
ギュスターヴ・ドレ作『神曲』挿画
カロンはギリシャ神話の冥界と現世を隔てるアケロン(悲嘆)川とステュクス(憎悪)川の渡し守。
日本でもゲームやアニメで知られる存在です。
カロンを主役とする神話は無いものの、ヘラクレスやオルフェウスなど、幾つもの冥界へ渡る生者の物語の中で語られています。
目次
カロン、悲嘆(アケロン)と憎悪(ステュクス)を越え、死者を冥界に運ぶ渡守

『庭の愛』(1886年)
カロンとは
カロン(Charon)は、ギリシャ神話のサイコポンプ(死者の魂を地上から死後の世界へ導く役割の存在)。
冥界の河の渡し守です。
一説にはカオス(混沌)の子である夜の女神・ニュクスと兄の幽冥の神・エレボスの子とされる原初の神。
死者の霊を獣皮で縫い合わせた小舟で、生者と死者の世界を隔てるアケロン(悲嘆)川とステュクス(憎悪)川を渡って、葬儀を受けた死者の魂を冥界へと運びます。
役割

ヨアヒム・パティニル 作
カロンは、死した魂が冥界へ向かうために渡るステュクス川やアケロン川の渡し守です。
死した魂はヘルメスに導かれ、冥界と現世とを分ける川スティクス(憎悪)あるいはその支流アケロン川(悲嘆)へ送られます。
そこでヘルメスから魂を受け取った渡し守・カロンが、死者の霊を獣皮で縫い合わせた小舟で死者を対岸の冥界へと運んで行きます。
渡し賃は1オボロス。
それを持たない死者は100年(あるいは200年)の間その周りをさまよわなければなりません。
そのため葬儀では、弔う際、故人の目や舌の下にオボル(カロンに渡すための硬貨)を置いておきます。
川を渡り、冥界に着いた死者はそこでハデスの審判を受けることになります。
外見

ミケランジェロ作『最後の審判』
一般的には渡し竿を持ち、ボロを着た、鋭い眼光、長い髭の無愛想な老人とイメージされています。
太古、エトルリア(紀元前8世紀〜紀元前1世紀、イタリア半島の都市国家群)人にとって、カロンは恐ろしい存在。
壁画には頭に蛇の生えた姿で描かれたものもあります。
他の初期の描写では、竿を振り回し、鉤鼻で、動物のような耳を持った醜い髭の男と考えられていたものもあります。
カロンの舟に乗った生者たち

ジョン・ロダム・スペンサー・スタンホープ 作
カロンの舟に乗れるのは渡し賃を持った死者のみ。
けれど、神話の中で幾人かの生者がカロンの舟で冥界へ渡っています。
ヘラクレス
ヘラクレスは「十二の功業」の最後、冥界の番犬ケルベロスを地上に連れ帰る任務を命じられます。
ヘラクレスはヘルメスの協力を得て冥界へと向かいます。
けれど、カロンは生者であるヘラクレスを舟に乗せることを拒否。
ヘラクレスは棍棒でカロンを脅し、無理やり舟に乗り込み、冥界へ入ります。
この時、ハデスは生者を許可なく冥界に入れたカロンに1年間鎖につなぐ処罰を与えています。
オルフェウス
オルフェウスは熱愛する妻エウリデュケを生き返らせるため、冥界へ向かいます。
アケロン川(あるいはステュクス川)で、カロンは生者であるオルフェウスの乗船を断ります。
そこでオルフェウスは愛する妻を失った悲しみと、彼女への深い愛を竪琴(リラ)の音色と共に歌います。
カロンは心を打たれ、川を渡ることを許します。
そしてそのままハデスの館まで同行し、館での演奏にも聞き入っています。
ただし、オルフェウスは地上に着くまで後ろを振り返らないというハデスとの約束を破り、エウリュディケの救出に失敗。
再度冥界に戻ろうとしますが、その際にはカロンはオルフェウスの乗船を拒んでいます。
アイネイアス
アイネイアスはトロイアの王子・アンキーセースと女神アプロディーテーの息子で半神の英雄。
巫女・シビュラの導きで冥界にいる父・アンキーセースを訪れます。
この時アイネイアスはペルセポネーに捧げる黄金の枝を持参。
カロンはこの尊い贈り物を見せられ、アイネイアスの乗船を許しています。
この物語はウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』で語られています
プシューケー
プシューケーはエロースの恋人。
エロースの館で幸せに暮らす妹に嫉妬した姉たちの企みで、エロースの正体を探ろうとし、誤ってランプの油でエロースを傷つけ、エロースはプシューケーの元を去ってしまいます。
ブシュケーはエロースを探して世界を彷徨い、エロースの母・アプロディーテのもとにたどり着きます。
アプロディーテはプシュケーに3つの試練を与えます。
その最後の試練が冥府に降り、女神ペルセポネから「美の小箱」を貰って来るようにというもの。
プシュケーは死を覚悟し、冥界に行く為に高い塔から飛び降りようとした時、どこからか微かに声が聞こえてきます。
それは、口の中に渡し賃の貨幣を2枚含み、1枚ずつを行きと帰りにカロンに渡すようにというもの。
プシュケーは声に導かれ、冥界の河を渡り、女王・ペルセポネから小箱を委ねられています。
ペイリトオス
二人は共に妻を亡くし、ペイリトオスはテセウスに、ゼウスの娘で美女と評判のヘレネーを連れ去ろうと提案。
くじで勝ったテセウスはヘレネーを得ます。
負けたペイリトオスはゼウスの神託を仰ぎ、ペルセポネーを得ようと冥界に向かいます。
この時、二人は生者でありながらハデスに迎えられています。
けれど、ハデスに勧められて二人はそれとは知らずに「忘却の椅子」に座り、全てを忘れ椅子に捉えられてしまいます。
4年後、テセウスはケルベロスを捕まえるために冥界に降りたヘラクレスに助けられます。
けれど、ペイリトオスはヘラクレスでも助けられず、そのまま冥界に残されています。
オデッセウス
オデッセウスも冥界を訪れた生者のひとりです。
オデッセウスはキルケーの助言で、帰国のヒントを得るために予言者・テイレシアスの霊に会いに冥界に降ります。
けれど、オデッセウスが冥界の川を渡るのはカノンの舟に乗ったのではなく、自らの船で川の境界へ到達したと解釈されています。
作品の中のカロン

