出典:deviantart
マンドレイクは、ホグワーツの授業で叫び声を上げる魔界の植物というイメージがまず浮かびます。
あれは映画の中の創作かと思いきや、実際にそんな迷信が伝えられる、幻覚作用を持つ実在の植物なんです。
そんな、マンドレイクのさまざまな伝承をご紹介。
中世ヨーロッパの闇を垣間見るような、驚愕のマンドレイク、その伝承とは
目次
マンドレイク、さまざまな迷信を生んだ驚愕の万能薬

1583年
マンドレイクとは
マンドレイク(Mandrake)、別名マンドラゴラ(Mandragora)は地中海に生息するナス科マンドラゴラ属の植物。
ギリシャ神話や旧約聖書にもその存在が記される、太古から伝えられる植物です。
根には幻覚、幻聴を伴う、死に至るほどの神経毒があり、根茎が人型をしているという形状から、中世にはヨーロッパを中心に錬金術や魔術と関連づけられ、多くの伝承が生まれています。
名前
マンドレイク(Mandrake)の名前は「家畜に有毒」を意味します。
︎⚫︎ヘブライ語ではドゥダイーム。
「愛の植物」を意味し、媚薬や不妊症の治癒薬とされます。
旧約聖書の『創世記』では別名「恋なすび」。
アブラハムの孫・ヤコブの妻ラケルに与えられています。
⚫︎ドイツ語ではアルラウネ(Alraun, Alraune )
別称・ガルゲンメンライン「絞首台の小さい人」( Galgenmännlein )。
⚫︎オランダ語でディーフェ (pis diefje) 「小さな尿泥棒」、またはデュイヴェルチェ (pis duiveltje)「尿の悪魔」
︎⚫︎アイスランド語ではþjófarót「泥棒の根」
特徴

作者不明
マンドレイクは地中海を中心に、中国西部にかけて自生する、実在の植物。
茎はなく、釣鐘状の花弁と橙黄色の果実をつけます。
春咲きと秋咲きの種があり、春咲きが男、秋咲きが女。
プリニウス(古代ローマの博物学者)やディオスコリデス(古代ローマの医師、薬理学者、植物学者)は、マンドラゴラには男女の二種類があり、男マンドラゴラは白く、女マンドラゴラは黒いとしています。
臭気が強く、地中に埋まっている根は二股に分かれ、男女の生殖器を持つ人間の下半身を連想させます。
中世ヨーロッパの伝承では、夜には蝋燭ほどの光を放って発光。
地面からひっこ抜くと、この世のものとは思えない叫び声を上げ、この声を聞いた者は発狂し、死に至るとされるようになります。
成熟すると地面から這い出し、辺りを徘徊するとされ、その姿はゴブリンやコボルトに似て醜いと伝えられています。
薬効

ペダニオス・ディオスコリデス作『薬物誌』7世紀
マンドレイクは死者を蘇らせることはできませんが、それ以外のあらゆる病に効果を発揮する万能薬とされていました。
古くは
- 鎮痛
- 鎮静
- 下剤
- 便秘薬
として使用されていました。
けれど、根にヒヨスチアミンや、クスコヒグリンなど、麻薬効果を持つ数種のアルカロイドを含み、
- 幻覚、
- 幻聴、
- 嘔吐
- 窒息
- 瞳孔拡大
- 睡眠
などの症状を伴い、最悪の場合死に至ることもあるため、現在では薬用として使用されることはほとんどありません。
けれど、古代イスラエルでは「媚薬の実をつける」とされ、中世ヨーロッパの魔法使いたちは黒魔術や呪術、錬金術の材料として
- 滋養強壮
- 精力増強
- 中絶、あるいは不妊治療
- 不老不死
- 媚薬
などの効果を求めました。
その他
- 細かくすりおろした根の汁を塗布、リウマチの痛みを和らげ
内服薬として、
- 躁や鬱
- てんかん
などの治療にも用いられています
- 古代ギリシャ人はマンドレイクを香として焚き
- マンドレイクの媚薬や不妊治療薬としての用途から、幸運のお守りともされていました。
製法・使用法

