スティーブン・リード作
転生しても結ばれるという恋物語。
韓ドラなんかで題材にされてるように思いますが。
けれど、物語の原点といえる神話群。
ケルト神話の中にもそんな物語が伝えられています。
美しい娘に恋をするのはトゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)の地下の神ミディール。
1000年の時を経て、転生してもなお、焦がれるミディールの想い。
その結末は。。。
目次
ミディール、時の流れを超えたエーディンとの恋
アイルランド、アーダーのミディールとエタンの像
ミディールとは
ジョン・ダンカン作『妖精の騎手』(1911年)
ミディール(Midir)は、ケルト神話に登場するトゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)の地下の神です。
家族構成
父
父は巨漢の豊穣神でダーナ神族の最高神・ダグザ。
育ての親は海神でティル・ナ・ノーグの王・マナナン・マクリル。
兄弟
(中世アイルランドの詩と散文で綴られた歴史書)レボル・ガバラでは、戦争の神ネイトの兄弟または異母兄弟、トゥアハ・デ・ダナーンの最初の王・隻腕のヌアザの甥とされています。
妻
妻はファームナッハ。ミディールの養子オェングスによって斬首、あるいは育ての親マナナン・マク・リルによって殺害されています。
子
娘はブリ・ブルアクブレックとオグニアド。
妖精国の王・オェングスの養父でもあります。
容姿
ミディールは黄金の髪の美しい男神。
『トクマルク・エテーヌ』の中で、頭部と両肩に黄金の飾り、5本の突起のある槍、金銀の装飾が施された盾を背中に背負い、緑のマントを羽織った美しい姿と記されています。
住居
グレートブリテン島とアイルランド島に囲まれたマン島に王宮を構え、それぞれ「来るな」「去れ」「通り過ぎよ」と鳴く3羽の鶴、大量の食糧が得られる3頭の不思議な牛と大きな釜を有しています。
ダーナ神族がミレトス人に敗れた後は、ブリ・リース(アイルランドのロングフォード)のシド(アオス・シー「妖精の塚」異界への入り口とされる古墳)に逃れたとされています。
トクマルク・エテーヌ
『トクマルク・エテーヌ』は8〜9世紀、最古で最も豊かな物語のひとつとされる、古アイルランドのサガ(伝説・散文学)。
トゥアハ・デ・ダナーンが栄えた時代からアイルランドの高王となったエオハイド・アイレムの時代までの、ウレイドの王アリルの娘エーディンとの数奇な生涯が描かれています。
物語は、ダグザとエルクマーの妻でボイン川の女神ボアンのオェングスの受胎から始まります。
オェングスはミディールによって養育され成長。
オェングスが成人した後、ミディールはオェングスを訪ねますが、少年たちが投げたヒイラギの小枝で目を負傷、オェングスに補償を求めます。
それは、アイルランドで最も美しい女性。
その女性がウレイドの王アリルの娘、エーディン(エタイン エタン)でした。
オェングスはミディールのためにエーディンを得ようと、平原を開拓、川の流れを変えるなどさまざまな仕事をこなし、エーディンの体重に相当する金銀を支払うことでミディールはエタンを妻として迎えることとなります。
ミディールとエーディン
エーデンとの出会い
ミディールは国いちばんの美女を新しい妻に迎えたいと考え、養子である愛と美の神・オェングスに相談します。
オェングスがコナハト王・アリルの娘・エーディンがそうだと答えると、ミディールはオェングスの協力を得て、エーディンを娶りました。
本妻の嫉妬で蝶になるエーデン
しかし、これに嫉妬したミディールの本妻・ファームナッハは、魔法の杖でエーディンを打ち、エーディンは水たまりに変身させられてしまいます。
水たまりは毛虫となり、やがて蝶になりました。ファームナッハは大きな風を起こして蝶となったエーディンを吹き飛ばし、王宮から追い払ってしまいます。
