
ジョヴァンニ・フランチェスコ・ロマネッリ作
たかが人間ごときが吹雪の中を歩けば命に関わる、自然の脅威を覚えます。
その擬人化であるボレアースはギリシャ神話の北風。
さぞ凄まじい存在なのでしょう。
ボレアースはモジャモジャの髪が逆立った、激しい気性の老人。
ナルホドなイメージです。
で、その所業とは。。。
目次
ボレアース、木枯らし、冬の訪れを呼ぶ北風
ボレアスとは
ボレアース(Boreas)はギリシャ神話のアネモイ(風の神)の一柱。
北風、嵐、冬の神です。
季節や自然が擬人化された、冬を呼ぶ冷たい北風の神。
その名は「北風」あるいは「むさぼりつくす者」を意味し、まさに吹き荒ぶ北風のように荒々しい気性はイソップ童話の『北風と太陽』のモデルともなった神。
その容姿は、手にほら貝を持ち、うねる外套をまとい、霜に覆われ逆立ったじゃもじゃの髪と髭を生やした有翼の老人、あるいは若者として描かれています。
住居はトラキアにあるとされ、一説には、人々が長寿で幸福に暮らす「北風の向こうの国」があると言い伝えられていました。
ローマ神話ではアクィロー (Aquilo) あるいはアクィロン (Aquilon) 。
幾人もの女性と強引に関係を持ち、多くの子を成した神。
その中で、アテネの王女オレイテュイアを略奪した物語はアイスキュロス(古代アテナイの三大悲劇詩人のひとり)の失われた戯曲『オーレイテュイア』として知られています。
家系

アテネ、風の塔のレリーフ
両親は
暁の女神・エオスと星の神・アストライオス
兄弟は
アネモイ
- 南風ノトス
- 西風ゼピュロス
- 東風エウロス
と
・正義の女神、処女神・アストライア
がいます。
妻は キオネー
キオネーはアルクトゥルスの娘。
ボレアースに誘拐され、ニファンテス山でヘニオコス王となる息子ヒュルパックス、後にアポロンのヒュペルボレアス人(神話上の民族)の巨人神官3人を出産。
このことから、ニファンテス山は「ボレアースの寝床」と呼ばれたとされます。
馬とボレアース
ボレアースはホメロスの叙事詩『イーリアス』の中で馬との密接な関係が伝えられています。
トロイアの王エリクトニオスは河神シモエイスの娘アステュオケーとの間にトロイアの名祖・トロースをもうけた(一説にはガニュメーデースの父ともされる)裕福な名君。
彼は3000頭の牝馬を所有していました。
ある時ボレアースは草原で草を食むこの牝馬たちを見染めます。
黒いたてがみを持つ牡馬の姿となって交わり、12頭の優れた馬をもうけました。
この馬たちは海上を走り、作物を荒らすことなく畑上を飛び跳ねることができたとされます。
ちなみに、大プリーニウス(古代ローマの博物学者)は『博物誌』の中で、「雌馬の臀部を北風に向けて立たせれば、雄馬なしに種付けできるのではないか」と記しています。
神話、伝承の中のボレアース
◾️ ボレアースとオリテュイア

ステファノ・デッラ・ベラ 作
この物語はアイスキュロスの失われた戯曲『オリテュイア』で語られています。
ボレアースは、アテネの王女オリテュイアを見初め、告白。
けれどその想いは拒絶されてしまいます。
そこで、イリソス川の岸辺で踊っていたオリテュイアを誘拐。
オリテュイアを雲の上に吹き上げ、トラキアまで連れ去り、強引に関係を結びます。
オリテュイアは、
二人の娘
以来、アテネ人はボレアースを姻戚と崇めます。
アテネがペルシア軍に脅かされた際、人々はボレアースに祈りを捧げ、ボレアースは暴風で400隻のペルシア艦隊を沈めたとされます。
ゼーテースとカライス、ハルピュアとの戦い

エラスムス・クエリヌス2世作 プラド美術館所蔵。
イアソンとアルゴナウタイは航海での難所ボスポラス海峡を通過するため、盲目の予言者でボレアースの娘クレオパトオラーの夫ピーネウスのもとを訪ねます。
ピーネウスは人間の未来を予言し過ぎたため神々の怒りに触れ、盲目にされた預言者。
また、神々はハルピュイアを遣わし、ピーネウスの食事を邪魔させていました。
イアソンと勇者たちは満足に食事ができず衰弱したピーネウスの願いで、ハルピュイア退治にかかります。
現れたハルピュイアに勇者たちは一斉に飛び掛かります。
仰天した二羽は、金切り声をあげ上空に飛び去ろうとしますが、それを阻んだのが有翼の勇者、ボレアースの息子たちカライス、ゼーテース兄弟でした。
兄弟は長い格闘の末、ハルピュイアを捕獲しています。
️◾️ レトの出産
ゼウスの子アルテミスとアポロンを身籠っていた女神レトは、嫉妬に怒るヘラの命令で、全ての神々から出産する場を与えられずにいました。
そのためゼウスはボレアースにポセイドンのところに連れて行くように命じます。
ポセイドンは彼女を地中海の孤島・オギュギア島(あるいはデロス島)に運び、レトはそこでアルテミスとアポロンの双子を出産しています。
◾️ ピテュス
リバニオス(4世紀のギリシア東方史の高名な学者)によると
ピテュスは山羊の角と下半身を持った半獣の神・パンとボレアースに愛されたニンフ。
二柱はピテュスの愛情を争います。
ボレアースはその力を誇示し、すべての木を根こそぎにします。
けれどピテュスはボレアースではなくパンを選びます。
怒ったボレアスはピテュスを崖から突き落とし、殺してしまいます。
ガイアはそれを憐れみ、ピテュスの亡骸を松の木に変えています。
◾️ ヒュアキントス
ヒュアキントスはアポロンに愛された美しいスパルタの王子。
同じアネモイの西風・ゼフィロスの風が原因で亡くなっていますが、そのの物語のいくつかのバージョンでは、ボレアースもまたヒュアキントスに焦がれたひとりとして語られています。
◾️ イソップ 童話『北風と太陽』

ジャン=バティスト・ウードリー作 『北風と太陽』
イソップの童話『北風と太陽』はギリシャ神話の太陽の神・ヘリオスと北風の神ボレアースの争いを元に作られています。
ボレアースと叔父の太陽神・ヘリオスは、どちらが強い神かで争い、『通りすがりの旅人のマントを脱がせる』ことを競います。
最初にボレアースが強風を吹きかけマントを剥ぎ取ろうとします。
けれど、どんなに強く息を吹きかけても、旅人はむしろマントをきつく巻き付けてしまいます。
そこに太陽(ヘリオス)が輝き、旅人は暑さのためにマントを脱ぎ、ヘリオスが勝利を収めました。
この物語は、『説得は力に勝る』という教訓を与えるものとして用いられています。
ボレアース、現代ではイマイチ、マイナーな神?
ハンティングアクションゲーム『モンスターハンターダブルクロス』では、風のような刀身が特徴の火属性に特化した遺物系の武器。
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スマホ向けの戦略ボードRPG『サモンスボード』のボレアースは敵モンスターを越えて移動ができる木属性の北風の神
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ボレアース まとめ

ピーテル・パウル・ルーベンス作
異様な風貌の老人が乙女に焦がれても、その想いは拒まれるのがあたりまえ。
思いを遂げるには強引に奪うしかないのですが、人間社会ならそれは犯罪行為で許されません。
神だから許されるかどうかは別として、
けど、冬の吹雪の擬人化ならナルホドと思います。
人間の道理の対象外ですから😅

