怪力の英雄としてヘラクレスに次ぐテセウス。ミノタウロスを倒した伝説で有名です。
けれどその冒険譚はそれだけに止まりません。アルゴナウタイにも参加し、アマゾネス遠征、ペルセポネの誘拐など、まさに波乱万丈の生涯をおくっています。
そんなテセウスの冒険とは。
目次
英雄テセウスの生涯
テセウス (Thēseus)はアテナイの王子。
ミノタウロスを倒した英雄として有名ですが、古代ギリシア三大悲劇詩人の一人ソフォクレスによる「コローノスのオイディプース」では賢知の王として描かれています。
ヘラクレスほどではないにしろ、大岩を持ち上げるほどの怪力を持っていることも特徴。
古代ローマのギリシア人著述家プルタルコスの「英雄伝」では、古代ローマ建国の父ロムルスと共にアテナイを建国したと記されています。
テセウスの誕生
テセウス (Thēseus)は、アテナイ王アイゲウスとトロイゼンの王女アイトラの間に生まれます。
(海神ポセイドンと王女アイトラとの間に生まれたいう説もあります)
アイゲウス王が友人のトロイゼン王を訪ねた時、その姫アイトラと結ばれます。
アイゲウス王はアイトラの妊娠を知り、トロイゼンを去るとき、自分の剣とサンダルを岩の下に置き、「その子は密かに育て、もし男児でこの岩を持ち上げられるようになったらアテナイに来るように」と告げ、自国へ帰ります。
そうして生まれたテセウスは青年となり、いとも軽々と大岩を動かし、サンダルと剣を持って、父王の国アテナイへ向かいます。
旅の途中
父アイゲウスの国アテナイはトロイゼンと湾を隔てて向かい合い、船に乗ればすぐに着く所に位置していました。
けれど、テセウスはあえて危険な陸路を選びます。
その途中、旅人を襲う乱暴者を討伐。
- 名医アスクレピオスゆかりの聖地エピダウロスでは棍棒で旅人を撲殺していた鍛冶神ヘーパイストスの子ペリペーテース、
- コリントス地峡では旅人の両足を引き裂くという残虐な殺戮を繰り返していた怪力の盗賊シニス
- クロミュオーンではテュポーンとエキドナの子といわれる牝猪パイア
- メガラでは旅人を海中に投げ込み海亀のえさにした盗賊スケイロン
- エレウシースでは旅人にレスリングの試合を強い、敗者を殺していたヘーパイストスの子、ポセイドンの子とも伝えられるケルキュオーン
- ヘルメウスでは旅人の手足を切り取る残忍な山賊プロクルーステース
次々と倒してゆきます。
中でも、このプロクルーステースの逸話は、旅人を寝台に寝かせ、はみ出した旅人の手足を切り取って殺す「無理矢理、基準に一致させる」という意味の「プロクルーステースのベッド(寝台)」(Procrustean bed)と呼ばれる有名なお話です。
父王との対面
アテナイにたどり着いたテセウスは、正体を明かさぬまま、父アイゲウスに対面します。
その時アイゲウスの妻になっていた魔女メディアはテセウスの正体を見抜くと、今の立場を奪われることを恐れて、テセウスを抹殺するようアイゲウスを唆します。
父アイゲウステはメディアの言うがままにテセウスに毒入りの酒を勧めます。けれどその時、テセウスの持つ剣をみて、アイトラに託した我が子であることに気付きます。
メディアは国を追放、父と子は対面を果たします。
ミノタウロス退治
その頃、アテナイはクレタ島ミノス王の勢力下に置かれていました。
毎年7人の若者と7人の乙女を怪物、ミノタウロスの生贄として捧げるよう強要されていたのです。
そのことに憤ったテセウスは、ミノタウロスを退治するために自ら生贄のひとりとなります。
ミノタウロスが幽閉されているラビュリントス(ラビリンスの語源)は、脱出不可能といわれる迷宮です。そこへ生贄のふりをして入り込もうとするテセウスに、ミノス王の娘、アリアドネが恋をします。
黒い帆の張られた船に乗り、ラビュリントスへ向かうテセウスにアリアドネは赤い麻糸の鞠と短剣を渡しました。
テセウスは、ラビュリントスに到着するとその入り口にアリアドネにもらった鞠の麻糸を結びつけます。糸を伸ばしながら迷宮を進むテセウスは、ついにミノタウロスと遭遇します。
ほかの生贄たちが怯えて震え上がる中、テセウスは勇敢に戦い、アリアドネにもらった短剣でミノタウロスを倒し、英雄となるのです。
こうしてミノタウロス討伐を果たしたテセウスは帰路につきます。
けれどこの時、ナクソス島にアリアドネを残して帰還。