エーディンは7年間も荒野をさまよい続けることになりますが、やがてオェングスの王宮にたどり着きました。
オェングスはエーディンのために、花が咲き乱れる庭園を造り、彼女にかけられた呪いを解こうとします。
しかし、呪いは完全に解けず、夜の間だけ人間の姿に戻るようにすることが精一杯でした。
生活を共にするうちに惹かれあっていくエーディンとオェングスですが、エーディンの居場所をつきとめたファームナッハによって、エーディンはまたも吹き飛ばされてしまうのでした。
生まれ変わったエーデンは
エーディンが吹き飛ばされた先は、アルスターのエタア王の妻が飲もうとしている杯の中でした。
杯と共にエタア王の妻の胎内に入ったエーディンは、エタア王の娘として生まれ変わります。
転生したエーディンは、名前も美しさも元の彼女と変わりませんでしたが、記憶だけは抜け落ちていました。
自分がかつてミディールの妻だったことも、ファームナッハによって蝶に変えられてしまったことも忘れてしまったのです。
この間、1012年の月日が経っていました。
ミディールとの再会
美貌をみそめられたエーディンは、コナハトの女王・メイヴの叔父であるアイルランドの王・エオホズ・アイレヴの妻になります。
これを知ったミディールは、エーディンの前に表れますが、記憶がないエーディンにミディールへの恋心は既にありませんでした。
それでも諦めないミディールに根負けしたエーディンは、「エオホズ・アイレヴの許しがあれば、共に行っても良い」という条件を出します。
ミディールはエオホズ・アイレヴに勝負を挑み、最初はわざと負けるものの、最後に勝利し、エーディンが自身のもとに戻ることを要求します。
エオホズ・アイレヴは、王宮を軍隊で囲みミディールが入れないようにしますが、難なく王宮に入り込んだミディールは、エーディンを連れ去り、2羽の白鳥に姿を変えて自身の王宮に帰りました。
我慢がならないエオホズ・アイレヴは、9年間、妖精の丘を片っ端から破壊し、ついに2人を追い詰めました。
エーデンの決断
ミディールは魔法で50人の侍女をエーディンに変え、その中に本物のエーディンを紛れ込ませました。
そして、「この中から本物のエーディンを見つけることができたら、返してやろう」と言います。
しかし、なんとエーディンは自ら前に進み出て、「私が本物のエーディンです」と明かしました。
エーディンは妖精の王より、人間の王の妻として生きることを選んだのです。
そしてエーディンとエオホズ・アイレヴは幸せに暮らし、2人の間には娘が生まれたといいます。
けれど、この時エーディンは自らは名乗り出ず、エオホズ・アイレヴが連れ帰ったのは彼女の娘であるという説もあります。
『ダ・デルガ館の崩壊』によれば、この娘は、ダーナ神族の血を引き、やがて神々によって破滅をもたらされるアイルランドの王・コナレ・モールの母となる娘を生むことになるのです。
ミディール、現代でもエーディンとワンセット(?)
ゲーム「ファイアーエムブレム 聖戦の系譜」では、騎士と公女という立場で登場。
エーディンが敵国の王子・ガンダルフに連れ去られたことによって、ミディールは彼女を助けるべく主人公・シグルドの軍に加わることになります。
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「ダークソウル III」のミディールは闇の帝王という名のドラゴンのボス。
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ミディール、まとめ
フランシス・ダンビー作「妖精たち」1840 年
本妻がいながらも新しい妻を求めるミディール、かつての夫より現在の夫を選んだエーディン。
長い時を隔てた悲恋とも、泥沼化した恋愛劇のようにも思えます。
そして、その結末も、かつての夫と結ばれた、現在の夫の元に戻ったというふたつの説があるというのも、なるほどとうなずけます。
まあ、ひとの心というのは理性や理屈だけでは解決しないのが厄介なところ、ですが。