
エミール・バヤール 作
日本にも「鶴の恩返し」や「雪女」のように、人間以外の何者かが正体を隠して人間と結婚、正体を知られたことで夫の元を去るという悲恋なお話は残されています。
今回はそんなヨーロッパ版異類婚姻譚(いるいこんいんたん)なお話のご紹介です。
主人公は水の精霊・メリュジーヌ。
ヨーロッパの貴族の中に幾つもの子孫を残したとされるメリュジーヌ、その存在と伝承のご紹介です。
メリュジーヌ、

ユリウス・ヒューブナー作『美しきメルジーヌ』(1844年)
メリュジーヌとは
メリュジーヌ(Melusine)とは、ヨーロッパ、主にはフランスで伝えられる半人半蛇(あるいは魚)の水の妖精。
井戸や川など、淡水に宿る精霊です。
上半身は美女、下半身は蛇、あるいは魚の尾(二本という説もあります)、背中にはドラゴンの翼を持つところから竜の妖精ともいわれます。
その伝説は人間との結婚にまつわる異類婚姻譚の主人公。
メリュジーヌの物語は中世のヨーロッパ文学で広く知られるようになり、さまざまな作品に影響を与えています。
そのメリュジーヌの子供たちはヨーロッパ諸貴族の始祖であると伝えられています。
海のニンフ・ネレイデス、川のニンフ・ナイアード、人魚、フランスで伝えられるドラゴン・ヴイーヴル、セイレーン、ラミア、ニクシー、サキュバス、バンシーなどとの関わりを伝えられ、パラケルススの提唱する水の精霊・ウンディーネにも影響を与えたとされます。
『メリュジーヌ物語』

モーリッツ・ルートヴィヒ・フォン・シュヴィント II. 森の泉で
1392年〜1394年、フランスの作家・ジャン・ド・アラスは散文の騎士道ロマンス『メリュジーヌ物語(またはリュジニャン家の高貴な歴史)』を執筆。
1401年以降、書籍商・クードレットの詩編で家門の歴史物語『クードレットのメリュジーヌ物語』、その伝説が文学として広く知られるようになります。
あらすじ

モーリッツ・ルートヴィヒ・フォン・シュヴィント V. ザ サンクチュアリ
前日譚、メリュジーヌの誕生
十字軍の時代、妻を亡くしたアルバニー(スコットランド)王・エリナスはある時、森へ狩りに出かけ、渇きの井戸でプレッシーヌという美しい妖精に出会います。
二人は恋に落ち、エリナスはプレッシーヌにプロポーズ。
プレッシーヌは「出産時や子供の沐浴時には絶対に会わない」という条件で承諾。
エリナスは約束し、ふたりは結婚。
その後、プレッシーヌはメリュジーヌ、メリオール、パラティーヌという三つ子の女の子を出産。
その時、王は約束を破り、その様子を見てしまいます。
プレッシーヌは三人の娘を連れて王国を去り、妖精の国に戻ってゆきます。
妖精の国で育った3人の姉妹は15歳の誕生日、自分たちがアルバニー国から連れ去られた理由を知り、約束を破った父王への復讐を誓います。
父王と彼の財宝をイングランドのノーサンブリアのある洞窟に幽閉。
娘たちの所業を知ったプレシーヌは激怒。
約束を破ったとはいえ、エリナスは彼女の夫であり、三つ子の父親。
夫を愛する母は実の父親を殺した娘たちに罰を与えます。
週に1日、腰から下が蛇の姿になり、もし変身した姿を誰かに見られた場合には、永久に下半身が蛇で翼を持った姿のままで、子孫が亡くなるか城の所有者が変わるたびに、その恐ろしい姿で三日間嘆き悲しむことになる、という呪いです。