エドムンド・オスカー・リップマン作(1894年)
根にある幻覚、麻薬作用を利用して、古代には外科手術の際の麻酔薬や鎮痛剤として用いられました。
その製法は、
- 根を叩いたり傷つけたりして抽出した簡易製の汁と、根をワインなどで煮出す
- 根から剥いだ皮を3カ月水にひたす、
- 果実を天日干しにして濃縮する
- 根をワインで3分の1になるまで煮詰める
これを手術の前に1シアトゥス(45ml)投与するとされています。(大プリニウスの『博物誌』などに記載)
伝説、伝承

『健康全書』1390年頃
◾️ ギリシア神話の中では
- アプロディーテー(ウェヌス)に捧げられた「愛のリンゴ」がマンドレイク。
- 「黄金のリンゴ」がマンドレイクという説もあります。
- メーデイアがイアソンに与えた火を吹く牡牛から身を守るための薬は、コーカサス山につながれたプロメテウスの体液を養分としてできた薬草で作られ、その薬草がマンドラゴラであったとう説があります
◾️ 『旧約聖書』の『創世記』『雅歌』
ここで記される「ドゥダイーム」は「愛の植物」、マンドレイクであるとされ、不妊症の治癒薬として用いられています
ヘブライ聖書『創世記』30章。
アブラハムの孫でユダヤの祖・ヤコブはイスラエル十二支族の祖となる子供12人をもうけています。
ヤコブは最初の妻・レアと結婚、長男ルベンが生まれます。
けれど、レアの妹で最愛の妻ラケルは不妊症でした。
長男ルペンはドゥダイームを発見、レアに託します。
ドゥダイームを望むラケルは、ヤコブと一夜を過ごすことを許す代わりにドゥダイームを手にいれたとされます。
◾️ シェイクスピア
『ロミオとジュリエット』のジュリエットが服用した仮死状態になる薬にはマンドレイクの成分が含まれていたとされます。
それは物語の中で「墓に生え、引き抜いたものがその植物の叫び声で発狂する」物とされています。
自生・栽培

ドイツ国立博物館
◾️ドイツでは絞首刑にかけられた男性の精液から生まれたとされます。
童貞の男が絞首刑に処されると、死体から漏れ出た体液(精液)が地の落ち、そこから生え出るといわれます。
◾️オランダではディーフェ 「小さな尿泥棒」、またはデュイヴェルチェ 「尿の悪魔」。
死んだ泥棒の脳、または絞首刑にかけられた者の排泄物(尿)から生えると伝えられています。
採取法

著者不明 古代医書
マンドレイクの根は細かく複雑に張り、その中には人型になるのもあり、引き抜く時には力が必要で、根をちぎりながら抜くことになるので、プチプチと根が切れる音がします。
そんなところから多くの迷信が生まれています。
- この根を抜くと地獄に落ちる
- 怯むようにかわす
- 悲鳴をあげて泣き叫び、それを聞いてしまうと発狂する、あるいは死ぬ
など
そのため、採取するための作法や、犬を使ってに採取する方法の記述や図像が、中世ヨーロッパで伝えられるようになります。
◾️ 古代ギリシャ・ローマ、テオプラストス(前287年頃没、博物学者、植物学者)『植物史』には、マンドラゴラは定められら作法で採取しなければならないとしています。
それによると
剣で根のまわりを三重に円を描き、西を向きながら切りとります。
2つ目の根を採取する場合、収穫者は根の周りで踊り、できるだけ淫らな言葉を口にしながら切り取らなければなりません。
◾️ローマ帝国時代のユダヤ人著述家フラウィウス・ヨセフス(紀元37年頃-100年頃)の『ユダヤ戦記』によれば、
旧マカイロスの町(ヨルダン)の北の谷に、悪霊に取り憑かれた人の除霊に効くとされるバーラスという根(後にマンドレイクと同一視される)が生えているとしています。
けれど、この根の採取には死に至る危険な作業と犠牲がともないます。
この根はつまれると叫び声をあげ、その手から逃げ出してしまいます。
女性の尿や経血をかければ動きを止めることはできますが、叫び声を聞いたり触れれば死に至ります。
そのため、その根を採取するためにはロウで耳栓をし、根の周囲を根の下部が見えるまで掘り 、マンドレイクと犬の尻尾をロープで結びます。
その場から立ち去ろうとすると、犬は主人についてくるので根を引き抜いてくれます。
けれどマンドレイクの叫び声を聞いた犬は死んでしまいます。
『魔女の薬草』、魔術とマンドレイク
マンドレイクは魔女にとっても重要な成分でした。
魔女たちはマンドレイクの幻覚作用を利用して魔法の薬を調合。
- 悪魔と接触するため
- 変身するための幻覚剤
- 酒に調合し、酒宴を楽しんだ
また
- 空を飛ぶための軟膏として塗布した
と考えられていました。
アルラウネ人形

