
イーヴリン・ド・モーガン作『夜と眠り』
ヒュプノスはギリシャ神話の眠りを司る神。
原初神の夜を司る神・ニュクスから生まれ、死の神タナトスと双子の兄弟、夢の神・オネイロスの父という、なんとなくそれぞれの役割が理解できるような中の一柱です。
人の死はヒュプノスが与える最後の永眠であるとされる、神秘に包まれた眠りの神ヒュプノス。
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目次
ヒュプノス、人に最後の永眠を与える、眠りを司る神

バルトロメオ・ピネッリ 作
ヒュプノスとは

大英博物館 所蔵
ヒュプノス(Hypnos )はギリシャ神話の眠りを司る神。
ローマ神話ではソムヌス。
夜の女神ニュクスの子。
双子の兄弟は死の神・タナトス。
ヒュプノスは人々を眠りに誘うことで労苦から解放してくれる穏やかで慈悲深い神。
両耳の後ろに翼を持ち、木の枝で額に触れる、あるいは額にある角から芥子の液汁を注いで、人々を眠りへと誘います。
家系

ヒュプノス(左)とタナトス(右)がヘルメスが見守る中、サルペードーンの遺体を運ぶ。紀元前515~510年頃
ヒュプノスは夜の女神ニュクスがひとりで生んだ子。他説、暗黒の神エレボスの子とされます。
兄弟には 錚々たる神々がいます。
- タナトス 死の神
- オネイロス 夢の神
- モロス 破滅の神 人間を死の運命へと追いやる
- ケール(ケレス) 宿命の神 戦場で血まみれの死に引き寄せられた暴力的な死が擬人化された女神
- モモス(モムス) 不平、非難の神 風刺と嘲笑の擬人化
- オイジュス 苦悩、苦痛の神
- ネメシス 復讐の女神
- アパテー 欺瞞の女神
- ピロテース(フィロテス) 愛欲の女神
- ゲラース 老年、老いの神
- エリス 争いの女神
- モイライ 運命の女神三姉妹
- ヘスペリデス 「ヘスペリデスの園」で黄金の林檎を守るニンフ
妻は パシテア 優美の女神・カリテスの一人
ホメロスの『オデッセイア』の中で,トロイア戦争に加担するヘラの命を果たした褒美として妻に与えられます。
子は オネイロス 夢の神

ルカ・ジョルダーノ作「カロンの船、夜の眠り、モルフェウス」
- モルペウス (Morpheus):人の姿で夢に現れる
- ポベートール/イケロス (Ikelos):獣の姿で夢に現れる
- パンタソス (Phantasos):物体の形で夢に現れる
彼らはヘシオドスの『神統記』ではヒュプノスの兄弟とされています
ヒュプノスの住まう『夢の国』

ジュリオ・カルピオーニ 作
ヒュプノスは兄タナトスとともに、タルタロス(冥界)の大きな洞窟にあるキンメリオイの宮殿で、息子オネイロイたち夢に囲まれて眠っています。
人はこの地を「夢の国」と呼びます。
そこは昼と夜が交わる、光も音も入り込むことのない常夜の地。
忘却を促すケシの花が咲き乱れ、そこに流れるレテ川(忘却の川)の水の流れは、あらゆる物を眠りに誘います。
そのレテ川の水は生前の記憶を失わせ、死を受け入れることができるように作用します。
眠り、夢、死への誘い

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作『ヒュプノスとタナトス』
ヒュプノスは、西の空から夜を司る母神ニュクスと共に訪れ、人々に眠りを授けます。
ヒュプノスの息子たち・オネイロイはヒュプノスが眠らせた人の脳裏にそれぞれの夢を描きます
◾️ モルフェウスは、人間の姿となって夢のなかに現われ、時として神のお告げを伝えます。
薬物モルヒネの名前は、このモルペウスにちなんでつけられています。
◾️ ポベトル(ポベートール・イケロス)は、獣となって悪夢を生み出します。
「恐怖症(フォビア)」という言葉が生まれた起因ともなっています。
◾️ 3番目のパンタソスは鉱物や植物など、物体の形で夢に登場します。
非現実的な夢を生みだすことが多く、ここから「幻想的(ファンタジー)」という言葉が生まれました。
ヒュプノスはまた死の神タナトスと共に人の臨終にも寄り添い、永遠の眠りを授けます
死期が近づいた人間をヒュプノスが眠りに誘い、死神・タナトスが冥界に迎い入れます。
神話の中のヒュプノス
神話に登場するヒュプノスは眠りを司る事で様々な役割を果たしています
ヘラとヒュプノス

