
エドワード・バーン=ジョーンズ作(1862年)
モーガン・ル・フェイ(モルガン・ル・フェ)はアーサー王伝説で語られる重要な存在のひとり。
アーサーの姉で、アーサーの死の原因を作った魔女として知られています。
けれど、伝承や多くの作家が語る物語の中で、その属性やアーサーとの関係もさまざま。
そこで、モーガン・ル・フェイの家族や変遷、悪女として知られるその所業に至るまで、モーガン・ル・フェイの全貌を探ります。
目次
モーガン・ル・フェイ、巫女、妖精、魔女、さまざまに語られるアーサー王の姉

ジェームズ・アーチャー作(1860年)
モーガン・ル・フェイとは
モーガン・ル・フェイ(モルガン・ル・フェ Morgan le Fay )は、アーサー王伝説に登場する女性。
さまざまに語られる伝説の中で、重要な役割を担います。
一般的にはアーサーの異父姉で、アーサーの死の原因を作った存在として知られています。
けれど、その関係もさまざま。
11世紀の中世からアーサー王伝説が語られる歴史の中で、作品や時代によって異なった役割の女性として登場しています。
初期には妖精や治癒師として、中期以降は魔女、アーサーに敵対する悪女として大きく変貌を遂げています。
15世紀後半、ウェールズ人の騎士・トマス・マロリーによる『アーサー王の死』でのモーガン・ル・フェイは黒魔術を使う邪悪な魔女。
この作品によってモーガンのイメージが定着し、広く知られてゆきます。
母イグレインがアーサーの父・ウーサー・ペンドラゴンと再婚。モーガンはアーサーの異父姉となります。
聖剣エクスカリバーの魔法の鞘をアーサーから盗んだため、エクスカリバーは不死の力を失い、アーサーはモルドレッドとの戦いで重傷を負い、アヴァロンで亡くなります。
起源

ヘンリー・フュースリー作『アーサー王子と妖精の女王』
モーガン・ル・フェイはアイルランドの民間伝承の中で語られています。
その中でのモーガンは妖精の救世主、あるいは妖精の名付け親。
死者を再生する魔法の大鍋を守るアヴァロンの支配者でもありました。
魔法に長けた水の妖精で、ヴィヴィアンやニミュと同じ「湖の貴婦人」と呼ばれています。
モーガン・ル・フェイの「ル・フェイ」はフランス語で妖精を意味する「la fée」からとられており、それがそのまま名前として伝わったといいます。
イタリアではファタ・モルガーナ(Fata Morgana)。
時には蜃気楼を作って船を座礁させることもあったとされます。
その起源はケルト神話の処女・母・老婆の三位一体の戦女神・モリガンであり、同一視されることもあります。
出自

「ランスロットの散文」1494年頃
モーガン・ル・フェイの家族についてもさまざまに語られています。
その代表的なものは
両親
父 コーンウォール公爵(あるいはティンタジェル公爵)
イギリスの上級王・ウーサー・ペンドラゴンとの戦いで戦死。
母 イグレイン コーンウォール公爵の妻
母イグレインを慕うウーサーはマーリンの魔法で父コーンウォール公爵の姿となってティンタジェル城に侵入。アーサーが身籠られます。
作品によっては、父については言及していないものや、モーガンは母イグレインの非嫡出子ともされています。
姉弟
⚫︎エレイン(ブラシン) ガルロットのネントレス王と結婚 、
- ガレスキン 円卓の騎士
- エレイン
をもうけます。
⚫︎モルゴース オークニーの女王
ロット王との間に円卓の騎士たち
- ゴーウェイン
- アグラヴェイン 『アーサー王の死』では、モルドレッドと共にグィネヴィアとランスロットの情事を暴露し、ランスロットの手によって殺される
- ガヘリス ガウェインと同一視される
- ガレス クレティエンの『ペルスヴァル』の中で、巨大な小さな騎士(プチ・シュヴァリエ)に殺された妖精王・ブランジュミュエルの復讐をはたしています。
- モルドレッド
をもうけます
⚫︎アーサー 多くの作品では弟とされますが
- 『エレックとエニデ』(1170年頃 フランスの詩人・クレティアン・ド・トロワによるロマンス詩)
- 『愛しのオルランド』(15世紀後半、マッテオ・マリア・ボイアルド作)
などではモーガンはアーサーの妹として記述されています。
が挙げられます。
夫
⚫︎ ネントレス 13世紀初頭のヴルガータ物語群(ランスロ=聖杯サイクル)で語られるガロット国の王
⚫︎ ユリエン トーマス・マロリー『アーサー王の死』で語られるレゲド国の王
恋人

