1000年生きた狐がなると伝えられる九尾の狐の生態を探ります。
韓国ドラマや日本のアニメでもお馴染みの九尾の狐は太古から伝わる妖怪、あるいは霊獣。
妲己や玉藻前のような絶世の美悪女に化けたことでも有名ですが、鳳凰や麒麟と並ぶ瑞獣(良いことが起こる兆しの獣)であるとも言い伝えられているのです。
神獣か妖怪か、さてその九尾の狐とは
目次
九尾の狐、絶世の美悪女妲己・玉藻前になった瑞獣
出典:deviantart
九尾の狐とはその名の通り、九本の尾を持つ狐の怪狐をいいます。
九尾狐(きゅうびこ)、九尾狐狸(きゅうびこり)、尾裂狐(おさき)とも呼ばれる、一般的には中国に伝わる伝説上の生物です。
狐は古来、霊力あるいは妖力を持つ動物とされてきました。
年を重ね、力を得た狐はその力に順って尻尾が9本にまで増えるといわれ、その存在は神獣と崇められ、あるいは妖怪として恐れられてきました。
尾が何本かに分かれた霊獣の言い伝えは世界中に存在し、九尾の狐もその起源を辿れば、元々はアジア大陸にあった、老狐の説話が九尾の狐に繋がったものと考えられます。
獣が年を重ねて霊力あるいは妖力を持つという説は、中国の伝承が大きく影響しているといわれます。
そして狐は
- 50年生きると女性に化けることが出来るようになる、
- 100年生きると美女、巫女や男性にも化け、天眼通をもつ
- 1000年を経れば天に通ずるようになり、天帝に仕える天狐となり、体毛は金色に輝き、尾は9本なる
といわれ、これが「九尾の狐」の始原であるとされます。
天狐となった九尾の狐は吉兆をよぶ瑞獣として崇められます。
けれど、仙孤を目指す狐の修行法のひとつに 「人間と交わって精気を吸い取る」 というものがあり、下位の狐の多くは男性の精気を吸い取るために女性に化けるようになります。
そのため、下位の狐は妖狐として男を手玉に取る悪女と結び付けられ、邪悪な化け狐として恐れられる存在となります。
天狐
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中国の西晋(せいしん)(265年-316年)の博物誌『玄中記』に、狐が1000年の年を経ると天に通じると天狐というものになる
明(みん)(1368年-1644年)の官人謝肇淛の著書『五雑俎』には、狐は1000歳を過ぎると天に通じて人を魅(ばか)すことはなくなると記されています
江戸時代末期の随筆『善庵随筆』や『北窓瑣談』には、狐の階級が天狐・空狐・気狐・野狐の順にあると記され、最上位の天狐は、千里の先の事を見通す、神のような存在であると記されています
瑞兆(良い事が起こる前兆)としての九尾の狐
古代中国では九尾狐は鳳凰や麒麟と並ぶ瑞獣とされます。
鳳凰は徳の高い王者の前に現れ、世を平安な治世に導きます。
麒麟は仁の心を持つ君主が生まれると姿を現すといわれています。
九尾の狐は漢の時代には王室の守り神とされますが、徳のない君主には革命を促すとも伝えられる、凶獣という側面もある霊獣です。
中国の九尾の狐
中国の「九尾狐」を記した歴史は古く、その最古のものは、春秋戦国時代から秦・漢期(紀元前5世紀~3世紀)にかけて編まれた地理書『山海経』(せんがいきょう)とされます。
そこでは、外見は九本の尾を持つ狐、子供のような声で鳴き、人肉を食う怪物。
この生物を食べると蠱毒(こどく、術による毒)や邪気を退けるようになれると記されています。
後漢(25年 - 220年)時代に記された『白虎通義』では、徳の高い皇帝の世に現われる瑞獣の一種で、子孫繁栄を促し、「九」という瑞兆をもった霊獣。
西晋(265年 - 316年)に『山海経』に追加された「大荒東経」では、泰平の時代に現れる瑞獣。
唐(618年 - 907年)の時代の歴史書『周書』や、北宋(960年 – 1127)年の『太平広記』でも、瑞兆を持つ天界の聖獣として登場しています。
けれど、南北朝時代(439年-589年)の「千字文」には、妲己が九尾の狐が化けた妖怪として記されています。
元(907年- 1368年)の時代の歴史講談『武王伐紂平話』や明(1368年-1644年)の時代に刊行された周王朝の歴史を題材にした物語『春秋列国志伝』などでも九尾の狐は登場し、武王の物語『武王軍談』、神怪小説『封神演義』などに影響を与えています。
封神演義(ほうしんえんぎ)
出典:Wikipedia
封神演義(ほうしんえんぎ)は明の時代に成立したファンタジー小説。仙人や道士、妖怪が人界と仙界に別れ、大戦を繰り広げる太古の神怪小説です。
現在の「九尾の狐」の伝承はこの『封神演義』に由来しているといわれます。
** 九尾の狐が化けた美女 **
妲己(だっき)
紀元前11世紀頃、殷の紂王帝の后となった妲己(だっき)は実は千年狐狸精という千年を生きた化け狐で、紂王の妾寿羊を食い殺し、その娘に化けていました。
華陽夫人
妲己の死後700年ほど後、天竺(インド)の耶竭陀(マガダ)国の王子、斑足(はんぞく)太子は妃の華陽夫人の言いなりに、千人を虐殺するなど非道の限りをつくします。
あるとき太子は庭で一匹の狐を見つけ、弓で射ます。
翌日、華陽夫人が寝込んでいるので名医・耆婆(きば)の診察を受けることになり、夫人の正体が妖狐であることがわかります。太子が薬王樹で作った杖で夫人を打つと、夫人は九尾の狐となって北の空へ飛び去って行きます。
