地獄でまずイメージするのが閻魔様に裁かれて、鬼の責め苦を受ける奈落を思います。
けれど、そういえばサタンがいるのも地獄。
なので、改めて、地獄とはどういうところなのかを探ります。
なんとも恐ろしい、人知を超えたその世界観に驚愕です。
目次
地獄とは
地獄( Naraka、梵語(サンスクリット語))とは、大罪を犯した人間が死後に行く世界。
幾つもの宗教や神話に共通する概念です。
地獄、奈落、黄泉の国の違い
地獄をイメージする言葉も幾つかあります。その違いは
■黄泉
神道、日本神話の死者の国。(ちなみに隠り世(かくりよ)は黄泉も含む死後の世界)
■地獄
大罪を犯した人間がゆき、その罰を受ける死後の世界
■奈落
仏教、サンスクリット語で地獄を意味します。
各宗教の地獄
キリスト教
死後、魂は神に裁かれ、地獄は大罪を犯した魂が神の怒りに服するところ。
「地獄」には最終的な永遠の地獄「ゲヘンナ」と、生前不信心であった死者が「最後の審判」を待つ黄泉「ハデース」があります。
キリスト教には転生の概念はなく、地獄に堕ちると永遠の刑罰に晒されることになります。
唯一救われる可能性があるのは最後の審判。
死後の世界
死後魂は生前の行いによって神に裁かれ、迎えられる世界が決められます。
■ 天国:
信心深く、善行、徳に生きた人が行く
■ 辺獄:
徳の高い異邦人たちが行く
■ 煉獄:
罪を犯し、その償いが果たされていない人間が、浄化のために行く。
■ 地獄:
大罪を犯した邪悪な人間が行く。
その後、最後の審判を受け、天国か地獄か、死後にゆく永遠の地が決まります。
イスラム教
イスラム教の地獄はジャハンナム(jahannam)。
人間は死後、最後の審判の日まで「バルザフ」という冥界にゆきます。
ジャハンナムは、劫火が燃え盛る深い地の底にあります。
罪人達は、最後の審判の後に、ジャハンナムに落ち、永遠の責め苦を受けることになります。
そして、生前徳を積んだ死者の魂は永遠の楽園「ジャンナ」に行きます。
ギリシャ神話
ギリシャ神話の地獄はタルタロス。原初の神カオスより生まれた原初の神の一柱。
奈落の神であり、奈落そのもの。
冥界のさらに下。天と地の間の距離と同じだけ、地上から下にある地の果て。
何者も逃げおおすことはできない、神々ですら忌み嫌う澱んだ空間。
仏教の地獄とは
生きとし生けるものがその業の結果に輪廻転生する六種の世界「六道」のひとつ。
大罪を犯したものがその罰を受けるため落とされ、鬼によって果てしない責め苦を受ける世界。
仏教の世界観(六道)
仏教では衆生(しゅじょう 一切の生きとし生けるもの、すべての生物)が業(一生で行った行為)を終えると、新たな生命へと生まれ変わりを繰り返します(輪廻転生)
その生まれ変わる世界は現世での行いをもとに選ばれる6つの世界に分かれ、それを「「六道(ろくどう)」といいます
■天道(てんどう)
天界。長寿で、空を飛ぶなどの神通力が使える天人が住まいます。快楽に満ち、苦しみのない世界
■人間道(にんげんどう)
人間の住む、欲界に属する、地上世界
■修羅道(しゅらどう)
阿修羅の住む世界。終始戦いを繰り返し、苦しみと怒りが絶えない世界。負傷し、死亡、また生まれ変わり、果てしない戦が続けられます。
■畜生道(ちくしょうどう)
鳥・獣・虫など畜生の世界。畜生の苦しみを受けて死ぬ、地上の世界。
哀れな末路を遂げた者や恨みをもって死んだ者が落ちる世界。
■餓鬼道(がきどう)
食物、飲物も触れると火で焼けてしまうので、常に飢えと乾きに苦しむ鬼になります。決して満たされることがない責め苦を受け続けます。
■地獄道(じごくどう)
十王の裁きの結果、大罪人と判断されたものが落ちる、八大地獄に分けられて鬼の責め苦を受ける奈落。
に分かれます。
死後に受ける裁き
人間は亡くなると、此岸(しがん 現世)と彼岸(ひがん あの世)を分ける境目にある三途の川を渡り、7日ごとに十王(亡者の審判を行う10尊)の審判を受けることになります
《死後7日目》
秦広王(しんこうおう)(不動明王)
生前の行いを全て記録した「獄録」をもとに、「五戒」(殺生・偸盗・邪婬・妄語・飲酒)に反していなかったか、その中で、無益な殺生はなかったか、その罪が裁かれます。
そして、死者がどこから三途の川を渡るかが決められます。
《死後14日目》
初江王(しょこうおう)(釈迦如来)
主に「盗み」に関する裁きが行われます。
