「月の女神」と聞いてイメージする神は人によってさまざまですが、ギリシャ神話のアルテミスやセレネしかり、ローマ神話のディアナしかり、多くが「清廉」「貞潔」といった属性を持っています。
しかし、ケルト神話に登場する月の女神・アリアンロッドは、そういったものとは正反対。
純潔だと主張したものの、子どもを産み、その子を呪った異端の女神なのです。
今回は、そんなアリアンロッドに注目していきたいと思います。
目次
アリアンロッド、わが子を呪った月の乙女
出典：deviantart
アリアンロッド（Arianrhod, Aranrhod, Arianrod）は、ウェールズ神話「マビノギオン」で語られる月と運命を司どる女神。
トゥアハ・デ・ダナーン（ダーナ神族）の地母神・ダナの娘、その名前は「銀の車輪」を意味します。
ケルトにおいて車輪は太陽を象徴しており、月も同様に考えられていました。
アリアンロッドは車輪を回し、戦死者を月へと導きます。
また、カエル・アリアンロッド (アリアンロッドの砦)という宮殿に住まい、フクロウを聖獣とします。
「カエル・アリアンロッド」とはかんむり座、その守護女神でもありました。
アーサー王物語にも影響を与えた『マビノギオン』第4枝『マソヌウイの息子マース』でのアリアンロッドは金色の髪の美しい女神。
魔術師グウィディオンと、物語でマースの足を支えていたゴーウィンという処女に恋をするギルファエトゥイの妹でもあります。
『マビノギオン』のアリアンロッド
出典：deviantart
グウィネズ国の王マース
アリアンロッドの叔父マースは偉大な魔術師でもあるグウィネズ国の王。
戦いの時以外は処女の足の上に膝を乗せて眠らなければ死んでしまうという宿命（あるいは呪い）を持っていました。
そしてアリアンロッドの兄、グウィディオンとギルファエトゥイはこのマース王に仕える魔術師。
当時、マースの足を支えていたのはゴーウィンという少女でしたが、彼女に恋をしたギルヴァエスウィは、グウィディオンの魔法によって戦争を画策し、マースを遠ざけ、その間にゴーウィンと強引に関係を持ち、処女を奪ってしまいます。
これに怒ったマースは、彼らを鹿や豚の姿に変えて罰しました。
その後、ギルヴァエスウィはゴーウィンと結婚。
兄弟は罪を許されましたが、彼らは新たな処女を見つけるよう命じられます。
そこで、選ばれたのが2人の妹であるアリアンロッドでした。
アリアンロッドの嘘
マースは後任の資格を持つものであるかアリアンロッドを試します。それは処女であること。
マースは、アリアンロッドに尋ねると、彼女は「覚えている限りでは、私は処女です」と答えます。
マースはそれを確認するため、自分の魔法の杖をまたぐように命じます。
アリアンロッドは王の命令に従いますが、杖を跨いだ瞬間金髪の男の子と塊のような存在の早生の双子を出産。
その後、金髪の男の子はマースから「ディラン（ディラン・アイル・ドン）」という名を授けられ、マースに仕えたといいます。
（他説、ディランは海の精霊で、洗礼を受けるとすぐに海に逃げてしまいます）
一方、失態してしまったアリアンロッドはその場から立ち去りますが、去り際に包みをひとつ落としていきました。
それを拾ったグウィディオンは、中身を箱の中に隠します。
中にはディランと同じ金髪の男の子が入っており、その子は通常の2倍の速さで成長しました。
三つのゲッシュ（禁忌）
アリアンロッドは、この失態を深く恥じていました。
我が子とはいえ、その存在を恥じたアリアンロッドは子を嫌い、2番目の子どもにまだ名前がないことを知り、「自身が与えない限り、彼は名前を持つことができない」という呪いをかけます。
・少年の名
少年を可愛がっていたグウィディオンは、どうにかしてアリアンロッドに名前を付けさせようと考えます。
グウィディオンは魔法で巨大な船を作り、アリアンロッドの城の近くに停泊させ、彼女の興味を引くように仕掛けます。
そして、彼女が様子を見に来たところで、少年を従僕の少年に仕立て、投げ槍で小鳥を捕らえるようも命じます。少年の槍は見事に命中。
（あるいは少年を靴屋に変装させます。少年はアリアンロッドの前で石ひとつでミソサザイに命中させます。
または、見事な靴を仕立て。）
アリアンロッドはそれを見て、金髪の少年（「lleu」）は熟練した手（「llaw gyffes」）を持っていると褒めました。
これこそが、グウィディオンの狙っていた瞬間でした。
グウィディオンは姿を現しアリアンロッドに「お前は今、息子にルー・ラウ・ガフェス (巧みな腕を持つ者) と名付けたのだ」と語ります。
・ルーの武器
少年が息子であることに気付いたアリアンロッドは怒り、「自身が武装しない限り決して武器を取ることはない」とさらなる呪いをかけました。
しかし、グウィディオンは、また魔法で彼女を騙し、自らルーに武器を与えるようにさせます。
グウィディオンは自身が吟遊詩人に変装してルーと共にアンロッドのもとに戻ります
グウィディオンは熟練した語り手でもあり、宮廷を楽しませます。
そしてその夜、皆が寝ている間に彼は魔法で軍艦の艦隊を召喚。
謎の敵の襲来に驚いたアリアンロッドは自身も武装し、ゲストにも武器と鎧を与えます。
それによって彼女の第二の呪いも解かれます。
・ルーの妻
再び屈辱的な思いをしたアリアンロッドは、「彼は今この地球上に存在するいかなる種族の妻も持つことはないだろう」という最後の呪いをかけました。
そこで、グウィディオンはマースと共に、樫の花、黄色い花を咲かせるほうきの低木、そしてシモツケの花から女性を創り、花の顔を意味するBlodeuweddと名付け、アリアンロッドの呪からリューを救います
こうして、アリアンロッドの呪いは解かれ、リューはやがてマースの跡を継いで立派な王になったといいます。
女神要素がない場合も
TRPG「アリアンロッドRPG」のタイトルは、ケルト神話のアリアンロッドから取られています。世界観は、ゲルマン神話とケルト神話を融合した剣と魔法のファンタジーです
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遊撃士の主人公の成長を描くファンタジーRPG「碧の軌跡」では、金髪の美女騎士として登場。強さは作中最強レベルで、彼女を倒すことは容易ではありません。
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『カードファイト!!ヴァンガード』では秘薬の魔女アリアンロッド。
「虚影神蝕」(きょえいしんしょく)グレード１のシャドウパラディンに属するユニットとして登場しています。
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アリアンロッド まとめ
アリアンロッドを意地悪な母親なのか、産みたくない子どもを産んでしまい、兄弟に騙されて強制的に認知させられた悲劇のヒロインなのか。彼女をどのように解釈するかによってアリアンロッドの人間像は変わってきますよね。ん？ 女神様か
まあ、神様は自分の感情に正直だとはいえ、あまり聡明や思慮深いなんて性格とは無縁な存在なのかもしれません。
