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九頭龍伝説、日本にもあるドラゴン伝説。各地で信仰される龍神様とは

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出典:deviantart

『ジークフリート』や『ホビットの冒険』『ドラゴンボール』など、古今東西、龍は物語の中で馴染みの神獣。

 

今回ご紹介するのは、日本各地で龍神様として崇められる九頭龍伝説です。

意外なほどに、各地で様々に語り継がれる九頭龍。

 

日本に存在するドラゴン伝説とは

 

 

九頭龍、龍神様として崇められる水を司る神獣

九頭龍(くずりゅう)とはその名の通り、頭が9つある龍です。

日本の龍神として語り継がれる龍の一種、神あるいは怪物。

九頭龍大神、または九頭龍権現として崇められ、あるいは悪龍として恐れられ、その伝承は日本全国に存在し、神社などの祭神として祀られています

 

龍神様とは

日本では古くから自然崇拝がおこなわれ、神聖な場所には特有の守護神がいると信じられてきました。

龍神は天界と地上を往来する、自然を司る神として崇められてきました。

特に水のある場所を守る水神様である考えられ、水は農業に欠かせない資源であることから、日本では特に地域に根付いた神として、多くの神社で祀られています。

 

九頭龍の起源

マンダラ山を回転させるための綱となったヴァースキ

龍は紀元前10~3世紀ごろ中国より伝来、日本各地で『龍神様』として信仰されます。

 

中国において龍は皇帝のシンボルであり守護神

特に風水において龍は、地上に流れるすべてのエネルギーの源であると考えられています。

 

九頭龍の起源となったのは、インド神話の蛇神・ヴァースキ

仏教に取り入れられ、中国において八大竜王の一神、和修吉(わしゅきつ)となり、日本に渡り九頭龍大神となりました。

八大竜王は密教において雨乞いをつかさどる神、日本でも水神として崇められています。

 

日本各地に存在する九頭龍伝説

その主な伝説は

長野県・戸隠神社の九頭龍伝説

長野県戸隠山周辺にある戸隠神社は、アマテラスが天岩戸に隠れたとき、岩戸を押し開いた天手力雄命(アメノタヂカラオ)を主神としてお祀りしています。

九頭龍はそれとは別に地主神としてまつられており、九頭龍をまつる社は主神のアメノタヂカラオの社より古いことから、本来は九頭龍が戸隠神社の源となる神とも考えられます。

 

その伝説

戸隠神社の九頭龍については幾つかの伝承が残されています

  • そのひとつによると、九頭龍はアマテラスが隠れた天岩戸の扉を押し開いたタヂカラオから分かれ出た御霊であるというもの。

タヂカラオが投げ飛ばした岩戸の扉が地に落ちて戸隠山となり、同時に九頭龍が誕生

自らをタヂカラオの荒魂であると語っています。

  • また、修験道の祖・役小角が戸隠山を訪れ、巨大な大竜王の姿をした九頭龍権現と出会ったという伝承も残されています

 

『阿娑縛抄 (あさばしょう)』の九頭龍

鎌倉時代中期に書かれた『阿娑縛抄 (あさばしょう)』には、戸隠神社にまつわる九頭龍の逸話が残っています。

嘉祥2年 (849年) 頃、学問という名前の行者が大きな岩窟で法華経を唱えていると、南方から九頭龍が現われて、「私は、元は人間で別当 (大きな寺の事務を総括する職務) であったが、仏に供えられた財物を着服してしまい、このような姿になってしまった」と語りました。

学問行者が法華経を唱えてやると、九頭龍は成仏し、岩窟に身を隠しました。

行者は大きな岩で岩窟を封じると、九頭龍はやがて水神としてその土地の人々を助けたといいます。

後に、九頭龍は九頭龍権現として人々から信仰を受けるようになりました。

 

 

ちなみに、戸隠神社の九頭龍は、水神だけでなく、雨乞いの神、縁結びの神、また、虫歯の神としても信仰されています。

弥次・喜多の珍道中を描いた『東海道中膝栗毛』の作者・十返舎一九は、『戸隠善光寺往来』で「九頭龍権現は梨を神供とするため、梨を供えれば、虫歯が必ず治る」と書き残しています

 

