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宇宙卵(うちゅうらん(Cosmic Egg))とは世界の多くの神話や宗教、文化で宇宙が生まれる「原初の形」とされるモチーフです。
ギリシャ、エジプト、インド、中国など、多くの国の創世神話の中で語られる巨大な卵。
それが割れることで天地が分かれたり、神や万物が誕生する様子が語られています。
日本でも『日本書紀』の冒頭、天地は鶏の卵のような状態から生まれたと記されています。
宇宙卵、全ての始まりを生んだ混沌

オルフェウスの卵 ジェイコブ・ブライアント著『古代神話の新体系または分析』(1774年)
宇宙卵とは
宇宙卵(うちゅうらん(Cosmic Egg))、あるいは世界卵は世界の多くの神話や宗教、文化で「世界の始まり」を表現する概念。
「原初の形」とされるモチーフです。
世界各地の創世神話には、卵から世界が誕生するという「卵生(らんせい)神話」が語り継がれています。
卵が孵化することで宇宙が生まれる、あるいは宇宙を創造する原始的な存在が生まれるというもの。
卵の上半分(外殻)は天(天空)になり、下半分(内側)は地球や生命の起源になります。
神話の中では、ギリシャ、エジプト、インド、中国など、多くの国の創世神話の中で語られる巨大な卵。
それが割れることで天地が分かれたり、神や万物が誕生したりする様子が語られています。
宇宙論においては、138億年前にすべての始まりとなった特異点(物質が極限まで圧縮されて密度や重力が「無限大」になってしまう点)を例える言葉として用いられます。
現代の物理学や天文学(ビッグバン)においても、宇宙の始まりである極小・超高密度の特異点を「宇宙卵」とも呼称されます。
** 哲学・宇宙論 **
◾️ 哲学や神話における「宇宙卵(コズミック・エッグ)」とは
世界や生命の起源である混沌(カオス)を卵の形に見立てた、宇宙創造の根源的なシンボルです。
「すべてを内包する一つの全体」
世界の多くの国の創世神話の中で、原初の状態を卵として描かれ、この卵が割れる(孵化する)ことで天地が分かれ、万物が誕生したとされます。
⚫︎古代インド哲学では
ヴェーダやウパニシャッド(古代インドの後期ヴェーダ時代時代(前1000~500年)の『奥義書』と呼ばれる文献の一つ)では、宇宙卵は全宇宙を意味する「ブラフマーンダ(ブラフマーの卵)」と呼ばれます。
インド神話では、原初の海に浮かんだ「黄金の卵(ヒラニャガルバ)」が割れて世界が誕生したとされ、広大な宇宙そのものを一つの生命体や卵として捉えています。
⚫︎古代ギリシャ哲学
古代ギリシャの密儀宗教であるオルフェウス教の創世神話では、原初の神クロノス(時間)によって生み出された「銀の卵」から、宇宙の究極の創造主である両性具有の神・ファネスが生まれ、最初の世代の神々を生んでいます。
◾️ 宇宙論における「宇宙卵(Cosmic Egg)」とは
19世紀、ベルギーの物理学者ジョルジュ・ルメートルが提唱した、ビッグバン宇宙論の原点となる概念。
彼は宇宙の始まりを説明する「宇宙卵(プライマル・アトム:原始的原子)」を提唱。
すべての物質とエネルギーが凝縮され、爆発的に膨張を開始した創生期の状態を「宇宙卵」と呼びました。
** 現代科学の宇宙卵 **
ビッグバン理論において、宇宙のすべての物質とエネルギーが一点に凝縮されていた初期状態を「宇宙の卵」と呼びます。
ビッグバン理論とは
現代科学の宇宙観によれば、今から138億年前、宇宙は一点の爆発から生まれます。
急激な膨張(インフレーション)に続いて大爆発(ビッグバン)が起こり、そこから素粒子、原子、天体が生まれ、広大な宇宙が形成されたというもの。
これが宇宙卵が孵化したものと見なされています。
** 錬金術の宇宙卵 **
錬金術においての宇宙卵は、宇宙の原物質であるカオスやプリマ・マテリア(第一質料)の象徴とされました。
錬金術師たちは、金属を変成させるためのフラスコ(容器)を「哲学の卵(Philosophical Egg)」と呼び、その中に宇宙の霊が封じ込められていると考えました。
神話や宗教の中の宇宙卵
世界の多くの国の創世神話には、卵から世界が誕生するという「卵生(らんせい)神話」の概念が存在します。
ゾロアスター教
ゾロアスター教は、古代ペルシア(現在のイラン)発祥の宗教。
古代ペルシアでは、宇宙卵は創造の象徴とされました。
