出典:deviantart
フェニックスは、死期が近づくと自ら炎の中に身を投じ、幼鳥となって蘇る不死鳥。
その存在は、日本でも手塚治虫の代表作のひとつ『火の鳥』などであまりにも有名です。
けれど、その生態やルーツなど、意外と知られていないようにも思います。
なので、その、フェニックスに注目です。
オドロキな、フェニックスの正体とは!
フェニックス、永遠を生きる聖鳥、その意外な正体

レンブラント・ハルメンシュ・ファン・レイン 作
フェニックスとは
フェニックス (phoenix)は古代からヨーロッパで伝えられる、永遠の時を生きる伝説上の鳥。
寿命を迎えると、自ら炎に身を投じで死亡、再び幼鳥となって蘇る、世界にたった1羽しか存在しない鳥とされます。
フェニックスはラテン語、ギリシア語では「深紅の鳥」を意味するポイニクス(phoînix) 。
フェネクス、フェニキスとも呼ばれます。
日本では不死鳥、火の鳥と呼ばれ、中国の鳳凰と同一視されることもあり、フェンホァン(Fenghuang)、英名「Chinese phoenix」とも呼ばれます。
その起源はエジプト神話に登場する不死の聖鳥・ベンヌ(Bennu)。
ペンヌ鳥の神話が古代ギリシャ、 ヨーロッパに伝えられ、現在のフェニックスの伝説に変化したものと考えられています。
キリスト教においてのフェニックスは「キリストの死と復活」を象徴するシンボル。
中世以降には「ソロモン72柱」の一柱にも数えらる地獄の悪魔のひとりとされています。
起源

古代エジプトで描かれたベンヌ
フェニックスの起源については諸説ありますが、主には古代エジプトの聖鳥・ベンヌ(Bennu)が原型と考えられています。
アトゥムあるいはラーは原初の海・ヌンからベンヌの姿で誕生したとされます。
そのベンヌはヘリオポリスのラーの神殿で毎夜炎へ飛び込んで死に、毎朝その炎から生まれます。
日毎、死と再生を繰り返すことから、夕に沈み朝に昇る太陽、「時の循環」や「死と復活」を象徴します。
これを古代ギリシアの歴史家・ヘロドトス(紀元前485年頃 - 紀元前420年頃)はその著作『歴史』の中で紹介。
尾や身体の一部が真っ赤であったことから、ギリシア語でポイニクス(真紅の鳥)、「フェニックス」という名に転化されました。
ベンヌ鳥
ベンヌ(Bennu)は、太陽、創造、再生と結びついたエジプト神話に伝わる不死の霊鳥、あるいは神。
主に長い嘴をした黄金色に輝くアオサギ、ツメナガセキセイ、赤と金の羽のワシとも伝えられています。
アトゥムあるいはラーは、原初の混沌の中で原初の海・ヌンからベンヌの姿で誕生。
大地の神である原初の丘・タテネン(Tatenen)またはベンベン(Benben)の上に舞い降りたとされます。
あるいは、原初の海に沈んでいた太陽の卵が原初の丘に揚がった時にベンヌが卵(太陽)を暖めて孵化させたともされます。
世界はベンヌの鳴き声により、時間が動き出しています。
象徴
聖鳥・ベンヌは、エジプトでは沈んでは昇る太陽のサイクル(永遠の生命)の象徴。
そのベンヌをヘロドトスらがヨーロッパへ伝える際、「500年ごとに香木で自らを焼き、灰から蘇る鷲に似た鳥・フェニックス」という独自の解釈が加わっています。
ローマ帝国では不滅のローマに例えられ、永遠の都の繁栄の象徴となり、コインやモザイク画の題材とされるようになります。
キリスト教においてのフェニックス(不死鳥)は「イエス・キリストの死と復活」を象徴。
初期キリスト教の時代から教義を説明するための強力なシンボルとして取り入れられ、教会の装飾や芸術に用いられてきました。
姿