神奈川県・箱根神社の九頭龍伝説

箱根神社は、神奈川県にある箱根大神 (コノハナサクヤヒメ、ニニギノミコトホオリ 〈山幸彦〉)を主神としてお祀りする神社。

九頭龍はその箱根神社の境外の社で祀られています。

 

その伝説

奈良時代、万字ヶ池と呼ばれていた芦ノ湖には毒を持つ九頭龍が住み着いており、民を苦しめていました。

人々は、九頭龍の怒りを鎮めるため娘を生贄に捧げなければなりません

 

箱根山で修行中であった万巻上人はこの惨状を知り、芦ノ湖の底にある逆さ杉に九頭龍を縛りつけ、経文を唱え、法力で調伏させます。

九頭龍は懺悔し、宝珠と錫杖、水がめを差し出して帰依したため、万巻上人は龍神として手厚く祀ったとされます。

 

千葉県・鹿野山の九頭龍

千葉の鹿野山麓の鬼泪山(きなだやま)には、九つの頭を持つ巨大な大蛇が村人を喰らったという伝承が残されています。

村長が都に大蛇退治を願い出、その討伐に日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が遣わされます。

タケルは鬼泪山に分け入り、九頭龍を探しますが出会わず、疲れて眠ってしまいます。

そこに九頭龍が現れ、タケルを一飲みにしてしまいます。

その数日後、村の娘が小川で洗濯をしていると、川の水がだんだんと赤く染まってゆきます。

驚いた村民の前にヤマトタケルが帰還。

九つの頭の蛇に一呑みにされてしまったので、この剣で奴の腹を切り裂いて、外へ出た。そして、九つの頭を全部切り落としてやった」と語ります。

このとき龍から流れた血が川を三日三晩赤く染めたとされ、以降その川は「(血)染川」と呼ばれます。

なお、退治された九頭龍の霊魂は「九頭竜権現」として祀られ、現在も神野寺仁王門に鎮座されています。



熊本県・『彦山流記』、阿蘇山宝池の九頭龍神

鎌倉時代の英彦山の宗教世界を記した書物『彦山流記』の中にも九頭龍が登場しています。

 

阿蘇山を訪れ臥験

般若窟で千日の修行を終えた名僧・臥験は名峰阿蘇山を訪れ、凡夫の決して見ることは出来ない宝池の主に拝することを心から願い、経を唱えます

するとまず鷹が現れます

けれど臥験は「この宝池の主に相応しくない」と退けます。

次に俗人、僧侶、小龍、そして十一面観世音が現れますが、臥験は池の主ではないと退けます。

そのとき、池の中から声がして「宝池において、主の正体を汝が拝むことあたわず。罪障が重いゆえなり」と告げます。

臥験は怒り「我は 三界を領有し治める知識や学問を身につけた聖なる持明者である。何者が我の状況を評してかように言うか」と答えます

するとついに、にわかの大雲とともに大龍が出現

その御身は阿蘇の山のように高く、嶺のように長く、その九頭八面の顔面には三つの目が暁の星のように輝いています。

 

その凄まじい気迫に圧倒された臥験は、龍に呑まれると思い、法力を込めた金剛杵を大龍の三つの眼に打ち込みます

すると、龍は姿を消し、再び四方は晴れ渡ります。

 

女人に出会う

臥験は、池の主に出会えたと思い、下山にかかります。

けれど途中、天候が急変、大雨となり、川は洪水。

臥験は難を逃れようと若い女性が住む一軒の小屋に辿り着きます

臥験が一夜の宿を願うと女性は快く受け入れます。

臥験が濡れた着物を乾かそうとすると、その女性は臥験に自分の着物を着せようします

けれど臥験は、修行の身にとって女性は不浄であるためと、彼女の好意を断ります。

すると、女性は「仏様は慈悲平等の心を教えていて、浄、不浄などを言いません」と言い、無理やりにでも衣を羽織らせようとします。

そうしている間に臥験に欲心が起こります。

女性を押さえつけると、女性は抵抗して「まず接吻してください」と言います。

臥験は「自分の口は経を唱えるものだからそれはできない」と答えます。

けれど女性は「それなら拒み続けます」と言うので、臥験はしかたなく接吻

途端、舌を噛み切られてしまいます。

臥験はその場に倒れ、女性は大竜となって天に昇ってゆきました

 