その理由については
- アリアドネを恋しく思うディオニュソスがアリアドネを隠した
- テセウスが心変わりした
- ナクソス島でふたりは別れた、
など諸説あります。
悲しむアリアドネはその後、酒神ディオニュソスに救われてその妻となっています。
父王の死
テセウスはアテナイを出国するとき、生還したら船に白い帆を掲げて凱旋すると父王に約束していました。けれど凱旋の喜びでこれを忘れ、出港時の黒い帆のままアテナイの港に帰還。
王は絶望して海に身を投げて死んでしまいます。
テセウスは悲しみにくれながらも父王の後継者として王位を継ぎます。
けれど、そのために王位を継承できなかった50人の従兄弟たちと戦うことになります。
そんな環境の中、テセウスは周辺の諸都市を統合し、アテナイを主都とする国家を建設してゆきます。
そのほかの冒険
テセウスは亡き父を継いでアテナイの王となり、アッティカ全域の支配者、名君として称えられます。
けれどテセウス本来の冒険心はやまず、女性だけの国・アマゾンに遠征。
女王アンティオペーを略奪し妻としたり、すでに美貌が評判となっていたスパルタ王女ヘレネー(当時わずか10歳の)を誘拐。
金羊毛皮を捜し求めるアルゴ号の冒険にも参加します。
テセウスはヘラクレスがヒッポリュテーの帯を得るためにアマゾーンの国を訪れたとき、ヘラクレスに同行し(あるいはその後にアマゾーンに遠征し)、アンティオペーを捕らえ、自国へ連れ帰ります。
アンティオペーはテセウスの妻となり、ヒッポリュトスを出産。けれど、後にテセウスはクレタ島のミノス王の娘パイドラー(アリアドネの妹)と結婚。
失意のアンティオペーはアマゾーンを率いて結婚式を襲いますが、その時に敗れて死亡、テセウスに殺された、ヘラクレスに殺されたとも言い伝えられています。
新妻のパイドラはテセウスとの間にアカマスとデモポンを出産。
アプロディーテーの策略でアンティオペーの息子であるヒッポリュトスに恋をしてしまいます。
けれどヒッポリュトスに罵倒され、その怒りで暴行を受けたと偽ります。テセウスはポセイドンに祈り、哀れヒッポリュトスは戦車に引きずられて死亡。
パイドラも嘘が露呈し、自殺しています。
テセウスの最期
その後も、友人ペイリトスにハデスの妻ペルセポネを略奪するという策略に誘われて同行。
それを知ったハデスは激怒し、ペイリトスとともに椅子に座ったまま立ち上がれない呪いをかけ、テセウスはタルタロスに落とされてしまいます。
長い時間を経てヘラクレスによって救い出されますが、その間に国は奪われてしまっています。
そのためスキューロス島の王リュコメーデースのもとに身を寄せますが、リュコメーデースはテセウスを恐れ、崖から突き落として殺してしまいます。
なんとも波乱万丈、はちゃめちゃな生涯です。
テセウスの船
「テセウスの船」とはパラドックスのひとつ、「テセウスのパラドックス」とも呼ばれています。
ある物体の全てのパーツが他に置き換えられても同じものと言えるのかどうかを問うています。
ちなみにパラドックスとは理論と結論の間にくい違いがあること。
テセウス、ゲームではやっぱり強敵
2020年放映、竹内涼真主演のテレビドラマ「テセウスの船」。謎の連続毒殺事件で逮捕された警察官の息子・田村心は事件が起こる直前の31年前にタイムスリップしてしまいます。
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「ゴッド・オブ・ウォー」のテセウスは第2作に登場。運命の三女神に仕え、「創世の島」で「時の軍馬」の管理を務めます。
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ニンテンドーゲーム「HADES」のテセウス&ミノタウロスはエリュシオンの最後に出現する手強いラスボス。
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テセウス まとめ
「英雄色を好む」とうい言葉がありますが、それを地で行くような生涯。英雄としてはなんかあっけない最期でもあります。
その業績を見ていないためでもあるのでしょうが、私生活に至っては、天衣無縫、天真爛漫、破天荒、?、自分の感情に正直な人だとは思いますが。
女性としては絶対お近付きになりたくないタイプです。