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ギリシャ神話・伝説 神・英雄・怪人

エリス、トロイア戦争の原因を作った不和の神

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ニコラ・プッサン作「嫉妬と不和の攻撃から真実を守る時間」(1641年)

世界には殺戮を好む神々がいます。

太古メソポタミアのイシュタル、インドのシヴァ神、ケルトのマッハ

 

そして個人的に最も恐ろしいと思えるのはじつは、ギリシャ神話のエリス。

トロイア戦争のきっかけを作ったことで有名な不和の神です。

 

不和の神がなぜそんなに怖いのか

エリスの凄まじい実態を探ります。

 

 

エリス、多くの陰惨な神々を生んだ、残忍で争いを楽しむ有翼の女神

紀元前520年頃

エリスとは

ヨアヒム・ウテワール作『ペレウスとテティスの結婚』

エリス(Eris)は争いと不和を司る女神

トロイア戦争のきっかけを作ったことで知られる、ギリシャ神話の中で最も嫌われた女神様です。

 

軍神アレスの妹、もしくは夜の女神ニュクスの娘とされ、殺戮の女神エニューオー、ローマ神話のディスコルディアと同一視されます。

 

日常のもめ事から国家間の戦争に至るまで、あらゆる不和をもたらす神

その一方でヘシオドス(紀元前8世紀叙事詩人)の『仕事と日々』では戦意を喚起させる「闘争心」を司る女神としての側面も語られています。

 

ウェルギリウス (紀元前70年 - 紀元前19年 ラテン語詩人)によると、冥界の門の近くにあるニレの巨樹で夢の神・オネイロスや冥界の神々とともに暮らすとされます。

 

家族

エドワード・バーン・ジョーンズ作「ペレウスの饗宴」

両親
  • ホメーロス(紀元前8世紀の吟遊詩人)の叙事詩『イーリアス』では軍神アレスの妹

主神ゼウスとヘラを両親に持つ神となります。

  • ヘシオドス(紀元前8世紀叙事詩人)の『神統記』では夜の女神ニュクスが一人で生んだ女神
  • ヒュギーヌス(紀元前1世紀のラテン語の著作家)の『神話集』では夜の女神・ニュクスと闇の神・エレボスの娘

とされています。

 

兄弟

ニュクスの娘であるエリスの兄弟には

 

子供

ヘシオドス(紀元前8世紀叙事詩人)の『神統記』では子供達の父親の言及はなく、エリスも母親のニュクスと同様、一人で子供を生んだものと考えられます。

その子供たちは母親エリスの不和が生む、様々な不幸が擬人化されたもの

  • ポノス 労苦
  • レテ 忘却
  • リモス 飢餓
  • アルゴス 苦痛
  • ヒュスミネ 戦闘
  • マケ 戦争
  • ポノス 殺戮
  • アンドロクタシア 殺害
  • ネイコス 紛争
  • プセウドス 虚言
  • ロゴス 空言
  • アムピロギア 口争
  • デュスノミア  無法
  • アテ 破滅
  • ホルコス 怨念
  • ポイネ 復讐
  • ヒスミノ- 羨望

など

 

容姿

容姿についても諸説語られています。

  • 有翼の女神
  • 蛇の頭髪
  • 戦場においては血まみれの鎧と槍で武装している

 

混沌を生み出す白いドレスに乱れた髪の若い女性として描かれることもあれば、黒衣をまとった陰湿な老女としても描かれています。

多くの場合、エリスを象徴する黄金の林檎やキシフォス(片手剣、両刃の短剣)を持って描かれています

 

そして、

  • 火炎の息を吐く神
  • 争いを養分にして巨大化し天にとどくほどの巨体となって戦場を支配すると伝えられています。

 

性格、神格

古代、エリスは秩序ある宇宙を脅かすあらゆるものが擬人化された神として恐れられていたとされます。

性格は嫉妬心が強く、執念深く、陰湿で好戦的、野蛮で残忍

 

人のつながりに不信と不和をもたらし、争いへと駆り立てて楽しみます

夫婦間では愛を失わせ、国家間では戦争を招き、狂喜する。

一説には彼女の性格は、両親であるゼウスとヘラへの不信感が影響したともされます。

 

その一方で、ヘシオドス(紀元前8世紀叙事詩人)は『仕事と日々』の中で、敵対するものへの闘争心を掻き立て、向上させるエリスの側面も語っています。

 

トロイア戦争でのアキレウス、ヘクトールなどの英雄を生み出す神」

]ホメロスのイリアス』では、アテナやアキレスの武具にはエリスはアルケ(勇気)やケル(運命)など、他の戦闘に関係する神々と共に描かれている

ヘラクレスの盾にはフォボス(恐怖)の頭上を飛んでいるエリスが描かれていると語っています。

 

戦場でのエリス

戦場においてのエリスはアレスの戦車に同乗し、アレスの子ディモス(恐怖)とフォボス(敗走)を従えて、共に戦場を巡ったとされます。

『イリアス』でのエリスは「軍勢を奮い立たせ」戦いを促す神。

戦場の中央で全ての兵士に響き渡る、戦意を奮い立たせる咆哮をあげます。

その声に兵は己を忘れ、ひたすら敵に挑みかかります

 

 

トロイア戦争とエリス

ヤコブ・ヨルダーンス作「不和の黄金の林檎」(1633年)