バルタザール・ベシェイ作 『ユピテルとユノを眠らせるヒュプノス』
ヒュプノスはヘラの命で、2度ゼウスを眠らせています。
ヘラクレスがトロイアに攻め入った際、ヘラはそれを激怒。
ヒュプノスにヘラクレスを擁護するゼウスを眠らせ、ヘラクレスの帰路の航海に怒りの突風を吹かせています。
目覚めたゼウスはヒュプノスに激怒。
ヒュプノスは母ニュクスのもとに隠れ、ゼウスの怒りから逃ています。
また、ヒュプノスはヘラの命でゼウスのトロイア戦争への関与も妨げています。
先にゼウスの怒りをかったヒュプノスは、このヘラの命を遂行することをしぶりますが、ヘラは 優美の女神・カリテスの一柱・パシテアとの結婚を条件にヒュプノスを説得します。
そして、ヘラはイダ山の最高峰・ガルガルスにいるゼウスを訪れます。
ゼウスは訪れたヘラに魅了されます。
この時、ヒュプノスは濃い霧に包まれ、彼らの近くの松の木の上に潜みます。
ゼウスはヘラに愛を語り、ヘラを抱きしめます。
そんな二人をヒュプノスは眠らせしました。
そして、海神ポセイドンにゼウスが眠っている間にダナオス人を助けるよう告げます。
そのポセイドンによってダナオス人は助けられ、戦争はヘラに有利な方向へ転じます。
この時、ゼウスはヒュプノスの関与に気付きませんでした。
セレネーとエンデュミオン

セバスティアーノ・リッチ作
ヒュプノスは月の女神セレネに愛されたエンデュミオンには、若さと美しさを保ったままの永遠の眠りを与えたと伝えられています。
ある日、セレネーは山で眠っていたエンデュミオンに出会い、その美しさに魅了されます。
以来、セレネーは夜毎眠るエンデュミオンを訪れ、その姿を眺めていました。
けれど、人間であるエンディミオンが年老いていく事に耐えられない彼女はゼウスに彼を不老不死にするよう願い出ます。
ゼウスは人間に神と同じ不老不死は与えられないとし「永遠の眠りと引き換えに永遠の若さを保つ」ことを提言。
エンディミオンは不老不死と引き換えにヒュプノスによって「永遠の眠り」を与えられます。
セレネは夜ごとエンデュミオンのもとを訪れて、夢の中でエンディミオンと会瀬を重ね、エンデュミオンとの間に暦月を司る女神メーネ50人をもうけています。
ケユクスとハルキュオネ
暁の明星ヘスペロスの息子、ケユクスはテッサリアの王。
妻は風の神アイオロスの娘ハルキュオネです。
あるときケユクスはアポロンの神託を仰ぐため、ロニアのカルロスの町へ向かいます。
旅の途中ケユクスの船は難破して、ケユクスは死亡。
けれど夫の死を知らない妻ハルキュオネは、毎日、ヘラに夫の無事を祈り続けます。
ヘラはハルキュオネを不憫に思い、虹の神イリスに「ヒュプノスに、ハルキュオネに夫の死を知らせるよう」命じます。
ヒュプノスは夢を司る神モルフェウスに、その命を託します。
モルフェウスは、死んだケユクスに姿を変えてハルキュオネの夢に現れ、その死を告げます。
ハルキュオネは嘆き悲しみ、海に身を投げ、神の憐れみによって鳥になります。
ケユクスもまた鳥になり、二人は再び連れ添うつがいとなりました。
ヒュプノス、現代でも永遠の眠りを与える冥界の使者
「聖闘士星矢」のヒュプノスは額に線状の六芒星のチャクラがある眠りを司る神。普段はエリシオンにある、ヒュプノス神殿に住まう。無駄な殺生を好まない紳士的な性格。神聖衣を纏った聖闘士や神々でさえも眠らせる実力。
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「ドラクエ10」ではあくま系の中ボス。紫色の鎧の騎士、タナトとは対をなす左利きで武器は剣。「ドラクエ11」では強ボス「魔兵ヒプノス強」に昇格しています。
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『テイルズオブイノセンス』では天上に死神としてその名を轟かせるラティオの戦士。元々は地上の死神。兄タナトスが地上に降りたことで自身もセンサスとの戦争に参加することになります。
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女神転生シリーズのヒュプノス、「真・女神転生デビルサマナー」では美しい夜魔の青年。「女神異聞録ペルソナ」では広瀬久美のペルソナ。「雪の女王編」のヒュプノスの塔のボスとして登場。「ペルソナ3」では眠りは死だとする神話を体現するタカヤのペルソナ。
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ヒュプノス まとめ

セヴェリン・フォークマン作『ニュクスとヒュプノス』
生きている今でも、私は布団に入り込み、眠りにつく瞬間に至上の喜びを感じます。
これがもし、ゾンビが蔓延ったり、資源が枯渇して、生きていくのもサバイバルな世紀末になったなら、最初に楽して死にたいと思います。
そんな時に選ぶ死に方はやっぱり、優しいヒュプノスに抱かれながらタナトスの迎えを待ちたいです。
もちろん見る夢はモルフェウス、愛しい誰かの夢を見たいです。
