
ジョージ・フレデリック・ワッツ 作
カオスとは「混沌」。
概念としては「混乱」した状態を表現する言葉と理解しています。
宇宙論でのカオスは、世界が誕生する直前直後の「予測不能な無秩序」な状態をいいます。
ギリシャ神話においては、世界を生んだ原初の神。
今回はその混沌、深淵(しんえん)とされる神話の中の「原初」に注目です。
ギリシャ神話のカオス、中国のフンドゥン、エジプトではヌー、ゲルマン神話のギンヌンガガプ、 世界卵。
世界で語られる「世界の始まり」とは
目次
カオス、ギリシャ神話の「混沌」

イワン・コンスタンティノヴィッチ・アイバゾフスキー作 1841年
カオスとは
カオス(chaos Kháos)は、ギリシア神話においては原初の神。
ヘーシオドスの『神統記』で世界の始まりに存在した神。
ヘーシオドスはカズム(裂け目)とも呼んでいます。
その名は「大口を開けた」「空の空間」の意味を持ちます。
けれど
⚫︎オルペウス教(古代ギリシアの宗派のひとつ)は、カオスは「有限なる存在全てを超越する無限」。
⚫︎古代ギリシャの哲学者・アナクシマンドロス(紀元前 610 年頃 - 紀元前546 年頃)は、「元素(水、空気、火、土)のように明確ではない、アペイロン(無限)を起源とする神聖で永続的な物質」としています 。
誕生と系譜

ヘンドリック・ゴルツィウス 作
誕生
◾️・古代ギリシャの詩人・ヘシオドスは叙事詩『神統記(テオゴニア)」「神々の誕生系譜」』(紀元前700年頃)
・古代ギリシャの哲学者・プラトン(紀元前427年 - 紀元前347年)は著書『ティマイオス』
の中で
「カオスとは、世界(宇宙)が始まるとき、事物が存在するコーラー(場所)として誕生した何もない「場」「空隙」。その中で大地(ガイア)や冥界(タルタロス)が存在を現した」
としています。
◾️ラテン語の著述家・ガイウス・ユリウス・ヒギヌス(紀元前64年頃- 紀元17年)は著書とされる『ファビュラ』(西暦 2 世紀頃 ラテン語の神話の手引書) の中で、
「混沌(カオス)は「霧 (カリゴ) 」から生じた」
としています。
系譜
◾️ ヘシオドスの『神統記』では、
「最初にカオスが生まれます(あるいは存在した)。
次に冥界・タルタロス、そしてエロースが生まれます。
カオスは、幽冥の神・エレボスと夜の神・ニュクスを生み、
ニュクス(夜)はエレボス(幽冥)との間に
- 高天の大気の神・アイテール
- 昼光の神・ヘーメレー(ヘーメラー)を生みます。」
◾️ヒュギノスの著『ファビュラ』では、
「カオス(混沌)はカリゴ(アキュリス 霧)から生まれ、
カオス(混沌)とカリゴ(霧)は、
- ノクス(ニュクス)夜
- ダイス(ヘメラ)昼
- エレバス(エレボス)闇
- エーテル(アイテール)光 を生みます」
◾️オルフェウス教は
カオスはクロノス(時間)とアナンケ(必然性)の子としています。
形状
ギリシャ語のkháos は「空虚、裂け目、深淵」。
空間、あるいは無限の闇を意味します。
◾️ ヘシオドスのカオスは「大地と天空が分かれたとき、大地の上にできた空虚」または「大地の下に開いた空間」と解釈されてきました。
◾️ シロスのフェレキュデス(紀元前6世紀 古代ギリシアの神話学者で哲学者)は、混沌を「水のように、区別できる形のないもの」としています。
所在
ギリシャ神話において世界は「地表下は無限に下方に伸び、その根は冥界の下層であるタルタロスの上まで延びている」と考えられていました。
◾️ ヘシオドスの『神統記』では、カオスは大地の下、タルタロスの上に位置していると解釈されています。
ヘシオドスはカオスを子供を生む擬人化された神としていますが、同時に「はるか遠くの地下の陰鬱な場所」でもあり、その向こうにはティタン族が住んでいるとしています。
◾️ 古代ギリシャの哲学者・クセノファネス(紀元前6世紀)によれば、
「地球の上限は地上の空気と接し、下限はアペイロン(無限)まで達する。万物の源と限界は、無限に見える大きな風の裂け目に位置している」としています。
世界の原初
アブズー , ティアマト、原初の水(メソポタミア神話)