エリック・ペイプ作「アコロンとアーサー王の戦い」
⚫︎ギオマール 『エレックとエニード』(1170年頃、詩人クレティアン・ド・トロワのロマンス詩)ではアヴァロン島の領主でアーサー王の甥。
妖精の女王(モルガン)の愛人となり、異界(アヴァロン)の王となります。
⚫︎アコロン 『アーサー王の死,』でモーガンはエクスカリバーの鞘を与えています。
子供
⚫︎イヴェイン(ユーウェイン卿)ゴアのユリエン王との間に生まれた円卓の騎士。
『ランスロットの聖杯巡礼(ランスロ=聖杯サイクル)』(13世紀作者不詳の文学群)ではカムランの戦いで落馬したアーサーを救出。モルドレッドに倒されています。
作品の中で語られるさまざまなモーガン

ヘンリー・ジャスティス・フォード『アーサー王 円卓物語』ロングマンズ・グリーン挿絵。
妖精モーガン
作品の中でモーガン・ル・フェイが初めて登場するのは
◾️ 『マーリンの生涯』(1150年頃 ウェールズの聖職者・ジェフリー・オブ・モンマス作)
そこでのモーガン・ル・フェイは伝説の林檎の島・アヴァロンを治める9人姉妹(モロノエ、マゾエ、グリテン、グリトネア、グリトン、ティロノエ、ティテン(ティティス)、ティトン)の長女。
返信能力を持ち、聡明で、知識・医術に長けた、美しい声の歌姫。
翼を持ち、飛翔することもできる妖精。
カムランの戦いで重傷を負ったアーサー王をアヴァロンへ招き、治療しています。
◾️ 『ジョフレ』(1170年以降。若き騎士、女神ドンの息子・ジョフレの冒険を描いた作者不明の散文ロマン小説)
そこでのモーガン・ル・フェイはエレナ山の支配者で地下王国の貴婦人「ジベルの妖精」として登場。
主人公のジョフレを泉に導き、守護の魔法の指輪を贈っています。
◾『ブリテン年代記』(1215年頃。ジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア国史』を英国の司祭レイアモンが編纂。中世初期までの英国の歴史をフィクション化されたもの)
この中でアーサーはアヴァロンで美しいエルフの女王アルガンテ(アルガン モーガン)に治癒されています。
治癒師
◾️『騎士道物語』(中世盛期から近世初期、遍歴の騎士の冒険の旅が描かれたた散文と韻文の物語群)
モーガンは妖精や乙女として登場。主な役割はアヴァロンの治癒師。
◾️『獅子の騎士イヴァン』(1180年頃、フランスの詩人クレティアン・ド・トロワ作)
円卓の騎士のひとりで主人公のイヴァン(『アーサー王の死』などの作品ではモーガンの息子)はノリソンの貴婦人が賢者モーガンからもらった魔法の薬によって正気に戻っています。
女神
◾️『モルテ・アーサー』(1400年頃の頭韻詩)
モーガンは運命の輪を持った女神フォルトゥーナとしてアーサーの夢に現れ、彼の死を予言しています。
魔女

『 アーサー王と騎士たちの伝説』(1914年)WHマーゲットソン作挿絵
伝説が語られた初期でのモーガンは主にはアーサーを治癒したアヴァロンに住む妖精。
中期に入ってアーサーの姉弟でアーサーに敵対する魔女という存在に一変します。
そのきっかけとなったのが
◾️『マーリン』(1200年頃、フランスの騎士詩人ロベール・ド・ボロン作)
アーサーの姉弟。ティンタジェル公爵の妻イグレーヌの非嫡出子として登場。
ガロットのヌートレ王に養子として引き取られ、魔術を学んでいます。
◾️『アーサー王の死』(15世紀後半、ウェールズの騎士・トマス・マロリーによるアーサー王文学の集大成)

