赤い顔に高い鼻、背中に翼を生やし団扇を持った大男。空を飛び、人に化け、団扇の一振りで強風を引き起こす。
天狗と呼ばれる彼らは、神としても扱われる伝説上の生物、日本を代表する妖怪です。いにしえから存在するこの妖怪は現代でもアニメやゲームで人気のキャラ。
そこで、日本の歴史に寄り添ってきた魔妖、天狗について、一歩踏み込んでお話ししていきたいと思います。
目次
天狗。人の世に波風をたてる魔妖
天狗は神あるいは妖魔ともいわれる伝説上の生物です。
羽扇(あるいはヤツデの葉)をもち、一本下駄を履いた山伏の装束。
赤ら顔で鼻が高く、翼があり、空を飛ぶことができます。人を魔道に導く魔物とされ、外法様とも言われます
天狗の発祥
天狗という言葉は中国では凶事を知らせる流星を意味します
中国の『史記』には天狗は天から地上へと災禍をもたらす凶星として記され、恐れられていました。
天狗とは「天の狗(=犬)」
天空から尾を引き落下する光を「天の狗(いぬ)」「天狗」と呼ばれるようになったと言われます。
「天狗」という文字は西暦720年の奈良時代に成立した「日本書紀」に初めて出てきます。しかし日本書紀の時点では「天狗(あまつきつね)」と読み、流星のことをさしていました。
妖怪としての天狗は、平安中期の「宇津保物語(うつほものがたり)」で山の精である木霊のようなものとして登場します。
十二世紀前半に編まれた「今昔物語集」で、いよいよ天狗はその大きな翼を広げ始めます。仏様に化けて民衆を騙したり、讃岐の国(香川県)の満濃池に住まう龍王を山のてっぺんに連れ去って困らせたり、といった天狗の活躍ぶりがいきいきとえがかれています。
人々は犬に月と太陽を追いかけさせた。
しかし、月神と太陽神はすでに薬を飲んでいたので、犬が月と太陽を噛んでも噛んでも、月と太陽は死なない。
それでもこの犬は諦めない。常に月と太陽を食う。それで、日食、月食が起こるのである。 — 『紅河イ族辞典』より
天狗の誕生
「天狗」という文字は西暦720年の奈良時代に成立した「日本書紀」に初めて登場します。けれど日本書紀の時点では「天狗(あまつきつね)」と読み、流星のことをさしていました。
奈良時代、呪術者役小角((えんの おづぬ)の山岳信仰と習合。
傲慢な山伏が死後に転生したものとされ、天狗道が魔界の一種として解釈されます。民は山地を異界として畏怖し、そこで起きる怪異な現象を天狗の仕業と呼ぶようになります。
平安中期の「宇津保物語(うつほものがたり)」では山の精である木霊のようなものとして登場。
十二世紀前半に編まれた「今昔物語集」で、いよいよ天狗はその大きな翼を広げ始めます。仏様に化けて民衆を騙したり、讃岐の国(香川県)の満濃池に住まう龍王を山のてっぺんに連れ去って困らせたり、といった天狗の活躍ぶりがいきいきとえがかれています。
天狗の正体
天狗は元は人間が転生した存在。
■自分の能力を過信した僧侶
大罪を犯してはいないので地獄に落ちることはないものの、悟りを開くこともできないので人間界に転生したもの。
■恨みを残して死んだ貴人の怨霊
『太平記』では、非業の死を遂げた要人が、敵方の武士達に取り憑いて「観応の擾乱」を起こしています。
天狗の性格や能力
人が立ち入れないような山奥に住まい、土砂崩れなどの天候を操る能力があるとされ、密教などの宗教ともつながって、山の加護や神通力を願う信仰の対象ともされていました。
人を惑わせるようなイタズラを好み、世の安定を嫌い、人々が動乱の中であわてふためいている様を楽しむ性格があると思われていました。
けれど山中で迷子となった者を里までを送り届ける、不思議な力を与えるなど山の神としての側面も持ち合わせているとされています。
天狗にもある種類や階級
高い鼻の鼻高天狗(はなたかてんぐ)と、大きなくちばしを持つ鴉天狗(からすてんぐ)の二つに大別され、どちらも人知を越えた力をもっています。
特に鼻高天狗は大天狗として天狗の中でも特に強い神通力を有するといわれています。