フリードリヒ・ユスティン・ベルトゥフ作(1806年)
◾️ フェニックスの原型とされるエジプトの不死鳥(ベンヌ)は、
ワシほどの大きさで、青鷺の頭と鮮やかな緋色と金色の羽根の鷲の翼、全身がまばゆい光に包まれ、心地良い響きの鳴き声を持っていると言われていました。
◾️ 古代ローマの博物学者・プリニウスは著書「博物誌」の中で
全身は紫色、尾は青くて薔薇色の毛が転々と混じっていて、喉には房が生えている。
◾️ ヘロドトスの「歴史」では、
羽毛は金色の部分 と赤い部分があり、姿や大きさは鷲に似る。
◾️ 魔術文献、ソロモンの72の悪魔のひとりのフェニックスは
美しい鳥の姿で現れ、耳に快い声をしている。
とされています
生態
フェニックスは長い間、実在すると信じられた存在のひとつで、さまざまな文献にその生態が記されています。
古代ローマの博物学者・プリニウスは著書『博物誌』の中で、
ローマ帝国第4代皇帝クラウディウスが監察官を務めていた紀元47年には、フェニックスとされる鳥がローマに持ち込まれ、民会広場(コミティウム)で一般公開されたと記載しています。
フェニックスの肉や生血、涙には永遠の生命を授けてくれる効果がある、あるいは万病を治す効果があるとされ、古来より人々はこの鳥を求めました。
寿命

『アバディーン動物寓意集』でのフェニックス
フェニックスの寿命についても諸説語られています。
◾️ ・古代ギリシアの歴史家・ヘロドトスは著書『歴史』の中で、500年に1度、父鳥が死んだとき飛来する鳥としています。
・古代ローマの地理学者メラも500年生きるとしています。
◾️ 博物学者のプリニウス(西暦23年〜79年)やソリヌス(3世紀)は540年。
◾️ 帝政期ローマの政治家、歴史家、哲学者のタキトゥス(55年〜120年)は1シリウス周期(1461年の間隔)
古代エジプトの「1年を365日とする民衆暦」と、シリウスの星の動きに基づいた「1年を約365.25日とするシリウス年」のズレが元に戻る、1460年(または1461年)の周期
◾️詩人でローマの元老院議員のマニリウスは1プラトン年(12994年)
太陽・月と水星・金星・火星・木星・土星の五惑星が元の場所に戻る時間
としています。
蘇り

15 世紀
◾️ 古代ギリシアの歴史家・ヘロドトスは著書『歴史』の中で、エジプト人から聞いた奇妙な習性として
フェニックスは500年に一度だけ、死んだ父親を埋葬するためにアラビアからエジプトのヘリオポリスへ飛来。
自分が運べる重さの「没薬(もつやく ゴムの樹脂)の卵」を作り、その中身をくり抜き、死んだ父親の遺骸を入れます。
没薬で穴を塞ぎ、その卵をエジプトの太陽神殿へ運び、そこで埋葬する。
としています
◾️ 古代ローマの歴史家・タキトゥスは主著『年代記』の中で、西暦34年にエジプトにフェニックスが現れたという事件に触れ、その生態や伝承を説明しています。
フェニックスは寿命が尽き、死期が近づくと、自らの故郷で巣を作り、そこに次の生命の種を注ぎ込み、そこから新しい雛が生まれます。
雛は長距離の旅に耐えられる充分な体力がつくと、父鳥の遺骸をエジプトの太陽の都(ヘリオポリス)にある太陽神レ・レの神殿の祭壇へと運び、炎に委ねる。
としています。
◾️ 帝政ローマの詩人・オウィディウス(紀元前43年~紀元後17、18年)は代表作『変身物語(メタモルポセス)』の中で
フェニックスは香木の樹液を食べて生き、500年の寿命を迎えるとシュロの木に香料の巣を作りその上で命を終え、その体から新たな幼鳥が誕生します。
成長した幼鳥は巣を太陽の都・ヘリオポリスへ運び、ヒュペーリオンの神殿の前に捧げる
とされます。
フェニックスの正体?
◾️ 古代ローマの博物学者プリニウス(22年頃 - 79年)は著書「博物誌」の中で
フェニックスは世界にたった一匹しか存在せず、アラビアに棲息しているとしています。
死期が近づくと桂皮と乳香の小枝で巣を作り、そこに香料を詰めて横たわります。
死した身体は腐敗し、骨と髄にウジがわきますが、そのウジが鳥の形に成長してやがて次世代のフェニックスとなるとしています。
◾️3世紀の神学者・聖クレメンス
フェニックスは死期が近づくと、没薬や香料で自分の「棺」を作り、その中で死を迎えます。
その死体に虫が湧き、死体を糧として成長、新たなフェニックスになるとしています。
◾️2世紀から4世紀にかけて成立した『フィシオロゴス』(さまざまな伝承が綴られた教本、動物寓意譚)に記されたでのフェニックスは、
500年ごとに、芳香を羽根いっぱいに持ってヘリオポリスの神殿に飛来し、祭壇の炎の中に身を投じて焼死。
翌日死体に生じた虫が3日目には元のフェニックスの姿にまで育ち、天空に飛び去るとされます。
キリスト教とフェニックス
キリスト教において、フェニックス(不死鳥)は「イエス・キリストの死と復活」および「永遠の生命」を象徴する重要なシンボル。
初期キリスト教の時代から教会の装飾や芸術に用いられてきました。
初期のキリスト教徒は、迫害の中で信仰を表現するための隠れたシンボルとして使用。
中世のキリスト教文学や動物寓意譚(ベストアリー)などでも、神の奇跡を示す存在として描かれています。
イスラム教とフェニックス
イスラム神話でフェニックス(不死鳥)」に相当する聖鳥は、アンカ (Anqa)
数百年から1700年ほどの寿命を持ち、寿命が尽きるとフェニックスのように自ら火の中に飛び込んで灰となり、再び若返って蘇るとされています。
元々は神(アッラー)によって創られた聖なる生物。
後に家畜や人間の子供を襲うようになったため、預言者の祈り(または神の怒り)によって孤島(または世界の果て)へ追放、あるいは絶滅させられたという神話も残されています
悪魔学のフェニックス

