ダイダラボッチは古から日本各地の民話や昔話で語られてきた巨人。
富士山を作ろうとして、比叡山につまずいて尻餅をついたところが琵琶湖になった。
立ち小便した尿が川になった。
八ヶ岳の高さに嫉妬した富士山が八ヶ岳を蹴飛ばして、八ヶ岳が八つに割れてしまった。
などなど。
各地に伝わる伝承には、愉快で夢のある(苦笑)、ダイダラボッチの物語がいっぱいです。
目次
ダイダラボッチ、日本の山河を形作った巨人
ダイダラボッチとは
ダイダラボッチは太古から日本に伝わる巨人の妖怪。
国作りの神々への信仰が生んだものと考えられ、日本の山々や池や川、富士山や琵琶湖、八ヶ岳、浜名湖を作った巨人。
日本各地の民話や昔話の中で語りつがれています。
名前の由来は定かではなく、各地での呼び名も、ダダ坊,デイラボー,大太郎法師、でいだらぼっち、だいだらぼう、だんだん法師、などさまざま。
民俗学者・柳田國男も著書「ダイダラ坊の足跡」で各地に伝わるダイダラボッチ伝説を考察しています。
発祥
文献の中でのダイダラボッチは奈良時代初期(713年)に編纂された「常陸国風土記」の中で語られる巨人が最古の伝承と考えられています。
その内容は「茨城県水戸市の大串貝塚は、ダイダラボッチが貝殻を捨てた場所」だというもの。
『平津驛家西一二里 有岡 名曰 大櫛 上古有人 體極長大 身居丘壟之上 手摎海濱之蜃 大蛤也 其所食貝 積聚成岡 時人 取大朽之義 今謂大櫛之岡 其踐跡 — 『常陸國風土記』那賀略記』
「平津駅家(ひらつのうまや)から1〜2里ほど行ったところに「大櫛(おおくし)」という岡(丘)がありました。
大昔この地には極めて長大な体を持つ人がいました。
巨人は岡(丘)にいながら手で海浜の蜃(うむき 大蛤)を掘り起こすことができました。
その巨人の食べた貝はやがて岡(丘)になって、当時の人はそれを「大朽(おおくち)」と呼び、今の「大櫛之岡(おおくしのおか)」となりました」
奈良時代初期(715年)に編纂された播磨国(兵庫県)の風土記「播磨国風土記」では、「天が高いから楽に立って歩けるこの地を好み、沼と化す数多の足跡を残した大人(おおひと)」の伝説が語られています
大きさ
「常陸国風土記」には「其踐跡 長卌餘歩 廣廿餘歩 尿穴徑可廿餘歩許」
「その足跡は、おおよそ、長さ40歩、幅20歩、尿の穴(立ち小便によってほられた穴)は直径20歩」とあります。
その大きさは今に換算しておよそ長さ約72m、幅約36m。
足の大きさから推定して、300mを越える巨人だったと考えられます。
ダイダラボッチ、各地に残る伝承
ダイダラボッチの伝承は各地に数多く伝えられています。
その中でユニークなものを抜粋しました。
🔳 ダイダラボッチは東の国に大きな山を造ろうと、西の国で土を掘り返して土を運びます。
その東の国に造られた山が富士山(静岡県・山梨県)、西の国で掘られた土地が琵琶湖(滋賀県)になりました。
ちなみにこの伝説が縁で1968年に富士宮市と近江八幡市は夫婦都市となっています[。
🔳 その際、比叡山(滋賀県・京都府)につまづいて、蹴っ飛ばした地面に穴が空き、それが琵琶湖、蹴飛ばした土塊が淡路島(兵庫県)になったとも伝わっています。
🔳 ダイダラボッチは土を運ぶ途中で尉ヶ峰に腰を下ろして弁当を食べています。
そして、うっかり手をついて出来た窪みが浜名湖(静岡県)となりました。
🔳 その時、飯の中に紛れ込んでいた小石を浜名湖に捨てて出来たのが“礫島”。
🔳 富士山を作るため、甲州の土を取って土盛。そのため甲州は盆地になってしまいました。
🔳 飯野山(香川県)で小便、その小便で出来たのが大束川です。
🔳 筑波山(茨城県)の山頂が二つに分かれているのは、富士山との大きさ比べでダイダラボッチが持ち上げた時に割れてしまったから。
千波湖や涸沼はその時のダイダラボッチの足跡です。
🔳 浅間山(長野県)は、自分より高い富士山に嫉妬して土を自分にわけろと言い出します。
ダイダラボッチが土を運びますが、浅間山はまだ足りないと怒り出し、ダイダラボッチを小突きます。その時にこぼれた土が前掛山。
🔳 碓氷峠(群馬県・長野県)で休んでいる時に、足が妙義山(群馬県)まで届き、その足の指をイノシシがイモと思ってかじり、ダイダラボッチはそのイノシシを握り潰して浅間山で猪鍋にして食べてしまいます。
その鍋をこぼした場所から塩気のある温泉が湧いて出ています。
🔳 そうして、富士山より低いままの浅間山は怒りだし、ついに噴火してしまいました。
🔳 富士山と八ヶ岳((山梨県・長野県)が背比べ、八ヶ岳が勝っていましたが、それを妬ましく思った富士山に蹴られ、八ヶ岳は八つに割れてしまいました。
それを治そうとデエダラボッチが茅のもっこで土を運びますが、杖にした線香が折れて、大泉山と小泉山(諏訪 茅野市)が出来ました。
🔳 茨城県水戸市大足(おおだら)は、西南の山に邪魔され陽が照らず村人が困っていました。そこでダイダラボッチは山をどけてあげます。
けれど、山の跡地がえぐれて雨が溜まるようになったので、ダイダラボッチはそこに川をつくり、沼底をさらって水が流れるようにしています。
どけた山は朝房山、作った川と沼は桜川、千波湖になりました。
🔳 三重県の大王町に伝わるダイダラボッチは悪さをする妖怪。
巨大な草履を作ってダイダラボッチを追い返した伝承があります。
現在でも大王町では、巨大草履を海に流して安全を祈願するわらじ曵き神事が催されています。
🔳 ダイダラボッチは上州の榛名富士(群馬県)も土盛りして作っています。
その土を掘った後は榛名湖(群馬県)となっています。
そして、榛名富士が富士山より低いのは、もう少し土を運ぼうとしていましたが、夜が明けてしまい、途中でやめてしまったから。
🔳 東京都世田谷区の「代田」(だいた)や、さいたま市の「太田窪」(だいたくぼ)はダイタラボッチの足跡であるためについた地名。
ダイダラボッチ、宮崎駿もお気に入り妖怪?
映画「もののけ姫」では超常の神、シシガミとして登場。昼は人間の顔に角のある鹿のような体、夜は巨大なデイダラボッチに姿を変えます。
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『妖怪ウオッチ』のダイダラボッチは大きさを変えられるという巨大な妖怪。迷路が大好きで、取り憑いた相手を迷路に迷い込ませるイタズラ好き。
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『ゲゲゲの鬼太郎』のダイダラボッチは巨大な目玉、鼻、口、頭、胴体、手足が次々と現れ蘇った、かつて日本を支配していた巨人。人間に封印されていたのをダイダラボッチ教団によって封印が解かれています。
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ダイダラボッチ まとめ
もののけ姫でのダイダラボッチはまさに超自然な畏敬の神。
伝承の中の、そのどこか純真で無垢な偉業が微笑ましく思えます。
宮崎駿が神とし、柳田國男がその伝説を辿った気持ちがわかる気がします。