ぬらりひょんはお馴染みの妖怪。
「ゲゲゲの鬼太郎」や「地獄先生ぬ~べ~」のイメージで大物の悪役を想像します。
けれど、その誕生は古く、平安・室町時代から伝えられる「とらえどころのない妖怪」。
色々な文献や作品で様々に伝えられる謎の妖怪。
そこで、ぬらりひょんとはいかなる妖怪なのか。
なぜ、妖怪の総大将といわれるのかその由縁を探ります。
意外なぬらりひょんの正体とは?
目次
ぬらりひょん、様々に伝えられる古来の妖怪
ぬらりひょんとは
ぬらりひょんは、伝承や文献で語られる日本の妖怪。
漢字で「滑瓢」滑る瓢箪と書きます。
「ぬらり」は「滑る」、「ひょん」とは「瓢箪のようにつかみどころの無い」「思いがけない」「意外な」と言った意味。
その名の通り「掴み所のない妖怪」とされ、各地の伝承や多くの文献の中でその生態や容姿も様々に語られています。
百鬼夜行する妖怪、海坊主の類、妖怪たちの総大将ともいわれます。
生態
近年のぬらりひょんは「妖怪図鑑」などで「歪で大きな頭の老人」と解釈されています。
夕刻どきなど、家人が忙しくしている時にどこからともなくやって来て、上がり込み、茶を飲んだり煙草を吸ったりするお爺さん。
皆が「この家の主」と思い込み、誰も不審に思わない、またはその存在に気づかない。
何を目的に人前に現れるのかは不明。
そんなところからもとらえどころのない妖怪とされています。
『その家の主人のように振る舞う不遜な態度』から妖怪の総大将ともいわれます
ただし、このようなぬらりひょんの伝承は文献などには記されておらず、これらのイメージは江戸時代の画家・浮世絵師・鳥山石燕の画集「画図百鬼夜行」の「ぬらりひょん画」から推測され、近年に生まれたものと解釈されています。
容姿・正体
その他、ぬらりひょうんの容姿や正体については幾つもの伝承や文献で様々に語られています。
- 岡山県の伝承では「海坊主」の一種とされています。
- 一説には「ぬらりひょんは、神棚に祀られ、迎え入れられていた客人神(まろうどがみ)が妖怪化したもの。
江戸時代に描かれた妖怪絵巻などにその姿が多く確認できます。
- 浮世草子『好色敗毒散』では「その形ぬらりひょんとして、たとえば鯰に目口もないようなもの、あれこそ嘘精なれ」目や鼻や口がない、のっぺらぼうのような妖怪と記されています。
- 後期の妖怪絵巻物の一つ『化物づくし』『百怪図巻』では、歪な禿頭の老人。
- +絵師・鳥山石燕の『画図百鬼夜行』で描くぬらりひょんも駕籠から降りる歪な頭の老人。
また、江戸時代に「駕籠から出る様」を「ぬらりん」、「遊郭通いの遊び人」を「ぬめり者」と言い、ぬらりひょんは「駕籠で遊郭通いする放蕩者」を意味していたとも言われています。
発祥
江戸時代の旅行家・博物学者の管江真澄の著作『管江真澄遊覧記』では秋田県出羽国にある「『さへの神坂には』ぬらりひょん、おとろし、野槌なんど百鬼夜行することありと、化物坂といふ人あり」と記されています。
「百鬼夜行」は平安時代から室町時代にかけて語られてきた説話。
また、江戸時代の国語辞典『俚言集覧』には「古法眼元信化物画」と記され、古法眼元信がぬらりひょんを描いていたことがわかります。
その古法眼元信とは室町時代の絵師・狩野元信の後世の通称。
これらの文献から、ぬらりひょんは平安時代・室町時代から語られて来た妖怪であることが推測されます。
伝承
🔳 岡山県
岡山県でのぬらりひょんは備讃瀬戸(備讃灘)に出没する海坊主の類の妖怪。
人の頭ほどの大きさの球状の妖怪。
海面を沈んだり浮かんだりを繰り返し、捕まえようとするとするりと逃げて、人をからかうといいます。
「ぬらり」とすり抜けて、「ひょん」とまた浮いてくる、このことからこの名がついたとされています。
🔳 秋田県
江戸時代の旅行家・菅江真澄の著作「菅江真澄遊覧記」の『雪の出羽路』では、
『此さへの神坂を雲深くあるは小雨そぼる夕ぐれなんど通れば、男は女に逢ひ女は男に往き会う事あり、又ぬらりひょん、おとろし、野槌なんど百鬼夜行することありと、化物坂といふ人あり』
「雲の深い日、あるいは小雨の夕暮れ時にさへの神坂を通ればぬらりひょん、おとろし、野槌などが百鬼夜行するところに出くわすことがあるので、化物坂と呼ばれる」と記されています。
ちなみに「さへの神坂」は秋田県雄勝郡稲庭郷(現在の湯沢市稲庭町沢口地区)にある坂。
作品に残るぬらりひょん
『化物づくし』『百怪図巻』鳥山石燕の『画図百鬼夜行』以外にも、ぬらりひょんは多くの絵巻物で描かれています。
- 江戸時代中期の画家佐脇嵩之による絵巻物『百怪図巻』
- 尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』
けれど、解説文が無いためにどのような妖怪を意図したかは不明。
近年の作品で定着したぬらりひょんのイメージ
怪奇作家・オカルト研究者佐藤有文や小説家で詩人の山田野理夫は作品の中でぬらりひょんを座敷童のような神格や精霊として紹介しています。
原作:真倉翔、作画:岡野剛の漫画『地獄先生ぬ~べ~』では客人神。
漫画家の水木しげるは『妖怪事典』の中で、「妖怪の総大将だが特に悪い妖怪ではない」と記述。『ゲゲゲの鬼太郎』では妖怪の纏め役として登場しています。
近年のぬらりひょんのイメージはこれらの作品によって作られ、定着したものとされます。
作品によっては最強、美形な、現代のぬらりひょん
『ぬらりひょんの孫』ぬらりひょんの孫奴良リクオを主人公に百鬼夜行する妖怪達との戦いを描く任侠怪奇ファンタジー。この中でのぬらりひょんは「魑魅魍魎の主」の称号を得た関東妖怪総元締「奴良組」の初代組
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『妖怪ウォッチ』のぬらりひょんは長身で長い白髪、修験僧のような出立ちの美形。犬まろ・猫きよの妖怪を従えるエンマ大王・煌炎の側近で妖怪評議会議長。
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『GANTZ』でのぬらりひょんは大阪編のボスキャラクター。老人の姿で登場し、再生や変身で禍々しい怪物にパワーアップしてゆく。1体で100点という高得点の恐るべき戦闘能力の妖怪。
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ぬらりひょん まとめ
ぬらりひょんは分類すれば「きもかわ」妖怪?
気づけばいつの間にか家に上がり込み、のうのうと茶などすすってる。
不気味にも思いますが、害がないのなら貧乏神や妖精の類として納得できそうです。
もし、見かけたら「触らぬぬらりひょんに祟りなし」と気づかないふりしておくのが無難なようで、、、