モーリッツ・ルートヴィヒ・フォン・シュヴィント III. 花嫁
成長したメリュジーヌはフランスのクーロンビエの森に住み着きます。
ポワトゥー地方の騎士・レイモンダンは、誤って叔父を殺したために逃亡、森を彷徨っているところでメリュジーヌと出会います。
メリュジーヌはレイモンダンを慰め、「自分と結婚すれば富と名誉を与えます。ただし土曜日に自分の姿を決して見ないこと」と申し出ます。
レイモンダンはそれを承諾、ふたりは結婚します。
10年の間夫はその約束を守り、メリュジーヌは魔法で夫に富と地位をもたらし、城を築き、10人の息子を儲けます。
子供たちは末の二人を除き全員がどこか怪物のような身体的特徴を持っていました。
けれど、それぞれが後のヨーロッパや十字軍の歴史で活躍する英雄となります。
ある日、レイモンダンの兄のフォレ伯が彼をそそのかします。
「妻が土曜日に隠れるのは、男と密通しているか、悪霊だからではないか」と。
嫉妬と疑念に駆られた夫は誓約を破り、沐浴中のメリュジーヌを覗いてしまいます。
そこで彼は、メリュジーヌが下半身が蛇の姿で入浴しているのを目撃。
レイモンダンは激しく後悔し、その時は秘密を胸に仕舞い込みます。
その後、息子たちのひとりが兄弟を殺害。
激しい怒りと悲しみの中、レイモンダンはメリュジーヌを「汚らわしい蛇」と罵倒。
秘密を暴露されたメリュジーヌは大きな竜の姿へと変身し、窓から空へと飛び去っていきました。
それ以来、メリュジーヌが人間の姿に戻ることはありませんでした。
けれど夜になると戻ってまだ幼い2人の末っ子に乳を与えました。
そして、リュジニャン家に危機が訪れる時や、城主が亡くなる直前には、城の塔の周りを飛び回りながら悲痛な声で泣き叫び、一族に異変を知らせる守護霊になったと伝えられています。

モーリッツ・ルートヴィヒ・フォン・シュヴィント IX. Melusine の母親の痛み
息子
- ユリアン (Urian) 片目が赤、他の片目が青いオッドアイ。後にキプロスの王になった
- ウード (Eudes) 片方の耳が大きく、顔や外見が炎のように燃えて見える
- ギイ (Guy) 片方の目がもう片方よりも高い位置にある。後にアルメニアの王になった
- アントワーヌ (Antoine) 頬に「獅子の足(あるいは爪)」のようなものが生えている
- ルノー (Renaud) 額の真ん中に一つ目
- 大牙のジョフロワ (Geoffrey with the Great Tooth) 口の脇から大きな牙が1本飛び出している。兄弟の中で最も獰猛で恐れられた戦士。レイモンダンとメリュジーヌの破局の原因になった
- フロモン (Fromont) 鼻の上に硬い毛で覆われた大きなアザがある。出家し修道士となり、兄ジョフロワが原因で死亡
- オラブル (Horrible) 3つ目。非常に凶暴な性質。
- レイモン (Raymond) 普通の人間として育ち父親の跡を継いだ。
- ティエリ (Thierry) 末の息子。普通の子。メリュジーヌが去った後、父親の看病や領地の統治を助けた。
メリュジーヌの子孫たち