「時間と死」、1898年、 EJサリバン
聖鳥・フェニックスも中世ヨーロッパの悪魔学においては悪魔として定義されるようになります。
グリモワール(魔術書)、『レメゲトン』の中の「ゴエティア」ではソロモン王が使役したとされる72柱の悪魔のひとり。
地獄の20の軍団を率いる序列37番の大侯爵です。
姿は聖鳥・フェニックスの姿そのままですが、『ゴエティア』では綴りは「Phenex(フェネクス)」とされます。
その他、ヨーハン・ヴァイヤーの『悪魔の偽王国』、コラン・ド・ブランシーの「地獄の辞典」の中で語られています。
悪魔としてのフェニックスは
響きの良い子供の声で話すといわれます。
あらゆる学問に精通し、すべての要求に韻文で応じることのできる優れた詩人。
召喚されると、美しい子供の歌声を持つフェニックス(不死鳥)の姿で現れます。
召喚者が命じるか、一定の儀式を経ることで、人間の姿へと変化します。
ただし、人間に化ける様に頼む際は召喚者は耳を塞がねばならなくなるといいます。
フェニックスはもともと天界の座天使(第九階級の天使)でした。
彼は1000年(あるいは1200年)が経過した後に、再び天に戻ることができると信じ続けています。
けれど、悪魔学において、彼の願いは「騙される(叶わない)」結末が示唆されています。
フェニックス、現代でも頼もしい不死鳥
映画・ドラマ
『ハリー・ポッター』シリーズではダンブルドア校長の忠実なペット「フォークス」として登場
炎に包まれて若返る姿や、涙に強い治癒能力があるなど、神話通りの能力を有しています。
ーーーーーーーーーー
2019年公開『X-MEN:ダーク・フェニックス』 では主人公の一人ジーン・グレイが謎の熱放射(宇宙エネルギー)を浴び、制御不能な神レベルの破壊の力「ダーク・フェニックス」を覚醒させてしまいます。
ーーーーーーーーーーー
アニメ・ゲーム
手塚治虫『火の鳥』は1954年から1988年までの約34年間にわたり書き継がれた、日本漫画史残る壮大なSF大河ファンタジー漫画。
西暦200年代後半の古代日本が舞台の「黎明編」、西暦3400年代の地球滅亡直前の未来が舞台の「未来編」、ヤマト編・鳳凰編など。
1989年、手塚治虫氏急逝のため、12番目のエピソードである「太陽編」が実質的な最終話となり、作品は未完のまま幕を閉じました。
ーーーーーーーーーー
アニメシリーズ『ONE PIECE』では、白ひげ海賊団の元1番隊隊長兼船医で、幻獣種ゾオン系の悪魔の実「トリトリの実 モデル:フェニックス」の能力者「フェニックス・マルコ」として登場。
空も飛べて、どんな傷も青い炎と共に超速再生するフェニックスに変身することができます。
ーーーーーーーーーー
フェニックス まとめ

マスターオブザダイ
そういえば手塚治虫氏の『火の鳥』の中でも、永遠の命を求めて火の鳥を追い求めた『黎明編』のヒミコや『乱世編』の平清盛を思い出します。
けれど、たった一羽で長い年月を生きるというのは、時間を楽しむ術がなければ凡人には辛すぎる試練のように思います。
まあ『火の鳥』の火の鳥は宇宙を内包するマクロな存在で、人間如きの理解の域を超えた境地で生存されているのでしょうけれど。


