目を見開き、牙をむき出し、眉を逆立てた憤怒の表情でおなじみの不動明王。
仏教の中でもトップクラスの知名度を誇る不動明王ですが、何故、激怒しているのか分かる方はきっと少数なはず。
今回は、そんな鬼神・不動明王をご紹介します。
彼が何に何故怒っているのか、真相は意外なところにあるのです。
熱血な鬼神・不動明王
不動明王は密教の尊格である明王の一尊。梵名はアチャラ・ナータ。
降三世明王、軍荼利明王、大威徳明王、金剛夜叉明王ら五大明王の中心となる存在です。
起源は、ヒンドゥー教の最高神シヴァ神にあるとの説が有力視されています。
インドで生まれ、中国に渡り、日本に伝わった仏尊です。
明王とは、釈迦が悟りを開いた後の姿である大日如来の化身。
大日如来の命を受けて、仏教に帰依しない人々を力ずくでも帰依させ、救済しようとする仏教の守護神。
日本仏教の諸派および修験道で幅広く信仰されています。
仏の階級
ちなみに、仏の位は下記の階級に分かれています。
🔸「如来」
真理に目覚め、悟りを開いた最高位の仏
釈迦如来・阿弥陀如来・大日如来など
🔸「菩薩」
民を救う如来になる前段階
観音菩薩、地蔵菩薩、千手観音など
🔸「明王」
民を煩悩から守る仏
🔸「天部」
仏法と仏教世界の守護の役割を担う
明王とは
明王の「明」は、本来はサンスクリット語で「知識」「学問」の意味。
「明王」は「呪文の王者」を意味し、密教の尊格を言います。
明王の使命は最高仏尊大日如来の命を受け、悪をこらしめ、民を仏の教えに導くというもの。
そのため多くの明王は、従順でない者たちに対して恐ろしげな表情で調伏、教化するという命を果たします。
五大明王
五大明王は明王の中心的役割を担う5名の明王。
🔸不動明王
中心に位置する五大明王の主尊
🔸降三世明王(ごうざんぜみょうおう)
東に位置。顔が四面、腕が八本ある阿閦如来(あしゅくにょらい)の化身。
あらゆる煩悩を除く明王
🔸軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)
南に位置。顔が一面、腕が八本ある宝生如来の化身。
“生命力”“再生力”を表す体にいく体もの蛇を巻きつけています
あらゆる障害を除く明王
🔸大威徳明王(だいいとくみょうおう)
西に位置。顔が六面、腕が六本、足が六本の阿弥陀如来の化身。
神の使いとされる水牛に乗り、人々に災いを及ぼす敵を打ち破り、あらゆる災難を除く明王。
🔸金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)
北方に位置。顔が三面、腕が六本ある不空成就如来の化身。
「金剛」は邪心・悪心を打ち砕く堅固な智慧、「夜叉」は威徳を表します。釈迦如来の教にしたがって、悪心や汚れた心を除く明王
不動明王の表情には
不動明王は火生三昧 (かしょうざんまい) という炎の世界を住まいとします。
その炎で内外の障害やけがれを焼き尽し、人間の煩悩を断ち切り、すべての悪魔や敵を撃滅するのです。
その姿は、多くは青黒い肌で表現され、表情は、片目あるいは両目を見開き、牙を出し、下の上唇を噛んで憤怒を示しています。
頭は髪に七つ結ばれている「七莎髻」と称される髷(まげ)を結った姿。
この髷は、悟りを得るために必要な七つの修行である「七覚支(しちかくし)」を表しています。
あるいは、蓮華をかぶり、怒りで乱れる髪を一本に結って左肩にたらし、迦楼羅天という炎を背中に背負っています。
右手には、魔を退散させ、人の煩悩や因縁を断ち切る降魔の三鈷剣(さんこつがけん、三つ又の宝具剣)、または倶利伽羅剣 (くりからけん)。
左手には羂索(けんさく/けんじゃく)悪や人を縛り上げてでも煩悩から救い出すための投げ縄のようなものを持ちます。
大磐石座という堅い岩の上に座し、動かないことや知恵を示す「不動智」という教えを表します
その姿は怒りを表すことで迷いの世界から煩悩を断ち切るよう導く、人を救済しようとする厳しくもやさしい「顔で怒って心で泣いて」という姿なのです。
八大童子と不動三尊
八大童子
不動明王は、八大童子という8の眷属(けんぞく、従者)を従えています。
中国で撰述された「聖無動尊一字出生八大童子秘要法品」(「秘要法品」)には
八大童子(どうじ)が不動明王より生まれ、仏の智恵である四智、(金剛智、灌頂智、蓮華智、羯磨智)と四波羅蜜(金剛波羅蜜、宝波羅蜜、法波羅蜜、業波羅蜜)を具現化した八尊の童子であると記されています。
八大童子とは
- 矜羯羅(こんがら)童子
- 制多迦(せいたか)童子
- 恵光(えこう)童子
- 清浄比丘(しょうじょうびく)童子
- 恵喜(えき)童子
- 烏倶婆ガ(うぐばが)童子
- 指徳(しとく)童子
- 阿耨達(あのくた)童子
の8尊。
不動三尊
絵画や彫刻では矜羯羅童子と制吒童子だけを両脇に従えたものが多く、これらは不動三尊と呼ばれています。
不動三尊の場合、矜羯羅童子は右に控え、童顔で合掌しながら不動明王を見上げています。制吒童子は左に控え、金剛杵や金剛棒を持って、いたずらっ子のような表情を浮かべています。
お不動さん
不動明王は、9世紀、弘法大師 (空海) が中国から図像を持ち込んだことよって日本に伝来しました。
平将門の乱でなかなか屈服しなかった平将門を不動明王像を使って成田山で調伏したことや元寇を経て、人々に盛んに信仰されました。
現代でも「お不動さん」の呼び名で親しまれています。
不動明王自身より、武器や炎が注目されがち?
ゲーム「イナズマイレブン」には、不動明王をモチーフにした不動明王 (ふどうあきお) が登場。当初は悪役でしたが、物語が進んでいくに当たって、主人公たちの力になっていきます。
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太宰治の短編小説『地獄変』の題材となった、『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」では、主人公が不動明王の火炎を描くために、火事の中、燃え盛る家に妻子を置き去りにする様子が描かれています。人々は、主人公が妻子を犠牲にして描いた不動明王を、「よぢり不動」と呼んで賞賛しました。
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『妖怪ウォッチ』の不動明王は閻魔大王たちの力で封印されたフドウ雷鳴剣に宿る剣武魔神。トウマによって憑依召喚され『妖怪ウォッチ!』で妖魔一武道会に出場し、コマ母ちゃんと対決。コマ母ちゃんのボディープレスで押し潰され不動明王ボーイになっています。
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不動明王 まとめ
恐ろしげな表情から、戦の神様と誤解しそうな不動明王ですが、人々を啓蒙する存在だったなんて驚きですよね。
憤怒の表情で人々を力ずくでも仏教に帰依させようという姿は、熱血そのもの。
でも、現代でこんなことをすれば犯罪になってしまうかも
正義のヒーローが孤独で敬遠される存在になるのはありがちな話ではありますが。。。