ピーテル・パウル・ルーベンス作「ライオンを倒すサムソン」(1628年)
SF作品の中には数多くのヒーローが登場します。
それと同じように神話や伝承の中でも様々な英雄が語り継がれてきています。
日本ではスサノオやヤマトタケルから始まり、ギリシャ神話ならヘラクレスやアキレウス。
ケルトならアーサー王やロビン・フット。
北欧なら、、、などなど。
そして旧約聖書でまず挙げられる英雄はサムソン。
神から人智を超えた力を与えられ、イスラエルの民を導いた最高の士師
そのサムソンの英雄譚、生涯のご紹介です。
目次
サムソン、神から与えられた怪力の士師
ジョルジョ・スキアヴォーネ作
サムソンとは
グイド・レーニ作
サムソン(Samson)は、旧約聖書の士師記13章〜16章に登場する古代イスラエルの士師。
ナジル人として生まれ、ヤハウェ(神)に超人的な力を与えられた孤高の英雄です。
古代イスラエルの最後の裁判官であり、紀元前11世紀王政が確立される以前のイスラエルを導いた最後の指導者。
ギデオンを超える旧約聖書最高の英雄とされ、その名は「太陽の人」あるいは「神に仕えるもの」という意味を持ちます。
ヘラルト・ファン・ホントホルスト 作
サムソンの英雄譚として、素手でライオンを倒し、ロバの顎骨でペリシテ軍に勝利する偉業が語られています。
けれど、恋人デリラに裏切られ、力を奪われ敵軍に奴隷とされる末路をたどります。
その物語は『サムソンとデリラ 』としてサン=サーンスのオペラや数多くの作品となり世に知られています
士師とは
士師とは、イスラエルが王国になる以前、モーセの使徒ヨシュアの死後からダビデに油を注いだサムエル誕生までの間、国が危機に陥った際、敵を倒し、イスラエルの人々を守り導いた英雄たちをいいます。
サムソンの人物像
サムソン・アゴニステス
サムシンの怪力
サムソンは子のない夫婦に神が使者を遣わし、ナジル人として神に捧げられた子として誕生しています。
彼の怪力は、ナジル人であるサムソンに与えられた賜物でした。
そのナジル人としての証のひとつが、髪を切らないということでした。
そのため、デリラの裏切りによってその秘密が敵に知られ、その怪力も奪われてしまいます。
ナジル人とは
ナジル人とは、イスラエル人が誓願を立てたことで成れる「聖なる者」
誓願には
- ワインや酒、酢などのブドウ製品を控える
- 頭髪を切らない
- 家族であっても死体や墓などの不浄なものには触れない
という戒律が求められました。
これらに従ったイスラエル人は、犠牲を捧げ、髪を焼かれる儀式が行われ、ナジル人と成ります。
サムソンの恋愛
レンブラント作『サムソンとデリラ』
サムソンは女性によってその生涯が大きく左右されています。
- 14章で、彼はペリシテ人の娘。
- 16章ではデリラ、
二人の女性の裏切りによって、ペリシテ人を倒し、神から与えられた怪力を失い、自らも死を迎えています。
その生涯
フランチェスコ・アイエツ作 1842年
サムソンの誕生
ユスタシュ・ル・スール作『マノアの犠牲』
サムソンはイスラエルとペリシテの度重なる紛争の最中に生まれました。
神は異教の神に影響されるイスラエル人がペリシテ人の弾圧を受けることで彼らを懲らしめていました。
サムソンの父、ダン族のマノアはゾラ出身のイスラエル人。
その妻は妊娠することができない身体でした。
サムソンの両親は神に祈り、「子どもを授けて下さるならその子を神さまのものとしてささげます」と誓いました。
ある時、主の使いの天使がマノアの妻に現れ、イスラエル人をペリシテ人から救い出す息子が生まれることを告げます。
そして、神にささげられたナジル人の子として誕生させるために
- ぶどう酒や強い飲み物を飲まない
- 不浄のものを食べない
- 生まれる子の頭髪にカミソリをあてない
の3つを守るよう告げます。
ペリシテ人との戦い
ヒラリー・パダー作
成人となったサムソンはペリシテの街を放浪し、そこに住む女性との結婚を望みます。
その女性に求婚しようとする際ライオンに襲われます。
サムソンは『主の霊』の力の祝福を受け、そのライオンを掴むと難なく引き裂きました。
