ぽっちゃりした体型、右手に釣り竿、左手に鯛、こぼれ落ちそうな笑顔を浮かべた神、「えべっさん」という愛称でもおなじみの恵比寿神。
七福神の一柱でもある恵比寿神は、五穀豊穣や商売繁盛などの福をもたらす神、辛い出来事とは無縁のように見えますが、実はかなり複雑な過去を持っている神なんです。
今回は、七福神の中で唯一日本古来の神であり、福をもたらす恵比寿神のご紹介です。
目次
恵比寿神、海の向こうからやって来た福の神
恵比寿神は、福をもたらす神として信仰されている七福神の一柱です。
漁業や商業をつかさどり、人々に五穀豊穣や商売繁盛などをもたらします。
祭神(神社に祀られる神)は、主には蛭児命(ひるこのみこと)、事代主命(ことしろぬしのみこと)する説があります。
古くは「寄り神(海の向こうから来る神)」として漁師が大漁を祈願する神とされていましたが、海産物の売買での市の神、商売繁栄の神として商家の信仰も集めるようになります。
関西では1月10日の「十日戎(とおかえびす)」、西日本でも1~2月に同様の祭りが開催。農家では旧暦の1月と10月の20日に豊作の祈願と感謝の祭り「えびす講」の行事が行われます。
恵比寿神の発祥
恵比寿神は当初、漁民の間で海の向こうからやって来る異邦の神として信仰されました。
語源はさだかではありませんが、「戎」「夷」などの異邦や辺境に住む人々を意味する文字が当てられ、来訪神、漂着神的な性格を意味する神とされます。
漁民の間では、漂着物を神としてまつる風習があり、それを「えびす」と呼んだのです。
海で拾った、あるいは浜辺に打ち上げられた石を御神体として、初漁祝いや大漁を祈願。
またクジラ、サメ、イルカ、遭難者の遺体なども神聖なもの「えびす」として、これをけっして粗末には扱わない風習がありました。
出漁のとき、漁の釣り糸を垂れる、海女が潜るときにも「えびす」と唱えれば漁があるという言い伝えがあったとされます。
やがて日本神話に登場するさまざまな神と結びついて現在に至る恵比寿神として定着してゆきました。
恵比寿神の神格、ご利益は
えびすは七福神の中で日本古来の唯一の福の神。
古くから漁業の神として、後に留守神、商いの神ともしても信仰されてゆきます。
夷、戎、蛭子、蝦夷、恵比須、恵比寿、恵美須など、多くの表記があり、えびっさん、えべっさんの名で親しまれてゆきます。
🔳 福神
平安時代末期、鎌倉時代には鶴岡八幡宮境内でえびすを市神として祀ったとされます
商業が発展するにつれ商売繁盛、福神として崇められ、七福神の一柱ともされます。
🔳 海神
恵比寿神の本来の神格は漂着物に対する信仰であり、海の向こうからやってくる海神。
水の神としても信仰されます。
🔳 漁業神
恵比寿神は現在でも漁業神として祀る地域が多数存在します。「クジラやジンベイザメが出現すると豊漁をもたらす」と言われ、えびすと呼ばれる漁業神の化身とされます。
🔳 寄り神(漂着神)
漂着したクジラを「寄り神」と呼ぶことがあります。日本各地にはクジラの到来で思わぬ副収入を得たり飢饉から救われたりという伝承が残されています。
海外からの漂着物を「えびす」と呼ぶ地域もあり、漁のときに漂着物を拾うと大漁になるという言われます。
恵比寿神の外見は
現在知られている恵比寿神は、ふくよかな体に福耳を備え、朗らかな顔、狩衣を着て、烏帽子をかぶり、右手に釣り竿、左手には鯛をかかえた姿で描かれています。
服装は、恵比寿神が広く信仰されるようになった室町時代の公家などの身分が高い人物の姿を真似たものとされています。
商業の神としての側面は中世以降に現れたもので、元々が漁業の神だった為に釣竿と鯛を抱えています。
この釣竿は、『論語』に登場する「釣りすれども網せず」という「孔子は釣りはしたけれども、網で一度に大量の魚を取ることはしなかった。このように、利益ばかりに気をとられずに、正直に商売をしなさい」という教えを表すもの。
鯛は、恵比寿神のモデルの一柱であるとされる事代主 (ことしろぬし) が魚に関連する神話があることと、祝宴で振る舞われるような縁起の良い魚であるからだと考えられています。
恵比寿神は、民間信仰から日本中に広まっていくにつれて、日本神話に登場する神と結び付けられるようになりました。
イザナミとイザナギの最初の子であるヒルコ、大国主の子である事代主、大国主と共に国造りを行ったスクナビコナ、神武天皇の祖父である山幸彦など、諸説ありますが、ヒルコと事代主であるという解釈が一般的です。
恵比寿神とヒルコ
ヒルコはイザナギとイザナミの間に最初に生まれた子でしたが、子作りの際、女神であるイザナギが先にイザナギに声をかけたために神として不完全な状態で生まれてきました。そのため、葦の舟に乗せられ、海に流されてしまいます。
その神話から、ヒルコはどこかの地に流れ着いたという信仰が生まれました。「海の向こうからやって来る」という点が恵比寿神と共通していたので、やがて恵比寿神とヒルコは同一視されるようになったのです。
恵比寿神と事代主
事代主は、葦原中国を造ったことで有名な大国主の子です。アマテラスが自分の孫であるニニギノミコトに蘆原中国を治めさせるため、大国主に国を譲ることを迫った際、大国主はその選択を自分の子どもたちに委ねます。
事代主は抵抗せずに「承知した、国を譲ろう」と言って、海の向こうへと去って行きました。そのため、ヒルコと同様な点で恵比寿神であると考えられるようになります。
他にも、恵比寿神とされるスクナビコナは海の向こうからやって来ています。山幸彦は、竜宮城に行くという点で海に関連しているため、いずれも「海の彼方からやって来る」という点で共通しているようです。
ちなみに、恵比寿神以外の七福神は皆インドの神や中国の仙人や僧が由来であるため、恵比寿神は唯一の日本由来の神です。
恵比寿神、解釈は作品によってさまざま?
バトル漫画「ノラガミ」では、神の一柱として登場。この作品では、ヒルコ説が採られており、自分を捨てたイザナミに会いに主人公である夜トと共に黄泉の国へと向かいます。
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ライトノベル「我が家のお稲荷さま。」では、主人公一家が暮らす地域の土地神として登場。コンビニのオーナーをしており、売り上げのためなら何でもする、お金にがめつい神として描かれています。
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「ロマンシング サ・ガ2」のスービエはタコの様な下半身、「海の王者」の異名を持つ七英雄の一角
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恵比寿神 まとめ
恵比寿神が海の向こうからやって来た異邦の神だったなんて、驚きですよね。
とてもエキゾチックですが、同時に恵比寿神が日本由来の唯一の神であるというのが面白いところです。