エヴリン・ポール作 マルドゥク(右上)がティアマト(下)を倒す『バビロニアとアッシリアの神話と伝説』、1916年
メソポタミアの創造神話は創世記叙事詩『エヌマ・エリシュ』(紀元前18世紀~紀元前12世紀) で語られています。
世界は原初の海の女神・ティアマトと淡水の神・アプスーの交わりで生まれます。
二柱は多くの神々を生みます。
けれど、神々の喧騒を嫌ったアプスーが神々を滅ぼそうと考え、戦いが始まります。
知恵の神エア(エンキ)は魔法でアプスーを眠らせて殺し、妃との間にマルドゥクをもうけます。
アヌにより贈られた4つの風で遊ぶマルドゥクにティアマトの中に棲む神々はますます眠れなくなり、アプスーの死への復讐を企てるティアマトとマルドゥクとの戦いとなり、マルドゥクがティアマトに勝利。
マルドゥクは、敗れたティアマトの死体を二つに裂き、上半身で「天」を、下半身で「地(地球)」を創りました。
アビス。深淵(旧約聖書)
アビスとは「深淵」
旧約聖書『創世記』に記される底知れぬほど深い、あるいは果てしない場所。
原初の水または混沌を指すものとされます。
アビス→
ギンヌンガガプ 、虚無(北欧神話)
ギンヌンガガプ は北欧神話で語られる原初の虚無。
『散文のエッダ』「ギュルヴィの惑わし」や『古エッダ』の中で語られる「巨大な空虚」または「奈落」。
ユミルが生まれる以前に存在していた巨大で空虚な裂け目をいいます。
その名は「口を開ける」または「あくびをする」を意味し、「口を開けた深淵」、「あくびをした虚無」と解釈されています。
ギンヌンガガプ は北にある氷の国・ニヴルヘイムからの厳しい寒気と、南にある灼熱の国・ムスペルヘイムから吹き付ける耐え難い熱気がぶつかり合う地。
ムスペルヘイムからの熱と火花は太陽、月、星々を創造。
熱気が霜に触れ、霜から垂れた氷の滴が毒気となり、その毒気はユミルを生みます。
滴からは牝牛のアウズンブラも生まれ、ユミルはアウズンブラの乳から流れる4つの乳の川を飲んで生き延びます。
そのアウズンブラがなめた氷塊から、1日目に髪、2日目に頭、3日目に全身が姿を現し、オーディンの祖父となるブーリが生まれました。
のちにオーディンらによってユミルは殺害、ギンヌンガガプはユミルの血で満たされたとされます。
フンドゥン(混沌 ) (中国神話)

『山海経』の顔のない帝江
フンドゥン(混沌 渾沌)は中国神話で語られる「伝説上の顔のない存在」。
中国の宇宙論の「根源的で中心的な、天地が分かれる前の混沌とした状態」から、「理解不能、乱雑な、無邪気な」という意味が含まれた存在となって、中国神話では神または怪物として語られます。
◾️『荘子』(中国戦国時代中期(紀元前4世紀頃)に成立したとされる荘周著、道家の思想書)では、目、鼻、口、耳、ほか、七孔が無い帝。
◾️『山海経』(紀元前4世紀 - 3世紀頃成立、中国最古の地理書)では天山の神・帝江(ていこう)と同一視され、のっぺらぼうの体が黄色い袋の様で、六本の脚と四つの翼を持つ、これが渾沌神本来の姿とされます。
◾️『春秋左氏伝』(紀元前700年頃〜450年、孔子の編纂とされる歴史書『春秋』の注釈書の1つ)では「渾敦」。
帝鴻氏の子で、四凶(四柱の悪神)一柱。
◾️『神異経』(漢の思想家・東方朔(とうほうさく)の著作とされる、古代中国の地理・神話・怪異をまとめた地誌的書物)には、「犬のような姿で、見えない目、聞こえない耳、いつも自分の尻尾を咥えてグルグルと回り、空を見ては笑っていたとされる、善人を忌み嫌い、悪人に媚びるという怪物」とされます。
ヌー 水の深淵(エジプト神話)
エジプトの創造神話は幾つか説があります。
その中の一つで
ヌー (ヌン)は創造神・アトゥム、あるいは創造主である太陽神ラーが生まれたとされる原初の水の深淵、その擬人化。
八位一体の創造神オグドアドの一柱。
最初の土地の丘はヌーの水から現れます。
ヌーは、世界に現れるすべてのものの源であり、そこから神と地上のあらゆる存在が生まれます。
オグドアド
オグドアドは4組の夫婦神で、男性神がカエル、女性神はヘビの頭を持つとされる8柱の創造神。
- ナウネトとヌン、 原始の水を象徴する
- アマウネトとアメン、空気または見えないもの
- ハウヘトとヘー、 不滅または無限の空間
- カウケトとケク 暗闇
これらの8柱は原始的で混沌とした水の中に存在し、各夫婦がそれぞれ世界の創造に関わる役割を果たしています。
世界卵(宇宙卵)

