オシリスは多くの信仰を集めた、エジプト神話における冥府の神です。
理想の王と称され古代エジプトを豊かにした農耕神は、いかにして死者を束ねる冥界神へと至ったのでしょうか。
今回は、数奇な運命をたどった偉大な神・オシリスについてご紹介します。
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オシリス、文明を授けた冥府の神
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オシリス(Osiris)、古代エジプト語ではウシュ・イル。
「再生」と「復活」をつかさどる、農耕神にして冥界の王です。
天の神ヌトと地の神ゲブの息子にして最高位の女神・イシスの兄、そして夫でもあります。
古代エジプトの都市のひとつヘリオポリス創生に関わる神々、ヘリオポリス九柱神の一柱で、理想的な王として中王国時代(紀元前2000年頃)に多大な信仰を集めました。
ギリシア人著述家プルタルコスの『モラリア』で語られる、イシスとオシリスの伝説が特に有名となっています。
善王にして穀物の神
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オシリスは、緑色の髭をたくわえたミイラのような姿をしており、王権を示す杖(ヘカ)と鞭(ネヘハ)、上エジプトの白冠を有しています。
先王朝時代(紀元前5500~前3100年)のシリアの王を神格化したという説やバビロニア神話の主神にして世界と人間の創造主マルドゥクと関連付ける説もあり、その起源は明確には分かっていません。
父ゲブの跡を継ぎ、地上を治める王となったオシリスは人間に穀物の育て方やパン・ワインの製法、さらに神殿建築の方法まで授けました。
食人を禁止するなど法の制定にも尽力し、エジプト全土に平和で豊かな文明をもたらしたオシリスは、善王として人々から多くの称賛を浴びました。
しかしこの類稀な治世の才能が、弟セトの恨みを買うこととなります。
オシリスの復活
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オシリスの弟である破壊神・セトは、暴力を好む荒い気性の持ち主で、平和な世の中と兄を激しく憎み、彼の殺害を計画します。
セトはオシリスにぴったりの豪華な石棺をつくり、饗宴の場で彼を誘って閉じ込め、ナイル川に投げ込みました。
その棺は遠く離れたビブロス(レバノンの貿易港)の地に流れ着き、育つ大樹に飲み込まれ、ビブロスの王によって宮殿の柱にされてしまいます。
彼の死を嘆き、遺骸を探す旅に出ていた妻・イシスは棺を見つけ出し、王子の乳母として王妃に取り入ったうえで棺を譲り受けます。
太陽神・ラ―より授かった蘇生の儀式により息を吹き返したオシリスでしたが、これを知ったセトは彼の体を14の肉片に切り刻み、エジプト全土にばらまきました。
それでも諦めきれないイシスは断片を集め、妹の葬祭を司る女神ネフティスと養子となった冥界の神アヌビスとともに再び蘇生を成功させます。
しかし性器が魚に食べられたことにより、彼の身体は不完全なものとなりました。
以降、神々はオシリスが二度と死なないよう、彼を冥界の王に任じます。
冥界の王となったオシリス
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冥界に下ったオシリスは、死者の中から心の正しい者を選定し、永遠の命を与えるための裁判官となり、セヘト・イアルという天国を統治するようになりました。
ファラオのみが入れるとされていた太陽神ラ―の天国に対し、セヘト・イアルは万人に開かれた天国であり、その王であるオシリスは強い信仰を集めるようになります。
セヘト・イアルは、ラ―が創造したセヘト・ヘテペト(平和の野)の中にある作物が枯れない豊穣の地であり、人々はそこでの豊かな暮らしを死後に望みました。
オシリスは平民だけでなく、ファラオからも信仰されており、古王国時代第5王朝最後のファラオ、ウナス王のピラミッドにはオシリスへと呼びかける王の様子がヒエログリフで記されています。
こうして農耕神であったオシリスは、冥府を治める強大な存在となりました。
オシリス、創作物でもその強さは健在!
アニメ化したライトノベル『吉永さん家のガーゴイル』では、強化植物としてオシリスが登場します。葉が一枚でも残っていれば復活できる、強靭な再生能力が特徴です。
人気の作品『遊☆戯☆王』ではオシリスの天空竜というカードとして登場。相手の召喚にあわせて攻撃力・守備力を大きく削る強力な性能をもっています。
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大人気ゲーム『パズル&ドラゴンズ』にもオシリスというキャラクターが登場。強力なスキルを持つ人気のキャラクターとなっています。
オシリス まとめ
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文明の発展に多大な貢献をしたにもかかわらず、その行き過ぎた才能が仇となった善王・オシリス。
しかし玉座を去った後も、彼は無数の人々に支持され続けました。
多くの神話で負の印象を持つ冥界が、古代エジプトで楽園と表現されるのは、統治する聡明な神への信頼によるものなのかもしれません。
地上から冥府へ下っても、彼は理想の王として在り続けることでしょう。
by二等軍曹