出典:deviantart
神話の中には、時には美しいがために神の強引な愛を押し付けられ、醜い姿に変えられてしまう、可哀想としかいいようのない生涯をたどる者がいます。
今回ご紹介するスキュラもそのひとり。
魔女キルケーに疎まれたために受ける残酷な仕打ち。
そしてその末路も、哀れとしかいいようのない怪物に成り果ててしまう
スキュラとは。
目次
スキュラ、美しいニュンペーが成り果てた醜い怪物
ローラン・ド・ラ・イール 作
スキュラとは
ヘンリー・フュースリ作『スキュラの前に立つオデュッセウス 』
スキュラ (Scylla)はギリシャ神話の海の怪物。
その名は『犬の子』を意味します。
シチリア島とイタリア半島の間にあるメッシナ海峡の洞窟を棲家としていました。
同じ海峡には大渦を巻き起こす怪物カリュブディスも生息していたことから、船乗りにとってメッシナ海峡はシチリア海最大の難所と恐れられていました。
ホメロスの『オデッセウス』やオウィディウスの『変身物語』で語られるスキュラはもともとはシチリア島に住む美しい乙女、あるいはニュンペー。
「変身物語」のスキュラは女神クラタイイスの娘、水のニュンペーでした。
姿
その姿は幾つかの異なった説がありますが、
◾️ヒュギーヌス『神話集』では上半身は美しい女性、腹部から6つの犬の頭が生え、下半身は魚、あるいは12本の触手というもの。
◾️『オデュッセイア』では3列に並んだ歯をもつ6つの頭と12本の足
◾️『変身物語』では美しい女性の上半身、幾つかの犬の体が生えた下半身
とされています
スキュラの両親
スキュラの両親についても様々な説があります。
母は
父は
アポロドーロス(古代ローマ時代の著作家)、あるいはヒュギヌス(紀元前64年〜紀元17年 著述家)はスキュラは
大母神ガイアとタルタロスの子テュポンと不死の怪女エキドナの子。
オルトロス、ケルベロス、ヒュドラー、キマイラ、スフィンクスやゴルゴーンなどの大怪物たちと兄妹としています。
神話の中のスキュラ
グラウコスとスキュラ
バルトロメウス・スプランガー 作
グラウコスは薬草を食べて人々に予言をする海の神。
元は人間でしたが海の神として受け入れられます。
青緑色のひげと長い髪、水色の腕、魚の尾。体は波によって削られ変形し、貝殻や海藻なども付着し、人間の姿はかなり失われてしまっている容姿。
そんなグラウコスは海岸を散歩するスキュラを一目見て恋をします。
そしてスキュラにその想いを打ち明けますが、スキュラは人間からはかけ離れたグラウコスの姿を受け入れられず、逃げ出してしまいます。
諦めきれないグラウコスは想いを叶えたいために魔女キルケーに媚薬を作ってもらうよう頼みます。
けれどキルケーはグラウコスを愛し、その想いをグラウコスに打ち明けますが受け入れられず、恋敵を失脚させるため媚薬の代わりに怪物になる毒薬を作ります。
そして、スキュラが日課にしていた沐浴のための水場に毒薬を流し込みます。
スキュラはいつものように下半身まで水に浸かり、その時身体の異変に気づきます。
水に浸かった部分が怪物に変わってしまっているのです。
スキュラは変わり果てた自分の姿に絶望し、岩陰に隠れて暮らすようになります。
けれどついにはメッシナ海峡に現れ、そこを通る者を次々と餌食にし、人をも食らう怪物となってしまいます。
オデッセウスとスキュラ
ロジャー・ペイン 作
ホメロスの『オデッセウス」でのスキュラはメッシナ海峡に棲む怪物。
オデッセウスは様々な冒険を経た後、トロイア戦争からの帰路メッシナ海峡を通ることになります。
オデッセウスの一行はこの海峡を通るにあたって、スキュラとカリュブディスには注意するように忠告を受けていました。
カリュブディスは巨大な渦を起こし、一日に三度あらゆるものを呑みこみ、三度吐き出すという怪物。
一行はカリュブディスは無事通り過ぎることができますが、そのことに気を取られていたこともあり、スキュラに遭遇してしまいます。
瞬時にスキュラの6つの頭は6人の船員を連れ去ってしまいます。
オデッセウスも連れ去られた船員を助ける術を持たず、船員の悲鳴を聞きながらその場を離れます。
人肉を喰らう怪物スキュラもやがて岩と化してしまいます。
けれどその姿は怪物だった頃の形を残しており、その後も船乗りたちに恐れられ続けたと伝えられています。
スキュラ、戦士、武器、ボスキャラにもなる変幻自在の怪物
「ファイナルファンタジー14」のスキュラはシルクスの塔最初のボス。元人間で魔導軍団の団長をしていた女性「妖艶のスキュラ」として登場しています。
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「モンスターハンター」では原生林に巣食う蜘蛛ネルスキュラ、そして蜘蛛の巣状に極細の弦を張ることで驚異的な威力を実現したスキュラヴァルアローとして登場。
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「聖闘士星矢」スキュラのイオは南太平洋の柱を守護する海将軍。上半身は乙女で下半身は6種の獣の力を宿したスキュラの鱗衣から6種類の聖獣拳を放ちます。
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スキュラ まとめ
ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー作
スキュラにしてもメデューサにしても、オトコを食い殺す、石に変える恐ろしい怪物は、元は美しい女性。どちらも女神や魔女に妬まれたがために受けた仕打ち。
被害者であるのに、ひとり酷い仕打ちを受けなければならない恨みが心身ともに醜い怪物に変えてしまったという世の不条理を形にした物語です。
けれど、妬みはどう用心していても受けるときには受けてしまう。
現代にも通じる恐ろしい交通事故のようなものなのかもしれません。
ただ、そんな悲劇に遭遇しないことを祈るしか術のないお話です、よね。