神話の世界では、それぞれの天地創造が語られています。
そしてインドでは乳海攪拌 (にゅうかいかくはん サムドラ・マンタナ)。
ディーヴァ(神々)とアスラ(魔族)が乳の海をかき混ぜ、
さまざまな誕生を産んでいます。
目次
乳海攪拌 、ディーヴァ(神々)とアスラ(魔族)が生む創造神話
乳海攪拌 (にゅうかいかくはん サムドラ・マンタナ)とは
乳海攪拌はインド神話の天地創造。
インド神話の主要なエピソードとして、古代ヒンドゥー教プラーナ文献(古き文献を意味する聖典の総称)、インド神話の2大叙事詩『マハーバーラタ』、『ラーマーヤナ』などで語られています。
不老不死の霊薬・アムリタを求め、ディーヴァ(神々)とアスラ(魔族)が乳海を攪拌。
太陽と月、神々、生物、宝物を生むという物語。
これによってアムリタを飲んだディーヴァ(神々)は不死になり、アスラ(魔族)はその機会を逃しています。
あらすじ
天地創造のきっかけは
偉大なリシ(神話・伝説上の聖者)ドゥルヴァーサスは起伏の激しい性格。
ある時、人間の王たちが助言を求めドゥルヴァーサスに美しい花で造った首輪をかけて手厚くもてなします。
ドゥルヴァーサスはそれを喜び、象に乗ったインドラにその花輪を与え、祝福を授けます。
花輪はプラサーダ(神聖な捧げ物)として扱われるべきスリ(幸運)の住処)
インドラはその花輪を象の鼻に飾りました。
けれど、その花には蜂を惹きつける強い香りがあり、困った象は花輪を地面に投げつけてしまいました。
それを見たドゥルヴァーサは激怒。
インドラとすべての神々からすべての力と幸運を奪う呪いをかけます。
その後神々はアスラとの戦いに敗北し、アスラが三界を制圧。
神々はヴィシュヌ神に知恵を求めます。
ヴィシュヌ神は「アスラと一旦は和解し、アムリタ(不死の甘露を)採取し。神々だけがアムリタを得られるようにすればよい」と答えます。
乳海の撹拌
アムリタ(不死の甘露)は乳海の撹拌によって作られました。
そして、それは大掛かりな作業でした。
マンダラ山を撹拌棒とするため、ヴィシュヌは竜王・アナンタに海の中にマンダラ山を運ばせました。
撹拌ロープには自分の取り分をもらえると約束されたシヴァの首に宿っていたナーガ(蛇)のヴァースキ。
マンダラ山が目的地に着くと、ヴァースキはマンダラ山に巻き付きました。
アスラが拒んだために、蛇の尻尾をディーヴァが持ち、アスラが頭を持ち撹拌が始まりました。
けれど山は大きすぎたため、海の底に沈んでしまいます。
そこでヴィシュヌはクルマ・アヴァターラ(亀)の姿となって甲羅で山を支えました。
カラクタを飲むシヴァ
攪拌が始まると海に棲む生物は全てすり潰されてしまい、山の木々は燃え、動物たちも死に絶えてしまいます。
インドラが火を消すために山に水をかけ、そのために木々や薬草のエキスが海に流れ込んでゆきます。
縄にされるヴァースキは苦しさのあまり口からハラハラという毒を吐きます、
シヴァはそれが海に流れ込み撹拌されるのを防ぎ、3界を守るため、その毒を飲み干します。
それによってシヴァの喉は青くなり、ニーラカンタ(『青い喉の者』、「ニーラ」は「青」、「カンタ」は「喉」 )という異名を授かります。
乳海撹拌から生まれたラトナ(宝)
1000年間、海はかき混ぜられ続け、まず太陽と月が生まれました
そして、多くの(文献によって異なります)ラトナ(宝物)が生まれ、それらはヴィシュヌ、シヴァ、ブラフマー、インドラ、そして、デーヴァ、アスラに分け与えられました
女神
- ラクシュミ ヴィシュヌの妻となった、繁栄と富の女神
- アプサラス ソーマ神に仕える半神半獣)の妻 水の精霊
- ヴァルニ ヴァルナ神の娘 酒(スーラ)の女神
- (ジェスタ(アラクシュミ) 不幸の女神)
- (ニドラデヴィ 眠りの女神)
動物
- カマデヌ ブラフマー神に与えられた牛の女神、あるいは願いを叶える牛
- アイラーヴァタ インドラに与えられた4本の牙、7本の鼻の白い象の王
- ウチャイシュラヴァス アスラの王バリ、あるいはインドラに与えられた7つの頭を持つ空飛ぶ馬
宝物
- カウストゥバ ヴィシュヌに与えられた蓮の色のルビー、宇宙で最も価値のあるラトナム(神聖な宝石)とされます。
- カルパヴリクシャ 決して枯れない花を咲かせる神聖な願いを叶える花木。
- チャンドラ シヴァの三日月、あるいは月の神
- パンチャジャニャ 吹くと創造の音を出すヴィシュヌの巻貝
- インドラが過去、未来、豊穣の女神・神々の母・アディティに贈ったイヤリング
最後に、神々の医師・ダンヴァンタリが不死の甘露・アムリタの入った壺を持って現れました。
ヴィシュヌの機転
アムリタの所有権をめぐって、神々とアスラの間で戦いが起こりました。
アスラたちはダンヴァンタリからアムリタを奪い、逃げ去ります。
そこでヴィシュヌが美しく魅惑的な魔法の女神・モヒニに化身。
モヒニはアスラたちを魅了しアムリタを取り戻します。
そして神々に配り、神々はそれを飲みました。
その際、ディーヴァになりすましたスヴァルバヌ(あるいはラーフ)というアスラがアムリタを飲み、太陽神・スーリヤと月神・チャンドラに気づかれてしまいます。
それを知ったヴィシュヌは右手に持つ武器スダルシャナ・チャクラ(円盤)でアスラの首を切り落としました。
そのアスラはアムリタを飲んだ首から上だけが不死となります。
告げ口したスーリヤ(太陽)とチャンドラ(月)を恨み、追いかけて飲み込みますが、体がないため太陽と月はすぐに外に出てしまう。
インド神話の日食と月食の起源となります。
騙されたと気づいたアスラたちは激怒。
アムリタを飲んで勢いづいていた神々に戦いを挑みます。
けれど若返った神々は勝利を収め、アスラたちをパタラロカ(冥界)に追放。スヴァルガ(天界)を取り戻しました。
乳海攪拌 (にゅうかいかくはん サムドラ・マンタナ) まとめ
神族と魔族が山をすりこぎ棒、蛇王を縄がわりにして海をかき混ぜ、宝物を生む。
インドの神々の姿もそうですが、天地創造も同様に奇想天外。
日食・月食の起源もナルホドなお話です💦