を持つ半神。
ヒンドゥー教では権力を求め、神々・デーヴァに敵対する悪しき存在。
仏教では「反神」。
宗教
ヒンドゥー教のデーヴァ
ヒンドゥー教でのデーヴァは「輝く」「崇高な」「天の存在」を意味し、絶対的な存在に用いられる表現。
『プラーナ』(インド文学)や『イティハーサ』(第五のヴェーダ(知識))では、悪であるアスラに対する善である神。
ヒンドゥー教の多くの理論に登場します。
主な神々
⚫︎ ブラフマー - 創造神
⚫︎ ヴィシュヌ - 維持の神
⚫︎ シヴァ - 破壊と再生の神
⚫︎ インドラ - 神々の王。天候、空の神である
⚫︎ スーリヤ - 太陽、光の神
⚫︎ チャンドラ - 月と夜の神
⚫︎ ガネーシャ - 知恵、幸運の神
⚫︎ ヴァーユ - 空気、風の神
⚫︎ ヴァルナ - 水と雨の神
⚫︎ アグニ - 火の神
⚫︎ ヤマ - 死と正義の神
⚫︎ ディヤウス - エーテル(空)の神
⚫︎ サムドラ - 海神
⚫︎ カーマデーヴァ - 愛の神
⚫︎ ハヌマーン - 勇気、力の神。
⚫︎ カルティケヤ - 戦と勝利の神
⚫︎ ヴィシュヴァカルマン - 建築の神
⚫︎ ダンバンタリ - 医術の神。
⚫︎ クベーラ - 富と権力の神
⚫︎ アシュヴィン双神 - 健康の神、
⚫︎ マンガラ - 火星の戦意の神。
⚫︎ ブダ - 水星と自然の神
⚫︎ ブリハスパティ - 木星の神。神々の師
⚫︎ シュクラ - 金星とバクティ(崇拝)の神。
⚫︎ シャニ - 土星とカルマ(行為)の神
デーヴァダーシー
ちなみにインド舞踊を披露する女性はデーヴァダーシー(devadāsī)。
「神に仕える物」「神の侍女」を意味し、本来は巫女のような存在をいいます。
仏教
バヴァチャクラ
仏教のデーヴァは、衆生(しゅじょう 生きとし生けるもの)が転生する六道(前世の業に基づいて転生する6つの世界)の最上部にある天界、天上界、天道。
- 天界(デーヴァ)の世界
- 半神(アスラ)の世界
- 人間界(マヌシャ)
- 動物界(ティリヤギョニ)
- 餓鬼の世界
- 地獄
また天界に住まう天人、 天神(あまつかみ、てんじん)、天部神と呼ばれる人間の目には見えない、人間を超えた超自然的な存在をいいます。
天人(デーヴァ)の中には高い尊敬と崇敬を得るものもいますが、その主な役割はあくまで三宝(仏、法、僧伽)を守護するというもの。
デーヴァ(天界)は、前世の功徳に応じて大きくは3つの階層に分かれます。
⚫︎ アールーピャダートゥ 物理的な形や場所を持たないデーヴァの世界
⚫︎ ルーパダートゥ 物理的な形はあっても性別も、人間のような感情もないデーヴァの世界
⚫︎ カマダートゥ 人間と似た体格を持ち、長命、時には快楽にも浸ります。
このデーヴァは、功徳を消費すると、人間またはその下の階層に堕落する可能性があります
仏教のデーヴァ(天人)の特徴
仏教のデーヴァは他の宗教の神とは異なります。
🔳長寿、数千年から数十億年の生を持ちますが、有限。不死ではありません。
🔳前世で功徳を積んだ後に転生して生まれています。
🔳全知全能ではありません。人間に関わることは稀で、助言を与えるような形で行われます。
🔳他の化身でも象徴でもありません。人間と同じように個人であると考えられています。
日本に伝わったディーヴァ
インドの古来の神(ディーヴァ)は仏教に取り入れられ、日本には護法善神(仏法および仏教徒を守護する神々)として伝来します。
主な護法善神
⚫︎ 梵天(ブラフマー)
⚫︎ 帝釈天(インドラ)
⚫︎ 阿修羅、(修羅(しゅら))六道の1つである修羅道の主・アスラ。
八部衆または二十八部衆に属する、仏教の守護神。
⚫︎ 四天王
- 持国天(じこくてん)東方
- 増長天(ぞうちょうてん)南方
- 広目天(こうもくてん)西方
- 多聞天(たもんてん)北方
⚫︎ 大自在天( シヴァ)
⚫︎ 荼枳尼天(ダーキニー)
⚫︎ 八大竜王 天龍八部衆に所属する竜族の八王
- 難陀(ナンダ)
- 跋難陀(ウパナンダ)
- 娑伽羅(サーガラ)
- 和修吉(ヴァースキ)
- 徳叉迦(タクシャカ)
- 阿那婆達多(アナヴァタプタ)
- 摩那斯(マナスヴィン)
- 優鉢羅(ウッパラカ)
⚫︎ 十二天 「天部」の諸尊12種
- 帝釈天
- 火天
- 焔摩天
- 羅刹天
- 水天
- 風天
- 毘沙門天
- 伊舎那天
- 梵天
- 地天
- 日天
- 月天
⚫︎ 摩利支天(まりしてん, マーリーチー) 暁の女神ウシャス
⚫︎ 大黒天(だいこくてん マハーカーラ)
⚫︎ 鬼子母神きしぼじん、 ハーリーティー)
⚫︎ 吉祥天(きっしょうてん ラクシュミー)
⚫︎ 韋駄天(いだてん スカンダ)
⚫︎ 弁才天(べんざいてん サラスヴァティー)
⚫︎ 歓喜天(かんぎてん ナンディケーシュヴァラ)
⚫︎ 羅刹天(らせつてん) 十二天に属する西南の護法善神 鬼神ラークシャサ
⚫︎ 金剛力士(こんごうりきしヴァジュラパーニ)「仁王・二王(におう)」
デーヴァ、武器や獣になっても「神」
『モンスターストライク』の「デーヴァダッタ」は降臨クエストで入手。
「地雷」と「ワープ」に対応できる運枠として強力な性能の持ち主。
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「デジタルモンスター」のデーヴァ(十二神)は干支をモデルにした「十二神将」。仏教の天部・十二神将を原形にした、四聖獣に仕える12体の聖獣型デジモン。
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『ファイナルファンタジー11』のガーンデーヴァはメイジャンの試練でアストリルドから派生するエンピリアンウェポンの一つ
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『バーフバリ』シリーズのバラーラデーヴァは古代インドの大国マヒシュマティ王国の暴君。バーフバリの従兄弟で最大のライバル
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デーヴァ まとめ
京都国立博物館本十二天像
聖書の中の神とギリシャやローマ、ケルトなどの神話の神々が全く別物の英語圏のゴッドに比べ、サンスクリット語圏のデーヴァは宗教がそのまま神話になった、或いは神話が宗教になった同一の神々の世界。
人間を支配するゴッドと人間も内包するデーヴァ、三角と円、その構図が浮かびます。