結婚が決まり、サムソンは両親にそれを告げるために帰郷。
その途中ライオンの死体に蜂が巣を作り蜜ができているのを見つけます。
披露宴で、サムソンは30人の花婿の付き添いに衣を賭けた謎かけをします。
それは「食べる者からは食べ物が生まれ、強い者からは甘いものが生まれる」というもの。
付き添いのペリシテ人は花嫁を脅し、その答えを聞き出そうとします。
花嫁の涙ながらの懇願にサムソンはその答えを花嫁に、花嫁はペリシテ人に告げます。
賭けに負けたサムソンは地中海の古代都市アシュケロンで、『主の霊』の力の祝福を受け、ペリシテ人30人を討って衣服を奪い、賭けに勝ったペリシテ人に与えます。
その成り行きに憤慨したサムソンは帰郷。
その間に花嫁の家族は花嫁を付き添いのひとりに妻として与えてしまいます。
それを知らず花嫁の元の戻ったサムソンに花嫁の父は花嫁の妹を与えると申し出ます。
けれど、サムソンは300匹のジャッカルの尾に松明をむすびつけ、ペリシテ人の畑を焼き払います。
ペリシテ人はその報復にサムソンの妻とその家族を殺し、サムソンはそれらのペリシテ人を打ちのめします。
その後、サムソンは(歴代誌に記された)『エタムの岩』に避難 。
ペリシテ人は軍を率いてユダ族にサムソンの引渡しを要求します。
ユダ族はこれに応じ、ペリシテ人はサムソンを縛り、連行。
けれどその途中、主の霊の力によりサムソンは縄を解き、ロバのあごの骨でペリシテ人1000人を打ち殺しました。
デリラの裏切り
アンソニー・ヴァン・ダイク作
その後サムソンは二十年の間士師としてイスラエルを導き、ソレクの谷に住むペリシテ人のデリラという女性に恋をします。
ペリシテ人はデリラに近づき、銀貨1100枚でサムソンの力の秘密を探るようそそのかします。
デリラは幾度もサムソンにその力の秘密を問います、その度にサムソンははぐらかしますが、とうとうその秘密を打ち明けてしまいます。
ナジル人として神に身を捧げたことで神が彼に力を授けたということ。
その証が頭髪に剃刀をあてないということ 。
秘密を知ったデリラはサムソンを膝の上で眠らせ、サムソンの髪を切ります。
力を失ったサムソン
カール・ブロッホ作
サムソンは力を失い、両眼をえぐり出されてガザの牢に投獄。
奴隷とされ、足かせをはめられ、鞭打たれ、石臼で粉をひく労働を課せられます。
けれど、そうしている間にもサムソンの髪は伸び始めています。
サムソンの最期
ある日、ペリシテ人の指導者たちはサムソンを捕えたことを祝い、彼らの神ダゴンの神殿で犠牲を捧げる儀式を催し、その参加者は3000人にのぼりました。
そこに、捕えられ盲目の奴隷となったサムソンを引き出し、見せ物として晒し者にします。
その最中、サムソンは手探りで神殿を支えている柱を探り当て、主なる神に加護を祈ります。
そして、建物を支えている二本の柱を渾身の力でへし折ります。
ダゴンの神殿は崩壊。
そこに集った3000人のペリシテ人たちと共に、サムソンもその生涯を終えます。
サムソン、現代でも怪力の英雄(?)
『Fateシリーズ』のサムソンはバーサーカークラス。長い髪、巨体の「光戦士」クラスの浮遊サーヴァント。
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『キン肉マン』のサムソンティーチャーはアシュラマンに格闘技を教えた4本の腕を持つ超人。
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『聖☆おにいさん』のサムソンはイエスの友人。
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サムソン まとめ
レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン作 1636年『ペリシテ人に目を潰されるサムソン』
神に選ばれし存在として生まれ、女の色香に惑わされたために力を失い、後悔の懺悔で復活。華々しい最期をとげる。
まさにヒーロー、スーパースターな生涯です。
スターに必要な要素は、挫折を経験して復活する、ところにあるのかもしれません( ・∇・)