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デュラハン、首なし騎士。死を予兆するアイルランドの悪しき妖精

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出典:deviantart

中世から現代にいたるまで、数多くの物語に登場する首なしの妖精・デュラハン。 

首を抱えた騎士の姿はあまりにも有名です。 

今でこそ人々に愛されるデュラハンですが、長らくは死を告げる畏敬の存在のひとりでした。 

そのデュラハンの外見や所業、発祥など、全貌を探ります。 

 

 

デュラハン、伝承の中の首なし騎士

ウィリアム・J・ウィルガス作 1856年頃

デュラハンとは

デュラハン(Dubhlachan)はアイルランドやスコットランドをはじめとした、北欧一帯に伝わる悪しき妖精の一種 

黒馬に乗った首のない騎士、あるいは6頭立ての馬車を操る自分の首を抱えた御者 

国や伝承によってその姿はまちまちですが、共通して首と体が分かれた不気味ないでたちだと言われています。 

性別も発祥とされるアイルランドのデュラハンは男性、隣国スコットランドのデュラハンは女性とされます。 

 

アイルランドではガン・セアン、ガン・ケン( gan ceann 首無し)の異名を持ち、コシュタ・バワー(音無し馬車、あるいは首なし馬)に騎乗 

凄まじい音を立てて街を徘徊し、死期が間近な者の家を訪れます 

 

デュラハンは死を予言する存在、死者の魂を奪います。 

自分の姿を見られるのを嫌い、姿を見た者は人骨でできた鞭で目を潰される、あるいは桶にいっぱいの血を浴びせかけられるとされます。 

デュラハンのイメージは19世紀の民間伝承の研究家・トマス・クロフトン・クローカー著『アイルランド南部の妖精の伝説と伝承』の「デュラハン』の章で定着 

19世紀、アメリカの小説家ワシントン・アーヴィングの『スリーピー・ホロウの伝説』で広く世界に知られてゆきます 

 

外見 

出典:deviantart

デュラハンは、頭部のないの胴体の姿で、首なしの黒馬・コシュタ・バワーに騎乗するか、コシュタ・バワーが牽く馬車を駆けます 

片方の手で手綱を、もう片方で自分の首を持つか小脇に抱えています 

その頭部は、カミソリのように鋭い歯を持つ口が顔の両端まで裂け、巨大な目は蠅のように跳びうつろい、皮膚はカビたチーズの匂いと色と質感をしているという恐ろしい様相。 

 

車軸が人間の背骨、車軸が大腿骨で作られている馬車には人間の頭蓋骨でできたランタンに光が灯され、その荷台には棺が載せられています 

 

習性、所業 

デュラハンが現れたという噂は、悪名高い貴族が埋葬されている墓地や遺体が安置されている納骨堂の近くでよく起こったとされます。 

デュラハンは、夜になると墓地から現れ、凄まじい音とともに疾走し、死期が近づいた人の家を訪れ、その死を宣告します 

扉を開けた者に桶いっぱいの血を浴びせかけ、彼を目撃した者を人間の背骨でできた鞭で失明させます 

 

この妖精は死の予言と魂を奪いに来た時の二度現れるとされ、もし、逃げ切る事が出来れば死を免れられるといわれています。 

けれどデュラハンの前ではどんな鍵や門も効果が無く、ひとりでに開いてしまいます 

 

デュラハンはまた超自然的な視力を有します。 

彼は生首を高く掲げ、暗闇の中でも広大な土地を見渡し、死期の迫った人間を見つけ出すのだとされます。 

彼はまたその生首を狙った相手に外れることなく投げつけることができるのだとされます。 

 

デュラハンは死の馬車を駆り、死者を来世へ導く御者という役割を担います。 

アイルランドの民話では「コイステ・ボダール(静かな馬車)」として知られています。 

 

6頭の黒馬が引くこの馬車は、凄まじい音をたて、道端の茂みに火がついたといわれるほどの速さで疾走 

その姿や音は、自分あるいは家族の死が迫っていることを告げていました。  

アイルランドでは、一度現れた馬車は決して空のまま戻てゆくことはないと信じられていました。 

逃げきれない存在と思われますが、黄金を身につけたり川を渡ったりすることで追撃を免れることができるとも伝えられています。 

  

なぜ首がない?

