神話の世界の中では華々しい英雄の物語と同じように、血生臭い権力闘争や復讐劇も数多く存在します。今回はその中のギリシャ悲劇「エレクトラとオレステス」のご紹介です。
父アガメムノンを母クリュタイムネーストラに殺され、その復讐を果たす姉弟「エレクトラとオレステス」。夫婦、親子の愛と憎しみを描きます。
画像出典:西洋美術の謎と闇
「エレクトラとオレステス」ギリシャ悲劇の代表作のひとつ
出典:ウィキペディア
ギリシャ悲劇とは古代ギリシアアテナイのディオニュシア祭において上演されていた悲劇をいいます。
三大悲劇詩人として知られるのがアイスキュロス、ソポクレス、エウリピデス。その詩人達が扱った作品がアイスキュロスは「オレステス」、ソポクレス、エウリピデス共に「エレクトラ」。
オレステスとエレクトラは父アガメムノンと母クリュタイムネーストラの間に生まれた姉弟。実母に実父を殺されたことの復讐を果たすお話です。
アイスキュロスの「オレステス」で観る悲劇のあらすじ
アガメムノン
舞台はトロイアを降伏させたギリシャ軍総大将アガメムノンがミュケナイに凱旋帰国するとことから始まります。妃クリュタイムネーストラがこれを迎え、ふたりは宮内に入ります。
アガメムノンに捕虜として捉えられ、ギリシャに連れてこられたトロイアの女王カッサンドラが「この宮にはエリーニュス(復讐の女神)が取り憑いている、アガメムノンは破滅に向かう」と予言。そして自らの運命を受け入れる決心をし、二人の後を追い宮に入ります。そして、アガメムノンの悲鳴。宮内で刃物を持ち、立ち尽くすクリュタイムネーストラと倒れて生き絶えたアガメムノンとカッサンドラ。
アガメムノンはトロイアに出陣する際、実娘イーピゲネイアを女神への生贄として捧げており、クリュタイムネーストラは愛人アイギストスと共謀してその復讐を果たしたのでした。
そしてクリュタイムネーストラは「この殺人は正義に基づいたものであり、今後はアイギストスと共にこの国を支配する」と宣言します。
供養する女達
第二幕はアガメムノーンの墓前。成長したオレステスが訪れ、成人の証として切った髪の房を捧げるところから始まります。そこに姉エレクトラが訪れ、オレステスは身を隠して様子を伺います。エレクトラは母への復讐を誓い、弟オレステスとの再会を願います。弟オレステスはアガメムノンの殺害の前に里子に出されていたために姉弟はそれ以降会えずにいたのでした。
エレクトラの告白を聞きオレステスは姿を表し、ふたりは再会を果たします。そして父の墓前で母と愛人への復讐を誓います。
旅人に扮したオレステスはオレステスが死んだと母に伝えることを口実に宮内に入り、そしてまず愛人アイギストスを殺害、命乞いする母クリュタイムネーストラもこれまでの所業を責め、復讐を果たします。
慈しみの女神たち
デルポイの神殿、アポロンにすがるために訪れたオレステスの眠っている姿から舞台は始まります。アポロンはアテナイに行き、母殺しの所業をアテナの裁判で罪を問われるよう指示し、ヘルメスが眠っているオレステスを連れ出します。
やがてアテナが現れ、オレステスを弁護するアポロンと復讐の女神たちの間で裁判は始まります。結果、オレステスは無罪となり、ここで復讐の連鎖は断ち切られます。
アイスキュロスの「オレステス」ではオレステスの視点から、ソポクレス、エウリピデスの「エレクトラ」ではエレクトラの視点から復讐劇が語られています。
エレクトラコンプレクス
ユングによって提唱。女児が父親に対して独占欲的な愛情を抱き、母親に対して強い対抗心を持つ状態をいいます。これに対して男性が父親を憎み、母親に性的な思慕を抱く場合はエディプスコンプレックス、フロイトが提唱しています。
それぞれに活躍する「エレクトラとオレステス」
「エレクトラ」
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不思議の海のナディアでは潜水艦ノーチラス号の副長。
MARVEL COMICSではデアデビルの元カノ。ギリシャ大使である父を殺され、その悲しみと復讐心から女暗殺者となります。
「オレステス」
舞台蜷川幸雄「オレステス」
演出は蜷川幸雄、出演 藤原竜也、中嶋朋子ほか。2006年公演作品。圧巻の蜷川幸雄の世界が繰り広げられます。
まとめ
出典:西洋美術の謎と闇
家族間での権力闘争や親子・兄弟の仲違い、果ては憎み合い、遺産相続で殺し合い。
ギリシャ悲劇でなくとも、平日の夜、テレビを付ければ観ることのできるドラマであるようにも思います。
関係が近ければ近いほど、拗れれば根の深い愛憎劇になるのかもしれません。