『抒情詩と旧世界の牧歌』 (1907年)エリック・ペイプ挿絵
この作品でモーガンは黒魔術を使う邪悪な魔女としてのイメージが広く定着しています。
モーガンはコーンウォール公・ゴルロイスと妻イグレインとの間に生まれた末娘。
母イグレインを見染めたウーサー・ペンドラゴンはマーリンの魔法でゴルロイスに変身。
イグレインと交わり、アーサーが誕生します。
父・ゴルロイスはユーサーとの戦いに敗れ、死亡。
イグレインはユーサーと再婚。
修道院に入ったモーガン・ル・フェイは魔術を学び、不思議な妖術を身に付けます。
その後、モーガンはガーロット(ゴア)の王・ユリエンと結婚、息子イヴァンをもうけます。
不幸な結婚生活をおくる中、アーサーや妻グィネヴィアに憎しみをつのらせてゆきます。
ランスロットを慕い、恋人・エレインを幽閉して熱湯で茹でる責め苦を負わせます。

ドーラ・カーティス作『エクスカリバーを持つモルガン・ル・フェイ』(1905年)
エクスカリバーの不死の力を与える力を持つ鞘をアーサーから盗み、恋人・アコロンに与えます。
アコロンにアーサーとの対決を求め、アコロンは死亡。
モーガンは魔法の鞘を湖の中に投げ入れます。
鞘を失ったアーサーは不死の力を失い、モルドレッドとの戦いで負った負傷が原因で命を落とすことになります。
けれど、モーガンは死に瀕したアーサーと和解、アヴァロンへアーサーを導くという本来の役割を担います。
モーガン・ル・フェイと円卓の騎士たち

ベアトリス・クレイ著『アーサー王と円卓の物語』(1905年)挿絵
魔女・モーガンは多くの恋人を持つ奔放な性格。
円卓の騎士たちとのさまざまな関わりも語られています。
ガウェイン
『サー・ゴーウェインと緑の騎士』(14世紀後半 作者不明)
ここで語られる緑の騎士はグィネヴィアを死ぬほど怖がらせるために「老婦人」に扮したモーガン・ル・フェイの妖術によって全身が緑色で不死の体となったベルシラック公。
円卓の騎士に挑み、ガウェインがそれに応じて冒険の旅が始まります。
ランスロット

ランスロ・デュ・ラックの写本、1480年
『ランスロ=聖杯サイクル』(13世紀作者不詳の文学群)
ランスロットはモーガンの魔法の領域・ヴァル・サンス・ルトゥール(帰らざる谷)で出会います。
モーガンは愛人となった名も知らぬ騎士の不貞を知り、その地を不実な恋人たちを閉じ込める魔法の牢獄としていました。
そこでランスロットは、モルガンに囚われていた250人の騎士たちを解放。
以来、モーガンはランスロットに恋心を抱き続けます。
モーガンはランスロットに薬を飲ませ、魔法をかけ、監禁していますが、ランスロットは彼女の執拗な求愛を頑なに拒否し続けています。
トリスタン
『散文トリスタン』(1240年頃 『トリスタンとイゾルデ』を長編の散文 ロマンスに翻案したもの)
『散文トリスタン』は幾つかのバージョンが存在しています。
その中の一つでは、トリスタンはモーガンの毒を塗られた槍で負傷。イゾルデを自分の胸に強く抱き寄せ、ふたりは共に亡くなっています。
モーガン・ル・フェイ、魔女・モーガンが一般的
マリオン・ジマー・ブラッドリー作ファンタジー小説『アヴァロンの霧』は「アーサー王物語」をアーサー王の異父姉であるモーガンの視点から描いた歴史的なファンタジー作品。古い時代の巫女としてのモーガン・ル・フェイが登場しています。
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マーベルコミックスでは、ヴィランとして登場。アーサー王の異父姉で魔女という設定で、ヒーローチーム「ファンタスティック・フォー」の宿敵・ドクター・ドゥームがタイムトラベルで過去に行った際に彼に妖術を教えました。後にアベンジャーズの敵としても立ちはだかります。
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児童小説『マジックツリーハウス』シリーズでは、主人公の兄妹に時空を越えて、本を集めることを依頼する司書として登場しています。
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『Fate/Grand Order』のモルガン・ル・フェはアーサーを憎む姉で魔術師。
まんまな設定のバーサーカークラスのサーヴァント。
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モーガン・ル・フェイ、まとめ

フレデリック・サンズ作
本来は美しく聡明な妖精であったのに、時代の流れと共に魔女に変えられてしまったモーガン・ル・フェイ。
現代のさまざまな創作作品では、彼女のことを魔女として描くことが一般的で、当初の姿で描かれることはありません。
けれどマーベルでは堂々と悪役キャラとして活躍中、これはこれでカッコイイ。
あなたなら、モーガン・ル・フェイという女性をどのように描きますか?