W・H・ブルック 作 『南アイルランドの妖精物語と伝説』 (1834年)

デュラハンの出自は多くの物語とともに様々な説が語られています。 

しかしどの説においても、根底にあるのは古代ヨーロッパの人頭崇拝です。 

 

古代ケルト人は魂は頭にあると考えていました 

そのため強敵は戦士の威信を高めるために首を落としたとされます。 

また、古代、ケルトの首狩り族は生首には霊的な力が宿ると崇められていたとされます。 

柱に首を掲げておくと、敵が近づくと首が悲鳴を上げるという信仰もあったとされます。 

ヴァイキング時代においても、死者の復活を防ぐため、葬儀の際に頭を切り落とすという慣習がみられます。 

 

死の象徴たるデュラハンに生命の宿る頭部が無いのは、こうした古代ヨーロッパ人の思想によるものと考えられています。 

 

デュラハンの起源

出典:deviantart

古代ケルトの戦いと死と太陽の神・クロム・クルアハ 

一説によるとデュラハンの正体は、ケルトのミレー族に信仰されていたという戦いと死と太陽の 神クロム・クルアハだと言われています。 

忌まわしき三日月という和名を持つこの神は生贄を求める神 

古代アイルランドでは首を切り落とした生贄が捧げられていました 

 

首なしユアン 

他の有力な説として、ユアンという男が死後、“首なしユアン”としてデュラハンになったというものがあります。 

 

これはスコットランドのロックビー地方、マクレーン一族の伝承によるものです。 

1538年、マクレーン一族の跡取りであったユアンは財産の相続で父親と激しく衝突します。 

言葉の応酬はやがて一族を二分する戦いとなり、そのさなかユアンは敵に斬首されました。 

しかし頭部が無い状況にもかかわらず、ユアンは馬に乗ったまま城へと戻ります 

この光景を見た召使いは悪魔の仕業に違いないとおののき、馬の首を切り落とし主人もろとも土に埋めました。 

これ以降マクレーン一族のもとには緑のマントをつけた首なしの騎士が現れるようになり、死をもたらす存在として一族に恐れられることとなりました。 

 

聖デュオニュシウス 

これとは別に名前の響きの類似性から、聖デュオニュシウスの逸話がもととなったともいわれています。 

トゥールのグレゴリウスによると、3世紀にキリスト教の布教に尽力した聖デュオニュシウスは、フランスで異教の人々の怒りを買って斬首刑に処せられた後、自らの首を拾い上げ数km歩いたといわれています。 

 


 

ワルキューレ、マッハ 

本来のデュラハンは女性であるとの考えも根強いです。 

そのなかにはデュラハンが北欧神話の戦乙女、ワルキューレの一人であるという説や、ケルト神話の戦いの三女神の一柱、マッハ変化したものという説もあります。 

 

こうした、女性でありながら戦いに身を置く姿が、デュラハンが騎士として語られるようになった一因とも言われています。 

 

アーサー王伝説の緑の騎士 

ガウェインに斬り落とされた自身の首を拾い上げる緑の騎士

デュラハンが騎士と混同されるようになった一因として、有名なアーサー王伝説があります。 

ガウェイン卿と緑の騎士』の逸話では、円卓の騎士に互いの首を切り落とすという勝負を持ちかける、不気味な騎士が登場します。 

その騎士は首を失いながらも、自身が斬られる番になっても逃げ出さない円卓の騎士の勇気を褒めたたえ、帰っていきます 

この不可思議な騎士が、首が無くても活動できるという点でデュラハンと同一視されるようになりました 

 

民話、作品の中のデュラハン

クローカー『アイルランド南部の妖精の伝説と伝承」の『デュラハン』

トマス・クロフトン・クローカー(1798年1月15日–1854年8月8日)アイルランド民間伝承民俗の採集家。  

主な著『アイルランド南部の妖精伝説と伝承』は19世紀のアイルランド南部で語り継がれていた民話を収集・再構成した書籍。 

その中の「デュラハン(The Dullahan)」の章には 

  • 「善き女性」 (The Good Woman)
  • 「ハンロンの粉ひき小屋」(HANLONS MILL)
  • 「収穫期の晩餐 」(THE HARVEST DINNER)
  • 「死の馬車」 (THE DEATH COACH)
  • 「首なし騎手」(HEADLESS HORSEMAN) 

の5篇が収録。 

デュラハン伝説の原点として広く知られています 

 

「善き女性」 (The Good Woman) 

農夫のラリー・ドッドは大きなマントをまとった女性に出会います。 

馬に乗せた代償にキスを要求。 

逃げる女性を追いかけ協会の墓地まできたところで、その女性がデュラハンである事に気づきます 

気を失ったラリーは身なりの良い紳士淑女、兵士、水兵、僧侶、公職者、騎手、紳士のデュラハンに遭遇 

 

「ハンロンの粉ひき小屋」(HANLONS MILL) 