宇宙は光と闇の卵のような形であったものが、善神(光)で最高神・アフラ・マズダーと悪神 (闇)・アーリマンの戦いによって形造られたとされます。
ユダヤ・キリスト教の天地創造神話
創世記1章2節、「地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた」とあります。
この「神の霊が水のおもてをおおっていた」の文面は「神の霊が巨大な鳥となって、原初の海で卵を暖めていた」と解釈されます。
ギリシャの宇宙卵神話

フランチェスコ・サルヴィアーティ 作
オルフェウス教の創造神話では、宇宙卵は時の神・クロノスと必然性の女神・アナンケの子。
二柱は天空の輝きの神・アイテール、混沌の神・カオス、そして「銀の宇宙卵」を生みます。
その卵から最初の神・ファネス(Phanes)が誕生。
ファネスは自身の体から夜の女神・ニュクスを造り、ニュクスと交わり、神々の祖となる天空神・ウラノスと地母神・ガイアを生んだとされます。
フィンランド

ロバート・ヴィルヘルム・エクマン作『イルマタール』、1860年
フィンランドの叙事詩「カレワラ」(Kalevala)では、卵の破片から世界が造られたという創造神話が語られています。
初めに原始の海と空がありました。
大気の女神・イルマタル(Ilmatar)が海上を漂っていると、一羽の鴨が飛んできてイルマタルの膝(海面から突き出ていたもの)に巣を作って、6つの金の卵と1つの鉄の卵を産みました。
卵はイルマタルの膝から海に落ち破れてしまいます。
割れた卵の殻の下の部分は大地となり、上の部分は大空となり、白身は月と星となり、黄身は太陽となります。
やがてイルマタルは、最初の人間であるバイナモイネン(Vainamoinen)を生みます。
エジプト
エジプトの創造神話は大きく分けて4つの主要な神話が存在します。
- ヘリオポリス神話 ー 太陽神ラー(アトゥム)が原初の海から生まれ、自慰や息を吹きかけることによって神々や世界を創った。
- ヘルモポリス神話 ー 原初の混沌の海からオグドアドの神々が生まれ、彼らは卵を生み、そこから太陽神が誕生、世界が創造された。
- メンフィス神話 ー 知恵と工芸の神・プタハの思考が「言葉(発声)」にすることで世界を創造した。
- テーベ神話 ー 新王国時代に首都テーベで最高神となったアメン神が創造主であり、絶対的な存在として他の神々を生んだ。
◾️ ヘルモポリス(Hermopolis)神話によれば
世界が始まる前、そこには原初の水(ヌン)と混沌が広がっていました。
その中で4組の男女の神々・オグドアドが生まれました。
神々が活動、摩擦を起こし、宇宙卵が生まれました。
この卵が孵化。
そこから太陽神(ラー、または生命の神・シュウ)が姿を現し、宇宙が誕生しています。
◾️ ヘリオポリス(Heliopolis)神話によれば
原初、太陽神・アトゥムの化身であるベンヌと呼ばれる聖なる鳥が生まれました。
鳥が海の上で鳴くことでゆらぎが生じ、創造が始まります。
鳥は原初の盛り土にとまって卵を産みます。
卵がかえり太陽神アトゥムが誕生。
アトゥムは男女の神々を生み、宇宙を創造しました。
アフリカ
南アフリカ、ブルキナファソ国のドゴン族の神話では、原初、創造神アンマは卵の姿をしています。
この宇宙卵の中には、宇宙の物質と構造、そして万物の本質を包含する266の兆候が含まれています。
4本の鎖骨が融合し、卵は空気、土、火、水に分かれ、4つの方角も確立されます。
アンマは、自分の中に種を植え、それが双子のペアを含む2つの胎盤を形成。
双子の1人、オゴは脱出し、宇宙を創造しようとしますが失敗。
アンマはオゴの胎盤の一部から地球を創造します。
ヒンドゥー教の宇宙創造神話
古代インドのバラモン教の聖典『ヴェーダ』に属する「ブラーフマナ(梵書)」の幾つもの文献の中で宇宙卵について語られています。
◾️ 『シャタパタ・ブラーフマナ』
世界創造以前、宇宙にはただ原初の海が存在しました。
水が生命を生むことを望み、苦行(タパス)を行い、熱せられた黄金の卵が生まれました。
黄金の卵は1年間、水の上を漂いました。
1年後、卵の殻を破って創造神・プラジャーパティ(「万物の主」)が生まれました。
プラジャーパティは卵の殻の上で1年間過ごし、1年後、彼が発した最初の「言葉」が大地、次の言葉が天、そしてさまざまな言葉が季節となりました。
◾️ 『チャンドグヤ・ウパニシャッド』
最古のウパニシャッド(バラモン教およびヒンドゥー教の根本聖典である「ヴェーダ」の最後に位置づけられる哲学書・聖典群の総称)にある物語の中では、卵から生まれたのはプラジャーパティではなく創造神・ブラフマー。