死者の魂は「三途の川」を渡りますが、そこには奪衣婆と懸衣翁という鬼がいます。鬼は死者たちの着物を木の枝にかけ、その衣の重さでしなる枝によって生前の罪を知り、裁かれます。
《死後21日目》
宋帝王(そうていおう)(文殊菩薩)
「性」に関する罪が問われます。男性には猫が、女性には蛇が死者の邪淫を知らしめます。邪淫のある者は猫に乳首を噛みちぎられ、蛇に首を締められます。
《死後28日目》
五官王(ごかんおう)(普賢菩薩)
妄言「嘘」に関する審議が行われます。
秤(はかり)に死者を乗せて、現世での嘘の罪を量ります。
《死後35日目》
閻魔王(えんまおう)地蔵菩薩
死者を鏡の前に立たせ、生前の悪業を映し出します。ここで死者が「六道」の何処に生まれ変わるかが決められます。嘘つきはここで舌を抜かれ、功徳の深い魂はここから人間界や天上界に送られることが決まります。
《死後42日目》
変生王(へんじょうおう)弥勒菩薩
先に決まった、六道のどのような場所におくられるのか、あるいはどのような畜生に生まれ変わるかの審理がおこなわれます。
《死後49日目》
泰山王(たいざんおう)薬師如来
ここにその先が六道のいずれかに通じる6つの鳥居があり、来世に生まれ変わる世界の判決が下されます。
七回の審理で決まらない場合は
《百ヶ日忌》
平等王(びょうどうおう)観音菩薩
遺族が供養に努めれば、悪道に堕ちたものも救済されるといいます。
《一周忌》
都市王(としおう)勢至菩薩
死者は経文が入た「光明箱」を与えられますが、悪業の深い者は経文の業火に焼かれます。
《三回忌》
五道転輪王(ごどうてんりんおう)阿弥陀如来の審議が行われます。
地獄の構造
仏教の地獄とは六道の最下層に位置する世界。大罪を犯した者が死後に生まれる世界。
最下層にある無間地獄(むけんじごく)の縦・広さ・深さは各2万由旬。*由旬(ゆじゅん 古代インドの長さの単位 約1由旬=7〜15km×20.000=140.000km〜300.000km)
そこに大焦熱・焦熱・大叫喚・叫喚・衆合・黒縄・等活・阿鼻の八つの地獄が層をなしています。
その地獄の最も下層にある阿鼻地獄にへ落ちるのに二千年の時間を要します。
下に行くほど罪は重く、そこに転生してからの寿命も長くなります
八大地獄
1、等活地獄(とうかつじごく)
殺生。
いたずらに生き物を殺すと落ちる、一番浅い場所に位置する地獄。
鬼に殺され、死者同士で鉄の爪で相手を引き裂き、骨になるまで互いに殺し合い、生き返ってまた殺される、死闘の繰り返し。
この地獄での衆人の寿命は500歳。人間界の時間では1兆6653億1250万年になります。
2.黒縄地獄(こくじょうじごく)
殺生、盗みをすると落ちる地獄。
鬼たちに、熱鉄の斧で切り裂かれる、大釜で煮られる。先の等活地獄の10倍の苦しみが繰り返されます。これが1000年、人間界の時間では13兆3225億年の間続きます。
3.衆合地獄(しゅごうじごく)
堆圧地獄の別名を持つ、殺生、盗みに加え、淫(みだ)らな行いを繰り返した者が落ちる地獄
鬼に山の間に追い込まれ、両方の鉄の山が崩れ落ち、圧殺される。
剣の葉を持つ林に美人が誘惑して招き、その昇り降りのたびに、罪人の体は鉄の刃の葉に切り刻まれます。ここでは先の黒縄地獄の10倍の責め苦を受けます。
この地獄での寿命は2000歳。人間界の時間に換算すると106兆5800億年。
4.叫喚地獄(きょうかんじごく)
殺生、盗み、邪淫、飲酒をした者が落ちる地獄。
ここでは目から火が吹き出し、風のようなスピードで走る獄卒に追われ、煮えたぎる大鍋の中で何度も煮られ、骨まで食べられてしまいます。
他、猛火の鉄室に入れられたり、焼けた鉄の地面を走らされる、鉄の棒で打ち砕かれ、叫喚。
鬼たちは泣き喚く声を聞きながら、罪人に責め苦を与え続けます。
この地獄での寿命は4000歳。人間界の時間で852兆6400億年。
5.大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)
殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言をした者が落ちる地獄。
熱鉄の鋭い針で、口腔を刺し貫かれ、舌を抜かれる責め苦が繰り返されます。
この地獄での寿命は8000歳。人間界の時間で6821兆1200億年
6.灼熱地獄(しゃくねつじごく)
殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言に加え、邪見(仏教の教えとは相容れない考え)を持ったものが落ちる地獄。
鬼たちに全身を大きな熱鉄の棒で打たれ、極熱の火で焼かれ、鉄串に突き刺され、鉄鍋で炙られる責め苦が繰り返されます。
ここでの寿命は1万6000歳。人間界の時間で5京4568兆9600億年。
7.大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)
殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言、邪見に加え、犯持戒人(尼僧・童女などへの強姦)をした者が落ちる地獄。
これまでの地獄の10倍の極熱で焼かれ、炎の刀で体の皮が剥ぎとられ、沸騰した熱鉄を体に注がれます。
その罪人の苦しみの声は地獄から3000由旬離れた場所でも聞こえるといいます。
ここでの寿命は3万2000歳。人間界の時間で43京6551兆6800億年。
8.阿鼻地獄(あびじごく)
殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄語、邪見、犯持戒人に加え、父母や阿羅漢(聖者)を殺害したものが落ちる地獄。
ここは地獄の最下層。ここまで落ちるのに2000年かかるという、特に罪の重い者が落ちるところ。飢餓のために自分の体を焼いて食べることになる。64の目を持ち、火を吐く奇怪な鬼に舌を抜かれ、100本の釘を打たれ、炎の歯を持った犬に噛み殺される、幾重もの刑罰が繰り返されます。
ここでの寿命は6万4000歳、人間界の時間で349京2413兆4400億年に相当します。
その他の地獄
八大地獄には、それぞれの大地獄と関連した十六の地獄があり、総数百三十六の大地獄が存在します。
またこれらとは別に
八寒地獄
- 頞部陀(あぶだ)地獄
- 尼剌部陀(にらぶだ)地獄
- 頞哳吒(あたた)地獄
- 臛臛婆(かかば)地獄
- 虎虎婆(ここば)地獄
- 嗢鉢羅(うばら)地獄
- 鉢特摩(はどま)地獄
- 摩訶鉢特摩(まかはどま)地獄
という地獄もあります。
地獄行きを免れる者
仏教では殺生した者でも「やむを得ない理由」がある場合、地獄行きは免れます。
- 返り討ちなど、そうしなければ生きられなかった者(正当防衛?)
- 意図せず、偶然に殺生してしまった
- 戦闘で兵士となって戦った、やむを得ない殺生
- 罪を罪と思わずおこなった罪
等、初七日〜三回忌までの間に、十王の下で召人(めしうど)として仕えれば、地獄行きを免れられるとされています。
最後に、仏教では、たとえ八大地獄におちても、ここでの生涯を終えたものは輪廻転生によって来世に生まれ変わるとされています。果てしなく長い期間ですが。
中世から現代に至る地獄をテーマにした作品
「神曲」は13世紀〜14世紀にかけてのイタリアの詩人・ダンテ・アリギエーリの代表作。地獄篇、煉獄篇、天国篇の3部から成る長編叙事詩です。
その地獄は
- 地獄の門
- 地獄前域
- アケローン川
- 第一圏 辺獄
- 第二圏 愛欲者の地獄
- 第三圏 貪食者の地獄
- 第四圏 貪欲者の地獄
- 第五圏 憤怒者の地獄
- 第六圏 異端者の地獄
- 第七圏 暴力者の地獄
- 第八圏 悪意者の地獄
- 第九圏 裏切者の地獄
の構造になっています。
映画「地獄の黙示録」は映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の代表作品の中の一作。1979年公開、数々の映画賞受賞。コッポラが自らの私財を投じ、人生を捧げて制作された1980年代を代表する名作です。
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地獄でやはり外せないのは、地獄を舞台にした人気アニメ「鬼灯の冷徹」。江口夏実の漫画作品。地獄の住人に加え、国を問わず、神話や昔話、怪談に登場する悪魔や妖怪、おとぎ話の主人公が繰り広げるブラック・コメディ。
地獄 まとめ
そういえば、子供の頃「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる」と諭された記憶があります。改めて閻魔様は嘘つきを罰する役目の神様だったのだと知りました。
それにしても、時間の単位が「京」なんてことになると、想像の域を超えてて、もう、これは、理解不能です。。。