龍は東洋ではその名で、西洋ではドラゴンの名前で馴染まれています。西洋ではゲルマン神話のワームやリントヴルムなどドラゴンの別種類があるように、東洋にも龍の別の種類が存在するのです。
今回ご紹介するのは、日本各地にその伝説が残る九頭龍です。日本に残る意外なドラゴン伝説をご覧ください。
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日本各地に存在する九頭龍伝説
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九頭龍とはその名の通り、頭が9つある龍です。
九頭龍が現われたという土地は日本全国に存在し、それぞれの場所で神社などの祭神としてまつられています。その中でも伝説の中心的な場所が、長野県の戸隠神社と神奈川県の箱根にある箱根神社です。
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戸隠神社の九頭龍伝説
戸隠神社は長野県戸隠山周辺にある神社で、天照大神が天岩戸に隠れたとき、岩戸を押し開いたアメノタヂカラオを主神としてまつっています。
九頭龍はそれとは別に地主神としてまつられており、九頭龍をまつる社は主神のアメノタヂカラオの社より古いことから、本来は九頭龍が戸隠神社の源となる神だったのかもしれません。
鎌倉時代中期に書かれた『阿娑縛抄 (あさばしょう)』には、戸隠神社にまつわる九頭龍の逸話が残っています。
嘉祥2年 (849年) 頃、学問という名前の行者が大きな岩窟で法華経を唱えていると、南方から九頭龍が現われて、「私は、元は人間で別当 (大きな寺の事務を総括する職務) であったが、仏に供えられた財物を着服してしまい、このような姿になってしまった」と言いました。学問行者は法華経を唱えてやると、九頭龍は成仏し、岩窟に身を隠しました。
学問行者は大きな岩で岩窟を封じると、九頭龍はやがて水神としてその土地の人々を助けたといいます。後に、九頭龍は九頭龍権現として人々から信仰を受けるようになりました。
戸隠神社の九頭龍は、水神だけでなく、雨乞いの神、縁結びの神、また、虫歯の神としても信仰されています。弥次さん喜多さんでおなじみ、『東海道中膝栗毛』の作者である十返舎一九は、『戸隠善光寺往来』で「九頭龍権現は梨を神供とするため、梨を供えれば、虫歯が必ず治る」と書き残しています。
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箱根神社の九頭龍伝説
箱根神社は、神奈川県箱根町にある神社で、箱根大神 (コノハナサクヤヒメ、ニニギノミコト、ホオリ 〈山幸彦〉)を主神としてまつっています。九頭龍は箱根神社の境外に社を造られ、まつられています。
箱根神社に伝わる九頭龍伝説は、以下の通りです。
奈良時代、芦ノ湖には毒を持つ九頭龍が住み着いており、雲を呼び、波を荒れさせるなどの悪さをし、人々を苦しめていました。人々は、九頭龍の怒りを鎮めようと、泣く泣く娘を生贄に差し出していました。
箱根神社を開いた万巻上人は、これを見ると、人々を救うため、芦ノ湖の底にある逆さ杉に九頭龍を縛りつけ、法力で調伏させます。九頭龍は懺悔し、宝珠と錫杖、水がめを差し出して帰依したため、万巻上人は龍神として手厚くまつったといいます。
毎年7月31日に行われる湖水祭は、万巻上人が九頭龍をまつった際に龍神祭をひらいたことに起因し、現在でも箱根神社伝統の祭として多くの人々に親しまれています。
それ以外の九頭龍伝説
福井県九頭竜川流域
白山信仰を開いた泰澄は、白山山頂で十一面観音の化身である九頭龍に出会い、悟りを得ました。また、白山の神である白山権現が人々の前に姿を現し、自身の像を川に浮かべると、九頭龍が現われます。以降、この川を九頭竜川と呼ぶようになったと伝わっています。
千葉県鹿野山
ヤマトタケルが九頭龍を退治したという伝説が残っています。
ちなみに九頭竜は崩れ神(国栖の神)等、土着の信仰が伝えられてきたもので、古い木簡では大蛇とされるということです。仏教のヴァースキ神も神仏習合によって、後世に九頭竜と同一視されています。
九頭龍自体より、固有名詞として使われる
漫画『るろうに剣心』では、主人公・緋村剣心が使う剣術である飛天御剣流に九頭龍閃という技が登場します。9つの攻撃を一瞬で放つ凄技です。
漫画『すもももももも 地上最強のヨメ』では、ヒロインの名字が九頭龍からとった九頭竜もも子が登場。十二支の名字を持つ最強の武術家たちが戦うラブコメ作品です。
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まとめ
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基本的にどの神話や伝説でも、その神・英雄・怪物などにまつわるエピソードはひとつに決まっていますが、九頭龍は土地によってさまざまな伝説があるところが面白いですね。
ちなみに、ギリシャ神話には9つの頭を持つ蛇の怪物・ヒュドラがいます。
九頭龍の元ネタはインド神話のヴァースキですが、古代インドとギリシャが交易などでつながりがあったことを考えると、ヒュドラ→ヴァースキ→九頭龍と姿を変えていった可能性もあるかもしれませんね。