モーリッツ・ルートヴィヒ・フォン・シュヴィント IV. 誓い
メリュジーヌの伝説は 特にフランス北西部、ルクセンブルク、低地諸国と結びつき、後にフランスのリュジニャン家、イングランドのアンジュー家とその子孫であるプランタジネット家をはじめとする名門貴族が「メリュジーヌの末裔である」と主張。
一族の権威付けに利用したことで広く知られるようになります。
その他の伝承
フランス
◾️ メリュジーヌ伝説はキプロス島とも結びついており、1192年から1489年まで島を統治したフランスのリュジニャン王家は、メリュジーヌの子孫であると主張
◾️ ルクセンブルク伯爵家も、先祖のジークフリートとメリュジーヌの子孫であると主張。
このメリュジーヌもリュジニャン家の先祖と同様の魔力を持っていたとされます。
そして、結婚の条件に「週に1日、土曜日には決して部屋に立ち入らないこと」を要求。
結婚式の翌朝には魔法でボック岩(ルクセンブルク市の中心地)にルクセンブルク城を建立。
やがてジークフリートは好奇心から、土曜日に彼女の部屋に入り入浴中の彼女を見て、彼女が人魚であることに気づきます。
驚いたジークフリートは叫び声をあげ、その途端、メリュジーヌは浴槽ごと地中に沈んでしまい、その後も岩の中に閉じ込められたまま。
7年ごとに口に金の鍵をくわえて、地上に女性または蛇の姿で戻ってきます。
もし、彼女のくわえた鍵を奪うことができたなら、彼女を解放し、彼女を妻として迎えることができます。
また、7年に一度、メリュジーヌは麻のシュミーズに一針加えます。
解放される前に彼女がシュミーズを完成させてしまえば、ルクセンブルク全土が岩に飲み込まれてしまいます。
イギリス
イギリスではメリュジーヌはアーサー王伝説に登場するランスロットを育てた『湖の乙女」と同種の水の妖精とされ、キリスト教以前の時代には、取り替え子を生むと信じられていました。
イングランド王リチャード1世は、アンジュー伯爵夫人の子孫であると語っています。
アンジュー伯爵は異国の美しい女性と出会い、二人は結婚、4人の息子をもうけました。
けれど、伯爵夫人は教会を好まず、いつもミサの途中で姿を消してしまいます。
不審に思った伯爵はある日、4人の部下に教会を出ようする妻を力ずくで引き止めさせました。
それに抵抗して妻は教会の最も高い窓から飛び出してしまいました。
彼女はサタンの娘、メリュジーヌだったのです。
彼女は2人の末息子を連れて伯爵の元を去ってゆきます。
残った息子の1人が、後のアンジュー伯爵の祖先となります。
この家系の激しい気性は悪魔の出自によるものとされます。
ドイツ
バーデン=ヴュルテンベルク州にあるシュトレンヴァルトの森で、若い男が下半身が蛇の美しいメルジーナに出会います。
メルジーナは3日間連続で異性のキスを受ければ、呪いから解放されるのです。
若い男はメルジーナと2度のキスを交わします。
けれど、彼女は日を追うごとに恐ろしい姿になり、3日目、恐怖をつのらせた若い男は最後のキスをすることなく逃げ出してしまいます。
その後、男は別の女性と結婚。
けれど、披露宴の料理に蛇の毒が混入され、それを食べた者全てが死んでしまいました。
メリュジーヌ 、現代でもなかなかな活躍です
『ファイナルファンタジー』シリーズのメリュジーヌは蛇を体に巻き付けた女性の姿をしたボスキャラ。
5、11、14、15に登場しています。
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アクションRPG 『原神』のメルジーヌは、フォンテーヌ国に住む女性だけのヒューマノイド種族。
彼女たちはエリナスという怪物から生み出された彼の「娘たち」と呼ばれています。
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『東京放課後サモナーズ』のメリュジーヌは六本木ギルドに所属するドラゴンメイドの転光生。
美貌、財力、権力、暴力のすべてを備えた、故郷では一つの地や城を支配していた女王。
『Fate/GrandOrder』のメリュジーヌは星5のランサー職階のサーヴァント。
「ランスロット」の名を与えられた妖精騎士。
メリュジーヌ まとめ 

作者不明
もし自分が、長年苦楽を共にした自分の夫が人間以外の生物だと知ったらと考えてみました。
私自身は異世界や超常現象を信じたいタイプの人間なので、夫が人間でなくともノープロブレムです。
けれど多くの人は、人間以外の何者かだと知れば、騒ぎ立て、迫害しそうな気がします。
なのに、貴族様方は箔が付くと、異種族との混血であることを誇りにしているのは意外です。
そういえば、魔術師・マーリンやアレキサンダー大王もサキュバスの子であることが知られています。
異種の血が混じることでハイブリッドな存在になれるようで、そんな子供が持てるならウエルカムです。