作者不明
アルラウネ(マンドレイク)は人形とされ、幸福や富が舞い込むお守りとしても用いられています。
作り方
◾️ グリム兄弟『ドイツ伝説集』第84話
代々泥棒の家系で、母親も孕った時に窃盗を働いたあるいはそういう衝動に駆られていた男が童貞のまま絞首刑になった時、垂れた体液に盗賊の魂と精子や尿が集まって「ガルグン=マンレ Galgn-Mänl」という植物が生える。
または、冤罪で泥棒として絞首刑にされた男が流した体液(尿)に, オオバコのような黄花の植物が生えるのだという。
金曜日の夜明け前、耳を綿で塞ぎ、その草の上で十字を三回切って採取。
そのアルラウネを赤ブドウ酒で洗い、紅と白の絹布で包み、箱に収める。
毎週金曜日に風呂に入れ、新月の日には新しい白シャツに着替えさせさせなければならない。
としています。
️◾️ジャン=バティスト・ピトワ(1811年 - 1877年 フランスの作家)『魔法の歴史と実践』では
ブライオニーという植物の根を春分の少し後の月曜日(月の日)に地面から取り出します。
根の両端を切り落とし、教会の墓に夜間に埋めます。
それに30日の間、コウモリ3匹を溺れさせた牛乳をあたえます。
31日目、真夜中に根を取り出し、バーベナの枝を入れたオーブンで乾燥。
死者の巻布で包みます。
ご利益
- 質問をすると、未来や秘密を教えてくれる
- 持ち主は貧乏とは無縁になり、人からも好かれ、子宝にも恵まれる
- 夜、貨幣を人形に載せておくと倍返しにしてくれる
ただし、無理をさせると弱って死んでしまいます。
ドゥカート金貨だとたまに成功する程度、半ターラー銀貨に抑えましょう。
持ち主が亡くなると、末の息子が人形を相続します。
そのとき棺には一切れのパンと一枚の貨幣を入れておきます。
もし、末息子が父より先に亡くなれば、人形はは長男のものとなり、末息子の棺にも一切れのパンと貨幣を入れて埋葬します。
マンドレイク、現代でもまんまマンドレイク
映画
『ハリー・ポッター』のマンドレイクはホグワーツの薬草学の授業でその採集法や扱い方を学んでいます。
引き抜いた際の叫び声が印象に残る一場面です。
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2006年公開のダークファンタジー『パンズ・ラビリンス』でのマンドラゴラは主人公の少女オフェーリアが妖精パンから与えられた、母の病気を治す魔力を持った根。
皿に入れたミルクに浸し、血を与えることで成長し、母親の病状と連動する不気味な存在。
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アニメ・ゲーム
『ダンジョン飯』のマンドラゴラ(マンドレイク)は、根が人の形に似た植物系の魔物。
バジリスクの卵と合わせて「マンドレイクとバジリスクのオムレツ」として調理されています。
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『女神転生』シリーズのマンドレイクは妖樹や妖魔に属する悪魔の植物。『真・女神転生II』で初登場。『真・女神転生デビルサマナー』以降可愛い女性の姿に変身しています。
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マンドレイク まとめ

作者不明 512年頃
未来の出来事を教えてくれて、富と人望を与えてくれるアウラウネ人形、欲しい、です。
けど、泥棒の体液から生まれた植物なんて見つかりっこないし、犬を犠牲にするのもかわいそうだし、墓に埋めたり、死者の衣でくるんだりするのもムリだし、コウモリを浸した牛乳なんて作れないし。
やっぱ、富と人望には縁がなさそうです😂
