中世から現代にいたるまで、数多くの物語に登場する首なしの妖精・デュラハン。
ゲームやアニメなどの創作物の中では愛されるデュラハンと変貌していますが、本来は死の予兆として恐れられる存在。
独特な容姿で語り継がれる妖精・デュラハンの、謎に満ちたその由来についてご紹介します。
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デュラハン、死を告げる首のない妖精
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デュラハンはアイルランドやスコットランドをはじめとした、北欧一帯に伝わる妖精です。
国や伝承によってその姿はまちまちですが、共通して首と体が分かれた不気味ないでたちだと言われています。
首なしの黒馬、コシュタ・バワーが牽く馬車に乗っており、片方で手綱を、もう片方で自分の首を持っています。
人骨でできた馬車には頭蓋骨のランタンと棺が載せてあり、頭は口の裂けた恐ろしい形相で、カビの生えたチーズの色をしているといわれます。
デュラハンは夜になると凄まじい音とともに馬車で走りまわり、死期が近い人の家に訪れます。そして扉を開けた者に桶いっぱいの血を浴びせかけ、家の中の一人にその死を宣告します。
この妖精は二度現れ、死の予言に来た時か魂を奪いに来た時のどちらかで、撃退するか逃げ切る事が出来れば死を免れられるといわれています。
しかしデュラハンの前ではどんな鍵や門も効果が無く、先回りされたあげくその姿を見ようものなら、骨の鞭で目を潰されるといいます。
非常に厄介な存在ですが、効果的なのは水や貴金属で、金や銀を身につけたり川を渡ったりすることで追撃を免れることができます。
デュラハンにはなぜ頭部がない?
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デュラハンの出自は判明しておらず、多くの物語とともに様々な説が語られています。
しかしどの説においても、根底にあるのは古代ヨーロッパの人頭崇拝です。
人頭崇拝とは首に生命力が宿るという思想のもと、首を切り落とすことでその霊性を手に入れ、土地を守り豊作を得る信仰のことです。
古代ギリシアの歴史家・ディオドロスの『歴史叢書』には、敵の首を戦利品として持ち帰って祀るケルト人についての記載があり、ヴァイキング時代においても、死者の復活を防ぐため、葬儀の際に頭を切り落とすという慣習がみられます。
死の象徴たるデュラハンに生命の宿る頭部が無いのは、こうした古代ヨーロッパ人の思想によるものと考えられています。
デュラハンを取り巻く多くの物語
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デュラハンの起源については多くの説が語り継がれています。
** ケルト・ミレー族の戦いと死と太陽の神クロム・クルアハ **
一説によるとデュラハンの正体は、ケルトのミレー族に信仰されていたクロム・クルアハという神だと言われています。
忌まわしき三日月という和名を持つこの神は、太陽と戦いと死をつかさどり、古代アイルランドでは首を切り落とした生贄が捧げられていました。
アイルランドの神話や伝承を記した中世の文献、『レンスターの書』と『三部作パトリック伝』には、マグ・シュレーフトという地に金と銀でできたクロム・クルアハの像があったものの、聖パトリックによって破壊され信仰を禁じられたと記載されています。
聖パトリックの象徴は緑で、デュラハンも緑のマントをつけていると言われており、金と銀を恐れるという点からもこの物語との関連性がうかがえます。
** スコットランド・マクレーン族“首なしユアン” **
他の有力な説として、ユアンという男が死後、“首なしユアン”としてデュラハンになったというものがあります。これはスコットランドのロックビー地方、マクレーン一族の伝承によるものです。
1538年、マクレーン一族の跡取りであったユアンは財産の相続で父親と激しく衝突しユアンは敵に斬首されました。
しかし頭部が無い状況にもかかわらず、ユアンは馬に乗ったまま城へと戻ります。
この光景を見た召使いは悪魔の仕業に違いないとおののき、馬の首を切り落とし主人もろとも土に埋めました。
これ以降マクレーン一族のもとには緑のマントをつけた首なしの騎士が現れるようになり、死をもたらす存在として一族に恐れられることとなりました。
** 斬首刑になった聖デュオニュシウス **
これとは別に名前の響きの類似性から、聖デュオニュシウスの逸話がもととなったともいわれています。
フランスの司教にして歴史家・グレゴリウスによると、3世紀にキリスト教の布教に尽力した聖デュオニュシウスは、フランスで異教の人々の怒りを買って斬首刑に処せられた後、自らの首を拾い上げ数km歩いたといわれています。
地理的な観点からデュラハンの由来としては否定的な見方もされますが、この当時から“首なし”への畏敬があったようです。
** 赤い女神・マッハ **
このようにデュラハンが男であるという説も多いものの、本来のデュラハンは女性であるとの考えも根強いです。そのなかにはデュラハンが北欧神話の戦乙女、ワルキューレの一人であるという説や、ケルト神話における戦いの三女神の次女にして、怒りや支配をつかさどる赤い女神・マッハが変化したものという説もあります。
こうした、女性でありながら戦いに身を置く姿が、馬車に乗っていたはずのデュラハンが騎士として語られるようになった一因とも言われています。
** ガウェイン卿の『緑の騎士』 **
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デュラハンが騎士と混同されるようになった他の要因としては、有名なアーサー王伝説があります。
『ガウェイン卿と緑の騎士』や父の呪いを受け、毒蛇によって縮んだ腕を持つ腕萎えのカラドクの逸話では、円卓の騎士に、順番に互いの首を切り落とすという勝負を持ちかける、不気味な騎士が登場します。
その騎士は首を失いながらも、自身が斬られる番になっても逃げ出さない円卓の騎士の勇気を褒めたたえ、帰っていきます。
この不可思議な騎士が、首が無くても活動できるという点でデュラハンと同一視されるようになりました。
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そしてこの“首なし騎士”は1820年、アメリカの小説家ワシントン・アーヴィングの『スリーピー・ホロウの伝説』で一躍有名になります。
死の象徴として畏怖されたデュラハンはいつしか創作物の登場人物となり、そのイメージも御者から騎士へと次第に移り変わっていきました。
今では愛されるキャラクター、デュラハン
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首なし騎士でイメージするのはやはり「ドラクエ」や「FF」シリーズのデュラハンナイトたち
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映画『スリーピー・ホロウ』は鬼才ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演で1999年公開。首なし騎士を具現化した陰湿な映像美、不気味でユーモラスなバートン色が満載のティム・バートン代表作といえる一作品です。
アニメ化したライトノベル『デュラララ!!』では、デュラハンの主人公セルティ・ストゥルルソンがバイクを駆り、池袋を舞台に活躍します。
ライトノベル・アニメ・映画と、大ヒットした作品『この素晴らしい世界に祝福を! 』ではベルディアというデュラハンが魔王軍の幹部として主人公達に立ちはだかります。
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90年代から今に至るまで根強い人気のある東方Projectのゲーム『東方輝針城』ではボスの一人として赤蛮奇(セキバンキ)というデュラハン(ろくろ首)が登場します。
【上海アリス幻樂団】東方輝針城 〜 Double Dealing Character.
デュラハン まとめ
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東欧が生んだ首なしの妖精、デュラハン。
時代の流れとともに古代の畏怖や崇拝は薄れ、創作物の中の親しみある存在へと変容していきました。
しかし1845年のアイルランド、80~100万人が命を落としたジャガイモ飢饉の際にはデュラハンが現れたとも騒がれ、人々に恐怖を与えています。
謎に包まれた首なし騎士。彼/彼女は果たして道化か怪物か…。
by 二等軍曹