
18世紀のモロク像
モレクはソロモン72柱の悪魔の一人。
牛の頭部を持つ、人間の生贄を求める悪魔。
幾つものグリモワール(魔導書)の中で語られています。
かつては古代都市・カナンの豊穣神。
生贄を捧げるその信仰のため、旧約聖書において異教の神として非難を受け、中世の悪魔学では幼い人肉を食らう恐ろしい悪魔として扱われることになります。
モレク、太古の豊穣神が大悪魔に堕ちるまで

マーガレット・ドヴァストン作 フェニキア人のモロクへの生贄
モレクとは
モレク(Molech ) 、モロク(Moloch )は、バビロニア、フェニキア、ヘブライなどのメソポタミア文明において、セム系民族・カナンやアンモンの民に信仰された神。
「太陽」や「浄化の炎」の属性を持った、豊作や国家の繁栄をもたらす守護神として崇拝されていました。
旧約聖書、ヘブライ語聖書(ユダヤ教の聖典)、主に『レビ記』に登場。
『列王記』にはイスラエルの王・ソロモンがモレクの崇拝を行ったことが述べられています。
モレクはヘブライ語で「王」を意味し、「涙の国の君主」「母親の涙と子供達の血に塗れた魔王」とも呼ばれます。
信仰のために自身の長子(最初の子)を生贄として捧げる儀式が行われていたことで知られる神。
この慣習が旧約聖書において激しく非難され、以降恐ろしい大悪魔として扱われるようになります。
中世以降、「人間の子供を食らう大悪魔」として、しばしば火の上に手を伸ばした牛の頭を持つ姿が描かれるようになります。
神・モレク信仰

ジョルジュ=アントワーヌ・ロシュグロス作 (1900年頃)
モレクは、古代中東においては太陽神として崇められ、豊作をもたらし、人々を災害から守る存在として信仰されていました。
けれど、その加護を得るためには人間の子供を生贄にする必要がありました。
信者は「モレク像」を造り、それを生贄の祭壇としました。
像の内部には小麦粉、雉鳩、牝羊、牝山羊、子牛、牡牛、そして人間の新生児の7つの生贄を入れる為の棚が設けられていたとされます。
新生児は王権を継ぐ者の第一子、生きたままの状態で焼き殺されました。
子供の泣き声をかき消す為、生贄の儀式には楽器による凄まじい音が鳴り響いたとされます。
中世以降、モレクはフェニキアの主神・バアル・ハモンと同一視されます。
これはバアル・ハモンの崇拝にはモレク同様、人身供犠を必要としていたことに由来するとされます。
また、カナンの最高神・バアルの別名であるともされます。
バアル・ハモン
バアル・ハモンは古代カルタゴ(フェニキア)の守護神であり最高神。
カナン地域で広く信仰されていた嵐と豊穣の神であるバアルの信仰がカルタゴの最高神と結びつくことで「バアル・ハモン」へと変化したと考えられています。
バアルと習合されることで、北西セム語族の神 、最高神・エールやバアルの父・ダゴンとの関連も伝えられています。
バアル・ハモンは空と植物を司る神で、その名は「群集の支配者」を意味します、
髭を生やし、曲がった羊の角をつけた年老いた神。
祭儀場らしい場所からは、新生児から6歳を上限とする子供の骨が大量に発見。
フェニキア人の植民地があったサルディニア、マルタ、シチリアでも発見されています。
ソロモンとモレク

ジョージ・ペンツ作 偶像モロクを崇拝するソロモン
旧約聖書『列王記』の中で、古代イスラエルの王・ソロモンは首都・エルサレムにモレク信仰を広めたことが記されています。
晩年、ソロモンは多くの異邦の妻を迎えています。
その影響でモレク崇拝に傾倒し、エルサレムの南西(ヒノムの谷)にモレクの祭壇を築いたと記されています。
ソロモン自身が実際に子供を生贄にした記述は聖書にはありませんが、アハズやマナセなど、後に続くユダの王たちがヒノムの谷でこの儀式を行ったとされます。
神は、モレク信仰に対して二度ソロモンを訪れ、生贄を捧げる儀式を戒めています。
そしてこの信仰がソロモンの死後、イスラエルが南北に分裂する原因になったと考えられます。
悪魔になったモレク

