シニア世代には懐かしいトリトンは、鉄腕アトムに次ぐ手塚治虫の人気アニメヒーロー。
ギリシャ神話の深海を司る半人半魚の海神です。
そのトリトンのご紹介です。
一説にはアテネの育ての親といわれる、トリトンの功績や色々に語られるその風貌など。
アニメの可愛い少年ではない、神話に存在するトリトンとは
目次
トリトン、様々な姿に描かれる深海の神
トリトン (Triton)はギリシャ神話の半人半魚の神。
海神ポセイドンと海のニュンペーアムピトリーテーの息子で、上半身は人間、下半身が魚の姿をした深海を司る神です。
トリトンの名は「(世界を治める)第三のもの」を意味し、父ポセイドンと同じ三叉の矛と、海を自在に操ることができる法螺貝を所有します。
多くの文学の中で、トリトンはポセイドンの使者または伝令神としての役割を果たしています。
また、北アフリカにあったとされるトリートニス湖の主とも伝えられています。
トリトンの系譜
古代ギリシアの叙事詩人・ヘーシオドスは『神統記(叙事詩)』の中で、トリトンは両親とともに深海にある黄金の宮殿に住むと記述しています。
ポセイドンの宮殿はエウボイア島のアイガエに位置していました。
『アルゴナウティカ』の作者アポロニウス・ロディウスによれば、トリトンはその地域のオセアニア人、リビアと結婚。
戦士パラスという娘の父親であり、一説には娘と共に女神アテナの育ての親でもあったとされます。
また、トリテイア市の起源となったともされるトリテイアという娘もいました。
トリトン族
後世、トリトンは一柱の神の名ではなく、複数の「人魚」の姿をした男神の総称となり、トリトン族として海の神々の護衛隊という役割を担います。
2世紀の地理学者・パウサニアスはトリトンの種族の中には、人魚の尾をもつ者以外にも、ケンタウロ・トリートーンまたはイクチオケンタウロスといわれる、人の体と魚の尾に加え、馬の前足を持つものも存在するとしています。
その中には女性も存在し、「トリトンネス」または「女性トリトン」とも呼ばれます。
トリトンの容姿
紀元元年前後の帝国ローマの詩人・オウィディウスは、トリトンを『体に貝殻が付いた海の色をした』と表現しています。
オウィディウスはトリトンの色を『セルリアン(様々な色合いを持つ青)』と描写。
『ヴィリディス(青緑)』 の髪をもち、セルリアンという名の馬に乗ると詩っています。
西暦 2 世紀にの地理学者・パウサニアスはトリトンの風貌を詳細に語っています。
頭部は沼のカエル(キンポウゲ属の植物 )のような色で縮れた髪、耳の下にはエラ。
大きな口、獣のような歯、青い目。
胸と下半身はイルカのような尻尾。
身体はサメのような粗い肌で、細かい鱗で覆われ、ムレックス(貝)の殻のような手先をしているとされます。
作品の中の多様なトリトン
作品の中のトリトンは様々な姿で描かれています。
多くのトリトンは上半身は法螺貝を吹く姿。
下半身はイルカや人魚、ヒッポカンポス(上半身が馬で下半身が魚の幻獣)のような姿やザリガニなど様々。
紀元前4世紀頃、トリトンはマーマン(人魚)の総称として認識されるようになります。
紀元前2世紀には馬の前足のついたケンタウロ・トリートーンが彫刻やモザイク画、フレスコ画で描かれています。
古代都市ヘルクラヌム遺跡から発掘されたフレスコ画には、ロブスターやザリガニのような下肢を持つトリトン。
その他、翼のあるトリトンや、ライオンのような前足をもつもの、双尾のトリトンなど、多様なトリトンが出土しています。
紀元1世紀、ローマの詩人ヴァレリウス・フラックスは『アルゴナウティカ』の中で、巨大なトリトンが馬の手綱を握っている姿がネプチューンの戦車の両側に描かれていたと記述。
同じく紀元1世紀のローマの詩人スタティウスは、トリトンの船首像をアルゴ号の船首に飾りました。
ちなみにヘラクレスとトリトンとの格闘シーンは古代陶器の定番のモチーフであったよう。
トリトンの功績
父のポセイドンと同じく、トリトンもまた三叉の矛(トライデント)を持ちます。
けれど、トリトンの際立った特徴は、波を操る法螺貝。
ラッパのように高らかに吹き鳴らすその音は「強健な野獣のうなり声」と表現され、巨人たちがその音の恐ろしさに逃げ出すほどであったとされます。
古代ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』の中で、トロイア軍のミセノスはホラガイの音で神と競おうとしたため、トリトンによって海に投げられ、溺死したとされます。
また、ある時ゼウスが人間に失望し、滅ぼすことを決断。
大洪水が世界を覆い、神のお告げを受けたデウカリオーンと妻ピュラーだけが方舟をつくって難を逃れます。
このとき、水を引かせたのがトリトン。
法螺貝によって水を引かせると再び大地が姿を表し、デウカリオーンと妻たちは大地に降り立ちます。
トリトンとアルゴナウタイ
アポッローニオスの『アルゴナウティカ』では、アルゴナウタイが航路から外れ、船がシュルティスの浜に打ち上げられた際、乗組員らが大船をトリトニス湖へ運び、トリトンが彼らを地中海へと導いたとされています。
ただし、ここでのトリトンは古代リビアのトリトニス湖の神。
父親はポセイドンですが母親はフェニキアの王女エウロパ、同じトリトン族でも血統は異なっていたよう。
このトリトンは最初はエウリュピュロスの姿で現れ、将来ギリシア人にリビアのキレネの土地を与えるという誓約の証として、土の塊を贈ってアルゴナウタイたちを歓迎しています。
ちなみに紀元前3世紀の吟遊詩人ロドスのアポローニオス『アルゴナウティカ』に描かれたトリトンが「魚尾」をもつ最初の作品であるとされています。
トリトン、レジスタンス、イルカ、海の王、現代も多様な姿で活躍
手塚治虫作品『海のトリトン』トリトン族の末裔トリトンは白いイルカのルカーと共に、地上の支配を目論むポセイドン族に戦いを挑みます。
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ディズニー映画『リトルマーメイド』では主人公アリエルの父で海の王様として登場しています。
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人気アニメ『ギルティクラウン』のトリトンは大島の海岸で真名と集に助けられた少年。後に恙神涯としてレジスタンス組織「葬儀社」のリーダーとなります。
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手塚治虫のアニメ作品の中では『海のトリトン』以外にも『ブラック・ジャック』のシャチとしても登場しています。
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トリトン まとめ
トリトンはイルカに乗った少年も可愛いけど、縮れた髪をなびかせ、エラで呼吸し、ウロコで覆われた、深海に君臨するトリトンも興味深いです。
海に面した地中海諸国ではさぞ崇拝あつい神様なのでしょう。
ヘレクレスと格闘するような神話が残されていないのが残念です。