日本の夏の風物詩😅、昔のお化けにはワンセットで付いてきた火の玉は、陰火(いんか)という名の鬼火の一種。
鬼火は見た者の生気を吸い取って、死に至らしめるともいわれる怖い妖怪(?)
かつては驚くほど多くの鬼火種が、各地で様々な伝承として数多く残されています。
なのに、そういえば最近は見かけなくなったなぁ〜
鬼火が絶滅危惧種になった原因は時代遅れだから?
で、なんでそうなったのか、なんてところも探ってみましたぁ〜
目次
鬼火、怪火、意外なほどに多い、各地に伝わる伝承
鬼火とは
鬼火(おにび)とは、燐火(りんび)・人魂(ひとだま)・火の玉とも呼ばれる、日本の各地に伝わる怪火。
春から夏にかけて、雨の夜、墓地や湿地などに現れることが多く、空を浮遊する青い火。
- 怪現象
- 人間や動物の霊
- 人間の怨念が火となった妖怪
- 正体不明のもの
などの炎を鬼火と呼びます。
かつては、人が死ぬとその魂は、青白い火の玉となって、家の藪からが出て、知人をまわって寺へ入るなどとも伝えられていました。
また、松明の火のような複数の鬼火が浮遊しながら人に近付き、精気を吸いとるともされます。
そのような鬼火の対処法としては、馬の鐙などを打ち合わせて音を立てれば消滅するとされています。
* 怪火とは
怪火(かいか)は、原因不明の火が現れる現象をいいます。
かつては
- 現世を彷徨う死者の霊
- 悪霊
- 妖怪
- 妖精の悪戯
などとも伝えられていました。
怪火が現れると死人が出る、怪火が死を予告しているという伝承も残されています。
鬼火の外見
🔳 色
松明の火のような青い光、白っぽい青、赤、黄色など。
🔳 大きさ
大きさについても、ろうそくの炎程度のものから、人間と同じ程の大きさ、数メートルもあるものまで色々。
『和漢三才図会』(江戸時代の百科事典)の挿絵では、空中に浮遊する、大きさ2〜20センチメートルほどのものと推測されます。
🔳 形
形は円形,楕円形,杓子形、松明の火のような形。
集まったり離れたりしながら、尾をひいて中空を浮遊します。
🔳 数
一般的には数個、多くは数百という鬼火が浮遊するという伝承も残されています。
『和漢三才図会』(江戸時代の百科事典)では、鬼火はひとつのものが、幾つにも散らばったり、幾つもの炎が集まったりする。
『耳嚢』(江戸時代の随筆)「鬼火の事」でも、箱根の山の上に現れた鬼火が、二つにわかれ、再び集まり、さらに幾つにも分かれたという逸話が記されています。
🔳 出没場所
その多くは
- 墓地
それ以外にも
- 湿地帯
- 森
- 古戦場
など
🔳 熱
熱さを感じないものもあれば、物を焼いてしまうほどの熱をもつものもあるといいます。
その正体は
鬼火は雨の日によく出現するところから、燃焼による炎とは異なる発光体と推察されます。
『和名抄』(平安時代の辞書)には「死んだ人や牛馬の血が化したもの」と記されています。
『和漢三才図会』(江戸時代の百科事典)『本草綱目』でも、「土に染み込んだ戦死者や牛馬の血が年月を経て化したもの」とされます。
紀元前の中国でも「人間や動物の血から燐や鬼火が出る」と語られていたとか。
けれど、19世紀(明治)以降、新井周吉の著書『不思議弁妄』では「埋葬された人の遺体の燐が鬼火となる」と記述。
科学的には、鬼火とは怪光現象の総称と考えられます。
人骨などのリンやメタンが自然発火したもの。
その他、プラズマ説、錯覚説なども挙げられます。
リンやメタンは土葬された遺体の腐敗によって発生します。
土葬の風習があった明治以前の日本では、鬼火の伝承も数多く残されており、遺体の腐敗によって生まれたリンやメタンの発火説は、信憑性を得ていると考えられています。
鬼火の種類、または仲間たち
怪火・鬼火の伝承は意外なほどに多種多様。
不知火
新月の夜などに、八代海や有明海に現れるという、千灯籠(せんとうろう)、竜灯(りゅうとう)とも呼ばれる九州に伝わる怪火。
漁火が屈折したもの、龍神の灯火といわれ、付近の漁民の間では不知火の見える日には漁に出ることを控えていました。