ジェイコブ・ブライアント著『古代神話の新体系または分析』(1774年)「ティルスの住民の蛇と世界の卵」
世界卵(宇宙卵)は、世界各地、多くの宇宙論に見られる「原初の形」とされるモチーフです。
通常、卵が「孵化」することで、宇宙が生まれる、あるいは宇宙を創造する原始的な存在が生まれ、卵の外の殻は天(大空)になり、内の卵黄は地球になります。
◾️中国
中国神話の創造神・盤古は卵の中身のように混沌とした状態のなかで生まれました。、
卵を粉々に砕き、誕生。
天と地が生まれています。
◾️インド
『シャタパタ・ブラーフマナ』(紀元前800年頃に作られた、バラモン教の聖典の一つ)では、創造神・ブラフマーと同一視される プラジャパティ神が卵から生まれています。
また、ブラフマー自身も一説では自身を黄金の卵「ヒラニヤガルバ」として原初の海に解き放ち、その卵が割れて宇宙を創造しています。
◾️西アフリカ
ブルキナファソのドゴン族の創造神アンマは、宇宙のすべてが内包された「楕円形の卵(アンマの卵)」の姿をした神。
カオス、さまざまな物語が生まれる「混沌」、ゲームやアニメでもボスキャラ
映画・ドラマ
『カオス』は2005年公開、ジェイソン・ステイサム、ウェズリー・スナイプス主演のクライム・アクション。
銀行立てこもりの不可解な事件の中、刑事と犯人との知能戦が繰り広げられます。
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『ロード・オブ・カオス』2019年公開。
ブラックメタルバンド「MAYHEM」の狂気と犯罪が引き起こすカオスを描いた作品。
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『カオス・ウォーキング』2021年公開のSF作品
考えが「ノイズ」として可視化され、誰もが互いの秘密を知ってしまう混沌とした世界が描かれています。
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アニメ・ゲーム
人気アニメ『そらのおとしもの』のカオスはイカロスの破壊を目的に、ミーノースが作った高速で成長を遂げ、夢に入り込むことが可能な第二世代エンジェロイド。
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「ファイナルファンタジーシリーズ」のカオスは第一作目のラスボス。光の4戦士に討伐されたガーランドが世界を闇に閉ざした黒幕となって再登場します。
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『セーラームーン』のカオスは星々が誕生する領域『ギャラクシーコルドロン』に巣食うシャドウ・ギャラクティカの支配者。
すべての敵の元凶となる「暗黒のエネルギー生命体」です。
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『ガンダムシリーズ』のカオスは『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に登場するモビルスーツ。
ユニウス条約締結後、ザフトが開発した次世代試作MS群「セカンドステージシリーズ」の1機。
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『キン肉マン』ではカオス・アヴェニール。
『キン肉マンⅡ世』の最終章「究極の超人タッグ編」に登場。
世界五大厄を倒すために、未来(21世紀)のアベニール王国からタイムワープしてきた来た正義の「時間超人」。
3代目キン肉マングレート(グレートIII)となって活躍しています。
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カオス、フンドゥン、ヌー、ギンヌンガガプ 、混沌、深淵、卵、世界で語られる「原初」 まとめ

ヴェンツェスラウス・ホラー作「混沌」
世界の始まりは「混沌」であったり、「深淵」や「卵」、「水」、国や宗教によっていろいろな姿をしています。
この場合、世界=宇宙なんで、専門知識のない一般人如きにマクロな世界観は理解し難いものがあります。
けど、宇宙がビックバンによって生まれたとするなら、その元となったのは「カオス(混沌)」や「宇宙卵」という表現はアリなのかなって思います。