ある日、マイケル(ミック)・ヌーナンは「ハンロン老人」の粉ひき小屋から聞こえるガタガタという音を耳にします。 

その後、黒衣の首無し御者が操る、首無しの黒馬6頭牽きの馬車に遭遇 

あくる朝、地元の名士リクソンが危篤だと猟師に知らされます。

 

『収穫期の晩餐」( THE HARVEST DINNER )

サディ・バーンは収穫祭の帰り道、大きな音を立てた6人乗りの古い馬車に遭遇 

誰も触れる事なく門が開き、長い鞭の一撃で目をくり抜かれそうになります 

その馬車は中の客も、従僕も誰一人頭がありません。 

 

「死の馬車」 (THE DEATH COACH) 

この章は前半はデュラハンと思われる 首のない御者が操る高級馬車を詠った詩句 

車軸は人間の背骨、車軸は大腿骨で作られ、馬車には人間の頭蓋骨でできたランタンに光が灯されていると詠っています 

後半はアイルランド語でコーチ・ア・バワーと呼ばれている。「死の馬車」について語っています。 

 

「首なし騎手」(HEADLESS HORSEMAN) 

馬を速く走らせることが自慢のチャーリー・カルネインはある夜、白馬の首だけが空中を飛んでいるのを目撃 

それを追いかけていると首のない馬に乗る、首を小脇に抱えた首なし騎手に出会います。 

チャーリーはその首なし騎手に競馬を挑みます 

 

スリーピー・ホロウの伝説

首なし騎士に追われるイカボッド  1849

この“首なし騎士”デュラハンは1820年、アメリカの小説家ワシントン・アーヴィングの『スリーピー・ホロウの伝説』で一躍有名になります 

この『スリーピー・ホロウの伝説』は姉妹作『リップ・ヴァン・ウィンクル』と並んで、ハロウィン時期に、時代を超えて愛される物語のひとつとなります 

 

あらすじ 

ニューヨークの眠り谷(スリーピー・ホロウ)にやってきた教師イカボッド・クレーンは、地主の娘カトリーナ・ヴァン・タッセルに一目惚れし、富を目当てに結婚を企てます。 

恋敵のブロム・ボーンズは嫌がらせにイカボッドにその地に伝わる「首なし騎士の伝説」を語って聞かせます。 

あるハロウィンの夜、パーティーで求婚を拒まれたイカボッドは、帰り道で首なし騎士に遭遇 

首(カボチャ)を投げつけられ、行方不明となります 


 

デュラハン、現代では愛されキャラ

映画・ドラマ 

『スリーピーホロー』 1999年年公開。ワシントン・アーヴィングのスリーピー・ホロウの伝説』を元にしたティム・バートン監督、ジョニィー・ディップ主演の秀作ホラー。 

ニューヨーク市警察の刑事イカボッド・クレーンは、ニューヨーク郊外のハドソン川沿いの村で発生した連続首なし殺人事件を捜査。 

不気味な雰囲気が醸し出すデュラハンの世界観が堪能できます。 

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『ダービー・オギルと小人たち』1959年公開のウォルト・ディズニー制作のファンタジー映画。 

アイルランドの民話を基に、老人のダービーとレプラコーン(妖精)の王ブライアンの奇妙な友情と騒動を描いた作品。 

ダービー・オギルは、娘のケイティが重傷を負い、妖精の死の車(デス・コーチ)が魂を連れ去りにくるという危機的状況に陥ります。 

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アニメ・ゲーム 

首なし騎士でイメージするのはやはり「ドラクエ」や「FF」シリーズのデュラハンナイトたち

アニメ化したライトノベルデュラララ!!では、デュラハンの主人公セルティ・ストゥルルソンがバイクを駆り、池袋を舞台に活躍します。 

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同じくアニメ化した漫画亜人ちゃんは語りたいではデュラハンの少女、町京子がヒロインとして登場し、主人公達と学園コメディを繰り広げます。 

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ライトノベル・アニメ・映画と、大ヒットした作品の素晴らしい世界に祝福を! 』ではベルディアというデュラハンが魔王軍の幹部として主人公達に立ちはだかります。 

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デュラハン まとめ

ジョン・クイダー作『イカボッド・クレインを追う首なし騎士』(1858年)

東欧が生んだ首なしの妖精、デュラハン。 

時代の流れとともに古代の畏怖や崇拝は薄れ、現代の日本では親しみある存在へと変容しています。 

けれど、1845年のアイルランドで起こった80~100万人が命を落としたジャガイモ飢饉の際には、デュラハンが現れたとも騒がれ、人々に恐怖を与えています。 

 

個人的には、遠い昔、闇に恐怖した時代に存在した悪しき妖精、デュラハンもまた語り継がれて行ってほしい存在のひとつです。 

 

 

 

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