提灯火(ちょうちんび)(小右衛門火)
日本各地に伝わる鬼火の一種
田畑の畦道などに出没し、人が近づくと消えてしまうとされます。
化け物が提灯を灯しているように見えるのが名の由来。
狐の仕業、徳島県では、狸が火を灯しているものとされ、この提灯火を狸火(たぬきび)と呼びます。
狐火(きつねび)
様々な伝説が残る正体不明の怪光。
春から秋にかけて、特に蒸し暑い夏や、天気の変わり目に現れるといいます。
人の気配のない山道などの火の気のないところに、十〜数百もの炎が、増えたり減ったりしながら、行列をなして現れる。提灯または松明のような怪火で、近づくと消えてしまうといわれます。
天火
怨霊の一種とされる、各地に伝わる怪火の一種。
ぶらり火や、飛ぶとき、「シャンシャン」と音を出すという説もあり、「シャンシャン火」ともいわれます。
- 愛知県では、夜道、行手を明るく照らす。
- 岐阜県では、夏の夕刻、音を立てて飛ぶ。
- 佐賀県では、天火が侵入した家に病人が出るといわれ、鉦(かね)を叩き、音を立てて追い祓うと伝えられます。
- 熊本県では、提灯ほどの大きさで、屋根に落ちると火事になる。佐賀県でも火災の前兆と考られ、忌まれていました。
熊本県(天草諸島の民俗資料)『天草島民俗誌』では
鬼池村(天草市)の池で漁をしようとした男が、村人に虐待され、病死。
以来、鬼池には火の玉が飛来するようになります。
ある夜、その火が藪に燃え移り、村は全焼。
村人たちは男の怨霊の仕業と恐れ、地蔵尊を建て、霊を弔いました。
* じゃんじゃん火
「じゃんじゃん」と音を立てることが名の由来とされる、奈良県各地に伝わる怪火。
現世で結ばれずに心中した者や無念の死を遂げた武将などの死霊の化身とされます。
宮崎県ではむさ火(むさび)
高知県ではけち火(けちび)
* ふらり火(ふらりび)
ふらり火(ふらりび)は、
- 『画図百鬼夜行』鳥山石燕、
- 『百怪図巻』佐脇嵩之、
- 『化物づくし』(江戸後期の妖怪絵巻物)など、
妖怪画にある火の妖怪。
供養されなかった死者の霊魂が成り果てた火の化身とされます。
富山県の伝説では
天正年間。富山城主の寵愛を受けた妾、早百合は奥女中たちから疎まれ、城主以外の男と密通していると中傷され、真に受けた城主によって一族諸共惨殺。
以来、「ぶらり火」「早百合火」と呼ばれる怪火が出現するようになります。
「早百合」の名を呼ぶと、炎と化した女の生首が髪を振り乱し、怨めしそうに現れたといいます。
釣瓶火(つるべび)・釣瓶落とし
江戸時代の怪談本『古今百物語評判』で描かれた京都西院の妖怪。
火の中に人や獣の顔が浮かび上がることもあるという、「つるべおとし」「つるべおろし」の別名をもつ火の妖怪。
四国・九州地方では、木の精霊が青白い火の玉となったもの。
夜の山道に、木の枝にぶら下がるよう浮遊した釣瓶火が現れると伝えられています。
姥ヶ火(うばがび)
大阪府や京都府に伝わる怪火。
- 『諸国里人談』(江戸時代・寛保の雑書)、
- 『西鶴諸国ばなし』井原西鶴の雑話、
- 『古今百物語評判』江戸時代の怪談本、
- 『画図百鬼夜行』鳥山石燕
などに記されています
『諸国里人談』に、ある老女が神社から灯油を盗み、その祟りで怪火となったとされ、河内に住むある者が夜道で鶏のような鳥の形をしていた姥ヶ火と出会っています。
『西鶴諸国ばなし』「身を捨て油壷」では
姥ヶ火が肩をかすめて飛び去ると、その人は3年以内に死んでしまう、ただし「油さし」と言うと、姥ヶ火は消えてしまうとされます。
『古今百物語評判』では
子供を斡旋するといって親から金を取り、その子供を保津川に流していた亀山(京都府)近くに住む老女が洪水で溺死。
以来、保津川には『姥ヶ火』と呼ばれる怪火が現れるようになったとされます。
陰火(いんか)
亡霊や妖怪と共に現れる鬼火。
各地の伝承に残る鬼火
スウリカンコ
青森県
その名は「汐入村のカン子」を意味します。