ルイ・ル・ブルトン作 コンラン・ド・プランシー『地獄の辞典』のモレク
モレク(モロク)は旧約聖書の中で、子どもを火にくべて生け贄(人身御供)にする残酷な儀式を伴う異教の神として強く非難され、ユダヤ教やキリスト教では神に敵対する「悪魔」として扱われるようになります。
姿も頭が牛で身体が人間の、半人半獣の姿で描かれるようになります。
『失楽園』の中のモレク

ウィリアム・ブレイク作『モロクの逃亡』(1809年)
モレク(モロク)は、17世紀に旧約聖書を題材に書かれジョン・ミルトンの叙事詩『失楽園』(1667年)に、子供を食べる堕天使として登場。
サタンに付き従う堕天使の一人。
かつては天界で最も強猛な天使でしたが、堕天後は生贄を求める恐ろしい魔王として登場します。
“幼い生贄たちの血にまみれ、親たちの流した涙を全身に浴びた恐るべき王”
万魔殿(パンデモニウム)で開かれた会議では、再び天界へ攻め込むことを主張する主戦派の先鋒。
聖なる存在の対極として位置づけられています。
悪魔学のモレク(モラクス)
中世以降、悪魔学においてさまざまな文献(グリモワール)の中でモレクは「生贄を求める大悪魔」として登場。
「牛の頭部を持つ人間」や「王冠をかぶった半人半獣の姿」で描かれるようになります。
◾️『地獄の辞典』(コラン・ド・プランシー著)では
ベルゼブブの配下(蠅騎士団の指揮官)で、「涙の国の君主」や「母親の涙と子供達の血に塗れた魔王」呼ばれる、王冠をかぶる牛の頭を持つ、かつて生贄を求めた悪魔。
◾️『ソロモン王の小さな鍵』(レメゲトン)の第一部「ゴエティア」ではモラクス (Morax ) 、あるいは、マラクス(Marax)
72人の悪魔の序列21番目。
大いなる伯爵にして総裁。36の軍団を率いています。
召喚した者の前に人間の男性の顔を持つ大きな雄牛のような姿で現れ、天文学や自然科学、薬草や宝石が持つ神秘的な力などについての知識を授け、優れた使い魔を与えてくれる能力を持ちます。
◾️『大奥義書』ではファライー(Faraii)。
地獄の3大支配者、ルシファー、ベルゼビュート(ベルセブブ)、アスタロトに仕える地獄の上級精霊・サルガタナスに直属する、18人の下級精霊(悪魔)の1人
◾️『悪魔の偽王国』ではフォライー(Foraii)
36の軍団を率いる偉大な伯爵にして総裁
◾️『儀式魔術の書』ではフォルファクス(Forfax)。
モラクス(Marax)の異称。
人間の顔を持つ大きな雄牛の姿、ソロモン72柱の序列21番の悪魔。
モレク、現代でもなかなかな活躍の悪魔(?)
映画・ドラマ
海外人気ドラマ「スーパーナチュラル」のモレク(Moloch)は、生贄を求める、血に飢えた異教の神。
シーズン12第18話「よみがえる神話」では、ウィスコンシン州トマホークという小さな町で起きた失踪事件で、ビショップ家に富と繁栄をもたらす見返りとして、毎年血の生贄を要求し続けていました。
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テレビドラマ版「スリーピー・ホロウ」のモレクは世界の破滅を目論む 強力な悪魔の親玉として登場。
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アニメ・ゲーム
「真・女神転生Ⅱ」でのモレクはルシファーの配下で、魔王種族の悪魔。
「モロクの尻尾」と呼ばれる巨大な突起物で人々の体内から生体マグネタイト(MAG)を吸い取ります。
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思考型シミュレーションRPG 『メギド72』のモレクはメギドの最高権力組織「8魔星」の一角を担う純正メギド。
イベント『8魔星モレク、参戦』でプレイアブルキャラクター(バースト)として実装されました。
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『ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。』のモレクは自由奔放なおバカさん。自称ダンタリオンの親友で古参の悪魔で偉い人。
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モレク まとめ
富と繁栄を求め、我が子を生贄に捧げなければならない時代があったことが今更ながら驚愕です。
王家という家柄に生まれたことのペナルティのひとつだとしても、残酷すぎる仕打ちのように思います。
泣き叫ぶ声を楽器の音でかき消した、想像しただけで身の毛がよだつ思いがします。