ギュスターヴ・ドレ作『神曲』挿画
ダンテ『神曲』
『神曲』は、13世紀〜14世紀、イタリアの詩人で政治家、ダンテ・アリギエーリの代表作。
地獄篇、煉獄篇、天国篇の3部から成る長編叙事詩です。
その中でカロンは『地獄篇』第3歌で登場。
ダンテが地獄で最初に出会う意地悪で痩せこけた老人、または両刃のハンマーを振り回す翼のある悪魔。
地獄の門を抜けたダンテとウェルギリウスを冥界を渡る舟に乗せています。
ウェルギリウス『アエネーイス』
『アエネーイス』はトロイア滅亡後の英雄アエネーアースの遍歴を描いた長編叙事詩。
カロンが最も印象的に描かれた作品の一つとされます。
アエネーアースはトロイアの王子・アンキーセースと女神アプロディーテーの息子で半神の英雄。
巫女シビュラの導きで冥界に渡り、亡き父・アンキーセースと再会。
父・アンキーセースはアエネーアースの子孫がローマの祖となることを告げます。
アエネーアースとシビュラはステュクス川のほとりで渡し守カロンに会います。
カロンは生者であるアエネーアースの乗船を拒否。
シビュラは、アエネーアースが神の子で、神の命による訪問であることを説明し、プロセルピナ(ペルセポネ)への贈り物である「金の枝」を見せます。
カロンはその権威を認め、二人の乗船を許可。
生者アエネーアースの体重で船が傾くのを感じながら、二人を対岸へ運んでいます。
カロン、基本はやっぱ冥界の渡し守
映画
『ジョン・ウィック』シリーズのカロンはコンチネンタルホテル・ニューヨークのコンシェルジュ。
生者と死が支配する裏社会の境界に立つ人物です。
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カロンは『タイタンの戦い』シリーズでも冥界へ死者を運ぶ渡し守として登場しています。
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アニメ・ゲーム
人気アニメ『鬼灯の冷徹』のカロンはギリシャ冥界の渡し守。
死者が増えて船が1つでは足りなくなったため、ペルセポネの好みでプロデュースされた美少年のカロン達が増員されました。
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『ドラゴンクエスト』シリーズのカロンはいかずちの杖やザオラルを使用するコンジャラー(魔法使い)系のモンスター。
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アニメ『ワールドトリガー』のカロンは『逃亡者編』に登場する、白いボディに3つの青い眼、2つの尖った耳を持つ自立型トリオン兵。
慇懃無礼、残虐非道な危ない存在。
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『『スーパーマリオブラザーズ』シリーズのカロンはこの世に未練を残し全身が骨になったノコノコ。
ファイアボールも通じないし、踏むと崩れるけれど、しばらくすると元通り復活する嫌な敵キャラ。
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アクションゲーム『ゴッド・オブ・ウォー落日の悲愴曲』のカロンは 冥界の川の渡し守。
顔の半分が焼けただれたような不気味な老人。
クラトスを一対一で倒した数少ない強敵です。
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カロン まとめ

アレクサンドル・ドミトリエヴィチ・リトフチェンコ作
カロンって、脅されて無理やり送らされたのに罰を受けたり、美しい歌声に聴き惚れてハデスの館までホイホイついて行ったり、
絶対的、非道な存在でないところに親しみが持てます☺️