天狗の中の天狗ともいわれた、愛宕山太郎坊(あたごやまたろうぼう)など、山の神様として信仰を集めている天狗もいれば、崇徳上皇(すとくじょうこう)のように魔王のごとく扱われている天狗もいます。
これら名のある天狗たちは大天狗。
大天狗に従っている天狗たちには烏天狗や小天狗などがいます。
そのほか、
- 歳をとった狼がなると言われる白狼天狗(木の葉天狗)。
- 人間の女性に変化する美しい容姿の女天狗(飛天狗)
- 日本各地に存在する八天狗
- 狗賓 狼の姿に犬の口を持つ天狗
などがいると伝えられています。
天狗のアイテム
天狗は千里を見渡す遠眼鏡と周囲に溶け込む隠れ蓑かさ(かくれみのかさ)、そして羽団扇を持っているとされています。この羽団扇に使われている羽は天狗自身の羽といわれ、十一枚の羽で一つの団扇になります。(羽の数は九枚とも十三枚ともいわれます。)
天狗はこの団扇で空を飛び、大火事を起こします。
天狗と山伏
天狗は多くの場合、山伏の格好で描かれます。
人々は山での修行に明け暮れ尋常ではない雰囲気を漂わせていた山伏たちと、山に住みさまざまな超人的な能力を使う天狗とを、重ねてイメージするようになります
これが現在でも思い描かれる天狗のイメージにつながっています。
天狗にまつわるエピソード
有名なエピソードとして、かの源義経(みなもとのよしつね)が牛若丸であった少年時代、武芸と兵法を教えたことで有名なのが鞍馬天狗。
京都の五条大橋で武蔵坊弁慶と対峙した際、怪力無双の弁慶の攻撃を舞うようにかわしてみせた義経。鞍馬山の天狗たちの教えによって、人並み外れた身軽さを体得したのだといわれています。
ちなみに天狗たちが義経を指導した理由を、謡曲「鞍馬天狗」では、平和な世の中が面白くないので平家を滅ぼしてほしいから、と説明しています。
天狗、ゲームやアニメでもお馴染みのキャラ
天狗はその親しみやすい身体的、性格的な特徴からゲームやアニメのキャラクターとしても多くの作品に登場します。
スマートフォンアプリ「モンスターストライク」では「鞍馬天狗」というキャラクターがでてきます。義経にまつわる天狗伝説をモデルにしているようで、味方の戦闘力を向上させる能力を持っています。
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「仮面ライダー響鬼」の天狗は頭部から胸にかけて濃い体毛に覆われており、口はクチバシのように尖っている。また、背の翼を展開して飛行することも可能。
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「うる星やつら」のクラマ姫はクラマ星のカラス天狗一族の女王。諸星あたるにキスされたため「目覚めのキスをした男と契らなければならない」という一族の掟を挫折。
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ソーシャルゲーム「陰陽師」の大天狗は笛が得意で、その笛で人の心を落ち着かせる、トップクラスの火力を持つ全体攻撃スキルを持つ式神
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現代の京都を舞台にした森見登美彦(もりみとみひこ)原作のアニメ、「有頂天家族」では今でも天狗が我々人間の社会で楽しく暮らしている様子が描かれています。天狗の一人が少女を連れ去り、空を飛ぶ力を教える話がでてきたりします。
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天狗 まとめ
出典:deviantart
誰でも一度は聞いたことがある、日本を代表する妖怪、天狗。
いたずら好きで世を混乱させたかと思えば、霊山のぬしとして威厳をもって扱われることもある不思議な存在です。
自由に空を飛び回る天狗は、当時の人々の恐怖の対象でしたが、同時に人々の願望の具現化でもあったと思います。
一見恐ろしげな風貌の天狗がどこか明るく身近に思えるのは、自分も空を飛びたい、退屈な日常を変えてほしい、と多くの人たちが願っているからかもしれません。