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ダゴンはクトゥルフ神話では「父なるダゴン」として知られる海の悪魔。
けれど、神話の中のダゴンは、一説ではバアル神の父とされるメソポタミアの豊穣神です。
神々の父とされた最高神が海の怪物に成り果てる、
海の神、そして悪魔になった経緯をたどります。
バアル神もベルゼブブになった、なんとなく想像できちゃうけど、
詳細はなかなか興味深くもある、その経緯とは
目次
ダゴン、クトゥルフ神話の父ダゴンは太古の「神々の父」
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ダゴンとは
ダゴン(Dagon:ヘブライ語)またはダガン(Dagan:アッカド語)は紀元前3000年〜2000年、古代メソポタミア(イラク チグリス川とユーフラテス川周辺)や古代カナン(地中海とヨルダン川・死海一帯)でバアル神と並ぶ信仰を集めた穀物神。
父親はウガリット神話(古代のシリア)の最高神エル(イル)。
一説にはバアルの父とされます。
「神々の父」であり、豊穣と繁栄をもたらす神。
紀元前3000年紀のトゥットゥル・ダガンは統治者に「王権を授ける神」
また、誓いの神聖な証人として召喚されたという記録も残されています。
紀元前2300年頃、エブラ(シリア北部の古代の都市国家)では、200を数える都市の都市神たちの頂点に立ち、「神々の主」「地の主」「地の露」「カナンの主」などの称号を持っていたとされます。
紀元前1300年ごろのウガリットでのダゴンは、父なる神エル、バアル・サパン(ハダド、アダド)に次ぐ第三の地位にあったとされます。
そして、ユーフラテス川周辺では、ペリシテ(カナン南部)人は半人半魚の人魚の姿を持つ神として崇拝し、半人半魚の主神ダガン(ヘブライ語でダゴンDagon)になったとされます。
けれど、旧約聖書の中ではイスラエル人と敵対する民族(ペリシテ人(カナン))が崇拝する神。
ヘブライ語聖書にペリシテ人の主神として登場し、『士師記』の中ではサムソンがダゴンの神殿を破壊しています。
悪神とする扱いはキリスト教でも引き継がれてゆきます。
ミルトンの『失楽園』では悪魔のひとりで、上半身が魚の半魚半人の「海の怪物」。
コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』にも悪魔のひとりとして登場。
H・P・ラヴクラフトの小説、クトゥルフ神話では父ダゴンとして重要な役割を果たしています。
家族
父
ウガリット神話でのダガンは、主神ですべての生き物の父とされる最高神・エルの子、あるいはエルと同一視されています。
妻
シャラシュ(穀物と天候の女神・シャラ)
子供
ダゴンはバアルの父とされます。
- ハダド(バアル・ゼフォン)ー 嵐と雨の神。ギリシャ神話のゼウス、ローマ神話のユピテル、バビロニア神話のベルと同一視されています。
- ヘバト ー さまざまな気象神の配偶者となる女神。
ちなみに
(ヘレニズム時代のフェニキアの作家)サンクニアトンはダゴンをクロノスの兄弟とみなしています。
この説で、ハダド(デマルス)はウラノスと側室との子。
妊娠した側室はダゴンに与えられ、ダゴンはハダドの異母兄弟で、義父となっています。
ビザンチンの『語源大全』では、ダゴンは「フェニキアのクロノス」と称されています。
ダゴン信仰
- メソポタミア(旧石器時代〜後期古代まで)のダガンは「神々の父」として、風、空気、大地、嵐を司るシュメールの最高神・エンリルと同一視。
- バビロニア(イラク南部、ティグリス川とユーフラテス川下流の沖積平野一帯)では、強力で戦闘的な守護神として、水、知恵、生命を司る地の王・エンキ、半神半魚・オアンネスと同一視されています。
ダガンはテルカやマリ等の古代都市に多くの神殿を持つ、ユーフラテス川中流域で信仰された神。主要な都市神と同等の地位にあったと考えられます。
メソポタミア時代の文献には、「エアナのイシュタル、ニップールのエンリル、トゥットルのダガン、ケシュのニンフルサグ、エリドゥのエア」という表現が使われています。
🔳アッカド王朝の初代王・サルゴン(紀元前2334年〜2279年)は「ダガンに上の国(マリ、エブラの杉の森、銀の山)を与えられた」
🔳4代王・ナラム・シン(紀元前2155年〜2119年)も、「ダガンの加護によって西方への遠征に勝利した」と述べています。
紀元前2000年後半にはダガン信仰はウガリットに波及。
紀元前1000年初頭、ペリシテ人の地(パレスチナ南部)でも信仰を集めます。
🔳ハンムラビ王(紀元前1792年〜1750年)は法典の序文で、自身を「創造者ダガンの加護のもとユーフラテス川の村々を支配するもの」と称し、マリ等の都市の征服をダガンの意思としています。
🔳アッシリア王シャムシ・アダド1世(紀元前1813年〜1781年)は、自身を「ダガンの信奉者」と称し、テルカにエキシガ(供物の家)を建築。
🔳アッシリア王アッシュールナツィルパル2世(紀元前883年〜 859年)の石碑には「創造神・アヌとダガンに愛された王」と刻まれています。
アッシリアの伝承において、ダガンはネルガル神やミシャル神と共に「冥界で死者に裁きを下す神」。
後のバビロニアでは、冥界で「冥界神・エンメシャラの七人の子の看守」をつとめる神とされます。
魚人・人魚、ダゴン
ダゴンが人魚であるという説は「ダグdāg 」の名が「魚」を意味するというところに由来しています。
この説は11世紀、ユダヤ教聖書注釈者ラシが唱えたもの。
13世紀、(ラビ・聖書解説者・文法学者)デイヴィッド・キムヒは、サムエル記5章の「彼にはダゴンだけが残された」という文を「魚の形だけが残った」と解釈。