宝池の主の正体は

臥験が意識をとりもどして辺りを見ると、山中に独り取り残されています。

臥験は罪を悔い、不動明王に「舌を元通りにならしめ給え」と念じていると、14~5歳くらいの童子が現れ、臥験の舌に触れると舌は元通りになります。

そのとき天空から「我は種々の身に呈して現した。真実の正しい身体というものには、極楽世界では阿弥陀という衣を被っている。この娑婆世界では十一面観音という衣を被っている。再び阿蘇に登り 重ねて御嶽を拝すべし」との声がします。

臥験は、再び御岳に登頂。

天空よりの声が「汝は種々の身形を観ても、眼根・心根に障りがあるから本地を見抜くことができないのだ」と語ります。

臥験は、その場に伏して印を結び、ひたすら懺悔の意を尽くします。

するとついに臥験が望んだ主の実体である十一面観音が現れます

臥験は心から歓喜踊躍し、その場を去って行きます。

 

大阪府猪名川・五月山・兵庫県多田神社の九頭龍伝承

天禄元年(970年)源満仲は摂津の国守に任ぜられ、館をどこに築くか一の宮の住吉大社に参籠します。

二十七日目、『北の空に矢を射よ。その矢のとどまる所を居城とすべし』との神託を受けて、満仲は矢を放ちます。

満仲はその矢を探していると、鼓ヶ滝付近で白髪の老人に出会い、矢のある場所を教えられます。

そこには湖(沼)があり、その湖の主・雌雄二頭の九頭龍の内の一頭が目に矢が刺さり、暴れまわっています。

龍は鶯の森天王宮下流に流され、ついに昇天

龍の死後、湖沼の水は干され、多くの田畑ができる肥えた土地が残り、後に「多田」と名付けられます。

また、龍が昇天したその地には白龍神社が建立され、死した九頭龍が祀られます。

村人は九頭龍の犠牲によって肥えた田畑が拓かれたことを感謝し、九頭龍大明神、九頭龍大権現、白龍大神と崇めたと伝えられています。

 

青森県・十和田神社の九頭龍

昔、南祖坊という僧が紀州の熊野権現を山籠していると、夢枕に老僧が現れ「諸国をめぐり、百足の草鞋の鼻緒がきれた所を永住の地にせよ」と告げます。

南祖坊は諸国をめぐり、十和田湖畔でちょうど百足目の草鞋の鼻緒が切れてしまいました。

当時、十和田湖には八郎太郎という狩人が湖の岩魚を食し、八頭の大蛇となり湖を支配していました。

南祖坊は法力によって「九頭龍」となり八頭の大蛇・八郎太郎を退治

その南祖坊は十和田湖の主・青龍権現となり、十和田神社で崇め祀られています。

また、敗れた八郎太郎は秋田に逃れ、八郎潟の大湖を造り、棲みついたとされています

 

滋賀県三井寺の霊泉と九頭龍大神

近江国三井寺金堂の近くには天智・天武・持統の三帝が産湯に用いたという霊泉が湧いています

この霊泉は「御井(みい)」と呼ばれ、「御井の寺」から三井寺となったとされています。

その霊水は、古より仏に供える閼伽水として金堂の弥勒菩薩に御供えされる聖水

この御井の霊泉に九頭一身の龍神が住むと語り継がれています。

その九頭龍神は、年に10日、深夜の丑の刻に水花を金堂の弥勒菩薩にお供えするために姿を現すと伝えられ、その間は何人も泉のそばを通ってはならないとされます。

近づいたり、お姿を見ようとする者には「罰あり、とがあり」と伝えられています。

 



 

九頭龍自体より、固有名詞として使われる

漫画『るろうに剣心』では、主人公・緋村剣心が使う剣術である飛天御剣流に九頭龍閃という技が登場します。9つの攻撃を一瞬で放つ凄技です。

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漫画『すもももももも 地上最強のヨメ』では、ヒロインの名字が九頭龍からとった九頭竜もも子が登場。十二支の名字を持つ最強の武術家たちが戦うラブコメ作品です。

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九頭龍伝説 まとめ

意外なほどに九頭龍伝説が全国各地に残されていることに驚きです。

そして、土地によって様々な伝説があるところが興味深いです。

それだけ人間の生活に密着した神獣であったのだろうと思われます。

 

けれど、出会ったのはヤマトタケルや役行者、名僧など。

凡人には出会えない。

 

まあ、シェンロンに会うのもドラゴンボールを集めるのが大変ですものね。

 

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