ブラフマーは最初に海を創り、その中に一粒の種子をまきます。
その種子は卵に成長。
それをブラフマーがふたつに割ると卵の半分から天空が、半分から大地が生まれます。
中国
盤古は中国神話の天地開闢の創世神。
三国時代の徐整が著した『三五暦記』の中で「天地が渾沌として鶏の卵のようであったとき、盤古はその中に生まれた」と記されています。
天と地がまだ分かれておらず、まるで鶏の卵のように混ざり合って混沌としていたとき、盤古はその中に生まれました。
それから1万8千年が経ち、天と地が分かれました。
陽の気で澄んだものが天となり、陰の気で濁ったものが地となりました。
さらに1万8千年、天は1日に1丈ずつ高くなり、地も同じように厚さを増し、盤古自身もそれにあわせて成長して世界を支えます。
盤古が息絶えた後、盤古の体は風や雷、左目が太陽、右目が月、体は山や川となり、万物の起源になったとされています。
韓国
韓国では卵から国の始祖が生まれたという神話が多く伝えられています。
太陽信仰やシャーマニズムと結びつき、支配者の神聖性を強調しているのが特徴で、『三国史記』(三国時代(新羅・高句麗・百済)から統一新羅末期までの歴史書)や『三国遺事』(13世紀末に高麗の高僧・一然(1206年 - 1289年)によって書かれた史書)にその内容が記されています。
⚫︎ 高句麗の始祖・東明聖王(朱蒙 チュモン)
東扶余(プヨ)の金蛙(キムファ)王の時代。
王はある日、川のほとりで河の神の娘・柳花(ユファ)に出会います。
柳花は天帝の孫を身ごもっていました。
柳花は太陽の光を浴びてできた「大きな卵」を出産。
その中から男の子が誕生、朱蒙(チュモン)と名付けられます。
やがて多くの優れた才を持つ朱蒙は金蛙王の王子たちから生命を狙われるようになり、朱蒙は逃亡。
高句麗の始祖・東明王となります。
⚫︎ 新羅の始祖・朴赫居世(パク・ヒョッコセ)
新羅の始祖となった朴赫居世(パクヒョコセ)も卵から生まれたされます。
斯盧(サロ)国の6つの村の村長たちが王を定めていたとき、楊山(ナンサン)の麓の蘿井で白馬が鳴きながらひざまずいているのを発見しました。
馬が天に昇った後、そこには光り輝く大きな紫色の卵が残されていました。
卵から男児が産まれ、10日ほどで立派な少年に育ちました。
その子は「赫居世(光り輝く王)」と名付けられ、居西干(神羅)の初代の王となりました。
⚫︎ 新羅の第四代の王、昔脱解(ソク・タルヘ)
多婆那国(現在の日本や朝鮮半島の海沿いの国とされる)の王妃が大きな卵を産み、不吉なものとして箱に入れられて海に流されました。
それが新羅の海岸に流れ着き、昔脱解が生まれました。
⚫︎ 駕洛国の始祖・首露王(スロワン)
首露王は古代朝鮮の伽耶(伽耶)諸国のひとつである金官加羅国(駕洛国)の始祖。
亀旨峰(クジボン)で、天から降りてきた6つの金の卵が入った金の箱が発見され、その中から最初に生まれたと伝えられています。
日本
『日本書紀』の冒頭(神代紀の第一段)にも天地は鶏の卵のような状態から生まれたと記されています。
「古、天地未剖、陰陽不分、渾沌如鶏子、溟涬而含牙。」
「昔、天地がまだ分かれておらず、陰と陽も未分化で、まるで鶏の卵のように混沌としていた」
原初、天と地がまだ定まらず、陰陽も生じなかったとき、卵の黄身と白身が混ざり合ったような「混沌(こんとん)」とした状態でした。
やがて、澄んで清らかな部分(陽)は上昇して「天」となり、重くて濁った部分(陰)は沈殿して「地」となりました。
天と地が分かれたとき、水にただよっていた大地から、葦の芽が萌え出るように、
最初に
- 国常立尊(くにのとこたちのみこと)、
- 国狭槌尊(くにさつちのみこと)、
- 豊斟渟尊(とよぐむぬのみこと)
の三柱の神が生まれました。
宇宙卵 まとめ
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原初、宇宙の始まりの神話がどの国も同じことを語っていることに驚きです。
それが現代の宇宙論につながっていることにも驚かされます。
太古、国ごとの交流が難しい時代でありながら、共通する宇宙の始まり、宇宙卵の概念を持っていた、これってすごく不思議なことのようにも思えます。
地球は平らで、重力の発想もなく、太陽が地球の周りを回っていると考えられていた時代には思いもよらない原初のようにも思うのですが。。。