トロイア戦争を描いた叙事詩は

  • 『キュプリア』紀元前7世紀、トロイア戦争の前日譚
  • 『イリアス』紀元前8世紀、トロイとギリシャとの戦いを描いたホメロス著

があります。

 

『キュプリア』では

トロイア戦争のきっかけとなった前日譚が語られています。

英雄ペレウスと海の女神テティスの婚礼に際し、全ての神々が招かれる中、ただ一柱不和の神であるエリスだけが招かれませんでした

怒ったエリスは祝宴の席に「最も美しい女神へ贈る」と書かれた黄金の林檎を投げ入れます

その林檎を持つ資格のあるものをめぐってヘラアテナアプロディーテーが対立

その裁定をゼウスは羊飼い(トロイアの王子)パリスに委ねます。

その結果は最も美しい女性を与えるというプロディーテーが勝利(パリスの審判)

これがトロイア戦争のきっかけとなります。

 

『イーリアス』では

トロイア戦争でのエリスが語られています。

アレスはトロイア側、アテナとヘラはギリシャ側として加勢しますがエリスはただひたすら兵士達の殺戮を楽しみます

勝敗には関わらず、両軍の兵士に戦意を与え、両者の自滅に策略を巡らせます

 

負傷者、死者の見境なく鷲掴み、天を突く死の大槍を振りかざし、全てを焼き尽くす火焔を吐きながら戦場を渡ります。

血みどろの殺戮と、人々の呻吟を養分に巨大化したエリスは血に染まった翼をはためかせ、歓喜の雄叫びをあげ、凄惨な戦場に響き渡らせます

 

 

物語、作品の中のエリス

イソップ寓話

アイソーポス(イソップ)紀元前6世紀の「ヘラクレスとアテナ」の中にもエリスは登場しています。

ヘラクレスは旅の途中、道に落ちている林檎に似たものを踏み潰そうとします

するとそれは倍の大きさに、さらに強く踏みつけ、こん棒で殴りつけると、さらに道を塞ぐほどの大きさにまで膨れ上がってしまいます

そこにアテナが現れ、警告します。

「それはアポリア(困惑)とエリス(争闘)

敵意を持たなければ小さいままですが、力で押さえつけようとすると大きく膨れ上がるのです」と。

 

『変身物語集(メタモルフォーシス)

紀元2世紀 解放奴隷アントーニーヌス・リーベラーリス著

イテュスという息子をもつ、大工のポリテクノスとアイドンはゼウスとヘラよりも幸せだと自慢するほどに仲睦まじい夫婦

けれどその暴言にヘラは怒り、ふたりにエリスを差し向けます

 

エリスは戦車の立板を作るポリテクノスとタピストリーを編むアイドンに、先に仕事を完成させた者に奴隷を与えるという勝負を持ちかけます。

ヘラはアイドンを勝利に導きます。

ポリテクノスはこれを怒り、アイドンの妹ケリドンを強姦。奴隷にしてアイドンに与えます。

奴隷が妹であったことに気づいたアイドンは息子イティスを切り刻みポリテクノスに与えます。

この惨状を憂い、ゼウスはエイドンをナイチンゲール、ポリュテクノスをペリカンに変えます

 

眠れる森の美女

アレクサンダー・ジック作

『眠れる森の美女』の王女が眠りにつくのは祝宴に招かれなかった魔女が呪いにかけたためという物語は、エリス不和の神であったためにペレウスとテティスの祝宴に招かれなかったところから着想を得ているとされています。

 

ちなみに眠れる森の美女』はヨーロッパの民話

民話の中ではエリスにあたる魔女は登場していません

その後

フランスの作家シャルル・ペロー『眠れる森の美女』の中で

子供の洗礼式に招かれた7 人の善良な妖精と、その存在が忘れられた年老いた妖精が登場。

招待されなかった8人目の妖精が死の呪いをかけています

 

グリム版『いばらひめ』では

国内の魔法使いを祝宴に招待しますが、国内に魔法使いが13人いたにもかかわらず、彼らをもてなす金の皿が12枚しかなかったため、13人目の魔法使いだけが招待されませんでした

 

 

エリス、アニメの世界では馴染みの人気キャラ(?)

カードゲーム『遊戯王』のエクソシスター・エリスは自分フィールドに「エクソシスター」モンスターが存在する場合に発動できる光属性の魔法使い族。

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『無職転生』のエリス・ボレアス・グレイラットは主人公ルーデウスと旅をすることになる上級貴族の令嬢。

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『聖闘士星矢』シリーズのエリスは相沢絵梨衣に憑衣する黄金の林檎に封印されていた邪神。

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『ソードアート・オンラインエンドワールド』のエリスは片手剣ディスコルディアを装備する《才気の導き手》、主人公が最初に出会うメインヒロインです。

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『ロマンシングサガ』のエリスはデスを冥府に落とすため、光の神エロールに愛の神アムトと共に作られた銀の月と獣の神。

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エリス まとめ

ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー作「ヘスペリデスの庭で争いのリンゴを選ぶ不和の女神」(1806年)

蛇の頭髪、血みどろで、炎を吐き、大地を揺るがす咆哮で兵士を狂わせ、天に届くほどに巨大化し、戦場を翔る。

エリスを筆頭に、人の生贄を望むイナンナ、死者の上で踊るシヴァ、死者の血を啜るマッハ

 

どの神々も、悪魔も逃げ出すのではないかと思えるほどに凄まじいです。

 

 

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