求婚を断られた男たちに新井田川に生き埋めにされたカン子という名の美女の怨念とされています。
権五郎火(ごんごろうび)
新潟県
博打好きの五十野の権五郎という名の人物が勝負に負けた博打打ちに殺害された怨念とされます。
この権五郎火は雨の降る前触れとされ、農家では権五郎火が出ると稲架の取り込みを急いだといわれています。
金火(きんか)
富山県
江戸時代の奇談集『三州奇談』でも語られる、上使街道八幡や小松で現れる、火縄のような怪火
風玉(かぜだま)
岐阜県
暴風雨に現れる、明るい光を放つ球状の火。
蜘蛛火(くもび)
『西播怪談実記』より「佐用春草庵是休異火を見し事」
奈良県
火となったクモの一塊。数百匹という多くの塊が空を飛び、これに当たると死ぬといわれます。
岡山県でも
山地や森に赤い火の玉「蜘蛛の火」が現れると伝えられています。
兵庫県では
怪談集『西播怪談実記』「佐用春草庵是休異火を見し事」の中で、出現した怪火を「くも火」としています。
叢原火、宗源火(そうげんび)
京都府
壬生寺で盗みを働いた僧侶が仏罰で鬼火になったもの。
火の中に僧の苦悶の顔が浮かび上がるとされます。
江戸時代の怪談集『新御伽婢子』や鳥山石燕の『画図百鬼夜行』にも描かれています。
渡柄杓(わたりびしゃく)
京都府
山村に出没する、柄杓のような形の青白い火の玉。
オボラ
愛媛県
亡者の霊火といわれます。
海上や墓地に現れる正体不明の怪火「オボラビ」と同一のものとも考えられています
金の神の火(かねのかみのひ)
愛媛県
『総合日本民俗語彙』(民俗学研究所)では
大晦日の夜、怒和島の氏神の後ろに現れる提灯のような火。
人のざわめきのような音を出すといわれ、歳徳神の出現の知らせと信じられています。
筬火(おさび)
宮崎県
雨の夜、延岡市の三角池に2つ並んで現れる火の玉。
女二人が言い争いになり、誤って池に落ちて溺死。その怨念が今も現世で争っているもの。
禍の前触れと恐れられ、明治中期まで目撃談があった怪火。
野火(のび)
高知県
火の玉が現れたかと思うと、弾けて数十個もの光となっての空中に広がるといわれる怪火。
遊火(あそびび)
高知県
城下や海上に現れる鬼火。
火魂(ひだま)
沖縄県
台所の裏の火消壷に住む、鳥のような姿の鬼火。
その他の鬼火
日本では催事で扱われる炎も鬼火と呼ばれるものがあります。
- 葬儀で出棺の際に門口でたく火を『鬼火』
- 地方によっては正月6・7日の早朝に行う火祭を『鬼火』『鬼火たき』
- 奈良県吉野の金峯山寺では、節分に行われる行事を『鬼火』と呼びます。
鬼火、今でも情念と怖い・怪しいものの例え
松本清張『鬼火の街』。
隅田川に浮かぶ無人の舟を発端に起こる連続殺人事件とその謎に立ち向かう主人公藤兵衛の活躍を描いています
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横溝正史の『鬼火』は暗く妖しい情念の世界を描いた短編ミステリ
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997年公開作品「鬼火」。
かつて“火の玉”と呼ばれ、極道社会でその名を馳せた殺し屋・国広(原田芳雄)を主人公に、運命に翻弄される男の姿を描くハードボイルド作品
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1963年公開、ルイ・マル監督作品『鬼火』。
自殺を決意、実行した男の二日間を描いた衝撃の問題作。
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鬼火 まとめ
鬼火とは腐敗した死体が発する炎。情念や怨念が取り憑いていても不思議はないですね。
そして、遺体は火葬されるようになった現代では鬼火現象も見なくなった。
これは自然の成り行き。
けれど、こんな風にどんどん異次元や異界から遠ざかってゆく先、畏敬の念も忘れてしまいそうな我々の行手も充分に怖い、気がします。