同じくサムエル記5章の「ダゴンの像の両手と頭は切り落とされた」という文も含め「ダゴンはへそから下は魚、へそから上は人間の形をしており、両手は切り落とされたと言われている」と付け加えています。
紀元前3世紀、(バビロニアの著述家でバビロニアの著述家)ベロッソスは半魚神オアンネス(オダコン(Odakon))の存在を言及。
これがダゴンと結び付けられ、メソポタミアの「魚人」、アッシリアやフェニキアの「人魚」のモチーフとなります。
けれど、これらの描写は実際にはエア神と結び付けられた古代メソポタミアの怪物・クルルが描かれたものであるとされています。
ダゴンが人魚・海神であったかの真偽については
ダゴンの研究家・ハルトムート・シュメッケル(1928)は「ダゴンは「魚神」ではなく、「魚」を意味する「ダグ (dâg)」に影響されたもの」と唱えています。
聖書の中のダゴン
旧約聖書の中で語られるダゴンは、イスラエルの敵であるペリシテ人の神。
ユダヤ人にとっては異教の神(=悪神・悪魔)として扱われています。
士師記16章では、ペリシテ人は士師サムソンを捕え、ガザのダゴンの神殿でサムソンを晒し者とします。サムソンは最後の力をふりしぼり、神殿を崩落させ、3000人のペリシテ人とともに討ち死にしています。
歴代誌10章では、イスラエル王国の初代王サウル王の首がダゴンの神殿に晒されています。
サムエル記上第5章の中では、ペリシテ人はイスラエルに勝利し、契約の箱(聖櫃(せいひつ)、ソロモンの秘宝(アーク) 十戒が刻まれた石板を収めた箱)を奪います。
そして、アシュトドのダゴンの神殿に奉納。
けれど翌朝、ダゴン像が「契約の箱」の前に倒れているのを発見。
翌朝も、ふたたび倒れているダゴン像を目にします。
そして、頭と両手は切り取られ、ミプターン(敷居もしくは基台)に置かれていました。
その後、疫病に悩まされたため、ペリシテ人は契約の箱をイスラエルに返還。
「以後、いかなるものも「今日に至るまで」アシュドドのダゴンのミプターンを踏まない」と記されています。
ゼファニヤ書1章の「敷居を跳び越える者」は、この習慣を守るペリシテ人を指すと考えられています。
そして記述には「raq dāgōn nišʾar ʿālāyw」とあります。これは「彼にはダゴンだけが残された」と意味し、その神意が問われています。
ちなみに
ヘブライ語聖書には、『フォーマルハウトb』と呼ばれる太陽系外天体はダゴンにちなんで名付けられたとされています。
クトゥルフ神話のダゴン
クトゥルフ神話でのダゴンは、「父なるダゴン」として、もっとも知名度の高い邪神のひとりとして登場しています。
配偶者は「母なるヒュドラ」
深海に住み、インスマスに拠点を置く秘密カルト・ダゴンの秘教団に崇拝され、ディープワンズを統率する両生類のヒューマノイド。
身長およそ6メートル。
よどんで突き出した眼、分厚くたるんだ唇、水かきのついた手足を持つ半魚人。
水の精に属する、「深きものどもの」の指導者であり、「旧支配者クトゥルフに仕える従者」
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの短編『ダゴン』(1917)で初登場。
古代人が神と崇めていた、知性を持つ怪物として描かれています。
『インスマウスの影』では
「父なるダゴンと母なるヒュドラ」を崇拝する、ダゴンとヒュドラの末裔の半魚人族「深きものども (インスマウス人、ディープワン)」と、「ダゴン秘密教団 (Esoteric Order of Dagon)」を結成するその血筋をひく人間との混血たちが登場しています。
「クトゥルフ神話」とは
1920年代にアメリカの作家、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによるホラー小説をもとに、
- クラーク・アシュトン・スミス
- フランク・ベルナップ・ロング
- ロバート・ブロック
などの作家たちが、設定を共有し、作り出した作品群。
ラヴクラフトが亡くなった後、その作品をもとに体系化したものが「クトゥルフ神話」です。
ダゴン、作品の中では堂々たる海の怪物
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のダゴンは、神々よりも古くから存在するオビリス種。
第 89 層を支配するアビスの悪魔の王。
数千年にわたって5 つの「荒波」を作り出し、堕落した星の海で泳ぐ人々の夢に悪夢を吹き込む、ラブクラフトの悪魔。
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2001年製作の映画「DAGON ダゴン」。
ヨットでバカンス中に嵐で座礁したヨットのクルー4人は、沿岸の寂れた漁村に流れ着きます。
彼らは不気味な村民たちに囚われ、そして、、、
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『呪術廻戦』では、人が海を畏怖する念から生まれた特級呪霊。
偽夏油一派の陀艮(だごん)として登場
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スマホソーシャルゲーム「東京放課後サモナーズ」のダゴンは広範囲に及ぶ引き寄せとデバフが強力な魔属性アタッカー。
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ダゴン まとめ
出典:deviantart
旧約聖書の中での異教の神はことごとく悪魔となったために起こる、ベルゼブブになったバアルと深海の怪物になったダゴンが親子関係。
これは、イコール、タコがハエの親という図式が生まれるわけで。
なんとも、形容しがたいオドロキです(^_^;)