日本の九尾の狐
日本でも九尾の狐は平安時代中期に編纂された律令の施行細則『延喜式』(905年- 967年)に登場し、ここでは「神獣なり、その形赤色、或いはいわく白色、音嬰児の如し」と記されています。
邪悪な妖狐としては14世紀に成立した神武天皇〜後花園天皇までの年代記『神明鏡』に鳥羽上皇に仕えた美女、玉藻前に化けた狐の物語が記されています。
けれど、玉藻前が「九尾の狐」であるとされたのは妲己が玉藻前の物語に取り入れられるようになった江戸時代以降。
読本作家の高井蘭山の『絵本三国妖婦伝』や岡田玉山『絵本玉藻譚』などの作品に登場しています。
『絵本三国妖婦伝』
玉藻前(たまものまえ)
九尾の狐は中国から天竺を経て、日本に渡来。宮中に入り、鳥羽上皇に仕える女官となって、玉藻前(たまものまえ)と呼ばれるようになります。
奈良時代、遣唐使・吉備真備の船に、若藻という名の娘が乗り込みます。
その後、平安末期、北面の武士坂部行綱の拾い子藻女(みずくめ)という名の美しい娘が鳥羽上皇に仕える女官となり、上皇の寵愛を受けるようになります。
あるとき、内裏で詩歌管絃の遊びがあり、その最中強風で蝋燭の明かりが消え、あたりが暗闇に包まれます。その時藻女の体が光り、その様が光り輝く玉のようであったためこのときから藻女は玉藻前と呼ばれるようになりました。
白面金毛九尾の狐
日本でも歴史に名の残る悪女が狐の化身とされています。それらの伝承や傾国の美女、妲己や華陽夫人、玉藻前が習合され、殺生石の伝承も加えられ、「白面金毛九尾の狐」が誕生します。
「白面金毛九尾の狐」は高井蘭山『絵本三国妖婦伝』に登場する大妖怪。
「金毛九尾の狐」、「三国伝来金毛玉面九尾」「九尾金毛の老狐」「三国伝来白面九尾金毛老狐」とも称される九尾の狐。
全ての妖狐の中でも最強と云われる強大な妖力を持ち、顔は白く、毛は金色に輝き、狐の姿あるいは狐の尻尾を持つ人間の姿をしているとも伝えられています。
世界が誕生する天地開闢の時、大陸が形成され、鳥や獣が生れる中で、陰気が凝り固まって誕生した狐であると語られています。
政木狐
『絵本三国妖婦伝』の高井蘭山と同じく、江戸時代の読本作家曲亭馬琴は瑞獣である九尾の狐に着目し、『南総里見八犬伝』の中で善獣九尾の狐「政木狐」を登場させます。
政木狐は1000年近く生きた雌の老狐。忍岡城の城代で恩人の河鯉守如の息子河鯉佐太郎の乳母政木を誤ってあやめてしまったため、政木に化けることになります。
けれどその正体が周囲に知られ、不忍池のほとりで茶店を開いて功徳を積んで九尾の狐となります。
成人した河鯉佐太郎の処刑の場に箙大刀自となって現れ、千人の命を救い「狐竜」となって昇天します。
アジアにある九尾の狐伝説
九尾の狐の伝説は日本、中国、インドだけでなく、ベトナムや朝鮮半島などの国々でも言い伝えられています。
朝鮮
朝鮮半島でも九尾狐はクミホ(구미호、九尾狐)と呼ばれる妖怪として知られています。
クミホは美少女に化けて男性の命を奪う化け物。人間になるために1000人の心臓や肝を喰らいます。
道士で学者の田禹治(チョン・ウチ)は実在の人物で、クミホに愛されたと伝えられています。クミホは亡くなる直前、彼に狐珠を贈り、田禹治氏はその効力を得て「この世の理致に到達した」と語られています。
ベトナム
ベトナムにも九尾狐(Cửu vĩ hồ)の存在が言い伝えられています。
九尾狐はハノイの西湖に棲んでいましたが、玄天鎮武神(真武大帝)によって倒されています。
玄天鎮武神(真武大帝)は北方を司る四神の最高位の霊獣・玄武が擬人化された神。
韓国ではドラマ、日本ではアニメで不動の人気、九尾の狐
最近では話題のドラマ「九尾狐伝(クミホ伝)」、「ゲゲゲの鬼太郎」では玉藻前の実弟で中国妖怪軍団の頭のチー、『NARUTO』の尾獣九喇嘛、『うしおととら』の白面の者、『妖怪ウォッチ』の凄まじい妖力で炎を操る妖怪キュウビ など、さまざまな作品に登場しています。
2020年本国で公開された韓国ドラマ「九尾狐伝(クミホ伝)」は、都市に定着した九尾狐(クミホ)と彼を追うプロデューサーの“怪談狩り”プロジェクトを描くドラマです。主演は美しすぎるイケメン九尾狐イ・ドンウクさん
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『無双OROCHI2』の九尾の狐は狐のような耳や尾をもつ玉藻前の真の姿
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東方Projectのキャラクター、「東方妖々夢」のExtraボス八雲藍は見た目美少女、妖怪八雲紫の式神。
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九尾の狐 まとめ
出典:deviantart
現実にも九尾の狐の化身ではないかと思うような人物は、結構身近にも存在します。
ただ、物語と現実の違いがあるとすれば、物語の狐は最後には正体を暴かれてしまいますが、現実での狐たちは意外に上手に立ち振る舞い、勝ち組になってゆくというところ。
のしあがるには悪に染まる覚悟も必要ということでしょうか。
とりあえず、個人的には、負け組でも心安らかに過ごしたいと思う境地に至りました💌